【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 この準備をせずに入学するとUSJ前に除籍くらう系オリ主。


兵怜カリナ:ノーリターン

 中学三年生になった。被身子は一足先に雄英生になっている。

 ……雄英体育祭の少し後、自主的に留年とか言い出して驚かされ、それが認められたと聞いてまた驚いた。自由過ぎない? そのお陰で被身子と同学年になれるのは嬉しいけど。

 受験についてはほとんど心配していない。傲りではなく、普通にやれば普通に受かる。座学は被身子に教えるために先取りで済ませたし、実技も既に()()()()()()を得た。

 

 しかしそれとは別に、私は二つの負けられない戦いを経験することとなる。どちらも予期していなかったことだ。

 

 一つ目の相手は、なんと百。

 喧嘩ってわけじゃないけど、随分と長く互いに譲らない言い争いが続いている。

 

「カリナさんが受けるべきですわ!」

「やだって言ってるじゃん、素直に受け取ってよ」

「一番優秀な生徒が推薦されるべきでしょう」

「学校側がどっちでも良いって言ってるんだよ?」

「それでも二番手を推薦するなんて──」

 

 中学校からの推薦をどちらが受けるか、その譲り合いである。押し付け合いとも言う。

 百は自分の方が劣るからと辞退したがるが、学校は『君達ならどちらも自信をもって推薦できる』と言ってくれたのだ。こっちの都合で選んじゃって良い。

 となれば、一般受験で落ちる確率が高い方が推薦枠を使うのが安全だと思うんだよ。

 もちろん百なら一般受験だって落ちる可能性は非常に低いと信じている。信じてるけど…………時々ポンコツ化するからね、百は。

 そういった本音を言わずにいるので説得も上手くいかず、未だに結論は保留となっているのだった。

 

 被身子はとっくに飽きてしまっていて、もう口も挟んでこない。やれやれって顔しないでよー。

 

 

 

 そして、もう一つの戦い。

 

「カリナ、高校は雄英にするのかい?」

「うん、そのつもり。士傑に行って欲しい?」

 

 お母さんの母校は士傑高校である。しかし首は横に振られた。

 

「雄英の、ヒーロー科なんだね?」

「え、うん、もちろん……?」

 

 お母さんの表情にただならぬことだと察する。嘘でしょう、まさか応援してくれないの……?

 不安と共に見上げると、お母さんは笑顔を()()()

 

「安心しなよ、反対するわけじゃないさ」

「…………でも、賛成でもない?」

「……危険な仕事だからね」

 

 それはそう、そうだろうとも。

 でも、危険だからこそお母さんはずっと私達の訓練を見てくれてたんじゃないの? そりゃあ元ヒーローの目線だと私達なんか危なっかしいレベルだろうけど、与えられたメニューはしっかり(こな)せてる。それで足りないならもっと厳しくしてくれれば良いんだ。

 今さら危険だからと言い出すのは、ズルい。私達でダメならどこの中学三年生にヒーローを目指す許可が出るんだ。

 

「落ち着きなよカリナ。……あたし達も迷ってるんだ。今夜、お父さんが帰ったらゆっくり話そう」

「………………分かった」

 

 噴火しかけた怒りを、沸々と見つめる。

 お母さん達は言うべきことをまだ言ってない。現時点でこの怒りは正当だ。不当なのはあちらだ。鎮めなくて良い。怒り続けて良い。ぶつける先さえ間違えなければ。

 

「走ってくる」

「夕飯までには戻りな」

 

 行ってきますを言わずに玄関を出たのは、生まれて初めてだったかも知れない。

 

 

 

 味のしない夕食の後。

 お父さんから言い渡された懸念に、私はいきなり白旗を揚げそうになった。

 

「“あの”雄英高校ヒーロー科、だよ? カリナの“個性”は我慢できるのかい?」

 

 ……やっべー。

 良い感じの“個性”を見かけると『取得』したくなってしまう性衝動の問題、実は未解決なのだ。他人に襲いかかったことはないけど、紛らわすために被身子達を抱き潰したことは何度か……ハイ。その、我慢できずにお外でも何度か、ハイ。ゴメンナサイ。

