【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 B組女子の七人、それぞれ一度は発言しています。


6. ひとつ屋根の下

■合宿 四日目の夜

 

 ヴィランによる被害は物損のみだった(他に何かあったとしても巻き戻されていて知る術はない)。その物損とは一棟のプレハブ小屋で、男子たちが寝室にしていた場所でもある。

 

 つまり今夜は男女同室──なんてわけはなく、AB同室と相成った。

 八人で寝ていた部屋に七人も追加されるわけだから狭いは狭いけど、合宿は明日で終わり。つまり最後の晩なんだから我慢しようということだ。

 

「我慢…………我慢…………!!!!」

「リナちゃん面白い顔になってますよ?」

 

 失礼な。人の煩悩解脱(アルカイック)微笑(スマイル)を捕まえて。

 

「なんでお風呂の時は我慢しなかったわけ」

「それはカリナさんからの信頼の証ですわよ」

 

 不満そうな響香、応える百。

 あれはぶっちゃけ我慢がしんどくなっただけかも。信頼はしてるけどね。

 

「ん?」

「いやいや、B組に不信感とかそんなのは無いよー」

「え、なんで(ゆい)と普通に会話できてんの」

「透ちゃんそういうの得意やから……」

 

 あぁぁぁ小大(こだい)さんはお顔も“個性”も好みなのでちょっと離れて頂けるとぉぉぉ。

 取蔭(とかげ)さんも“個性”はそんなにだけど迫力のある美人さんで好き。

 

モテモテさん何我慢してるノコ?」

待ってその渾名(あだな)ほんとに定着してるの!?

 

 黙ってられずにツッコんでしまった。【キノコ】もかなり魅力的なので慌てて目を逸らす。あぁでも問い詰めたい小一時間。

 

「なんか鉄哲くんからもそう呼ばれて、今日が初耳だったんですけど」

「クラス越えて絡むこと、少なかったもんね。あ、でも兵怜さんて一学期の頭に挨拶周りとかしてなかった?」

「あー、B組だけですよ。同学年のヒーロー科くらいは顔と名前を把握しておこうかなーと」

 

 ごめん拳藤さん、本当のことは言えない。A組でもやらされた“個性”レビュー会*1(私の性欲基準)をB組についてもさせられただけなんだ……。

 

「モテモテ=サンの渾名(Nickname)ハー、共通(Universal)!  ケイエー科でもフツー科でも通じマースヨ?」

「…………冗談、ですよね?」

 

 残念なことに誰も応えてくれなかった。そんなバカな。

 

「心当たりが…………心当たりは……あるかぁ……」

「毎日々々、所構わずいちゃついてたものね。ウラメシいったらなかったわ」

「それは申し訳ない…………」

 

 確かに校内では常に誰かと一緒にいて──この“誰か”というのがキモなのだろう。被身子といちゃついてることもあれば百とラブラブしてることもある、時にはどっちも同時に、と。

 相手が一人だけならこんな渾名は与えられなかったに違いない。

 

「謝るようなことでしょうか? 愛は尊いもののはずです」

「……塩崎さんが言ってるのは多分アガペーの方ですよね……」

「お?」

 

 あ。

 失言、だ。自分のは博愛(アガペー)じゃない方──性愛(エロース)だと、自白したも同然。

 

「ふ〜ん?」

 

 瞬間的に気付いたのは取蔭さんだけみたいだけど、そのニヤケ面は小森さんに伝染し、小大さんが表情を変えずに頬を染め……あぁ、これはもう誤魔化しきれそうにない。

 

 

 もう開き直ってナンパに走ってやろうか。

 

 そう考えた瞬間、私は恋人たちに囲まれて口を塞がれた。

 ──いや、流石に因子の補充まではしてないけど。ベロチューまでだけど。

 

 

 後日、B組女子からはモテモテ()と呼ばれるようになっていた。切にやめてほしい。

 

 


 


 

 

 そんなわけで合宿から帰ってきて、

 

♡♡♡*2

♡♡♡*3

♡♡♡*4

 

──それからすぐ、嬉しい嬉しいお引っ越し。

 

 

「わ、それ持って歩いて来たの!? 言ってくれれば手伝ったのに」

 

 先になったのはお茶子。

 自前にせよ業者さんにせよ、何かしら車だと思ってたから──多分お金が理由なんだろう──驚いてしまった。

 

「平気平気、ほとんど服とかやし」

 

 付き添いはお母さんだけ。分かりやすく肝っ玉な感じだったけど、お茶子が住むことになるアパートを見て萎縮していた。

 いいかい百、これが庶民の感覚だよ。

 

