【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 引き続き【黒影】独自設定。
 常闇くんは原作と比べ、向上心は高まっているものの焦りも強く出てしまったようです。


4. 異形の声(後編)

 常闇くんの様子に対する違和感が拭えない。彼が“個性”を制御するには何か間違えているかのような。

 

 丁度話を聞きたい人が【黒影】に吹き飛ばされてきたので、すかさず声をかける。

 

「ねぇ鉄哲くん! ちょっと聞きたいんだけど!」

「あ!? テメェだれ──んだ、モテモテかよ」

モテモテ!?

 

 その渾名(?)については物凄く問い詰めたいけど! それと一瞬だけ知らない人扱いされたのも(形態変化のせいとはいえ)ちょっと傷付いたけど!──今は後回し!!

 

「鉄哲くん、月が隠れた時に『デケェ!』とか何か言いました?」

「いや、俺は何も言ってねえぜ。そんだけか?」

「はい、どうもありがとう!」

 

 お礼を言うと彼は再び──何度でも、突撃していく。

 

「オラオラこの程度で俺が凹むと思ってんのかァ!?」

「俺だってヒビ一つ入ってねぇぞ常闇ぃ!」

 

 熱血硬派二人組や、

 

「常闇くん!」「常闇ちゃん!」「常闇おちつけー!」

 

緑谷くん、梅雨ちゃん、上鳴くん──必死で呼びかける人たちと。

 

「どうすれば、どうすれば鎮まる!? やめろ、やめろ【黒影】!!」

「死ぃぃねェェェ!!」

 

 【爆破】を使い放題できる相手に喜んでさえいそうなバクゴー。

 

 【黒影】にとっての脅威は、他の皆を合わせたよりも彼一人の方が大きい。そのはずなのに常闇くんが──【黒影】が、バクゴー以外の皆の方をより積極的に攻撃しているのは何故?

 

 背後から百の呼びかけが聴こえた。そこに挙がった名前は──後方支援担当のマンダレイさんと口田くん。

 ……なるほど。

 それならばと、中距離を駆け回っていたクラスメイトを呼び止める。

 

「響香! イヤホン刺せそう?」

「ダメ、常闇まで届かない!」

「そっちじゃなくて」

 

 そうじゃない。今音を届けるべきは。

 

「【黒影】の方に。聴かせてあげて、心音!」

「え、ちょっと!?」

 

 そうと決まれば、口田くんや響香が近付きやすいように取り抑えてやらなきゃ!

 

 


 

 

 自分たちは──常闇本人も含めて──【黒影】の行動を誤解しているのでは?

 百の疑問はその辺りからスタートする。

 

 カリナや被身子の“個性”が持つ衝動は性欲や吸血欲。

 では【黒影】は何を欲し何処を目指しているのだろう? 常闇から聞いた話だと食欲・性欲・睡眠欲といったセンは薄い。

 

 仮に暗闇を求めているとすれば、光源を潰そうとしたのは道理だが──それならもっと爆豪を攻撃しそうなものだし、欲求が満たされていた完全な闇では大人しくなりそうなもの。

 まるで暗闇はただ『【黒影】が動きやすい環境』なだけで、求めるモノは他にあるような。

 

 となると、狙ったのは光源ではなくカリナの方?

 

 それは何を求めてのことだろう。

 一見した限りでは無秩序な暴走のようだが──カリナや被身子がそうであるように──きっと何らかの欲求に基づくものだ。

 

 例えば、明るさではなく音に反応するとか。

 ──いや、それなら最初に鉄哲が狙われたことに説明がつかない。彼は何も言っておらず、他に複数の生徒が声を漏らしていたのだから。

 

 

 口田やマンダレイに声をかけていた百の仮説は──〈コミュニケーション欲求〉。

 思い返すに、【黒影】はお喋りなようでいて……その相手はいつも常闇ではなかったか。常闇以外の誰かと【黒影】が直接言葉を交わしたことはあっただろうか。

 

すみません、【生き物ボイス】は効果が無いようです……!

「こっちもよ! 色々試したけど【テレパス】の対象に取れない」

「お二人ともありがとうございます!」

 

 百は感謝を述べながら筋道を絞っていく。

 もしも【黒影】に常闇以外の声がきちんと届いていないのだとしたら。普通の声かけではコミュニケーションが取れないのだとしたら。

 ──その孤独を埋めたいと願うのは自然なことだ。

 

 だから今、そのための手段を探っている。【生き物ボイス】と【テレパス】では上手くいかないらしい。

 そしてもう一人試してもらいたい相手には、カリナが察して先回りしてくれている。

 

 

 

「響香、今っ!」

 

 カリナや爆豪が頭上からの攻撃で【黒影】の頭を下げさせ、緑谷、切島、砂藤らが両(うで)の動きを制限する。

 響香の前に道が(ひら)けた。あとは走るだけ。

 

「ぬぅおおぉぉぉ!」

「ち、く、しょぉぉお!」

「ッ、〔ハートビート・──」

 

 【黒影】の片腕が拘束を払いのけ、響香目掛けて振り上げられ──しかし彼女は脚を緩めない。

 

「ダメよ常闇ちゃん!」

「氷壁!」「Twinkling!」

「行っけぇー!」

 

 仲間が護ってくれる。その時間を縮めるためにも恐れている暇は無かった。引き絞った【イヤホンジャック】は一直線に怪鳥の頭部へ。

 

「──ララバイ〕!」

 

