【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 唐突に名前の挙がるクラスメイト。


8.『掴め■■心』(2/3)-【猪】【蝙蝠】

■四人娘&子供たち

 

 保護者の繋がりの中で、ヒーロー免許を持っている──つまり、子供たちに“個性”を使わせてやることができてその意思もある──マーサの存在は極めて貴重だ。

 カリナが家を出てからは月に二度ほどのペースでこうした場を設けているが、順番待ちの列は一向に減らない。

 

 但し今回は、順番待ちを承知しているカリナがそれでもとねじ込んで来た、霙理のカウンセリング(と霑の制御訓練)を主とした臨時開催。

 被身子たちヒーローの卵にも任せられるような──つまり、危険性の低い“個性”の持ち主しか呼ばれていない。

 

(カリナ達が着替えを終えるまでに、全員の“個性”はマーサ立ち会いのもとで改めて確認され、被身子たちに引き継がれている)

 

 

 

 こうして子供たちを集める目的は大きく三つ。

 第一は題目通り『“個性”の制御訓練』だが、それだけなら数を集める必要は薄い。

 

 第二の狙いは『自分の“個性”の肯定』。人目を避けることなく衆目に晒すのはその為でもある。

 今日集まっているのは、いわゆる“異形型”で──中でも動物の特徴を備えていて、かつその“個性”を受け入れられていない──周囲から(おそ)れられ、あるいは蔑まれ、それでも“個性”を隠すこともできずに苦しむ、小学生の子供たちだ。

 

 ──もっとも、知らずに見れば訓練とか自己肯定といった風には見えないだろうが。

 

 

ブモォォオー!!!!

「(速っ!? やばやばやば)──セーフ! 残念でしたね私の勝ちでーす!」

「負げだぁぁーっ!!」

 

 通常よりも左右の間隔をかなり広めにとったレーンで短距離走をしていた、【猪】の少年と被身子。

 被身子は素の身体能力だけで(ぎりぎりながら)勝ちを掴んでいた。

 

「あぁ、猛進(たけし)くん惜しいぃ!」

「もうちょっとやったねえ!」

「あの金髪ねーちゃんマジで“個性”使ってねーの?」

 

 お茶子を交えて、応援しながらワイワイと盛り上がる様子に厳しさのようなものは感じられない。

 むしろ一緒になって遊んでいる──その空気は意図的なものだ。

 

「思い切り走ってみていかがですか、猪突(いのつき)くん」

「悔しい!」

「ふふ、なら再挑戦を申し込みますか?」

「いいの?」

 

 百に促された少年は──これまで、『走り始めると周りが見えなくなる』とか『単純に危ない』とか『ズルい』(?)とか言われてきた。

 そのため全力を出したことがほとんど無かった彼は、だからこそもっと走りたいという内心を隠しきれず、おずおずと被身子を見やる。

 

 被身子は肩で息をしつつも、余裕そうな表情を作って親指を立てた。

 百が路面を整備する間、少しでも息を整える──蹄のような形に掘り返された穴ぼこを見れば、確かに思い切り走れる機会は限られそうだと納得しながら。

 

 彼らの“個性”が我慢を強いられたり慄れられたりするのも、全くの無根拠ではないという一例である。

 だからといって抑えつけても解決はしないのだが。

 

 

 そもそも、()()()()()“個性”は見過ごされている。“異形型”だけ我慢を強いられるのは筋が通らない。

 それが三つ目。最後の目的。

 同じ年頃の子供でも、『“発動型”の方が危険だと周知する』。平均を較べれば、“異形型”の危険度がそれほど高くないと目の当たりにさせることだ。

 

 ただし今日は“異形型”の子供たちしか居ないので──こういう時のために団体では映像資料を作ってある。

 過去にどこかで訓練を受け、同意を得られた子供たちの“個性”発動の様子だ。

 

 

 年齢一桁の子供が放つ全力の“個性”が、大きなスクリーンに次々と映し出される。

 

ふんFungi!』

「ひゃあ!?」「うっわ」「怖……」

 

 その度に“異形型”の子供たちは悲鳴をあげた。

 電化製品が内側から生えたキノコに破壊されたり、大量の氷が宙に浮いたり、臍から発射されたレーザーが大きな鉄の塊を吹き飛ばしたり。

 ()()()*1 と比べれば、ただ荒々しく直進するだけの“個性”のなんと大人しいことか。

 

 休憩中の被身子は別として、子供たちの反応が期待通りなことに百はほっと一安心。

 お茶子と透は一緒になって「ひょえぇ!」などと驚いている。

 

