書き立てる。掻き立てる。
“真実”を描き、不安を
異能解放という神輿を
今すぐそれを為すことは困難だ。ならば潜伏し力を溜めるという方針に全力で同意している。なんならずっとそのままでも良いほどに。
初代デストロの時代になど生まれてもいない。今を生きる“リ・デストロ”に──もっと言えば“四ツ橋力也”に──恩と忠誠を抱いてここにいる。失敗して彼の平穏や命が脅かされる位なら立ち上がらない方がマシに思える。
それに現状の仕事も気に入っていた。
今を愉しまなくては。それの何が悪い?
解放軍の幹部としては公言できない私心であり、過去を知る長老たちにはとても聞かせられないが、解放軍とて人間だ。よほど極端な異能や性質のために社会に馴染めない者は別として、平凡な大多数は住めば都とばかりに安住してしまう。
幼少期より老人たちが直接“真理”を──異能解放こそが唯一無二という価値観を──叩き込んだ【
…………ここしばらくは蛇腔総合病院から回収された『戦力』とやらの調整が上手くいかず、ますます神経質になっているようだし。
ここは自分が明るいニュースを持ち帰りたいものだ──もちろん、愉しみながら。
「“異形型”も『鍛える』ことがプラスに働くと考えていますよ」
「……は? なぁんですってェ?」
聴くに値しない。即座にそう思った。
しかし
「ご不満ですか。“異形型”ではない私が“異形型”を語るのは」
「えぇもちろん。何故そんな傲慢なことを言えるのか不思議なくらい」
「“異形型”は鍛えれば鍛えるほど慄れられる?」
「当然……いいえ、理不尽なことに。異形型の苦しみは
「
初めて、言葉のキャッチボールが一方から遮られた。
カリナは意識的に声に力を込め、そして突き付ける。キュリオスの……致命的な秘密を。
「
「────ハ?」
「入れ墨のように染料か顔料を注入しただけ。外見ばかりの偽り。でしょう?」
通常であれば超常抜きに産まれ得ないこの特徴は、彼女を異形型と
そして、この姿で異形型差別を訴えれば面白いように共感を集められた──この姿を利用してきた。
暴かれてはいけない。いけなかったのに。
「“異形型の苦しみは、私たち異形型にしか分からない”。はっきりとそう言いましたね。明確な嘘だ」
「あ、あ、──」
失言だ。普段キュリオスは異形型を自称しない。するまでもないからだ。
しかしカリナにははっきり言ってしまった。……恐らく意図的に苛立たせられて。
更にカリナは懐からレコーダーを取り出した。録音までされてしまったらしい。隠し録りはお互い様。
キュリオスは咄嗟に、この窮地自体の否定を試みる。
「ひ、ひどい言いがかりですね。何の証拠もない。証明もできないくせに──」
「え? 何故できないと思うんです?」
「っ──」
何故かと問われれば……具体的な理由は出てこない。できて欲しくない、それだけだ。
最新の超常生理学や解析技術のことなどキュリオスはろくに知らない。多少かじっていようと『あの未歳根博士ならば』と可能性は残ってしまう。
「く…………」
「あぁいえ、安心してください。暴露しようとか脅迫しようとかじゃありませんから」
脅迫ではないと言いながらカリナは条件を出した。もっともそれはキュリオスが覚悟していたような──もしくは『身体を差し出せ♥』といった──内容ではない。
これまで通り、異形型との自称はしないこと。仮にそのような嘘を公言した場合はカリナも公に指摘するという。
「……それだけ?」
「はい。外見から“異形型”だと勘違いする人はこれまで通り居るでしょう。そこまでなら私の中では“
それが本当ならばキュリオスがこれまで通り記者の役目を果たすことに問題はない。
しかしながら、理解不能だった。
「アリ、ですって……?」
「実際有効だとは思いますよ、“外見の印象は小さくない”ので。差別の問題を訴える人が“異形型”かそうでないかは──本質的にはどうでもいいことのはずですけど──世間に与える影響力はかなり変わってくるでしょう」
「確かに、そう、だけど……」
事実キュリオスはそうやってきた。
異形型を自称したわけではないのだから見る側の勝手な誤解だという
──それはかなり黒に近いグレーだと、キュリオス自身も思っていたのだが。
「でも嘘を吐いてしまうのは“ナシ”です。私もこうして知ってしまった以上は見過ご──気月さん?」
「あ、ええと、その。驚いてしまって」
「お互いにオフレコを確信できたのでぶっちゃけてるんですよ」
キュリオス=気月は正体を隠しておきたい。ならばカリナの脅迫じみた口封じに何も言えない。
そして逆もそうなのだ。
カリナの本音は明らかにヒーロー的ではない。明かされては困るなら記者の偽りを告発もできない。
