【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 excess:過剰、やり過ぎ


八百万百:イクセス

 林間合宿に備えたお買い物はクラスの皆さんでのお出掛けでしたので、わたくし達はばらばらに行動していました。

 その分、三日後──終業式の翌日には五人だけでお買い物の予定を立てていたのですが。

 

 ショッピングモールから帰ったその夜のこと。

 

「本当にごめん。別の予定入れちゃった」

「えぇ〜〜」

「何かトラブルですの?」

 

 カリナさんが約束を覆すなど記憶にないことです。それだけに何か事情があるのは察せられるので──買い物中にあったメールの一件でしょう──怒りは湧きません。

 むしろするべきは安全への気配りですね。その点ではあまり信用できない人ですから。

 

「出掛ける先、用件、会う相手、帰宅時間など。答えられるだけ答えてくださいませ」

「百がますますオカンみたいになってる……」

「それも割と鬱陶しいタイプですよコレ」

「答えられるだけと申してますのに」

 

 嫌そうな顔をしていますが被身子さんだって本当は問い詰めて全てを聞き出したいはずです。いいえ、それどころか。

 

「事情は絶対に後で説明する。だから被身子、こっそりついて来るとかナシね」

「そんなこと考えもしませんでした」

「嘘吐きな口は塞いじゃうぞ?」

 

 ええ、被身子さんは絶対に後をつけるつもりでいましたわね。わたくしもそう確信できるのでカリナさんに続いて被身子さんの口を責め……責め……

 

「っふは、大人しく受けに回って下さいませんこと?」

「百ちゃんだって発信機か盗聴器もたせるつもりだったでしょ」

 

 ぎくり。

 

「ダメだよ百」

「言いがかりは良くありませ、んっ──♡」

「百ちゃんキスして欲しいだけじゃないですか」

 

 うるさいですわよ被身子さん。

 

 

♡♡♡

 

 

 こほん。気を取り直して。

 

「昼間もメールしたけど、元・犯罪被害者の安全とプライバシーのため……ぶっちゃけて言うと、知らない人がみんな自分を狙う追手みたいに見えちゃうし、実際にそういう(ヴィラン)もどこかにはいるらしいんだ」

 

 それは──その人にカリナさんが関わっていることを思えば、例の死穢八斎會から誘拐されたという子供のこととしか思えません。真剣な面持ちながらもどこか嬉しそうなのは無事を確かめられたからでしょうか。

 そうであれば尾行や盗聴をしてはならないというのは納得です。

 

「だから人目は避けて、相手の疑念を煽りかねないリスクもできるだけ避けたいのですね」

「そういうこと」

「相手に危ない人はいないんですね?」

 

 被身子さんの問いにカリナさんの目が分かりやすく泳ぎます。ちょっとちょっと。

 

「カリナさん?」「リナちゃん?」

「大丈夫だよ、戦える人ではあるけど私を襲う理由がないから。それに……私の手を取る方が得だって事は今日分かってもらえたと思うし」

 

 ともかく、こうと決めてしまった以上はお一人で向かわれる予定は覆らないでしょう。割と我儘というか頑固なところがありますもの。 

 

「じゃあ私達は予定通り家具とか見に行きます?」

「あ、うんうん。皆まで予定キャンセルすることないよ。透達には私から謝っとくから楽しんできてね」

 

 では明々後日(しあさって)は四人でのお出掛けですわね。

 

 喜ばしいことに、透さんとお茶子さんもこのアパートへ越してくることが決まったのです。

 お二人の家具を見に行くこの機会、カリナさんと被身子さんにも住環境を見直して頂かなくては。

 ──と、考えていたのですが。

 

「承知しました。何か買ってくるものはございますか?」

「んー、急がないけどハンガーラックかな」

「いつものやつですよね、任せて下さいっ」

「ありがとねー」

「まだ増やすおつもりですの……?」

 

 カリナさんの私室は──もはやあれは衣装部屋と呼ぶべきでしょう。省スペース性だけを突き詰めて飾り気は全くない、アルミの骨組みを組み立てるタイプのラックが着実に床を埋めつつあります。

 背を縮めた頃からお洒落に積極的になったのは大変に素晴らしいこと──それ自体はご両親もお喜びで、服の多くは太郎さんからの贈り物──ですが、お部屋は相変わらず殺風景と呼べるレベルで機能性しか見ていません。

 服を合わせるならばワードローブとドレッサーぐらいは最低限必要だと思いますし、今回のお買い物でお好みを探りたかったのですが。

 仕方がありませんわね、適当な物を買ってくるわけにも参りませんし、ひとまずは実家から使われていないものを運んでもらうとしましょう。

 