 ところが、「ん?」と視線を左右に走らせた。

 映像は停まっていないのに急に無音になったので、スピーカーのトラブルなどを疑ったのだ。

 

 ──原因はすぐに分かった。

 

 機材は正常だ。映像自体に、この少年のところだけ、音声が入っていない。

 そのことを子供たちには「音が大きすぎて耳がキーンってなってまうから」などと説明した──実際にそれもあるだろう──が、無音の理由は他にある。

 

 百達は、というより一名を除くA組の生徒ならば、『音声カットされて当たり前、むしろGJ(グッジョブ)』と納得するに違いない。なにせ、音声は無いはずなのに勝手に幻聴(のうない)で補われてしまうから。

 

〈死ぃぃぃねえぇぇ!!!!〉*2

 

 顔にぼかしがあっても幼くとも、どう見ても爆豪だった。

 子供向けの教材としては明らかに不適切な発言である──“発動型”の危険度を伝えるという意味ではこの上ないのだが。

 

 


 

 

 子供たちは幾つかのグループに分かれ、ある二人は透と鬼ごっこのような遊びをしていた。ばっさばっさと音を立てて。

 

果々(かか)、真下!」

「えいっ!」

 

 血を分けた姉妹である二人は、いずれも『コウモリっぽい“個性”』を活かして空中から(とおる)を狙っている。

 

「ひゃうぁ!? 今の避けれた? 掠ってた?」

(さわ)れなかった〜」

 

 被身子のように装う余裕もないほど追い込まれた一対二。透は汗を拭いながら休憩を提案したが──

 

「ひぃ、ホントに惜しかったよ、はぁ、ちょっと休もうか」

「やだ!」

「もうちょっとだもんね、頑張ろう果々」

「うん! 油々(ゆゆ)(ねぇ)と一緒なら勝てそう!」

 

──軽く流されてしまった。

 

『プ、プルスウルトラー!』

 

 透を泣きたい気持ちにさせる姉妹の快活さに、見学席の保護者(おや)は全く違う理由から涙を堪えきれない。

 

『あの子達が、あんなに……!!』

 

 あんなに、あんなに──何というべきか、言葉は見当たらないが。初めて見る姉妹の姿なのは確かだ。

 

 外見からは妹に見える十歳の姉、油々。“個性”は【アブラコウモリ】。

 ()()()()()()()()()()()姉は、これまで家族に介護されながら、自信を持てずに生きてきた。広い場所で飛ぶことさえ久しぶり。

 

 体格的に姉と見られがちな八歳の妹、果々。【フルーツコウモリ】。

 ()()()()()()()()()()()()妹は、その優しさ故に元気よく遊ぶことを遠慮してしまっていた。姉と身体を動かすなど生まれて初めて。

 

 準備運動をした後の一時間ほどは、透を相手に反響(エコーロ)定位(ケーション)で遊んでいただけ。そうした機能は油々(あね)の方がずっと優れているから、視力の差を覆して自信に繋がるだろうと。

 

 透は最初動かず、続いて動き回り、次第に足音などを消して──もちろん彼女は音を立てない訓練は重点的にやっている──とうとう本気の隠密を始めたが、それでも油々は食い下がった。

 こうなると果々(いもうと)は透のことを完全に見失い、できることが無くなってしまったので──退屈させないために、この高度な鬼ごっこが始まったのだ。

 

 妹に透の位置は分からない。また身体が大きい分、瞬間的な加減速もやや苦手。このお陰で透はギリギリ避けきれているのだが。

 姉には透の位置が掴めているが、言葉で妹に伝える瞬間は測位が途絶える。ただでさえコンマ数秒ほどの遅れがあるのにそれが拡がってしまう。

 

 今や姉妹の間に遠慮など無い。

 妹は姉の指示を瞬時にこなすことだけ考え、姉もまた勝つことに集中している。

 

 これまで自分を助け続けてくれた、その逆をしてやれなかった、年下の家族。

 気を遣わせてしまった、我慢をやめてくれなかった、儘ならない相手。

 ──そんな経緯も、自己嫌悪も、とっくに頭から吹き飛んだ。

 

 ()()()()。空中でホバリングしてるだけでちょっとヨロついてはいるけど、だからって離れた場所からの観測手で良いのか。

 ()()()()。自分の小さな身体なら、もっと鋭い切り返しができそうなのに。

 ()()()()。あの距離に飛び込んだら妹とぶつからない?

 ()()()()()()()()。できる。きっとできる!!

 

「真下!」

「うんっ!」

 

 妹は瞬時に降下する。しかし捕らえられない。

 透は()()()()()()なかった。そこには居なかったから。

 

(え?)

