【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 色々と準備をしないと平穏に進学もできない系オリ主。


兵怜カリナ:レディ,ステディ,

 被身子と百のおかげで、長らく謎だらけだった私の“個性”はかなりの部分が明らかになった。

 さて、そうすると一つ大きな問題が発生する。個性届の更新だ。今は『ほとんど何も分からないけど多分増強系?』ぐらいの雑すぎる登録になってるから。

 放置しておくと虚偽申告になってしまう。分からなかった以上やむを得ないんだけど、判明したからには変更の手続きをしなきゃいけない──できるだけ速やかに。『検証が済んでないから』とかでお目溢しされるのはどんなに長くても半年くらいだという。

 これは法律で決まっている義務だ──けど、なんとかならないかと考える私は悪くないだろう。

 

「まぁ確かにねぇ……」

「カリナだけの問題でもないしね」

 

 お母さん達も同情的だ。だって、例えばヒーロー科の教師は生徒の個性届を閲覧できる。そこにある発動条件とかを読めば、私が周囲とどんな関係を結んでいるかもバレてしまうのだ。私だけならまだしも被身子と百が傷つくかも知れないなんて、そんなのはイヤだ。

 どうにか隠せないか、お母さんにも協力してもらって色々調べて──結論として『可能性はある』。ハードルは高そうだけども。

 

 あからさまでとても有名な実例が一人。オールマイトだ。

 彼の“個性”は非公開。彼自身が明かしていないだけでなく、ヒーロー公安委員会のデータベースでも情報が黒塗りされているという噂があって、どうやらそれは事実らしい。

 公的機関による“個性”の秘匿。少なくともそういう仕組みはあるってことだ。

 

「でも今のカリナには適用されないだろうね」

「なんで?」

「適用するに足る利益がないからさ」

 

 お母さんが話してくれたのは、生々しいというか現実的というか、あんまり知りたくなかった裏事情。

 基本、個性届に関する義務や制度は誰にでも一律だ。例外はない。何故かと言えば、例外を一つ作るだけでも膨大な手間が増えるから。

 特に情報を秘匿したい場合なんて、その例外処理そのものさえ書面に残せず口頭で伝えるしかなかったりする。公安委員会を回している沢山の職員さんにそれを周知するだけで大変だ。

 それでも、オールマイトにはその手間をかける価値がある。そう認められたから彼は例外的な秘密に守られているというわけ。

 

「え、あんなレベルにならなきゃいけないの?」

「そんなことはないさ。ただ、少なくともヒーロー免許を取れる程度の実力がなきゃ公安は骨折り損だろ」

「それはそうだろうけど……」

 

 理屈は分かるけどそれじゃ困る。だってヒーロー免許を取れるのって大分先だ。ヒーロー科在学中は個性届がオープンになってしまう。

 

 ……これ、どうしようもなくない?

 秘密にしてもらうには実力を示さなきゃいけない。“個性”を含む実力を示すにはヒーロー免許が必要。そのためにヒーロー科に通うと教師に個性届を見られる。なのでヒーロー科に入る前に秘密を……ダメだ、ループしちゃってる。

 

「うぅぅ……」

 

 頭を抱えていると、お母さんは苦々しくもプランを示してくれた。

 

「……はぁ。あんまり教育に良くないんだけどねぇ」

「えっどうにかなるの?」

「それはカリナ次第」

 

 それは、感情的にはどこかズルい気がするもの。ルール違反ではないとしてもマナー違反に感じられること。

 

 夏休みが明けた九月、私は一週間ほど学校を休んで、なかなかハードな体験をした。

 その少し後、普通なら中学生は挑むこともないような試練を受け、突破してみせた。

 そうやって実力を先に証明して、後から個性届の変更申請を上げたのである。もちろん秘密にしてほしいとの要望もセットで。

 

 色々と揉めたようだし体裁を調えるための小細工も弄したけれど、結果的には成功。私の本当の“個性”はヒーロー公安委員会の中でさえごく限られた人しか閲覧できなくなった。こちらが願った通りに。

 他に道はなかったとはいえ……汚い大人に一歩近付いちゃった気分。

 ともあれこんな経験を通して、私はちょっぴり世渡り上手になったのだった。

 