 身体ごとぶつかるような全力の一撃。

 子守唄(ララバイ)どころかコークスクリューじみてはいたものの、アツくてキレキレのサウンドを送り込んだ確信──にも関わらず、響香に()()()こない。

 【黒影】の全身に波打つような揺れが走る様子は、周りからは『(とお)った』ものと見えたが。

 

 響香の感じたものは真逆だ。

 のれんに腕押し糠に釘。思い切りドラムを叩くつもりが立体映像に過ぎなかったような手応えの無さ。

 

「ちが、きゃあ!?」

「耳郎!?」

 

 突き飛ばされた響香は後ろに控えていた被身子がすぐに回収した。距離を取り手早く様子を診る。

 

「ぉぉ、なんて、なんて大罪を……!! やはりオレは殺戮の業から逃げられないのか!?」

「えっ耳郎(ジロ)ちゃん死んでません生きてますからね!? 心拍あり自発呼吸あり!!」

「呪われた血塗れの(かいな)よ!!」*1

「「「「聞けよ常闇ィ(や鳥頭ァ)!!」」」」

 

 数名が思わずツッコむが常闇はふざけてなどいない。

 だからこそタチが悪いのだが。

 

 

 教師陣も限界を感じ始めた。

 ライトを全て点けるか相澤が【抹消】を使えば取り抑えるのは容易いのだ。最初からそうしないのは常闇への期待であって、彼を折りたいわけではない。

 仲間を傷つけた罪悪感は事実以上に常闇を苛んでいるようで、そんな状態を長引かせたい大人はいなかった。

 

 しかし生徒たちは諦めていない。

 

「つたぇ……あいつ…………ゆら、す……」

「耳郎ちゃん? どういう意──気絶しちゃいましたね」

 

 気力を振り絞って自らの体感を伝えた響香。よく意味が取れなかった被身子は迷わずそのままを大声で伝える。カリナか百なら分かることを期待して。

 

 『アイツじゃなくて空気を思い切り揺らすんだ』と。

 

 ──カリナや百に限らず、意味自体は通じた。

 “個性”によるコミュニケーションや内側からの振動ではなく、普通に大音量をぶつけろと言うのだろう。効き目は分からないが【黒影】に直接パルスを叩き込んだ響香が必死で言い残したのだから試す価値はある。

 

 ただ、それを誰がどう実行するのかという問題。人並みの大声であればかけ続けているし、瞬間的な爆音ももう数え切れない。

 ならばそれこそ子守唄などの音楽を試したいところだが、そんな音源までは百とて【創造】できない。楽器やアンプといったセットにしても部品数が多すぎる。

 

((((珍しく活躍のチャンスなのに……))))

 

 間違いなく一番輝ける状況に居合わせていない英語教師を誰もが思い浮かべたが、それはさておき。

 流石に響香を叩き起すのは健康面の不安もあり、ついに相澤は訓練中止の合図を──

 

「やむをえん、ここま……?」

 

──出そうと、したが。

 

 

 ほとんど全員が、最初は鳥の鳴き声と受け取った。

 春めいた、あるいはどこか南国を思わせるような色鮮やかな姿を連想する。

 

 コココココ……と連続する音にはキツツキが樹を穿つような固さもあって。続いてギューィと絞るような声でやはりオナガか何かかと考え直す──が、いずれにしても不自然だ。鳥が活発に鳴くような時間ではないし、何より小鳥の鳴き声という音圧ではない。

 あまりに大きく、強い。和太鼓のように腹に響くほど。

 だから相澤も思わず合図を飲み込んだ。【黒影】さえ動きを止めている。

 

 判別できていたのは口田だけ。

 この美しい鳴き声は間違いなく“清流の歌姫”のものだが、あの可愛らしい生き物は到底こんな音量を出せる体格ではない。だからこれは間違いなく人為的なもので──すなわち()()だと断言できる。

 口田はある懸念に辿り着いて精一杯に声を張った。

 

「皆さん声の主を探さないで下さい! 隠れているなら見られたくないはずです!」

 

 その雑音に【黒影】は不機嫌そうな視線を向けたが──歌姫は憂いが晴れて感謝していた。木陰に隠れたまま、鳴嚢(めいのう)という自前の共鳴体を一層大きく膨らませる。

 

 それによって()()()()()()()()()自分の姿を見られるのが嫌だっただけで……歌うこと自体は幼い頃から好きだったはずだ。そんな自分を誇るどころか押し隠した過去をグサリと戒めながらも、久々の心地よさに熱を吹き込む。

 

 音量を上げ、ますます澄み渡る歌声。

 【黒影】も、学生も大人も、風さえも息を潜めて耳を傾けるのだった。

 

 

 

 ……ちなみに。

 どことなく良い感じに終息したこの訓練を経ても、暗所での【黒影】はやはり制御不能だった。見境なく暴れることこそなくなったが、代わりに『フミカゲにではなく自分に呼びかけてくれる何者か』を求めて暴れるようになってしまったのだ。

 

 というか、歌声──“清流の歌姫”と称えられるカジカガエルの鳴き声──の主である梅雨個人に並々ならぬ執着を抱いたらしい。常闇が止めても梅雨に甘えようとしてしまう。

 

「面目次第もない……」

「……まぁアレ、本来は繁殖音なのよねェ」

 

 カジカガエルにとってはオスからメスへの求愛ではあるけれど。もちろん梅雨にそんな意図は無かったし、常闇も勘違いはしていない。

 

 

 ただ、二人の関係に──そして常闇と【黒影】の関係に──多少の変化をもたらす訓練だったのは確かである。

*1
殺してないし呪われてないし血塗れでもない。




 次話、同時に別の場所で起こっていたもう一つの激突(バトル)について。
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