その話を振ったのは期末試験よりも前。
『被身子、今度のお誕生日ほしいものとかある?』
実は内心、『一応訊いておこうかな』位のつもりだった。被身子は去年も一昨年も『リナちゃんがくれるならなんでも』だったから。今年もそう言われるんだろうなって。
──でも違った。今年はリクエストがあったのだ。
もちろん、私がそれを断るわけもなくて。だから八月七日を迎える前に、
■八月七日
「えっと、被身子? やっぱり気が進まない?」
「……ごめんねリナちゃん、実はあんまり……」
「まぁそんな気はしてたけど」
お誕生日特権(?)で二人きりになって、肌と肌を合わせている。なのにこんなにも被身子のテンションが低い。
うーん、どうするのが良いかな。
「私は、被身子がしたいなら拒否感はないけど……積極的にしたいわけでもないから、今から他のプレゼントに変えるとかでも良いんだよ?」
「うううぅぅぅ〜〜〜ん」
唸っている被身子を後ろから抱き締め……るのは今の身長差だとイマイチなので、上半身を引き倒して膝枕みたいな姿勢にさせつつ、お悩み中の頭をくしくしと撫でる。
被身子の瞳は不満と苛立ちに尖っていて、あんまり見かけない表情だからドキドキしてしまう。
今、私の大切な被身子を悩ませ苦しめているのは──嫉妬と独占欲。それを分かっていて、余計に昂ぶってしまうのは酷いことなんだろうな。
被身子が求めたプレゼントは、私の『
……
これまでそっちの穴に興味は無かった。不衛生で感染症の元だし、準備も後始末もメンドそうだよね、と。
というより現時点でさえ、私も被身子も興味は薄い。
じゃあどうして、なんてことは訊かなかった。分かりきってるからだ。
お茶子が越してきた以上、遅かれ早かれ私は貫いたり貫かれたりする公算が大きい。お茶子が初めて攻めに回る場合は特に、万が一内臓を傷付けてしまっても簡単に治せる私が受け側に選ばれるべきだろう。
私はまぁ、乗り気じゃないだけでイヤではないし──いや、恋人とのえっちな行為なのに
ともかく、お茶子より先にと被身子は欲したのだ。
──逆に言えばそれだけがモチベーション。どちらかといえば、というよりはもうちょっとガチめに、遠慮したいのが本音らしい。
「お茶子に『させない』って選択肢もあるけど」
「それは……なんかヤです」
「んだね、私もできれば避けたい」
そんな決まり作ると『被身子>お茶子』みたいになっちゃうからね。よろしくない。
どうしよっかな。
…………うん。こういうのは頭で考えると消極的な方に傾きがちだ。
でもここでどっちを選ぼうと、私は経験することになると思う。お茶子なので。
その時、痛くて気持ち悪いことを我慢してやり過ごすってのは……色んな意味で好ましくない。どうせなら気持ち良い方がイイよね。
「ねぇねぇ被身子」
「リナちゃんえっちな顔してますよ……?」
「え、そりゃそうでしょ」
「んやぅっ♡」
さっきまで交代で──それぞれが自分で──お腹の中をキレイにしてて、その後シャワーも浴びたから、二人とも裸なんだよ。しょんぼりしてる方が変じゃないか。
「お尻でもどこでも、気持ちよければアリじゃない?」
「そうですけどぉ!」
「そこで否定しないとこ好きだよ♡」
(きっと透なら『そういう問題じゃなくない!?』とか抵抗すると思う。それはそれで可愛いけど)
「とりあえず難しいことは忘れて──ううん、忘れるまで責め立てるところからね」
「……リナちゃんのその
その二つって似たようなものだっけ。
「ありゃ。怖い?」
「まさか!」
えー、これは
もしくは
私達が日常的に五感という時、そこには当たり前のように『触覚』が含まれる。けれども、視神経や聴神経のように『触神経』なんて呼ばれる器官は、実はどこにも存在しない。
もちろん触覚と呼ばれる感覚はあるんだけど、そこには色んな器官が感じた信号がごちゃ混ぜに含まれてるんだ。『網膜に入った光の強さと波長』
その雑然とした電気信号は、専用の機械を使えば成分ごと*1 に数値化できなくもない──んだけど。
それらの信号がごちゃっと雑ざったモノを、人が
人によって全然違うのだ。透にやったら泣いて痛がることを、泣いて悦ぶお茶子がいるように。
だから、解剖学と生理学の話はここまで。
ここからは心理学とかになるのかな。
あんまり詳しくないけど、だからこそ門外漢の特権として、乱暴なことを言ってしまおう。
気持ち良いと思えば気持ち良さだし、気持ち悪いと思えば気持ち悪さなのだ!
