筆記試験の順位が原作と大きく異なるのは意図的な変更。
オイラ、雄英高校一年A組の峰田実。
もっとも今は夏休み、合宿も終わった八月後半となれば新たな出逢いの
なんでまた男だけで集まってんだチキショウ。
いや、目的は分かってる。期末テストの筆記順位に危機感を覚えたバカ共が──
でも! なんで!
女子がいねえんだよ!!!
「なぁ? 女子もいた方がやる気でるよな?」
「うるさいぞ上鳴くん! 最下位として危機感を持ちたまえ!」
「うぇ俺だけ!? 峰田だって『女子がいねえ』ってガチ泣きしてんのに!?」
「彼は泣きながらでも勉強しているだろう! 見習うべきだ!」
飯田の言葉に、何人かが「見習うのはおかしい」とかツッコミを入れたが。んなことはどーでも良い。
「なんで女子がいないか……簡単なことだぜ……」
「ど、どうした峰田くん。芦戸さんは予定が合わなかったのだから仕方がないだろ?」
「それはしょうがねぇ。だがそもそも、芦戸にしか声かけなかったのはなんでだって話よ」
オイラの言葉にバカ共は気まずそうに目を逸らす。
気持ちは分かるぜ負け組の諸君?
今更な確認だが、A組は男子が十四人、女子が八人だ。
で、期末筆記のクラス内順位をすぱっと半分に上位・下位と分けて『下位は全員に声をかけよう』ってなったんだよな。
──したら芦戸しか誘えなかったってオチよ。
「女子八人のうち七人が上位だぞ!? 偏り過ぎだろーがよぉ!」
「テメーも期末で下位に落ちただろがクソ玉」
「そーだよぉせめて葉隠には勝ちてぇから物理頼むぜバクギレ号!」
「乗り物みたいに言うんじゃねぇ! どこが分かんねんだゴラァ!!」
「──チッ! 分かり易いじゃねーかあんがとよ!!」
「同じトコ訊くんじゃねえぞクソがァ!」
くっそー、教われば分かるんだからオイラだってアホじゃねえんだけどな……つーか、全国の高一の
そのはずだってのに、なぁ。
中間の時、オイラの順位は
その時は下位に女子が三人いたんだ。それが期末では
──雄英ヒーロー科に、『地頭は良いけど勉強の仕方が分かってなくて筆記が悪い』みたいなヤツはそもそも
だからンな短期間でホイホイ伸びるわけねーんだよ。……普通は。
「は? 待って待ってくれよ。今のとこもうちょい詳しく」
「これ以上は噛み砕きようが……」
「上鳴くん……」
まるで上鳴がアホみてーだが、いやコイツは実際アホだが。
──まぁ、秘密は分かりきってるが。
「どんな教え方してんだろなぁ」
中間→期末で大きく順位を上げたのは麗日と葉隠の二人だけ。その仕掛け人が誰かなんて、考えるまでもねーことだ。
期末試験の前にも勉強会があったんだよ、八百万のでけー家で*1 。そん時、オイラも含めて何人かが同じようなことを感じたらしい。
『あれ? 八百万の説明ってこんなに分かりにくかったか?』
──みてぇな。
その日その時は、違和感の正体に気付けなかった。内容が難しいかオイラ達の頭が足りねぇだけかも知んねーし。
だけど翌日の学校で、疑問はあっさり解ける。
兵怜ちゃんだ。
勉強会の日にはいなかった*2 。
筆記成績が不動のトップな八百万は、使う言葉にせよ話す順序にせよ、『分かってて当たり前』な前提がまぁまぁ高えんだな。
高かった。本当は、最初からずっと。
それが見えにくかったんだ、兵怜ちゃんがさりげなーくクッションになって間を取り持つおかげで。
オイラの寿命は爆延びした。“軽く依存は百合の華”って言葉*3 の実物を目の当たりにしたぜ。
──が、それはそれとして。
麗日たちの成績アップは『日常的に八百万から教われる』だけじゃ説明がつかねぇのよ。教える側だけ分かっててもさっきの上鳴みてーになるからな。
成績アップの鍵は、間違いなく兵怜ちゃんにある。
男共の勉強会、その休憩中。
「いやーオイラ真面目に危機感だぜ。これで芦戸まであのハーレムに入っ──」
「ハ、ハーレムとか言うのはやめたまえ不埒だぞ!?」
──不埒なのはオイラじゃねえと思うが、まぁ言い直しておくか。
「“あのグループ”に入ってみやがれ、下位が男だけになっちまう」
「それヤベえじゃん!?」
「まず
上鳴を黙らせる爆豪にいつものキレが無え。
飯田や緑谷を退かして自分が教えたのに、それでも上鳴がついて来れねえことへの苛立ち……つーか、ライバル意識か。
筆記の総合成績(全教科合計点)、兵怜ちゃんとぴったり同じだったらしいもんなぁ。多分向こうは全っ然気にしてねーけど。
爆豪的には負けた気分なのかね? 得点力で
「おいクソ玉。あの裸族は中間何位だった」
「なんでオイラに訊くんだよ十八位だぜ」
「知ってんじゃねーか。期末は」
「十一位」
「チッ……」
たったの二ヶ月弱で七つ。ちなみに麗日も十六位から九位に大躍進だ。普通じゃあねぇよな。
だから、まぁ。普通にやったら勝てねーわけで。
「……おいクソメガネ「僕の名前は飯田天哉だ」、ポニテ「八百万さんと呼びたまえ」──っるせぇ! 連絡先とか知らねぇのか!」
八百万の、連絡先? 爆豪のやつそんなの飯田だって困──
「八百万さんの? あぁ、知っているが」
「んだとクソメガネどういうこったォぉん!?」
「峰田くんまで!? 爆豪くんの暴言は感染するのか!?」
──っざけんなよコイツ。百合の間に挟まる男は極刑って超・古事記にも書いてあんだろが。
ぁ? 兄貴の治療状況?
