【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 夏の林間合宿は(原作のように行き先を誤魔化すことはせず、予定通りに)ワイプシの森で行います。


楽しい夏休み
1. 禁欲チャレンジ四泊五日


 霧さんと壊理ちゃんからは何度もお礼を言われて、弔くんさえもぶっきらぼうに『世話になった』みたいなことを言って、彼らの保護観察期間は終わった。

 

 彼らは『戸村』姓を名乗って三人で暮らし始める。まぁ当分は不定期に監査とか入るし、近い内には監視下で簡単な仕事をする期間とかも必要なんだけど……基本的には一般市民の扱いだ。

 

 仮住まいの公営住宅へ向かう背中を見送って、私たちはやれやれと肩の荷を下ろした。

 

「夏休みの頭から大仕事だったね。お疲れー」

「ええ。でも少し寂しいですわね」

「百ちゃんは壊理ちゃんお気に入りでしたもんねぇ」

 

 そんなこと言って、被身子も実はデレデレしてたくせに。何故か恥ずかしいらしくて隠してたけど知ってるんだぞ。

 いじり倒したい気もするけど、約束の時間も近──と思ってたら、丁度きた。

 

「リナリナー!」

「ヒミ様ー!」

 

 大荷物を抱えた透とお茶子の二人である。

 予定では夏休みになったら引っ越して来ることになってたんだけど、弔──もとい、戸村一家の保護観察があったから日延べになったんだよね。

 

 とはいえ今日越してくるわけではない。持ってきた荷物も小旅行のサイズだ。

 

「二人ともありがと、今日はよろしくね」

「やらしくー!」

「よろしくーやろ透ちゃん!」

 

 きゃいきゃいと笑いながら招き入れる。と、百だけが玄関で怪訝そうにしていた。

 

「百?」

「……あの、カリナさん? 今日のご予定は確か……」

「? 朝も話したじゃん、今日は休養日だよ」

「あー、百ちゃん通じてなかったんですか」

 

 こちらも首を傾げそうになったけど、被身子の言葉で分かった。なるほど、百は文字通り一般的な意味での休養日だと思ってたのか。

 ちょっと面白くないので泣き真似してウザ絡みしてやろう。

 

「そっか……百は、こんな私のことも受け入れてくれてると思ってたのに」

「あーぁヤオモモ泣ーかせたー」

「わたくしのせいですの!?」

「カリナちゃんのアレ考えたら必要やろ?」

 

 流石に百はすぐに誤解に気付いてくれたらしい。ぐへへ、真っ赤な顔が可愛らしいのでここまでとしよう。

 

「明日から林間合宿。四泊五日、流石に合宿所ではえっちなことできないでしょ」

「だから今日は、五人で仲良くご休憩(きゅうようび)、なのですよ」

 

 申し訳ない気持ちもあるけどね。百がこんな見落としをしたのはきっと、保護観察に伴う気疲れのせい。だから無意識にのんびりする時間を欲したんだろう。合宿は間違いなくハードになるし。

 

 ──でもほら、どうせ明日はバスに乗って数時間移動だし、そこで休めばよくない?

 

「…………透さん達の荷物を見るに、ご宿泊(やりだめ)の間違いでは?」

 

 そういうことになった。

 

 


♡ ♡ ♡ ♡ ♡


 

 

 前に『相澤先生が過保護になった』とか思ったのはちょっと不正確だったかも知れない。

 あの人、『元々子供好きで世話焼きな本性を、普段は理性で我慢してるだけ』なんじゃないだろうか。

 

 だって、雄英高校の夏期合宿なのに──無関係なはずの、昨日お別れしたばっかりの、戸村一家が来ている。

 

 

 彼らは早くも労務観察に入ったらしい。真っ当なやり方で社会復帰するつもりだと示すために、ヒーローや警察の仕事を補佐する期間だ(少ないけどお給料は出る)。

 ここではワイプシや教師陣のご飯を作ったりお洗濯をしたりするんだとか。

 

 戸籍の新規発行に必要な手順なのとお留守番させるには心配なことから、壊理ちゃ……改め、戸村霙理(えり)ちゃんも一緒。

 名目上はお仕事だし、あの洸汰くんって子と仲良くしてくれとか頼まれてもいるっぽいけど、彼女には『はじめてのピクニック』として楽しんでもらいたいなぁ。

 

