【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 引き続き独自設定がハジケております。


2. みえない地雷(【透明化】のリスク)(2/2)

 さて、ようやく本題。

 透の危うい超常中枢について。

 

 

「透みたいなケースを、父は『有中枢・常駐型』としています。あくまで参考値ですが、()()()()()()()()十万人に一人とかそれ位ですね」

「え、そんなレアなの!?」

 

 そうなんだよ。だから学校の責任まで問うのは厳しいような気もしている。

 

「──って、それ太郎さんはいつ……? あ、あの検査か」

 

 うぐ、それ気にしちゃう?

 

「でもそれリナリナは聞いてなかったんだよね、なんで怒られてるの……?」

 

 そうだね、透たちの身体をお父さんが検査してることを、私だけが先日まで知らなかった*1 。透の反応は『知らなかったんだから仕方ないじゃん』と私を弁護するものだ──でも、違うんだよ。

 お父さんの分類は『有中枢・常駐型』なんて字面から受ける印象よりはかなりざっくりしたもので……透の場合、判別に検査なんか必要ない。

 

「あー、その……」

「リナリナ?」

 

 検査が要らないってことは、私にも気付けたってこと。判断材料は揃ってたんだ、それも体育祭の時点で。

 

「……ごめんね、透」

「またー? もう、昨日から気にし過ぎだって」

「むぅ。……頑張って分かりやすく説明するね」

 

 確かに、謝ってばかりいても仕方がない。

 気を取り直して。

 

 

 

 まず、透はずっと──産まれた時点でも眠ってる間も──絶えず変わらず透明らしい。

 ということは【透明化】に透の意思は必要ないわけで、このことから中枢が有ると分かる*2 。もし『無中枢』なら睡眠中は解除されるから。

 

 『有中枢』のほぼ全て──九割八分ほどは、『完結型』だ。まだ胎児のうちに中枢が起こした超常現象が、体の全てを透明化して、その中枢はもう活動を完結(やめ)して(てい)るってこと。

 透もこのタイプだと思っていた。

 

 その推定は確率的に妥当だし、入学時点で分かってたこととの矛盾は無かったんだ。

 ──でも、体育祭の日。騎馬戦のあの瞬間。

 

 

『即興必殺! ダズリング☆ビィーム!!

 おおっし、獲ったどおおぉぉ!!』

 

 

 あの時点でお父さんは完結型(そう)じゃないと気付いたし、危険性も察した。だから『ちゃんと透に警告しとけ』って言ったんだ。

 なんで気付かなかったんだろうな……*3 。ありふれた完結型なら屈折率の変化なんて()()()()()()()のに。

 

「え、そうなの?」

「セメントス先生の場合で考えてみて。完結型の中枢はもう超常を()()()()()()()はずなんだ。壁は勝手に動かないでしょ」

「んー? でも尾白くんの尻尾はウネウネ動くじゃん?」

 

 切り落としたらもう生えてこないと思うよ、というのは例にしてもエグいので飲み込んで。

 

「そりゃ筋肉は動くようにできてる器官だから。そうじゃなくて、動くはずのないコンクリが動くかって話」

「そりゃ無理だー」

「透はそれに近いことやったんだよ」

「え、スゴっ──私だ!?

 

 透は可愛いなぁ。

 なんて思っていたら咳払いをされた。

 

「話が見えてきたぞ。つまり【透明化】は今も休まず()()()()()()()んだな? 葉隠の意思とは関係なく

そうです()()()透が意識的に干渉するのは危ない。

 あくまで(たと)え話ですけど、『走ってる自動車のハンドルを二人で操作する』みたくなっちゃうので」

 

 透がヒュッと息を飲んだ。細かい部分にちょっと難のある説明なんだけど、車に喩えるのは分かりやすかったかな。

 

 うん、危ないことなんだよ。お父さんが止めたのも分かるでしょ。私のことも責めてくれて良い。

 

「騎馬戦のアレが可能な時点で、極端な話『全身で浴びた太陽光を体内の一点に集めて焦点を揃える』ことだってできるかも知れないんですよ」

「それ、もしやったらどうなるの?」

内臓が灼けて死ぬかな

「シンプルに自殺だ!!?」

中枢(CPO)は防衛本能みたいなのが強いから、無意識に任せてる限り()()()()けどね。でも()()()()()って話」

 

 ひとつには、透が意識的に【透明化】を使い慣れていないことの危険性。

 とはいえこれだけならそこまで大きな問題じゃない。いわゆる“発動型”の五〜六歳児はみんな通る道だ。

 

 その危険を大幅に高めてしまうのが『常駐型の中枢』という激レアな存在。透が望むと望まざるとに関わらず、絶やさず【透明化】を使い続けてきた……いわば安全第一のベテラン運転手(ドライバー)

 

「HAHAHA、上手い比喩なのサ! 確かに経験は誰より長いわけだから!」

「任せておけば安全、ただし決まった道を決まった速度でしか走れない、と」

 

 先生方も透も頷いてくれる。よし、現状認識までは揃ったかな。

 

 

「えっ、と? じゃあ私どうしたらいいのかな」

 

 そう、それが最後の問題だ。

 

 

「チュースーさんからハンドルをもぎ取ればいいの?」

やめて危ないから。なんでそんな脳筋な考え方に……?」

「え。リナリナに出会ったから?」

「不本意なんだけど!?」

 