 色々試してはみたんだけど今の所は処置なしで、アイデアも尽きてしまっている。特に去年の九月は本っ当にギリギリだった。

 そしてお父さんの言う通り、雄英ヒーロー科は特別だ。優秀な“個性”が常に視界に入ると言っても過言ではないだろう。

 

「カリナはどう思ってるんだい」

「…………」

「なるほど」

 

 思わず目を逸してしまった。だって自信があるとはとても言えない。

 お父さんは基本穏やかだけど、適当な嘘は大っ嫌いな人だ。怒らせるとお母さんより怖い。マジで。

 

「それでも、雄英ヒーロー科に行きたいんだね?」

「……うん」

「うん、だと思ったよ」

「太郎さんの娘だものね」

「僕のせいにしないで欲しい」

 

 む、夫婦漫才が始まった。割とよくあること……ん? 少し様子がおかしいかも。

 お母さんが言ってた『迷ってる』はコレだろうか。二人も言い出しづらいような、思わず話を逸して(おど)けてしまうような何か──え、もしかして? んー、でもなぁ。常識と固定観念を蹴っ飛ばしてソレをやっても、あんまり対策にならないような……?

 

「カリナ、お父さんの“個性”なんだけどね」

「え、【寝溜め】でしょ? 徹夜に便利だとか……」

「うん、主にそう使っていたけど正確ではないんだ」

 

 まさか。まさか? 本当に?

 対策に、なるとでも?

 

「【先物(さきもの)代謝】。寝溜めに限らず食い溜めでも、ある程度までなら逆に起き溜めでも。生理作用なら何でも、後回しや先取りが出来るんだよ」

「…………」

 

 ────絶句。思考が飛んで、代わりに叫ぶ。

 

「いやそれは! それはダメじゃない!?」

 

 その【先物代謝】の個性因子を取り込めって!? そうすれば性衝動の先送りなり『ヤリ溜め』なりができるだろうと──有用性は認めるけど!!

 さすがに肉親にまで性衝動を抱いたことは無いよ!?*1

 泡を食う私に、現実は非情だった。

 

「ならヒーロー科は諦めなさい」

「〜〜〜〜っ!!」

 

 お父さんは揺るがない。あくまで淡々と、ルール通りにカードを配るだけだ。

 お母さんが基本黙ってる時点で嫌な予感はしてたんだよ。これ勝ち目ないやつだって。それでも食い下がるけど。

 

「諦めないってば! けど、でも、え? どうやって?」

 

 私の“個性”のことは全部話してある。口から取り込むんじゃダメなんだよ?

 別にセックスをするわけじゃない。子供ができることもない。だけど入り口は性器しかないのだ。まさか外科手術でもするつもり?

 

「もちろん僕はカリナに触れない。『因子の持ち主の意思』とやらがはっきり伝わるようすぐ近くにいる必要はあるだろうけど、全部マーサさんに任せるつもりだよ」

「お母さんでも歓迎はできないんだけど……?」

「カリナ自身がやっても『取得』できるならそれで構わない」

「…………無理だったよ」

 

 そんなの試したに決まってる。身体の接触を控えたまま条件を満たせるとしたら、色んな人から因子を貰いまくってどんどん強くなれるんだから。

 私の因子を与える方は問題ない。コップとかを介しても、相手が自ら飲み干せばそれでクリアできた。

 でも逆は。被身子と百の組織を少し取っておいて色んな条件で試したけど……自分で入れると必ず『取得』は失敗した。成功例はゼロだ。

 

「カリナ、自分で決めるんだよ。あたしだってこんな大きな娘のシモの世話したいわけじゃないんだ」

「シモの世話って言わないでよ!?」

「それに、いざって時はいきなり来るもんだ。その時になって、あたし達の“個性”があればなんて後悔はさせたくない」

「うぅぅぅ…………」

 

 言ってることは分かるよ。心配してくれてるんだ。ほんのちょっとでも危険を遠ざけるために、渡せるものは全部渡しておきたいんだ。それが愛情でなくてなんだというのか。

 …………。

 いや、流石に良い話っぽくするの無理がない? 来年高校生になる娘がさ、母親に向かって脚かっ開いてさ。覚悟を決めればパッとやってサッと済むことなんだけど、それでもさぁ。お母さんだって嫌だろうこともよーく分かるんだけどね?

