【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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6. 言い難い( A curious)やりとり(intercourse)(2/3)

 オーダーメイドのスーツに身を包み、豪華な椅子に深く腰掛けた細身の男性。大手サポート企業デトネラット社社長、四ツ橋力也──いや、ここでは異能解放軍の最高指導者“リ・デストロ”と表すべきか。

 ならば正面の女性も解放コード“キュリオス”が適切だろう。つい先日カリナにインタビューした表の顔、『集瑛社の記者・気月置歳』ではなく。

 

「どうだったね、未歳根博士の娘さんとやらは」

「かなり警戒されていました。やはり唐突な感は否めなかったのでしょう」

 

 それは無理もないだろう。リ・デストロは頷いた。

 何しろカリナのヒーロー活動はほとんど知られていない。唯一インゲニウム事務所でのことは調べがついたものの、実は今のところ校外でコスチュームを着たことは一度もないのである。

 そんな自分に取材? と訝しまれるのは当然だった。

 

「申込みの建前は『名門・雄英高校に進学した優秀さ』だったかな?」

「はい。『一時は無個性に近い一生を覚悟しながら、そこから這い上がった若者』として」

「それについては何か言っていたかね」

「『それなら私より無個性の人を取材したら良いのでは』と」

「はっはっは!」

 

 男は笑い飛ばしたし女も薄く笑った。ついでに言えばカリナも『まぁそれじゃ雑誌が売れないんでしょうけど』と理解しながらの発言だった。

 

「それで肝心の()()()については──あぁ、その様子なら良い報告が聞けそうだ」

 

 敬愛する主の言葉に、キュリオスは自信を持って頷く。

 

 解放軍の広報──つまり世論の誘導などを主任務とするキュリオスにとって、本来のターゲットは話題性がありコアな人気も築かれつつある『変幻ヒーロー・クダギツネ』の方。しかし直撃取材はできていない。本名すら明かされてはいない。

 素顔を隠しているヒーローの正体は分かっていても触れるべきでない、そんな不文律のせいだ。あいまいな規範だが学生の間は比較的きちんと守られており、雄英高校に問い合わせてもただ非公開だと拒まれる。

 

 にも関わらず、キュリオスは『クダギツネ=渡我被身子』だと()()()()()

 

 その真偽について探ること。

 合わせて()()()を信用できるか測ること。

 この二つが今回の主な目的であり──カリナに探りを入れた結果、恐らく間違いないという感触を得た。

 

 

「『クダギツネへの取材をしつこく申し入れていたら、雄英高校が代わりにフィンガードを紹介してくれた』と言ってみたんです」

 

 前半に限っては事実だが、後半はもちろんキュリオスの嘘である。

 

「ありえないことだね。反応は?」

「口には出しませんでしたが……『それが事実なら問題だ、後で学校に確認しておこう』といったところでしょうか」

「ふふ、おかしな反応だ。クダギツネとの関わりが無ければ『どうして?』となって当然だろうに」

「ええ。ですがその場で『嘘だ、そんな筈が無い』などと返すよりは思慮があります」

「ふむ……」

 

 想像してみる。

 自分と近しい誰かがメディアの標的になっているとして、その人物を守るべき組織が、『その人への取材は断るが代わりにこの人ならどうか』と自分を紹介していたとしたら。それが事実だとしたら。

 

 組織は秘密を守っていないも同然だ。自分の周りにターゲットがいると教えてしまっている。

 

「実に腹立たしい。学生なら君の言ったように否定してもおかしくない事態に思えるね」

 

 リ・デストロは内心で納得していた。

 はじめに“かなり警戒されていた”と評した時から珍しいと感じていたのだ。話術の面では百戦錬磨のキュリオスにしては一介の高校生を高く買っているようで。

 

 しかし話を聞いてそういうことかと腑に落ちた。

 嘘を吐き通せていない点や表情を隠せていない点などのマイナスはありつつ、口を閉ざした選択は確かに『強い警戒』の表れだろうと。

 

 ここで対象者への興味は一段落ついていた。

 主目的は果たしてきたのだから、キュリオスも報告を終えることができた。

 

 よって、それは余計な一言だったのだろう。

 

「ええ。子供扱いは避けるべきかも知れません」

「ほう? 高評価だね」

 

 リ・デストロの興味を再び惹いてしまったのだから。

 

「ならもう少し時間を割くとしようか。詳しく聞かせてくれ」

「……承知しました、リ・デストロ」

 

 キュリオスは不満を隠してレコーダーを取り出した。カリナの目の前で止めたものとは()()()()()()()()()それで、問題の箇所を再生する。

 

「私が異形型差別への対策について話を振ったところ、兵怜カリナはこう答えました」

 

『予算の問題とかを全く考えてないので、子供の絵空事と笑ってください。そういう無茶な前提がもし叶うなら──』

 

 音声のカリナは実現性を気にして──つまり実現できそうもないことを述べようとしているが、そこはさほど問題ではない。無理や無茶で諦めるようなら最初から解放軍など成り立たないし、その辺りは比較的『どうとでもしうる』からだ。

 真に問うべきはその変革に効果を見込めるか否か。そしてカリナの持論は──

 

『私は“異形型”も『鍛える』ことがプラスに働くと考えていますよ』

 

「ほう?」

 

──これまでの常識には逆行するものだった。

 

 異形型はまず(おそ)れられることが差別の起点と考えられている。それを鍛える──力を増す──ことが対策になるとは奇妙な話だ。

 

「頷き難いアプローチだね。どういうことかな?」

「まずは彼女のいう“無茶な前提”ですが──」

 