「この度は娘がお世話になります……」

「や、そんなそんな」

「母ちゃん顔あげてぇや、困らせとるよ」

 

 わざわざ菓子折りまで持ってきてくれたので、上がってもらっておもてなし。お茶子の話をしていたら自然と打ち解けることができた。

 その結果は──

 

「あんた学校でも変わらんのねぇ」

「お茶子は実家にいる時と同じ感じなんだね」

「普通にしとるつもりやけど……?」

 

──お母さんと私達の間で、『お茶子像』はほとんど一致していた。

 これ、結構すごいことに感じる。

 

 私は家族だけに──特にお父さんと二人になると、物凄くぶっきらぼうになる。ある程度は意識的に切り替えてるから、被身子たちに見せる私が外面(そとづら)と言えば外面なんだろう。もちろん嘘ではないけどね。

 被身子は未だに実家の方が仮面を脱げないみたい。『自分が素を出せるのはごく狭い身内の前でだけ』って思いが強いみたいで──多分、学校でもかなり素に近くなってることを自覚していない。可愛い。

 

 そんな被身子が、お茶子のお母さんに──

 

「あの……建設会社って聞いたんですケド」

「そうよ。昔からお茶子は手伝おうとしてくれてねぇ」

 

──ふわふわと、「小っちゃいお茶子ちゃんもかぁいかったんでしょうねぇ」なんて相槌を打ちつつ。

 

「お庭のお手入れとかもするんです?」

 

 問い掛けた。

 お茶子の実家の建設会社が、造園業も請け負うのかどうか。

 

「やっとるよー。アレな話、刈り込みとか冬支度とかって定期的にお仕事もらえるから」

()()()……」

「見たことあるかなぁ、立ち木に藁を()()()()()()、雪吊り──柱を立てて、そこからテントみたいに()()()()()()するんよ」

「へぇ〜、それじゃ黄麻(ジュート)()なんかはお仕事道具なんですねぇ」

「ジュートなんてよお知っとるねぇ。そうよ、倉庫に山程とぐろ巻いとるわ」

 

 私達は自然とお茶子にジト目を向けていた。

 お茶子、まさか家業の道具を趣味に流用したんじゃないよね……?*5

 

「? どしたん?」

「いえいえー。色々やってるんだなぁと思って」

 

 見られていることに気付かないお茶子ではない。ていうか全力で目を逸して知らんぷりしてるし。そのせいでお母さんから怪訝に思われてるし。

 この様子だと、お茶子は自分の趣味もこのアパートの実態も隠し通してるんだろう──流石に家族バレはダメージ大きいよね。定期的に家族に報告してる私だからこそ、その気持ちはよーく分かるよ。

 

 でも被身子は話を逸らさずに続けた。

 

「硬くて扱いが難しいとか()()()()()()

「あぁ、救助とかに使うん? そんなら他のロープがええよ、チクチクしてて(いた)なるから。他に無ければしゃあないけど」

「ですよね〜」

 

 お母さんにだけ悟られないまま(はずかし)めを受けるこのシチュエーションに、お茶子は段々と()()してきている。

 身をよじるような仕草のおかげで、初めて()()に気付いてしまった。

 

 

 ──今も服の下に縄がある!?

 その状態でお母さんと一緒に電車乗ってきたの!?!?

 

 

♡♡♡♡*6

♡♡♡♡*7

♡♡♡*8

 

 

 翌日。

 

「初めまして、娘がお世話になっております」

「こちらこそ、透さんにはいつも励まされてます」

「わ、『透さん』ってイイね! 結婚のご挨拶っぽい!」

 

 昨日もそうだったけど、恋人の親御さんに頭を下げるのってかなり緊張する。対して透はいつも通りだ。まぁ自分の親に緊張するわけないんだけど。

 

「好きな呼ばれ方があるなら早く言ってくれたら良かったのに」

「普段とのギャップを楽しんでるだけだよー♪ 段ボール運んでくるね!」

 

 葉隠一家──ご両親と透が乗ってきたワゴン車には、確かに大小の段ボールが山と積まれていた。でもここにいるのは(女子にしては)力自慢ばかりなわけで、荷物はどんどん運び込まれてゆく。

 というか『運んでくるね』と駆け出した時点で車はほとんど空っぽだ。

 

 そんな透の様子を──

 

「恥ずかしくなって逃げたな、ありゃあ」

「浮かれっぱなしじゃない、あの娘ったら」

 