双方からの
「…………あなた本当に高校生?」
「十五歳を甘く見すぎじゃないですか」
「十五歳が皆あなたみたいだったら嫌よ」
「まぁそんなことはいいじゃないですか」
勝ち目の薄い話題を早々に流して、カリナは肩の力を抜く。
「これでやっと本音で喋れます」
「随分猫を被ってたみたいね」
「最初から本音で答えたら気月さんの良い餌食じゃないですか。でも適当に答えたくもなかった
「────っ!?」
聞き間違い……と思いたかったが。
「“個性”使用を認められた有資格者──引退後の母のような、ヒーロー活動に従事しない資格持ちがもっともっと沢山いたら良いと思うんです──」
カリナはそのまま話し始めてしまった。
彼女なりの異形型差別の対策を。発動型の方がよほど危ういという力関係や、それを体験させてやれという提案を。
どこから会話をコントロールされていたのかと震えるキュリオスを置いてけぼりにして。
「
「……な──?」
思わず何故と問いそうになった。
異形型かどうかなど分かるはずがないと考えていたからだ。
いや、専門家にとってはそうでもないのか? だとしたら未歳根博士にも知られることになるが……
「秘密については信用できるのかね? 口封じは?」
「こちらも彼女の、ヒーロー科らしからぬ言動を録ってはいます。あちらもそれを承知で『秘密の握り合いだ』と」
「…………十五歳とは“そんな”だったろうか」
「そこは同感ですね」
ともあれキュリオスは漏洩について心配していないらしい。向こうにもリスクがあるならそこは一旦脇に置こう。
少なくとも最低限の、本来の務めは果たされたのだ。
クダギツネは兵怜カリナと親しい人間──特に渡我被身子──である可能性が高く、目星がついてしまえば確認くらいは難しくない。
ウラが取れれば例の協力者からの情報は正しかったと証明されよう。
ならば、問われたくないという──恐らく彼女にも分かっていない──『何故バレてしまったのか』をこの場で問う意味は薄い。
もちろん未歳根博士の著書などにあたる必要はあるだろうが、そこはわざわざ指示するまでもない。
リ・デストロは優秀な指導者である。
キュリオスの内心にある敗北感もほぼ正しく推測できているし、乞われた通りそれ以上は追及しなかった。
キュリオスもそれに感謝している。私情に基づくことに申し訳なさもある。
ただ──全ては明かせなかった。
自身の敗北感は『秘密を暴かれたことから来たもの』と
それは正確ではない。録音した会話の内、それなりに長い時間をスキップしたのは、『
そこにこそ、最も強い恥辱があったのだ。
不気味な対話だった。
あの子供に抱いた印象を言語化するのは私にとっても難しい。
はっきりしているのは『厄介』という感覚。炎上させるには手間がかかりそうな、そして効果も薄そうな相手。
あぁ、もし武力蜂起するとなったら積極的に叩き潰してやりたくはある。かと言ってそんな未来は望まない。
だからただ、関わりたくないと願ってしまった。
こちらの思惑が把握されていたのかしら? いいえ、あれは解放軍のことを何ら知らない様子。
一方で記者に対する警戒感は確実に持っていたわね。そこらの大人よりよほど立派な情報管理を褒めたいくらい。
メディアお得意の、失言を誘う攻撃にも気づいていた──
その自衛を棄てるわけじゃなく、小細工を弄して飛び越えて来るなんて。ましてやこちらの問題意識に──異形型差別の件に──寄り添おうだなんて。
勝手だ。一方的だ。土足でズカズカと。
──非公開とすること以外は見返りさえ求められなかった。
敗北感、と言うしかない。
しかもあの子、これを勝ちとは誇らないでしょう。戦いとさえ見做していないのだから。
向かい合って言葉を交わしていた、はずなのに。兵怜カリナは違うものを見ていた。
まるで『建前は建前として、本音で語りましょう』と。そんな青臭さを体現したような。
それどころか『建前でしか語れない貴方は窮屈そうですね』と嘲るような──えぇ、被害妄想なんでしょうけどね、きっと。
この歪んだ受け止め方は……あまりにも典型的な心理だ。
私は、あの青臭さに嫉妬している。引っ張られそうになる。
それはもう、恥を忍んで『もう関わりたくない』と白状するしかないほどに。
私の本音、私の正義──かつての私の、解放思想に触れる前の──? そんなもの。あぁ、そんなものなど。
きっと思い出せはしない。取り戻しても求めることはできまい。叫んだところで叶う目も無い。
私はもちろん、
つまりね、兵怜カリナ。
あなたの言うやり方で異形型への偏見や差別が和らぐとして、
──
(この話では『意見交換』を指していますが、一般的な用法だと intercourse は『他者との