さて、ようやく本題。
透の危うい超常中枢について。
「透みたいなケースを、父は『有中枢・常駐型』としています。あくまで参考値ですが、
「え、そんなレアなの!?」
そうなんだよ。だから学校の責任まで問うのは厳しいような気もしている。
「──って、それ太郎さんはいつ……? あ、あの検査か」
うぐ、それ気にしちゃう?
「でもそれリナリナは聞いてなかったんだよね、なんで怒られてるの……?」
そうだね、透たちの身体をお父さんが検査してることを、私だけが先日まで知らなかった*1 。透の反応は『知らなかったんだから仕方ないじゃん』と私を弁護するものだ──でも、違うんだよ。
お父さんの分類は『有中枢・常駐型』なんて字面から受ける印象よりはかなりざっくりしたもので……透の場合、判別に検査なんか必要ない。
「あー、その……」
「リナリナ?」
検査が要らないってことは、私にも気付けたってこと。判断材料は揃ってたんだ、それも体育祭の時点で。
「……ごめんね、透」
「またー? もう、昨日から気にし過ぎだって」
「むぅ。……頑張って分かりやすく説明するね」
確かに、謝ってばかりいても仕方がない。
気を取り直して。
まず、透はずっと──産まれた時点でも眠ってる間も──絶えず変わらず透明らしい。
ということは【透明化】に透の意思は必要ないわけで、このことから中枢が有ると分かる*2 。もし『無中枢』なら睡眠中は解除されるから。
『有中枢』のほぼ全て──九割八分ほどは、『完結型』だ。まだ胎児のうちに中枢が起こした超常現象が、体の全てを透明化して、その中枢はもう活動を
透もこのタイプだと思っていた。
その推定は確率的に妥当だし、入学時点で分かってたこととの矛盾は無かったんだ。
──でも、体育祭の日。騎馬戦のあの瞬間。
『即興必殺! ダズリング☆ビィーム!!
おおっし、獲ったどおおぉぉ!!』
あの時点でお父さんは
なんで気付かなかったんだろうな……*3 。ありふれた完結型なら屈折率の変化なんて
「え、そうなの?」
「セメントス先生の場合で考えてみて。完結型の中枢はもう超常を
「んー? でも尾白くんの尻尾はウネウネ動くじゃん?」
切り落としたらもう生えてこないと思うよ、というのは例にしてもエグいので飲み込んで。
「そりゃ筋肉は動くようにできてる器官だから。そうじゃなくて、動くはずのないコンクリが動くかって話」
「そりゃ無理だー」
「透はそれに近いことやったんだよ」
「え、スゴっ──私だ!?」
透は可愛いなぁ。
なんて思っていたら咳払いをされた。
「話が見えてきたぞ。つまり【透明化】は今も休まず
「そうです。
あくまで
透がヒュッと息を飲んだ。細かい部分にちょっと難のある説明なんだけど、車に喩えるのは分かりやすかったかな。
うん、危ないことなんだよ。お父さんが止めたのも分かるでしょ。私のことも責めてくれて良い。
「騎馬戦のアレが可能な時点で、極端な話『全身で浴びた太陽光を体内の一点に集めて焦点を揃える』ことだってできるかも知れないんですよ」
「それ、もしやったらどうなるの?」
「内臓が灼けて死ぬかな」
「シンプルに自殺だ!!?」
「
ひとつには、透が意識的に【透明化】を使い慣れていないことの危険性。
とはいえこれだけならそこまで大きな問題じゃない。いわゆる“発動型”の五〜六歳児はみんな通る道だ。
その危険を大幅に高めてしまうのが『常駐型の中枢』という激レアな存在。透が望むと望まざるとに関わらず、絶やさず【透明化】を使い続けてきた……いわば安全第一のベテラン
「HAHAHA、上手い比喩なのサ! 確かに経験は誰より長いわけだから!」
「任せておけば安全、ただし決まった道を決まった速度でしか走れない、と」
先生方も透も頷いてくれる。よし、現状認識までは揃ったかな。
「えっ、と? じゃあ私どうしたらいいのかな」
そう、それが最後の問題だ。
「チュースーさんからハンドルをもぎ取ればいいの?」
「やめて危ないから。なんでそんな脳筋な考え方に……?」
「え。リナリナに出会ったから?」
「不本意なんだけど!?」
油断するとじゃれ合いを楽しんでしまう。先生方の咳払い(二人分)で軌道修正。