 

「なんかこう、あのね? お母さんの“個性”には憧れてたから、自分のが判った時点で考えなかったわけじゃないの。でもさ、こう流石に? アウトじゃない?」

「娘が性犯罪者になるよりマシさ」

「ごもっとも過ぎる……!!」

 

 こういう“個性”に産まれた時点で性的にキワドい人生になることはそこそこ覚悟してたとはいえ、実母だよ実母。ものすごーく広い意味で言えば人妻だけど。変態性がポイント・オブ・ノーリターンをぶっちぎってる。

 いや、もちろんこれを契機に背徳の道にどっぷり沈むなんてつもりはなくて……ん?

 

「ねえ、因子はどうするつもりなの。その、使ったら減っちゃうわけだけど」

「劣化版の方なら減らなかったんだろう?」

「……あー……」

 

 なるほど、うん。一回きりで済みそうだから持ち掛けてきたんだね。定期的にヤるとかお互いヤだもんね。

 

 私が使えるようになった【変身】モドキと【創造】モドキについて、最近判ったことがある。これらは性能が激しく劣化しているものの、〔身体変造〕と違って二人の個性因子は消費しない。血液とか脂肪分とか、元々使うものは必要だけど。

 だからお父さんの【先物代謝】ってやつも、劣化版を使う分には『取得』時の一回だけ因子を取り込めば良い。

 ──ただ、別の問題が出てきちゃう。

 

「本当に実用レベルに達しないくらい劣化しちゃうんだけど……?」

「そこは予想になってしまうけど、どうにかなると思ってるよ」

「…………まぁ、お父さんがそう言うなら」

 

 ()()()の言葉だ。素直に頷いておこう。

 でも問題はもう一つある。

 

「うーん、それだと受験の日程が……」

 

 因子の消費なしに劣化版を使うには『取得』『学習』だけでなく『適合』まで必要だ。【先物代謝】と【氷河期】は問題なく混ざりそうだけど、お腹が膨れて一ヶ月動けなくなってしまう。

 受験前に長期の欠席なんて内申に響くだろうし、かといって受験後だと新学期までの日数がギリギリで──ん?

 

 少し考えて、期日の問題はどうにかできることを思い出した。

 

 

◆←◆◆

 

 

 二つの負けたくない戦いに、どちらも負けてしまった……。

 推薦枠を使わせてもらって百より先に受験を終わらせ、両親立会いの元で母親に指を突っ込まれ、入学までの期間で『適合』を済ませた。中学の卒業式には出られなかったけど。

 

(ちなみに、推薦入試の会場では血を吐くような思いで性欲を抑えつけることになった。お父さんの懸念は正しかったよ……)

 

 お父さんの【先物代謝】とお母さんの【氷河期】を掛け合わせた新しい技能〔熱遷移〕は基本お蔵入りとなる。個性因子を補給する予定がないからだ。我が家ではあの日のことは禁句となった。三人とも記憶喪失になったのだ。なったんだったら。

 ──まぁ因子が充分にあっても危なっかしくて使えたもんじゃないけど。

 

 それより【先物代謝】(劣化版)だ。これが嬉しいことに、ばっちり期待に応えてくれた。性衝動自体は消えないけど、それを夜まで持ち越すみたいなことは全く苦にならない。

 これで性犯罪者にならずに済む……!! 被身子達の身体ももっと労ってあげられるし!