……や、割と真面目にね。
つまり、それを応用すると。
「喋れない? でも気持ち良いんだよねぇ、もう前には触ってないのにこんなにヒクヒクさせて」
どこ触られてるのか分かんないくらいに幸せモードに叩き込んでから触ってあげれば、たいていの刺激は性感になりうるってこと。
というか、それでいうとお尻はたぶん簡単な方だ。元々敏感だし、陰部神経の枝だし。
「そんなに腰振ってもお豆ちゃんは舐めてあげませーん。ほら、またお尻に入ってくよー?」
しかし改めて観察すると、この括約筋って筋肉はなんだかえっちだ。
内括約筋と外括約筋の動かし方を変えることで、
今まで誤解してたけど、これは入れる為の器官なのかも知れない……?*3
「ごめ──なさ♡ ゆるし、リナちゃ、ご
「なに謝ってるの? 忘れちゃったかな、前で思い切り
もうかなり長く、被身子のお尻だけを責め続けている。本人は認めないけど何度か達していて、でもやっぱりスッキリはしないのだろう。いつも通り、一番敏感なところを擦り合わせたいはずだ。
……私だって早くそうしたいんだから。
「わ、
「可愛いよ被身子、ほら言ってごらん?」
ただ一言、お尻も気持ち良いって認めれば。それで
なんというか悪用厳禁だなぁ、心理学*4 。
「はずかし……こんなの変態さんです……」
「今更ぁー? うりうりうりうり」
「やぁぁああっ♡♡ 言います、言いますからぁ!!」
ご満足いただけたようです。
「え、被身子怒ってる? 怒ってはなさそうだな、うーん? 気持ちよくなかった?」
「ほぇ? 全然怒ってないです、あと私リナちゃんに嘘つきません」
「だよねえ」
おかしいな、じゃあどうして私はすんごい格好で緊縛されてるんだろ。
「あの、被身子さん? ほどいて欲しいなー、なんて」
「私も散々ジタバタしたでしょう? あれ我慢とか無理ですから、固めておかないと中に傷できちゃいますよ」
「あ、つまり私の安全のためなのね」
「ですです」
おーけい、それは分かった。
でも被身子が用意してる道具って主に快楽責めで使うやつだよね。拘束されてそれって割とキツいんだけど。
「えっと、私がしたことをそのまんまお返しされるようなのを期待してたんですよ」
「……私、リナちゃんの指みたいな触手ないんですケド」
「そうでしたね!?」
しまった、被身子に痛みを与えずにお尻を責めることしか考えてなかった。
〔身体変造〕で細ーく長ーくした指をフル活用したから、被身子には真似できないのか。あれは“個性”ですらないから【変身】でも再現できないしなぁ。
「……だからってそのブラシ付き指サック*5 は刺激が強すぎませんか……?」
「あはぁ。想像しちゃったんですね、もう濡れてきました」
「あの、私も初心者なので、痛くしないでもらえると……」
濡らしてるとしても怖くないわけじゃないのよ。だから大真面目に懇願してみたんだけど、被身子はきょとんと首を傾げた。
「リナちゃん、私からの痛みは気持ちよくなりますよね?」
「……そうでした」*6
「それにリナちゃん、マゾですよね?」
「スイッチ型です」
「確かに。じゃあ
私を一言で表すなら、サドマゾじゃなくて刹那的快楽主義とかになる気がする。
被身子に問われて私の頭を占めたのは、『こう答えたら盛り上がるだろうな』ってことだけだったから。
「被身子が私をマゾにして?♥」
「──っ!!」
盛り上がったけど。目論見以上に盛り上がったけども。
一時的に、ちょーっとだけ、悔やんでしまった。
この日以来、被身子がはっきりとサドに目覚めたから。
でもまぁ、私に噛みつく度にいちいち申し訳無さそうな顔をしなくなったのは良いことだ。
被身子も私も幸せなんだから、悔やむことなんか無い。
そのように開き直った。
……うそです、被身子のご両親にはやっぱりちょっと申し訳ないかも……。
この話のために図書館でお勉強しました()。