 


 

 

 相澤消太は合理的な人間だ。そして教師としてもヒーローとしても、楽観論よりは悲観論の方がまだ合理的だと考えている。

 だから彼は自分にも他人にも厳しめの評価を下すし、直接知らない人物を無闇に信じることもない。

 

 その点、まだ見ぬ兵怜(べいれ)カリナは例外だった。

 珍しい名字からアイスエイジの娘だろうと想像はついたが、そんな理由ではない。

 

『どんなヤツなんだ、その“リナちゃん”てのは。そもそも合格するんだろうな』

『絶っっ対しますよ、だってリナちゃんは──っと、これはヒミツヒミツ』

 

 考えるより前に手や口が動きがちな被身子に、なんと秘密を守らせている。これだけで一目置くに値した。

 被身子から出てくるのは称賛の言葉ばかりなので、その内容はほとんど聞き流したが。

 

 

 やがて入学願書が届く頃、ふと思いついてその個性届を閲覧してみた。

 

兵怜カリナ

 個性登録名:【長期学習】

 

 長い時間を共に過ごすことで、他人の“個性”を少しずつ真似られるようになる。感情的な結びつきも重要と見られるが、詳しくは不明。

 

 些か簡潔過ぎる内容だ。普通ならもう少し、どの程度のことができるか具体例なども載せるものである。

 代わりに注記してあるのは、どこか言い訳めいた内容。

 

※注※

 学習成果が具体的な形になるにはかなりの時間か何らかの条件が必要らしく、幼少期は無個性同然であった。

 現在は【変身】からの学習により、身体の一部を武器のように変化させて使うことができる(本人はこうした学習成果を“技能”と呼んでいる)。

 

 学習に時間がかかる。学習成果が一つしかない。だから条件などがはっきりしない。

 筋は通っている。矛盾と言えるほどの問題は無いし、被身子との付き合いが長いなら【変身】からの学習も極めて妥当だ。

 だから、更に一歩踏み込んで調べてみたのは好奇心に近い。

 

 ヒーロー科教職員()()()現役ヒーローであれば、受験生やインターン生の個性届はオンラインで閲覧できる。ただしこれはあくまで簡易版。

 ヒーロー科教職員()()現役ヒーローだけに認められる、やや面倒な書面上の手続きで改めて照会をかけたところ──数日後に返ってきたのは『詳細開示不可』。

 つまり信じがたいことに……秘匿指定がかかっている。【長期学習】とやらは本当の“個性”を隠す為の擬装(カバー)に過ぎない。

 こういう制度があるのは知っていても、実例はオールマイトなどごく少数。新入生の中に見かけるのは当然初めてだ。

 

 入試の前に根津校長に訊ねてみると、返ってきたのは──

 

『その子については心配要らないのサ!』

『校長はご存知なんですか、兵怜の“個性”』

『現時点では知らないよ。入学したら僕とリカバリーガールには明かされるとのことだ』

 

幾分奇妙な答えだった。校長と養護教諭にだけ知らせるという対応は一応理解できるが、それをいつ誰から聞いたのかという意味で。

 

『それと、秘密にしている理由だけは先に聞いているのサ。いささか個人的ではあるけど、気遣われるべき事情だよ』

『……なら構いませんが、校長はどこでそれを?』

『彼女のお父上とは縁があってね。──心配しなくても不正なんて有り得ないから、合否は厳しく見てやって欲しい』

『言われるまでもありません』

 

 根回しが済んでいる感触。決して悪い意味ではない、むしろ好印象だ。

 秘密にしたいことがあるから必要な手続きをとる。合理的だ。しかし誰にでもできることではない。恐らく多くの障害があったはずだ。

 それを親のコネなどで強引に突破した、とは感じない。根津校長の反応からは『通すべき筋を通した』であろう納得感が透けて見える。

 

『興味を持ったかい?』

『多少は。渡我を同じクラスに放り込むなら俺が担任になるんでしょうしね』

 

 