 キュリオスは補足を交えながらレコーダーを操作する。問いの答えとなるエッセンス()()()()()()()ように。

 

『“個性”使用を認められた有資格者──引退後の母のような、ヒーロー活動に従事しない資格持ちがもっともっと沢山いたら良いと思うんです。普通のサラリーマンとか、そこらの八百屋さんとか、別にヒーロー科出身でもない大学生とか』

『……そうなるまでの過程は脇におくとしましょう。仮にそうなったら?』

『誰でも日常的に“個性”訓練が受けられますよね』

 

「──彼女は異能の制限について、『練習なしでは危ないから禁止も()むなし』というスタンスです。逆に言えば制御訓練には肯定的で、危険でさえなければ反対もしない」

「その点は解放思想とも折り合い易そうだ。しかし異形型の件は?」

 

 当然の問いに、キュリオスは少し言い淀んでから。

 

「……私なりにまとめれば、あれは『差別したい奴にはさせておけ』という態度ですね」

「おやおや。はは、若いねぇ〜」

 

 カリナの絵図を、キュリオスは『いわば異能学校』と説明した。それは全ての子供に日常的な“個性”訓練をさせるもので、その力点は『大勢まとめて』かつ『日常的』の部分にある──だから監督者を務めるに充分な数の有資格者がいない今は実現できないわけだが。

 

「つまり『馴れることで差別を減らそう』と? それだけでは安直なアイデアと言わざるを得ないな」

「実はその安直なことが中心なのです。しかし彼女なりの根拠はあるそうで──」

 

『子供たちが一箇所に集まって、みんなコソコソせずにバカスカ“個性”使ってたら見た目の差なんて小さなことですよ。それに気付かせるんです』

『希望的観測だわ。“外見の印象は小さくない”って自分で言ってたじゃない』

()()はそうですね。私が言ってるのは()()()()()です。見た目よりも大きな差が、そこでは剥き出しになります』

 

 “見た目よりも大きな差”。そう言ったカリナの表情は冷たかった。酷薄でさえあった。悪意を以て表すなら、『まるで世間の人が無個性を見下すように、異形型を下に見ていた』。

 

「どういうことかね?」

「『発動型“個性”の方が異形型よりもよほど危ういことができる』と。専門的な話の真偽までは測りかねますが、『いわゆる異形型は()()()()()()()()()()()()()()()ので』だそうです」

「非力……? 非力、か」

 

 そのような認識は全く一般的ではない。異形型といえば怪力や剛体といったイメージがこびりついているし、ホークスやミルコのような上位ヒーローもいる──が。

 身体能力ではなく超常の出力で比べるならば頷けなくもない。

 例えばリ・デストロ自ら目をかけて育てている少年の異能を思えば。あの驚異的な【氷操】の規模と比べれば。あれと正面からぶつかれる異形型はあまり思いつかない。

 

 



 

 ……仮にカリナや太郎が答えるとすれば、彼の考えもまた“印象”である。

 そのように鮮烈な上澄みの話はしていない。平均の話であり、一部の例外は別として全体の傾向は必ずそうなるという、統計から導かれた事実だ。

 

 良く言われる通り、『“個性”だって身体機能』。

 そして()()()()“異形型”は、その機能が未熟な胎児の内から無意識に超常を起こし自らの肉体を変革した者と考えられる*1 。出生後の数年間にも機能を育て続ける者たちと較べれば、どうしたって“非力”と言わざるを得ないのである。

 カリナはそこまで解説しなかったのでキュリオスらが知ることはないが。詳しくは未歳根博士のライフワークである『超常生理学総覧』を参照のこと。

 



 

 

「ふむ…………いずれにせよ非凡な知識だ。一端の講師のようじゃないか」

「そう、ですわね」

 

 話しながら、キュリオスは二つの選択肢について考え続けていた。

 ──話すべきか、伏せるべきか。

 

 キュリオスの()()()()()が、兵怜カリナにあっさりと暴かれてしまったことについて。その手段が全く不明なことについて。

 ──いや違う。それはきっと自己欺瞞だ。

 元々リ・デストロの案に基づく脚本(うそ)なのだから、知られたことは当然に報告すべき。そこは迷っていない。

 

「──キュリオス? どうかしたかね」

「…………失礼しました。一つ提案が──いえ、お願いしたいことが、ございまして」

「聞こう」

 

 きっと強く責めはしないだろう主に、深く頭を下げる。

 

「報告が一件と提案が一件。そのどちらにも、『何故』とはお訊ねにならないで頂きたいのです」

「ふゥン……? 提案から頼む」

 

 敗北感や怒りがあった。こんな要求自体に恥辱を覚えてもいる。

 ──しかしそれらを上回って。抗いがたい忌避感がある。もうあんなのは御免だと。

 

「兵怜カリナに関わりたくありません」

 

 それは提案というより願望。リ・デストロは思わず目を丸くし、それからニヤリと笑う。部下のために作った笑顔ではあったが。

 しかしその表情も直後に崩れてしまう。

 

「報告の方は?」

()()()()()()()()()()()。公開はしないとのことですが」

「……な──?」

 

 今度こそ呆然と言葉に詰まり、思わず何故と問いそうになった。

 かつてリ・デストロが授けたその(うそ)は、そうそうバレるはずのない──少なくとも、これまでは一度として露見しなかったのだから。

 

*1
大まかに言って『出生時点で既に現れている特徴』は異形と呼ばれる。ただし“異形型”とはそもそも俗語であり、厳密に比べれば曖昧に過ぎるため、学術的には用いられない分類である。

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