 

 先を読んだ指示にしても大幅に見当外れ。声の主に目をやると──翼を大きく広げた果々(いもうと)、その頭上を際どく越えて迫り来る──翼を畳んだ弾丸のような油々(あね)

 

 咄嗟に上体を倒しながら地を蹴る透。

 喉を鳴らし耳を立てたまま、片翼を開いて(かじ)を切る油々。

 ヒッ、と見学席で誰かが息を呑んだ。

 

「──んもうっ!!」

 

 傍から見れば油々の突撃軌道は、頭から地面に突っ込むようなものだったから。

 危ういところで透が下敷きになって、どちらにも怪我は無かったものの、大人からすれば寿命が縮む思いである。

 

「油々姉! やったやった!」

「や、った……? やった、捕まえたよ果々!」

 

 透の上から姉を抱え上げ、くるくると回る妹。姉妹の喜びが大いに弾けた。

 

 ──油々の無茶な飛翔は実に危険なもので、透に()()()()()()()とも言える。しかし彼女はそれを狙って仕掛けたわけではなく、はっきり言えば後先考えずに透への最短距離を突き進んできたのだ。あの速度では安全な着陸などできなかっただろう。

 透は叱らないといけない。いけないのだが。

 

「すっげーーーー!」

蝠鼠(ふくね)ちゃん、ホントに目見えてないの!?」

「ギューンって! んでカクッてなった!」

 

 大歓声、である。

 気付けば他のグループも訓練の手を止めて姉妹に拍手を送っている。少なくとも今この場で叱っては、芽吹いたばかりの油々の自尊心に傷をつけてしまうだろう。

 透はひとまず乗っかることにした。

 

「うぎゃー! や、やられたぁ!」

 

 大根にも程があったが、それはそれで良いのである。子供たちが楽しそうに笑ってくれたから、それだけで。

 

 

 

 ──ただ、百たちと合流して不透明な手袋などをはめた透に、おずおずと確認を取ってくる者もいる。

 

「あのー、葉隠さん。痛かった? ()()()()()()()()つもりだけど……」

「あ、はいありがとうございます! おかげさまで無傷です!」

 

 先ほど透を受け止めたのは、柔らかな土の感触だった。怪我防止のために定期的に耕してあるフィールドとはいえ、本来はあそこまでふかふかではない。

 それは素直にありがたいことで、透は元気よくお礼を言った。言ったけれども、素直な疑問を抑える理由にはならない。当然のように訊ねる。

 

「でもどうしてここにいるんですか? ピクシーボブさん」

「え!? えーっとその、あのねぇ……」

 

 あからさまに目を泳がせる現役ヒーロー。

 彼女もここで訓練をするつもりで、偶然予定がかぶった等の可能性は考えにくい。何故ならピクシーボブ──もとい土川流子は、コスチュームでもトレーニングウェアでもなくフェミニンな私服姿だから。

 

 少し離れて見ているのはラグドール──知床知子のみ。

 流子は度々言葉に詰まり、後方の知子に助けを求めるように視線を送るが、梨の礫の放置プレイ。

 百達からの怪訝な視線に耐えきれず、とうとう流子は宣言した。

 

 

「ぷ……プライベートよ!!」

 

 

 歯に衣着せぬ表現をすれば、これはあらゆる意味で……徒労である。

*1
無制御で放てば文明社会を腐海に沈めうる【キノコ】/今はどこかで外典(げてん)と呼ばれている少年の【氷操】/()()()()()の持ち主。

*2
映像には収録されていない。




※ほぼ今回限りです。『ツバサくんの親戚』などの闇設定はありません。

猪突(いのつき) 猛進(たけし)【猪】
 二本脚でも立って歩けるが前脚をついた方が楽な程度のケモノ度。ただしその状態では『ゆっくり歩く』か『脇目もふらず全力疾走』しかできない。

蝠鼠(ふくね) 油々(ゆゆ)【油蝙蝠】
 小柄で反響定位が得意。目は明るさが分かる程度。両腕が翼になっている。腕力はかなり低い。
 妹が光属性すぎて自分が酷く意地悪に思えていたが、『コイツさては何も考えてないな』と気付いた。

蝠鼠 果々(かか)【果実蝙蝠】
 反響定位は苦手。それ以外は身体的に恵まれている。両腕は翼だが腕としても充分使える。
 姉のことはマジで何一つ恨んでいない、というか深く考えていない。姉ならば上手に着地する算段もあったのだろうと信じている。
 姉も考えてなかったぞ。
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