 わたくしずっと気にしておりましたの。スキンケアもヘアケアもまるで適当な生活は如何なものかと。ダメですわよお二人共、その辺りまで“個性”任せにしては。

 

 


 

 

 終業式の翌日、つまり夏休みの一日目。

 リナちゃんを除いた四人で家具や雑貨を見に来ました。

 分かっていたことですが百ちゃんのサイズ感はズレまくりです。

 

「まぁ、コンパクトなソファですわね」

「百ちゃん、シングルとはいえこれベッドやで……?」

 

 お茶子ちゃんお茶子ちゃん落ち着いて。どうどう。

 

「これは……こんな狭い台に何を載せるのでしょうか……?」

「スツールですねぇ」

 

 これだから百ちゃんにはお買い物を任せないのです。何を買ってくるか分かったものではないので。

 ……手痛い失敗を、そりゃあもう困った思いを、一度させられましたから。二度と繰り返したくありませんから。

 

 

 

 改めて、私達が暮らすアパートの思い出を振り返ります。

 最初は……私が雄英に受かった頃ですね。皆で幾つか見て回った内の一つに三人とも頷いてあそこに決まったんです。二階建てでそれぞれに四部屋、合計八戸のちんまりしたアパート()()()

 

 ……百ちゃんは物置部屋呼ばわりしましたけど。

 学生向けとして紹介されるお家の中に百ちゃんが『家』と認める物件は無かったんですよね。不動産屋さんは悪くないと思います。

 

 その満足いかない選択肢の中から百ちゃんも今の()()を選んだわけなのですが……当時の私達は、まだまだ彼女のことを分かっていませんでした。

 百ちゃんの基準は学校からの距離でもお家賃でも広さでもなくて。その時点での住人が一人だけでその人も引っ越しが決まっていたという、『(から)っぽなこと』だけで選んだようです。

 

『来年の春までに内装など簡単にリフォームしておきますわね』

 

 その時は(お金の心配こそしましたが)疑問に思いませんでした。そのアパートはボロとまでは言えないものの築二〇年以上で、汚れとかも幾らか目につきましたから。

 

 

 次に来たのはおよそ一年後。

 私とリナちゃんは大いに戸惑いました。あるいはそのフリをしました。

 

『……あれ? 道間違えた?』

『おかしいですね、周りの風景は合ってるんですけど』

 

 えぇまぁ、現実逃避でしたね。目を逸らしたかったのです──どう見ても新築の(!)ピカピカアパート(?)から。

 絶対リフォームって言いませんよコレ。今でこそ快適に暮らしてますが最初は全然落ち着きませんでした。

 

 土地は全て八百万家のものになってて、建物は地下一階+地上三階建て。

 

『わたくしは一階で暮らすつもりですが、お二人はご希望の階数などございますか?』

『え、まさかワンフロアが一人分って割り当てなの!?』

『そのつもりでしたが……やはり足りませんでしたか……?』

 

 まるで的外れな凹み方をする百ちゃんに、私達は無言で頷き合いました。

 

『百、後でお説教ね』

『これは正座ですねぇ』

『も、申し訳ございません……?』

 

 この誤解を正すのは中々に苦労しました。三人で暮らすには広過ぎるって話なんですよと。五人でもまだ持て余しそうなんですから。

 

 それに、こんなことをしたら()()()()()()()()──私でも分かるようなことを、百ちゃんは考えてもいなかったのです。

 あの時ばかりは割とヒドいお仕置きをした覚えがありますよ。

 

 

♡♡♡

♡♡♡

♡♡♡

 

 

 

 …………あー、でも。

 この時は最悪なことになったような気がしましたが、今にして思えば最悪ではなかったかもですね。

 あのお仕置きがきっかけで百ちゃんまであっち(マゾ)に覚醒めちゃってたら──リナちゃんは元々“素質あり”ですし──、私は今以上に道を踏み外していた気がします。女王様路線というか。

 

 もちろん、仮にそうなっていても百ちゃんはチョロかわだろうと思いますし──そっち(サド)に振り切った私でも、二人はきっと……うん、愛してくれますね、きっと。

 

 

 だからやっぱりサドマゾは問題じゃなくって。

 

 ………………はぁ。

 やっぱりこの件は考えたくありませんね。




 普通のアパート暮らしなら、五人同時に気絶するまでお楽しみ(中間後のご褒美)とか三人でお風呂(体育祭後、カリナ・被身子・透で)とか厳しいですもんね。

 次回も愛の巣(アパート)や家具探しの話。
 次々回はカリナ達の話し合いなので、その前振りも少々。
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