【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

57 / 202
 冒頭の透の件は、割と先まで解決されないので一旦棚上げです。それよりも進行形の事件について。


2. 始まった何か

 

 中間試験が終わってしばらく。偶然にも透に関することが相次いだ。

 お誕生日のお祝いとか*1 、百が例の眼鏡(TKG)を完成させたとか、更に透明化対応のボディスーツも創ったとか。

 

(『神経組織に比べれば毛髪の構造は単純ですから』なんて言っていた。天晴さんの件で細かい制御のレベルが大幅に上がってるっぽい)

 

 

 ……それから私のミスもあって──これは杞憂じゃなくて本当に危なかった見落とし──久々にお父さんから叱られたり、高い課題(ハードル)が透に課せられたりもしてるんだけど。

 これについては未解決なのと、『自分で何とか頑張ってみる!』と言って手伝わせてくれないので、ひとまず置いておこう。

 少なくとも片方は頼ってくれたらすぐ解決できるんだけどなー、気付いてくれないかなー、チラッチラッ。

 

 

 

■六月下旬

 

 透のことはさておき、今は妙に不機嫌な相澤先生がホームルームで観せてきた映像についてだ。

 

「お前らも噂くらいは聞いてるだろうが、十日程前からあちこちで報告されてる『灰色の怪人』。これは昨日、初めて撮影されたもんだ」

 

 その噂は殆ど都市伝説みたいなもの──と、今のところ世間では思われている。証言もまちまちだし内容からして『もっとマシな冗談を言え』とか決めつけられるレベルだから。

 でも私たち(雄英の先生方やA組のみんな)にはスルーできない内容で、証拠になるものはずっと待たれていた。

 

(本当に単なる都市伝説で証拠なんか出てこないならそれが一番ではあったけれど)

 

「詳しい映像解析は警察でもやってもらってるところだが──兵怜。本当に平気だな?」

「え? あ、ほんとに全然平気です。拡大してもらっても」

 

 映像をあるシーンで止めた先生は、私ではなく被身子に向かって『無理してそうなら抑えろ』なんて心配性なことを言って──被身子も大真面目に頷いて、それから画面の隅を拡大していく。

 携帯端末で撮った動画をそのまんま拡大してるだけだから細部はかなりボケてしまう。それでもその灰色の人影から、肝心の特徴は見て取れた。

 

「噂通り、ですね。()()()()()()()()()

「そうだな。だが肌の色ははっきり違う……そもそもUSJに来てたヤツは今も間違いなく檻の中だ。別個体なのは間違いない」

 

 確か脳無と呼ばれていた。

 画面に映っている方は灰色の肌で、やや細身に見えるけど。それでもここまで特徴が似通ってて無関係ってことはないだろう。

 そして恐ろしいことに『灰色の怪人』の目撃例は()()()()()()報告されているのだ。『黒い怪人』一人だけでもあんなに手強かったっていうのに。

 

「あんなのがそこら中で……!?」

「ケロ、これを撮った人は無事だったのかしら」

「う、噂の()()()()()()ホントなんだよな!? そうであってくれぇ!」

 

 最初に声を挙げたのは、あぁ、水難ゾーンにいた三人だ。近くで見てたから特に危機感が強いのかも。もちろん他のみんなだって不安はあって、口々に憶測や可能性を呟き始める。

 ただその中で、切島くんのアツい発言は──

 

「先生! これ何処なんすか、じっとしてられませんよ!」

馬鹿野郎

 

──ぴしゃりと叱られた。一瞬で静かになる教室、割といつもの光景。

 

「勘違いするなよ。お前らを焚き付ける為の動画じゃない──見ろ」

 

 そう言ってスロー再生された映像には……『灰色の怪人』に何か重そうな塊(植木鉢か煉瓦?)が投げつけられ、怪人は腕でそれを払い除けて──直後、その姿がぼろぼろと崩れてしまう。

 さっき悲鳴をあげたミネタをはじめ、多くの安堵の息が漏れた。

 

 ──確かに“噂通り”。

 “怪人はちょっとしたダメージを与えれば簡単に撃退できて、そこには土塊(つちくれ)のようなモノが残される”のだと。

 