 

「でもお父さん、どうして上手くいくって思ったの?」

「僕の“個性”、それしかできないんだよ。何かを溜めるほど身体強化だとか、そういう恩恵は全く無い。代わりに容量は大したものなんだ」

「溜めておける量ってこと? どのくらい?」

 

 お父さんは困ったように笑った。分からないんだ、と。

 

「三日間くらいひたすら食べ続けた後、丸一年眠り続けて、丸二年不眠を続けてみたことならあるよ。全然しんどくならなかった」

「な…………」

 

 ちょっと予想の何倍か凄かった。そっか、元がそれなら百分の一に劣化しても数日分ぐらいの寝溜めはできる計算だもんね。

 

「なんていうか、無理しないでよお父さん……」

「マーサさんがさせてくれないさ。その言葉はカリナに贈りたいくらいだけど」

「ほどほどに頑張るよ」

 

 ……その、具体的な経緯は色々とアレなことになったけれども。

 

 私は恵まれている。愛されている。力もある。憧れが、ある。

 私にとって最高のヒーロー、アイスエイジの娘として。

 行くぞ、雄英高校。

 

 

────

 

 

 高校入学直前。

 八百万家の子供部屋(別棟&防音工事済み)。

 カリナは全力で被身子を罵倒した。

 

「馬っっっっ鹿じゃないの?」

「えぇ〜? でもでもリナちゃんいつも言ってますよね、自分たちに何ができるのか限界をきっちり把握するのは大事だって。雄英の先生も言ってましたよ?」

「だからってその確かめ方はねーわ」

「じゃあ他にどうするんです? 痛覚とかダメですからね?」

「…………」

 

 二人の会話に、百だけがついていけずオロオロしている。どうやら性的(えっち)なことらしいと察してはいるのだが。

 上限が分からない“個性”といえば【先物代謝】のはずだ。でもそれが、被身子の手にした肩こり用マッサージ機とどう結びつくのだろう?

 

「ほら、百が困っちゃってるじゃん。被身子ってどこからそういうの聞いてくるわけ?」

「リナちゃんのパソコンのブックマークですよ?」

「アンタねぇ!?」

 

 カリナが被身子を組み敷いてお仕置きを始めてしまった。甘い鳴き声が響き渡る。

 なるほどマッサージ機にあんな使い方が……などと頷きつつ、百は二人の会話にあった知らない単語を検索にかけてみる。

 

「『絶頂禁止』『いんもん』『感度三千倍』……?」

「ストップ! やめて百が汚れちゃう!」

「今更じゃないですかぁ」

 

 なるほどなるほど、理解した。

 つまり被身子は【先物代謝】で敏感な部分への刺激を遅延させて、その限界容量を測ろうと言っていたのだ。

 

「それは──実に有意義な実験なのでは!?」

「百お願い正気に戻って?」

 

 もちろん上限はどこかにあるはずだ。そして【先物代謝】は刺激や疲労を先送りできるだけで、無かったことにする“個性”ではない。だから()()()()()()()()はずだ。

 堤防を意図的に決壊させるようなものだから、危険を伴うかも知れない。となれば当然、被身子と百は付きっきりで見なければならない。かぶりつきで見ているべきだ。見たい。

 

「カリナさん、わたくし頑張りますから。お願いします。怖くありませんわ」

「既に怖いんだけど!? っっ勝、手に始めて……も〜〜、一回だけだからね!?」

「百ちゃんビデオカメラ創れます?」

「四台で足りますかしら?」

「こ・い・つ・らぁぁ〜〜!!」

 

♡←♡♡

♡←♡♡

♡←♡♡

 

 ……翌日の夕方近くになってやっと目覚めたカリナは、真剣に二人との関係解消を考えた。

 最初の一回は苦笑いで流すにしても、二度目以降は本気で三途の川が見えたのだ。すぐに【先物代謝】を切れば普通に楽しめたはずだが、混乱と不慣れとで使い続けてしまったらしい。二人はそれを余裕の現れと誤解──もとい、曲解した。

 

 もっとも、二人がそんな風になったのが誰の影響かと考えれば……まず間違いなく自身なわけで。土下座状態で沙汰を待つ二人に、どうして怒りをぶつけられよう。

 だからシンプルに済ませることにした。すっかり()れてしまったダミ声で伝える。

 

「やられた分だけやり返してあげるね」

 

 二人は顔面蒼白になったものの、結局お仕置きにはならなかった模様。

 

♡→♡♡

♡→♡♡

♡→♡♡

 

*1
※被身子を襲ってから百を襲うまでの数日間は例外とする




 準備完了!
 次話から高校生になります。
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