 油断するとじゃれ合いを楽しんでしまう。先生方の咳払い(二人分)で軌道修正。

 

「ハンドルを強引に奪うみたいなのは、ホント危ないから。絶対やらないで」

「危ないのかな」

「安心安全のベテランさんでも、強引に押し退けられそうになったら誤操作くらいするよ」

 

 まして今の透は無免許の子供だ。易々と運転を代わってはくれない。

 

「ならまずクルマ停めてさ──って、あ、あー……そっか」

「そうだね、それがオススメかな。まずは停車を覚えよう。安全第一」

 

 超常中枢が今も駆動している【透明化】を、透の意思で止められたなら。それは言わば運転席を空けてもらった状態だ。今はそれができないんだけどね。

 これを中間目標にしておけば、その先で『ハンドルの奪い合い』が起きにくくなる。あるいは起きてしまってもサッと手を引けるようになるだろう。

 

「しかし兵怜。それは結局『運転を邪魔する』ことにはならんのか」

「比喩としてはそうですけど、もう一段リスクの少ない方法があります。透、ひとつ試して欲しいんだけど」

「う、うん」

「身構えなくて平気。毎日やってることだから」

 

 本来なら、つまり自然現象として考えれば、完全に透明な──光を屈折も減衰もさせない──網膜に像を結ぶはずはない。なのに透は視ようともせずに視えている。

 だからそれ自体、常駐型の中枢が起こしてる超常現象なわけで。

 

「瞼を閉じてみて。夜眠る時みたいに。閉じっぱなしにしてみて」

「え、うん、閉じたけど」

「何か見える?」

「??? 真っ暗に決まってるじゃん?」

 

 その答えに先生方は『なるほど』と感心したご様子。

 ──ふぅ、一応役目は果たせそうで安心感と達成感。

 

「リナリナ?」

「もう開けてくれて大丈夫だよ。説明するからね」

 

 透には自分自身の姿も見えないから実感しにくいんだろうけど……彼女の瞼だってばっちり透明だ。閉じたからって暗くなるはずがない。

 なのに視界が真っ暗になった。それは『視るという超常現象』がオフになったってこと。常に見えてたら眠りにくいとか頭が疲れるとか、そんな理由じゃないかな。

 

「今の感覚を頼りに、瞼を開けたまま【透明化】での視覚をオンオフできるようになろっか」

「むーん、頑張る?」

 

 大体の理屈は喋り終えたかな。

 後は実際問題として、お父さんも納得する安全対策を(かんが)──

 

「ふむふむふむ……素晴らしい講義をありがとう兵怜くん、方針が見えてきたのサ!」

 

──考えようと思ったら、そこから先はもう根津校長の独壇場だった。

 安全対策、仮説と検証のプロセス、小目標の順序とロードマップ、親御さんと相談する際のポイント、透自身へのアセスメント……私も相澤先生も、口を出す必要なんてほとんど無い。

 

 明らかに直接戦闘力のないこの先生が、経験あるヒーローの先生方から校長として認められてるのはこういう所なんだろう。本当に【ハイスペック】としか言いようがない。

 ──話は長いけど。そこだけは玉に瑕だけど。

 

 


 

 

 そんなわけでこの日から、透には幾つかのルールを()いてしまっている。

 

 【透明化】の応用的使用を制限する。

 応用的使用とは、〔不透膜(インパーミー)〕、身体の屈折率変化、暗視を含む意図的な変化の一切とする。

 

 この制限は、学校の実技演習時間とかには解かれる。何かあっても救急医療体制が整っているからだ。逆に言うと自宅とかでの自主練では“応用的使用”をしちゃダメってこと。

 もっとも安全性が確かな練習だけは例外で、最初は『瞼を開けたまま視覚を切る』から、達成できたら段々と難しくしていく感じ。

 

 

 安全のために仕方の無いものだと思ってるし、本人も納得はしてくれたけど、やっぱりちょっと心苦しい。

 ……謝っても仕方がないから、せめて出来る限りのサポートをさせてもらおう。

 

 

 

「あぁそれと。これは正しい保証ゼロの、私の個人的意見なんだけど」

「うん?」

「“チュースーさん”とか“ベテラン運転手”みたいな言い方って、比喩として分かりやすいから私も言っちゃったけど……事実とは違う気がするんだよね」

「んーと、人格とか無いからってこと?」

「それもそうだけど、本当はずっと()()【透明化】を使ってるはずなんだよ。意識してないだけで」

「ぁー……そっか。無意識だけど、私なのかぁ」

「そもそもが透の“個性”だしね。『自分のだ』って思った方が制御とかもし易い……と思うよ。経験上、ね」

*1
今話は中間試験の少し後の出来事。透たちの検査についてカリナが知ったのは中間の少し前(42〜44話)なのであまり時間は経っていない。

*2
自律的に・持ち主の意思とは無関係に超常を行使する超常器官を超常中枢と呼ぶ。

*3
騎馬戦の一瞬はまだしも、被身子が透に【変身】した件では『もしかして?』と疑えたはずだと、カリナは自身の不明を恥じている。




 次話から二学期です。透以外は『編め必殺技』をやる感じ。
 え、ハイツ・アライアンス? 入る理由が無いのでえっちなことしにくくなるので……
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