(拘束できるとか遺体が残るとかではないから、これまでデマ扱いされちゃってたんだけど)

 

「見ての通りだ。これまでの被害からいって腕力は増強系並みの危険性があるが、動きは緩慢だし再生能力もなし。対処は難しくない。……分かったら座れ切島」

「うッス!」

「──つまり、警察や各地のヒーローに任せろ。お前らは目の前のこと、日々の授業から最大限学び取ることに集中しろ」

 

 はい!と声が揃う。珍しく被身子まで張りのある応えをしたのは……相澤先生から謎の圧を感じるせいか。なーんか機嫌悪そうなんだよね。

 と思いきや、切島くんが叱られたのは割としょーもない理由だった。

 

「いいかお前ら。『やつの残党が暗躍を続けているなら私が座視しているわけにはいかんのだ!』とか言ってあてもなしに飛び出してくなんてのは、“平和の象徴”としては知らんが常識的なヒーローにとっちゃ最低の行いだ。真似すんなよ。ここテストに出ます」

 

((((だからヒーロー基礎学が校長だったのか……))))

 

 オールマイト先生の授業はなぁ。『急遽代理で』みたいなことがとても多い。

 特に今回は、私の後ろの席からの呟き──オールマイト強火オタクこと緑谷くんでさえ「これは流石にオールマイトでも……」と否定的だ。全く同感である。

 だって何しろ範囲が広い。広すぎる。

 

 北は栃木から西は静岡──いや、福島と愛知もかすってるか。関東全域はおろか日本海側まで跨がる広域で、ランダムとしか思えないような時間と場所に()()()()()怪人。

 これまでの噂を信じる限りでは手当たり次第に暴れるだけで攻撃目標のようなものも不明。

 いくらオールマイトでも個人でどうにかするのは無理があるんじゃないかなぁ……?

 

 


 

 

 良い面でも悪い面でも、『噂』はほとんどが事実だった。

 何もなく誰もいなかったはずの場所から前触れなく現れる怪人。人でもモノでも手当たり次第に殴りつける暴力性。その筋力は増強系クラス。動きは決して速くない。距離をとって攻撃できるなら簡単に『土』にしてしまえる。

 ──ろくな手がかりが残らないことは悩ましいが。

 

 少なくとも被害は食い止められるし、これまでのところ死者はゼロ。負傷者もさほど出ていない。

 

 

 しかし、集められたヒーロー達の表情は悩ましげだ。

 

「証拠になる映像もばんばん撮られるようになったわね……市民の危機感が薄れてそうで心配だけど」

 

 ドラグーンヒーロー・リューキュウは嘆息する。

 既に一般にも報じられ、『とにかく離れるべし』と対処も周知されている。もちろんそれは場当たり的な対応に過ぎず、ヒーローとしては根本を叩きたいところだが。

 

「──はいにゃ、はーい。……例の残存物、やっぱり何らかの“個性”による生成物らしーにゃん。天然の土や泥じゃニャいし、かといって有機物(しがい)でもニャいって」

 

 電話を受けていたのはラグドール。

 チームメイトのマンダレイが問いを重ねる。

 

「量については?」

「これまでにちゃんと回収できたのは、どれもぴったりおんなじ重さらしーにゃん」

 

 複数の『灰色の怪人』が、見た目にそっくりなだけでなく重さまで一致するとなると……厄介な推測をせざるを得ない。

 

「てことは、最低でも二人の厄介なヴィランが絡んでるのね……」

「怪人の()()()()()()()“個性”。それとは別にワープとかテレポートみたいな“個性”、ですね」

「あら、貴方も呼ばれたのねホークス」

「お久しぶりですリューキュウさん、プッシーキャッツのお二人も。いやぁ、最後に顔出すなんてお恥ずかしい」

 

 部屋に来ると同時に会話に交じった四人目は剛翼ヒーロー・“速過ぎる男”ホークス。

 

「九州から来といて何言ってるんだか」

「たはは……まぁ遅刻ギリギリの俺が言うのもなんですが、断言しますよ。こいつは物理的に移動してるんじゃないって」

「あまりにも速過ぎる?」

 