んなもん兄貴から直に聞けやこのムッツリ軟派野郎がぁ!
「筆記の成績を上げる方法、ですか?」
突然飯田さんからお電話があった時は少々驚きましたが、男子の皆さんは勉強会を開いているとのこと。でしたらもちろん協力を拒む理由はございません。
『こちらには僕の他に、緑谷くんや爆豪くんも──な!? 名前を挙げた順序に意味などない! 君の頼みで電話してるんだぞ!──失礼、教師役は何人かいるんだが。実は上鳴くんの指導に困っているんだ』
「まぁ……」
電話口の向こうから爆発音が聴こえたのは少しばかり意外ですが、それはそれとして。
確かに、上鳴さん達の筆記のご成績はかなり心配な水準ですので、引き上げたいという思いはわたくしにもございます。
ですが、透さんお茶子さんを伸ばした方法というお訊ねですと……。
「申し訳ございません、そういうことでしたら参考にはならないかと。あのやり方は……カリナさんにしか」
「私?」
──難しいだろうと懸念を伝えながら、
「こんにちは天哉くん。勉強会ですって?」
『──』
「あー、透の成績。うんうん、中間では割りと心配な位置にいましたね」
『──』
「頑張ったのは透やお茶子ですけど。はい、私もお手伝いは」
「ん〜、申し訳ないけど真似はどうかな……いや秘密とかではないです。じゃあ伝えるだけ伝えておきますね」
『──』
「一言で言うと、教える相手への愛です」
ぺちん! と何かをはたく音。
「痛ぁ!?」
「しーですよ透ちゃん。お電話中です」
「だって男子相手にセキララ過ぎるよ!」
「リナちゃんが隠すわけないでしょ?」
……どうやら、照れた透さんがカリナさんから電話機を奪おうとし、被身子さんがそれを阻止したようです。
「冗談でも誤魔化しでもないですよ。
透たちのとったノート、プリントを何処まで解けてるか、答案の間違いや途中式、どこに時間をかけてどこを雑に済ますか、教科書の落書きとかも含めて、ぜーんぶ観察して、ひとつひとつトレースするんです。何が分かってて何が分かってないか、どういう説明が刺さるのか、通じないのか」
『────!!』*4
「ガミさんこれやっぱ恥ずいって! 休み明けどんな顔して会えばいいの!?」
「透さんはどんなお顔をしていても良いような……?」
「あれ? そうかも?」
「ていうか普通に妬けるのです。私とのことも自慢して欲しいな……」
……被身子さん、それはカリナさんに伝えた方が良いのでは?
「だから百も参考にならないって言っ……はい? 私が上鳴くんを? ですから愛が無いと無理なんですって」
『━━━━』
「男子の皆様も楽しそうですわね」
「いえ、今のは上鳴くんの悲鳴とミネタの歓声です」
「ガミさん耳いいよね。他に誰がいるか分かる?」
「…………轟くんは分かりませんが、他は皆いるっぽいです」
「ぎゃーん……知れ渡った……」
「別に身体的な情交のことではございませんし、カリナさんもそちらまで明かすつもりはありませんわよ」
「なら……良いのか、な?」
「良いことづくめじゃないですか。ぶーぶー」
そんな話をしている間も、カリナさんは真面目に『教えることの難しさ』などを話しておられます。
「そうですね、相手の理解に合わせるにはまずそれを知らなきゃいけなくて──、私は、“自分が分かってること”を一旦捨て去るみたいな姿勢が大事かなと──」
『────』
「短期間で大きく引き上げるなら、ね。はい、そう思ってて。ですです、そこが愛なわけ」
『──』
「滅私なんて大層なものでは……。
でもバクゴーはもちろん、緑谷くんも天哉くんも得意ではないかも。雄英生、基本的に我が強いですから」
「自分のこと我が強くないと思ってるの……?」
「その
「いえ、その我を塗り潰すくらいに愛が深いって惚気ですよコレ」
「ガミさん機嫌治してよぉ〜」
「ヤです。格闘訓練でしごいてあげます」
「ひぇ……お手柔らかに……」
訓練となれば被身子さんがやり過ぎることは(滅多に)ありませんし、基本的に透さんのプラスになることですからね。断れませんし、止める必要もないでしょう。
『──?』
「うーん。適任者、適任者ねぇ……?」
と、悩み始めたカリナさん。やがて何か思いついたようです。
「──あ。
……天哉くん、ちょっと保留にしますね? 一分くらい。はーい」
通話を中断し──何やら真剣な空気で──被身子さんに目を向けます。
「ねぇねぇ。これ私の勘で、被身子の勘も聞いてみたいんだけど」
「なんです?」