──ご両親はそう評した。

 私にとってはいつも通りの透を。

 

 驚いてご実家での様子を訊いてみると……重ねて驚かされる。

 

「あそこまでウキウキはしてない──というか、子供の頃はまぁまぁ()()()()()()()しなぁ」

「えっ」

「暗いって言い方は決めつけよ、紛らわしいこと言わないの。──でもそうね、少し『()()()()()()子』にしてしまったとは思ってるの」

「分かりにくい……?」

 

 『暗い』にせよ『分かりにくい』にせよ、透には当てはまらない気が──あぁ、でも、そうか。見ようによってはその通りだ。

 

()()()()()選択肢を()()()()()()、ですか?」

「あぁ、そういう言い回しの方が良いわね」

 

 透のお母さんは頷いた──と思う。声の向きが少し下へ落ちたから。でも目の改造をしていない私には、無言でいる間の表情は推し量る手がかりすらない。

 

 ()()()透は良く喋る。無言じゃどうにもならないから。

 ……そんな気分じゃない時でも。

 

「『分かりにくい』のはそういうところですか?」

「えぇ。いくら本人が大丈夫っていっても()()()()()()()……なんて言ったら感じ悪いけれど」

 

 例えば病気の子供が周りに心配かけないために健康を装うような。

 基本的に表情を見てもらえない透明人間は、ぼーんやり窓の外を見上げてるだけでも『静かだけど大丈夫? なんか怒ってる?』とか誤解されてしまうのだろう。

 

「私達に限らず、クラスの皆も先生方も。透とのコミュニケーションに大きな壁は感じていないと思います。

 ……透がそうしてくれるお陰で、透以外は、楽させてもらってます」

「ありがとう。誇らしく思うわ」

「無理を、させちゃってますかね」

 

 そう問うと、二人はお互いの頬へ手をやった──あぁ、真夏なのに長袖なのはそういうのが分かるようにか。

 突然イチャつき始めたようにも見えるこれは、前に透から教わったしやらせてもらったこともある。透明人間にとってのアイコンタクトらしい。表情の動きを互いの手で読み取って、言葉に頼らず何かを交わす。

 結果、お父さんが答えてくれた。

 

「むしろ息抜きさせてくれたんだろ、兵怜さんが初めて顔を見てくれたって言ってたぜ」

「……息抜きになれているのやら」

 

 

 実はお二人には、百の創った眼鏡(TKG)をプレゼントする案があった。今日ここで初めてお互いの顔を見た時とか、興奮して楽しそうにしてくれてたから──

 

 だけど最終的には、受け取りを拒まれてしまった。

 

 もちろん『もし自分達の手元から盗まれて、それで透を危険に晒したら』って警戒は大きいのだと思う。百だって創ってそのままにはせず、都度必ず完全に破壊してるし。

 

 

 それでも、顔を見られることが息抜きになるんなら。ご夫婦で一つくらい持っていても良いと思うんだ。

 寝室とかから持ち出さなければ盗まれるリスクも低いし──それにほら、お二人も()()()()()()の使い方とか良いと思──

 

「透は()い人に恋をしたのね」

「ブフっ!?」

「あらあらちょっと、落ち着いて」

 

 不埒なことを考えてるところにぶっ込まれて()せてしまった。その間もご両親は追撃をくださる。

 

「俺は納得してないからな。透以外とも付き合ってるだなんて」

「あら、みんな可愛い子じゃない。透とも仲良くやってるみたいだし」

「確かにそうみたいだが……」

「透が兵怜さんを独り占めしたいなら、それはあの子が頑張ることよ」

 

 げふんげふん。

 ──透はお茶子とは逆に、全部オープンなんだなぁ。

 

 それなら。

 それでもこうして、お引越しを認めてくれたなら。

 

 性欲の権化みたいな私でも、最低限の誓いは示しておきたい。

 

「……私は。ごめんなさい、皆のことが大好きで。

 でも、透の涙や悲しみは絶対に見逃しません。約束します」

 

 〔身体変造〕。

 これをした私の瞳は、透達からは妖しげな紫に見えるらしい。そのことにちょっと驚いた様子で──それから、お二人は苦笑まじりに頷いてくれた。

 

 多分、ある程度は認めてくれたのかな。そうだといいな。

*1
11話『性欲裁判』

*2
襲った

*3
襲われた

*4
回数は覚えていない

*5
44話『【自己再誕】の罪業3』

*6
Mお茶子

*7
Sお茶子

*8
放置プレイ

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