 個人的興味というのは動機として不合理だが、相澤とて気まぐれを起こすこともある。

 機会があれば話してみようと思った直後にたまたまその生徒を見かけたので、時間はあるかと声をかけてみた。

 

『兵怜カリナって女子を知ってるか。君と同じ中学の二つ下なんだが』

『あぁ、もちろんです。合格したんですね?』

『それは答えられないが、君から見た印象を聞きたい──あぁ、合否にはプラスにもマイナスにも影響しないから安心してくれ。どんなヤツだ?』

 

 ヒーロー科を志望したものの不合格となり、現在は普通科に通う二年生の男子生徒──雄英高校には珍しい、無個性の。

 幸い彼はカリナのことを知っているらしい。それどころか自分がここにいるのは彼女のお陰だと言う。

 

『……無個性の生徒にトレーニングを? 君だけじゃなく?』

『はい、僕を含めて五人ですね。知る限りでは校内の全員に、兵怜さんが声をかけて』

『何のためにそんなことを?』

『あー……その。誤解しないで欲しいんですが、こんなことを言ってました』

 

 “腹が立つんですよね”。

 “無個性だからって馬鹿にする連中にも”。

 “無個性だからって背中を丸めてるあなた方にも”。

 “私が気分よく過ごすために、協力してください”。

 

 男子生徒は慌てて付け加える。

 

『いえ違うんです。傲慢だって思うでしょうけど、あの子はそんなタイプじゃありません』

『……いや、割と傲慢な台詞だと思うが』

 

 彼女の本当の“個性”を相澤は知らないが、無個性でないことは確かだ。

 “個性”持ちが無個性に対して『“個性”の有無なんか気にするな』と(のたま)うのは──不実というものだろう。

 

『ナチュラルに意識と実力が高いのでそう思われ易いですけど、話してみれば誰にでも分け隔てしない気さくな子ですよ。

 それに、同じことを自分でもやっていましたから』

『君らと同じトレーニングをってことか』

『負荷は十倍くらい増やしてましたけどね……』

 

 遠い目をした彼が話したことの内、兵怜カリナが文武ともに全国トップクラスの実力を誇るという事実は相澤も把握していた。だから学校中から一目置かれる存在だったというのも想像はつく。

 しかしその続きは意外だった。

 

『多分、校内の誰も兵怜さんの“個性”を知らなかったと思うんです』

『……使用条件とか制限時間とかを?』

『いえ、それ以前にどんな“個性”かってところから。目に見える形では全然使ってなかったみたいで』

『それは中学での話だな?』

『えぇ。小学校は別でしたし』

 

 無免許での“個性”使用は違法だが、特に小中学生の間は黙認されるケースも多い。だから傲慢見下し系の人物は“個性”を隠すどころかひけらかす。

 あえて隠す子供も居ないではないが、一時的あるいは特定の人物にだけというのが精々だ。学校生活全体を通してとなるとそうは聞かない。

 個性届に秘匿指定をかけるほどなのだから学校で隠すのは当たり前とも言えるが、その当たり前をこなし続けるのは難しい。にも関わらずそれを遂行している──実に合理的だ。

 

『参考になったよ』

 

 

 総合して、相澤はカリナを高く買っていた。

 ──尤も、その高評価は入学から二ヶ月としない内に大きく書き換わることになるのだが。それはもう少し未来の話である。

 

 


 

 

 ずいぶん後になってから聞いた話。

 

 秘匿指定を得るまでのアレコレを通じて、『特例を押し通す建前がちゃんとしてればルールはある程度まで無視できる(大人だってそうしている)』みたいな考え方が私に根付いてしまったことを、両親はヒヤヒヤしながら見守っていたらしい。言われて振り返ると……うん、まぁ反論できないかな。お母さんが教育に良くないと悩んだのも分かる。

 この件に関しては必要なことだったし、私が我を通すことで誰かを傷つけるってわけでもないから、開き直ることにしたけどね。

 

 この開き直りが傲慢に思われる原因だって? そんなこと言われても。




 個性届を更新する前に何をしたかは、入学後の戦闘訓練あたりで明らかになります。まぁバレバレといえばパレバレですが。
 次回、準備(2/2)。このままいくと性犯罪者になるので。
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