……こういう時に真っ先に頼られることをこそ、透さんは妬いていますけどね。
それはそうと、カリナさんの問いは些か不穏なものです。
「
「そんなに落ちてたんです!?……電話、保留中ですよね?」
「大丈夫」
「──
「やっぱそう見えるよね。かといって体調は──」
「健康そうです。──そう言えば、中間のちょっと前頃? 実技の方でも『急成長したなー』とか思ったような」
「おし、被身子もそうなら私の気のせいじゃないや。保留やめるね?」
……手抜き、ですって? それはわたくしにとって考えたこともない、考えたくもない可能性で。
咄嗟に否定しそうになりました。ですが根拠は──ありません。もちろん手抜きとも言い切れませんが、成績の急落は確かに不自然なほどです。
「もしもしお待たせしました。
天哉くん、ちょっとスピーカーやめて、青山くんに代わってもらえます?」
『━━』
「うるさっ」
今のはわたくしでも聴こえましたわね、峰田さんが何事か喚くのが。
ともあれ、電話の相手は青山さんだけになったようです。
「急にごめんなさいね青山くん。……え、なんでそんなビビってるんですか」
『──』
わたくしは思いました。
──怯えもするでしょう、と。
思い込んでいました。
──カリナさんは成績の急落について問い詰めるつもりだ、と。
きっとこういうところが、頭が堅いと言われてしまうのでしょうね。
いえ、カリナさんは役割分担と言ってくださいますし、わたくしまでゆるゆるになったら事務所として破綻しかねないので、堅いままで良いのですが。
「え、普通にさっきまでの話の続きですよ? 上鳴くんの先生役、青山くんならやれないかなって」
『──?』
話の流れを追いたかったので被身子さんに目を向けます。
「ボクの成績を知らないのかい、ですって」
「ありがとうございます。しばらくお願いしても?」
「はーい」
「先生役というか通訳ですかね? 私が透と百の間を繋ぐみたいな」
『……ボクが彼を愛してる♥って言うのか〜い?』
「青✕上!?」
何やら透さんが吹き出しています。被身子さんの声真似が特徴をよく捉えているからでしょうか。
「“自分が分かってることを一旦捨てる”姿勢のために、私は愛でゴリ押しただけで。青山くんは別の武器を持ってませんか?」
『ボクの……武器?』
「青山くんは
『!──』
「?……なんか青山くん、めちゃくちゃ狼狽えてますね……? “ボクは自分を騙してなんか”……?」
「え、なんか隠してるっぽい?」
「そうですわね……?」
青山さんの声までは聴こえませんが、手抜きという推測が当たっているのなら、何か深い悩みがおありかも知れません。
「ホントに悪い意味じゃないですよ? それって
なんなら今日の勉強会でも、上鳴くんが何処で躓いてるか勘付いてるんじゃないですか。その答えまでは分からないにしても、それはバクゴーとかに訊けば良いでしょうし」
『……それは……』
「青山くんの成績も上がると思いますよ。気が向けばやってみたらどうです?」
青山さんの反応は
後は
結局、青山さんの『手抜き』について直接は触れませんでしたね。
そもそも今は根拠が無い上、(カリナさん的に)自己責任に属するようなことを問い詰めるなどありえませんでした。
「夏休みが明け次第、一度お話を伺ってみますわ。クラス委員として──いえ、個人的に気がかりなので」*5
「そっか。手伝えることがあったら言ってね?」
「はい」
青山さんの方から助けを求めて来たならともかく、現状では。
積極的に踏み込むタイプではありませんからね、カリナさん達は。
「──また百から微妙に誤解されてる気がする。青山くんのことは私だって心配だよ?」
「そう、ですか? 先ほどから気もそぞろなご様子ですが」
「……それはね、上から垂れて来た
見れば、カリナさんの
わたくし達の視線がスッとそこへ集まりますと──そこに吊るされたお茶子さんはますますビクビクと身悶えし、カリナさんの首筋に垂れる液体も量を増します。
口枷をしてあるので、むーむーと言うばかりで何を訴えているかは分かりません(体調不良などは主張できるようにしてあります)が──少なくとも『降ろして欲しい』でないのは明らかですわね。
「はぁ……あのねぇお茶子、さすがに“手抜き”って単語が出ただけで興奮するのはどうかと思うんだよ」
「え゛。それって男子の……その、アレの言葉じゃない?」
「男子だってそれだけで興奮はしないと思いますよ?」
──あら? 男子の間では