 多少は気心の知れた私達がいる方が緊張しないだろうと、プラス生活費の足しには丁度いいと、相澤先生が手を回したに決まっている。確かめてはないけど偶然にしては出来すぎだし、あの人がやりそうな(合理的とか言い訳できそうな)デレだし──

 

「ぬぅん! 集中が甘いぞ!」

「ひぃ! すみません!!」

 

 いかんいかん、疲れて考え事に(ふけ)っていた。虎さんが飛ばしてきた小石を避けながら気を引き締め直す。

 

 “個性”伸ばしの訓練はひたすら〔身体変造〕を使い倒すこと、特に爪の増強だ。より速くより厚くより硬くなるように。山ほど貯めてきた因子がごりごり減っていく。

 

「む、渡我も余裕がありそうだな!」

「先生がそっち回るんですかぁ!?」

 

 背後の格闘戦が一気に激しさを増した。被身子は切島くんや砂藤くん達のコーチ役として複数を同時に相手どっていたのに、更に虎さんまで多数の側に回って悲鳴を上げたようだ。

 そっちを見る余裕まではない。どうにか、ちらりと隣を見やる。

 

「プルス……ウルト……」

「百、だいぶ顔色悪くなってるよ」

「まだ、いけま……うぅ」

 

 左隣では、山盛りの(アブラ)マシマシなメニューをドカ食いしながら百が【創造】を続けている。より速く精密に、そしてより硬く。

 

「八百万、寒くねぇか」

「す……た……」

「涼しくてむしろ助かるって」

「そうか」

 

 喋る余裕もない百の向こうで氷を作っているのは轟くん。左で体温を保ちつつ、同時に冷気を絶やさない訓練。より冷たくより大きくより硬い氷を生み出し続ける。

 

 ──作り出したものが邪魔にならないか?

 ──もしくは、いちいち硬さを測るのか?

 どちらの問題も合理的に解決済だ。

 

「まだまだ(やわ)い。爪がダントツで柔い。お前赤点な」

「金属や氷と比べないでもらえます!?!」

 

 私達三人の正面には、【崩壊】をぶん回してる青年──死柄木弔あらため、戸村(てん)くんがいるから。何もかも、創る端から塵になっていくから。

 

「戸村さん、これほどとは……!!」

「自信なくしそうだぜ……!」

 

 ……まぁその、すごい適材適所ではあるし、相澤先生なら簡単に止められるんだろうけれど。

 無免許の一般人に何させてるわけ?*1

 

 いずれにせよ、私の爪が一番あっさり崩れ去っているのは事実だ。

 ぐぎぎぎ、訓練じゃなかったら手を避けて攻撃するものを。涼しい顔しやがって。

 

 


 

 

 林間合宿、二日目の訓練もようやく終わり。

 終わったのだけれど。

 

「これからオレらでメシ作んの……? マジで……?」

「あたしもうお布団はいりたいよ……」

 

 上鳴くんや三奈が弱音を吐く。みんなボロボロのクタクタだ。

 比較的元気そうなバクゴーですら、切島くんとかを急かすことなく黙々と米を研ぎはじめる。やば、一瞬バクゴーがカッコ良く見えた。そのまま全部やってくれないかな。

 逆にクラスで一番ヤバそうなのは──

 

「百、夕食入る?」

 

力なく首を横に振る百だろうか。“個性”も頭も脂肪分も消化器系も、全部フル稼働を続けてたからなぁ。

 それでも何かしなければと食材の山に向かいかけて──かまどに薪を組みに行った。食べ物を見るだけでもつらいって感じだわアレ。

 

「リナちゃんも流石にお疲れです?」

「被身子こそ。お肉カット任せていい? 全部さいの目でいいから」

「了解で〜す」

 

 仕上げはともかく刃物の扱いなら安心して任せられる被身子……も、地味にへろへろみたい。あの子の振るう刃が目に見えるなんて。

 

「さて、透とお茶子は立てる? 私達は野菜からやっていこう」

 

 私も余裕は全然ないけど、空元気で周りを引っ張る──引っ張ろうとした。みんなと共に野菜の山へ向かおうとした。

 

 けれども。

 

「お姉さん達、お疲れ様! お手伝いにきたよ!」

 

 子供用の皮むき器(ピーラー)を片手にやって来た霙理ちゃん。もちろん霧さんも。

 思わず足を止め、さりげなくお茶子たちの後ろに隠れる。

 