「ハンドルを強引に奪うみたいなのは、ホント危ないから。絶対やらないで」
「危ないのかな」
「安心安全のベテランさんでも、強引に押し退けられそうになったら誤操作くらいするよ」
まして今の透は無免許の子供だ。易々と運転を代わってはくれない。
「ならまずクルマ停めてさ──って、あ、あー……そっか」
「そうだね、それがオススメかな。まずは停車を覚えよう。安全第一」
超常中枢が今も駆動している【透明化】を、透の意思で止められたなら。それは言わば運転席を空けてもらった状態だ。今はそれができないんだけどね。
これを中間目標にしておけば、その先で『ハンドルの奪い合い』が起きにくくなる。あるいは起きてしまってもサッと手を引けるようになるだろう。
「しかし兵怜。それは結局『運転を邪魔する』ことにはならんのか」
「比喩としてはそうですけど、もう一段リスクの少ない方法があります。透、ひとつ試して欲しいんだけど」
「う、うん」
「身構えなくて平気。毎日やってることだから」
本来なら、つまり自然現象として考えれば、完全に透明な──光を屈折も減衰もさせない──網膜に像を結ぶはずはない。なのに透は視ようともせずに視えている。
だからそれ自体、常駐型の中枢が起こしてる超常現象なわけで。
「瞼を閉じてみて。夜眠る時みたいに。閉じっぱなしにしてみて」
「え、うん、閉じたけど」
「何か見える?」
「??? 真っ暗に決まってるじゃん?」
その答えに先生方は『なるほど』と感心したご様子。
──ふぅ、一応役目は果たせそうで安心感と達成感。
「リナリナ?」
「もう開けてくれて大丈夫だよ。説明するからね」
透には自分自身の姿も見えないから実感しにくいんだろうけど……彼女の瞼だってばっちり透明だ。閉じたからって暗くなるはずがない。
なのに視界が真っ暗になった。それは『視るという超常現象』がオフになったってこと。常に見えてたら眠りにくいとか頭が疲れるとか、そんな理由じゃないかな。
「今の感覚を頼りに、瞼を開けたまま【透明化】での視覚をオンオフできるようになろっか」
「むーん、頑張る?」
大体の理屈は喋り終えたかな。
後は実際問題として、お父さんも納得する安全対策を
「ふむふむふむ……素晴らしい講義をありがとう兵怜くん、方針が見えてきたのサ!」
──考えようと思ったら、そこから先はもう根津校長の独壇場だった。
安全対策、仮説と検証のプロセス、小目標の順序とロードマップ、親御さんと相談する際のポイント、透自身へのアセスメント……私も相澤先生も、口を出す必要なんてほとんど無い。
明らかに直接戦闘力のないこの先生が、経験あるヒーローの先生方から校長として認められてるのはこういう所なんだろう。本当に【ハイスペック】としか言いようがない。
──話は長いけど。そこだけは玉に瑕だけど。
そんなわけでこの日から、透には幾つかのルールを
この制限は、学校の実技演習時間とかには解かれる。何かあっても救急医療体制が整っているからだ。逆に言うと自宅とかでの自主練では“応用的使用”をしちゃダメってこと。
もっとも安全性が確かな練習だけは例外で、最初は『瞼を開けたまま視覚を切る』から、達成できたら段々と難しくしていく感じ。
安全のために仕方の無いものだと思ってるし、本人も納得はしてくれたけど、やっぱりちょっと心苦しい。
……謝っても仕方がないから、せめて出来る限りのサポートをさせてもらおう。
「あぁそれと。これは正しい保証ゼロの、私の個人的意見なんだけど」
「うん?」
「“チュースーさん”とか“ベテラン運転手”みたいな言い方って、比喩として分かりやすいから私も言っちゃったけど……事実とは違う気がするんだよね」
「んーと、人格とか無いからってこと?」
「それもそうだけど、本当はずっと
「ぁー……そっか。無意識だけど、私なのかぁ」
「そもそもが透の“個性”だしね。『自分のだ』って思った方が制御とかもし易い……と思うよ。経験上、ね」
次話から二学期です。透以外は『編め必殺技』をやる感じ。
え、ハイツ・アライアンス? 入る理由が無いのでえっちなことしにくくなるので……