 頷くホークス。視線の先にはこれまでの『灰色の怪人』──通称は“模造脳無”に決まった──事件が日時と共にプロットされた広域地図がある。

 

「電車を上回る速さで*2 線路も地形も無視して移動()()()()()ことになる。流石にありえません」

「そっか……貴方が言うなら、発見して追跡するみたいなセンは捨てた方が良さそうね」

「まずはワープの瞬間を確かめたいですね」

 

 ──つまるところこの対策チームの人選は、どこに現れるか分からないヴィランに広域で連携を取って網を張ることを意図したものだ。

 もちろん警官隊も大勢協力しているし、各地の監視カメラなどからの情報収集も怠ってはいないが。

 リューキュウとホークスは空からの捜索、マンダレイは連携や避難の効率化、どうにかラグドールに直接目視(【サーチ】の使用条件)させることを目指す。

 

 

 具体的な配置や分担を話し合い始めた四人だが──実は全員、避けている話題があった。自分からは言い出しにくいので誰か触れてくれないかと。

 その緊張感はゆっくりと、『三対一で押し付けたら断れないし……』という遠慮を上回って視線を集中させていく。

 

「うわぁ、美女三人からの熱視線なのに嬉しくなぁい! でもまだるっこしいのでぶっちゃけましょう、()()()()()()()()()んです?」

 

 あの人とは誰か、なんて問うものは居ない。

 模造脳無が初めて映像に捉えられて以来、昼も夜もなくその影を追い続けているらしい“平和の象徴”のことに決まっている。

 

「…………前回の定時連絡では、まだやってたニャン」

「はぁー頭が下がりますわホントに!」

「……手放しに誉められたモンでもないと思うけどね」

 

 リューキュウの憂い声だけでなく、ホークスの明るい声にも微かな批判の色が混じった。実際のところ非効率なのは間違いないだろう。

 一方でその我武者羅さは彼らに緊張感を強いてくる。『簡単に無力化できるから』、『死者が出ていないから』、そんな理由で手を緩めることはできない──できるのであれば(オールマイト)がこうまで焦るまい。

 

「例の“巨悪”ですかね?」

「でも体育祭に来たっていうデカいのは仇討ちとか言ってたらしいじゃない」

「だから焦ってるのかもニャー?」

「ヤツは倒したはずなのに、みたいな?」

 

 ラグドールとマンダレイの臆測はほとんど事実を言い当てていたが、彼女らにそれは分からない。

 なんにせよ彼らにはオールマイトに協働を呼びかける個人的なコネクションが無かったし、ナンバーワンヒーローが何らかの秘密を守るために単独行動している可能性も踏まえれば、作戦に組み込むことは諦めるしかない。

 

「ま、地道にやってきましょう。偶然ワープの瞬間を見てたヒーローがいれば話を訊く形だっていいわけですし」

「そうね、こっちはパトロールがてらこれまでの出没地点を詳しく見てみるわ」

「最新情報とかランダム性の分析とかは本部(こっち)でやるから──」

 

 

 話し合いから一歩引いたところで、ラグドールは【サーチ】の対象にホークスとリューキュウを追加する。これで何かあっても──例えばワープ系“個性”で拉致されるとか──場所を把握できるし、更に最悪の万が一が起こってしまっても即座にそれを知れるようになった。

 

 また、【サーチ】の対象を整理して空き人数に余裕を作っておく*3 。複製する者とワープさせる者の他にも協力者はいるかも知れないからだ。

 そもそも現段階では『模造脳無だけが転移してくる』のか『複製者が転移してきて複製して去る』のか『転移者と模造脳無が一緒にきて置いていく』のか、そこから分かっていないわけで。

 

『長期戦だニャー…………』

 

 そう構えざるを得ない。

 急いでいないわけではなく、最速の解決を目指すからこそ。

 ラグドールは仮眠の支度を始めるのだった。

 

*1
六月十六日

*2
『オレ並みの速さで』とは言わないホークスである

*3
ラグドールの【サーチ】は最大百人という上限がある。




 一体だれワイスなんだ……!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。