「霙理ちゃん、霧さんも。ありがとう、ご飯はもうええの?」

「手伝ってもらって平気なのかなぁ。相澤先生ダメって言うんじゃ」

「教員は手を貸さない、ということのようです。私達はもう食べ終わって、暇を持て余しているボランティアですから」

 

 淡々と答えながら、霧さんはテキパキと霙理ちゃんの作業エリアを整えていく。

 刃物はすべて遠ざけ、まだ夕方なのにランタンで手元を照らし、捨てる皮と剥いた野菜を入れるボウルを用意して……知り合って数ヶ月とは思えない保護者っぷり。立派だ。

 

 なので尚更、ここにいるのは良くない。

 

「えっと、野菜切れたらどんどん炒めていくから、鍋は任せて、ください」

「? わかりました」

 

 ふらふらと遠ざかる私に霧さん達は首を傾げた。一方お茶子たちは分かってくれてるみたいだ。

 

「カリナちゃんは“個性”の使いすぎで困った病気が出とるから、一人になりたいんよ」

「えっ、だいじょうぶなの?」

「霙理ちゃんの優しさはちゃんと伝わってるよ。今は……明日の朝までは放っといてあげてくれる?」

 

 短時間に個性を使いすぎたせいか、因子切れみたいな妙な昂り方をしてしまって……そのことを説明はしてないのに、私の様子だけで性欲だと分かってくれるのは助かる。すごーく助かる。

 ただ、野菜を切りながら──

 

「(透ちゃん、もしかしてカリナちゃんが反応してたのって)」

「(うん、霧さんじゃなくて霙理ちゃんの方)」

「(見境ないなぁ……)」

「(リナリナだからね)」

 

──とか囁きあうのはやめて欲しい。我慢してるんだから褒めてよぅ。

 

「百。百、寝ちゃダメだぞー」

 

 薪に種火を回しながら百の肩を叩く。だって揺すったら今にも胃液吐きそうだし。

 

「カリナさん……その、わたくし」

「分かってる分かってる、平気だよ」

 

 申し訳無さそうな百。夜のお相手が出来ないって意味なのは分かるけど、無理なら無理で謝る必要なんかない──というか、合宿中は無理だろうなって覚悟(ヤリダメ)してきたでしょ。流石に女子部屋でおっぱじめるわけにもいかないからって。

 

 幸い、この消費ペースなら合宿中は無補給でも何とかなる計算だ。ギリッギリだけど。

 ただ、因子は足りても欲が満たされない問題が。人恋しさというか肌寂しさというか。

 因子補給の手前までならセーフかな。セーフだよね?

 

 

「わぁ、霙理ちゃん上手上手!」

 

 ピーラーを上手に使えるようになった霙理ちゃん、

 

「えへへ。葉隠さん、も……、えっと……」

「透ちゃん、霙理ちゃんに気ぃ遣わせるレベルやで!?」

 

褒め返そうとしたら透の包丁使いがヒド過ぎて言葉を失う霙理ちゃん、それでも透を責めたりしない霙理ちゃん、

 

「食べ物を粗末にしないでください」

「わ、わ、すごいすごい」

「霙理、危ないですよ」

 

透が生産した『野菜クズ』から丁寧に皮を除いて『粗みじん』に変えていく霧さんに、ぴょんぴょんしながら尊敬を新たにする霙理ちゃん。

 

 はぁぁぁ可愛いなぁぁぁ。性的にどうこうは流石にブレーキがかかるけど思いっきりハグして柔らかそうな頬っぺたカプカプしたい。あのコケティッシュな角もカリ♡ カリ♡ って(くすぐ)ってあげたい*2

 

 

「いけませんわ……カリナさん……!!」

 

 

 へろへろな百にこの世の終わりみたいな顔で引き止められてしまった。

 いやいや流石に実行はしないって──しない、しない。

 

*1
ワイプシの私有地なので(グレーではあるが)セーフ。

*2
coquettishは普通『他者の歓心を惹きつける魅力』を指す。この場合はカリナが勝手に血迷っているだけ。




霧:きり
 地表近くでできた雲に視界が遮られた状態。
霙:みぞれ
 雪と雨の中間。両者が入り交じったもの。
霑:気象現象ではない(なかまはずれ)
 (しお)る(濡れる)・(うるお)う(水分が染み渡る)の意。
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