【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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5.「バカリナ」(3/3)

 翌日の放課後。

 私は百と二人で演習場に来ている*1 。約束を果たすため、つまり心操くんのトレーニングだ。

 

「八百万百と申します」

「昨日ぶりです、心操くん」

「……心操人使です。おい大丈夫なのか、体調悪そうだぞ」

 

 会うなり彼は私を気遣うようなことを言ったけれど──

 

「寝不足なだけで平気です……ちょっと透にお仕置きされちゃって」

「自業自得じゃねえか」

 

──あっという間に掌を返された。

 

「全くですわ」

「味方がいない……」

 

 悲しい。心を鬼にして厳しいことしたのに。

 私だって好きでやったわけじゃないのに!

 

「それから心操くん、組み手の相手は私だけです。『最強』こと被身子は……ちょっと、理不尽な怒りを貴方に向けてしまってるので」

「それもカリナさんのせいですわね」

「私が無理やり見せたんだってばー。怒るなら私にすればいいのに」

 

 心操くんが私の半裸を見たのは事実だけど、彼を責めるのは筋違いだ。被身子もそれは分かってるから何かするわけじゃないけど、『格闘訓練ってなるとちょっと“やり過ぎ”ちゃうかも知れないのです』とお断りされてしまった。純粋な格闘術なら被身子のが上手なんだけどね。

 

 

 ストレッチで身体を解していると、背中を押してくれる百は淡々とした様子で「わたくしはカリナさんだけに怒っていますが」と前置きしつつ──、

 

「被身子さんがカリナさんに悪意を向けられるわけがないではありませんか。透さんへの発破もそうですが、ご自身に向けられる好意を分かった上で(とぼ)けるのは不誠実ですわよ」

 

──はっきりと批難してくれた。

 私は慌てて答える。

 

「それは百、誤解だよ」

「誤解、ですか?」

「うん……あー、被身子とも透ともちゃんと話さないとだな」

 

 ある程度は通じ合えてしまうから、改めて言わなくても分かってもらえるような甘えはあったんだろう──これもお互い様だけどね。

 

「不誠実は否定できないけど。恍けてはいないよ、愛されてる自覚はある。……応え方が不味いのかな」

 

 私は。私が望んでるのは。

 

「私はね、今の関係がベストだと思ってるわけじゃないんだ」

「またどなたかお誘いするおつもりで?」

「ちがぁーう。そうじゃなくて……被身子のこと、心配でしょ?」

 

 百は黙った。心当たりはあるのだろう。

 

 知り合った頃に比べれば見違える程に人当たりの良くなった被身子だけど、彼女の歪みと悪性は無くなったわけじゃない──個人的には無くなって欲しくもない。

 もちろんそれを誰彼かまわず向けられては困る。バクゴーを殺しかけても自制できたように、ブレーキは必要だ。

 

 じゃあアクセルはいつ誰に対して踏もうか?

 

「被身子は身内にちょっとした悪意も向けない、向けられない──特に私には。

 ねぇ、被身子と知り合って丸二年経つんだよ。なのに喧嘩のひとつも無いなんて」

「……喧嘩だなんて、わたくしとカリナさんもしていないでしょう」

「したいわけじゃないけど。

 百は私に気に入らないところがあれば──ほら、推薦枠の譲り合いとかあったよね。被身子はそういうのも無い」

「…………」

 

 被身子から文句っぽいものを言われたのなんて、USJの後くらいだ。『寂しかった』とか『独りにしないで』とか、私の罪悪感は刺激されまくりだったけど……流石にあの状況は極端過ぎだろう。命に関わる程じゃないと不満の一つも漏らしてくれない──漏らせない──というのは普通に問題である。

 

「中学の頃は、被身子がもうちょっと安定するまでと思って圧をかけずにいたけど。今は友達も増えたしさ?」

「……仰ることは、分かりますが」

 

 それに透の件も、恍けてるって評には頷きたくない。

 

「好意を分かってなきゃ、『私を餌にすれば発奮してプルスウルトラできるはず』なんて恥ずかしい作戦立てないよ」

「分かってる(かた)も立てませんわよ」

「私が怒られるだけで透が進めるなら良いと思うんだけど」

 

 自覚はあるんだよ、こういう所が叱られてるって。

 必要性や合理性があろうと、私が“自分を犠牲に”することで──好きでやってることだけど──透の役に立つようなことは嬉しくないと言われてしまって。

 

 でもその論法だと、私は“みんなを犠牲に”して真っ当な(=性犯罪を犯さない)生活を送れてるわけでね? そんな依存を(ほの)めかしたら彼女らは「ズルい」と言うのだ。犠牲なんて言い方をするなと。

 それこそ私からしたらズルい言い方である。お互い様お互い様。

 

「私なりに、被身子や透との好いお付き合いのためって考えたんだけどなぁ」

「──でしたら、恍けるという言葉はお詫びして撤回しましょう」

 

 ぺこりと頭を下げた百は──冷ややかに続ける。

 

「ただし今晩もお仕置きですわ」

「なんでぇ!?」

「わたくしがそうしたいからです。構いませんね?」

「おぉぅ……うん、そのぐらいのワガママをお互いにぶつけられるのが私の理想ではある、けども……」

 

 百はね、適度に()を出してくれる。それは凄く良いと思うよ。色々溜め込まずに言ってくれるし。

 でも時々怖い。お父さんの影響を一番受けてそうで。

 

 

 ところで、この場には心操くんも居たわけで。

 彼はしみじみとこう言った。

 

「あんたが『モテモテさん』て呼ばれてるの納得したよ」

「ほんとに普通科にまで知られてる……!?」

 

 


 

 

 自慢じゃないけど──というかお茶子に比べれば私なんか全然なんだけど──私はエロのストライクゾーンが広い方だ。昔は痛いのとか可哀想なのはNGだと思ってたけど、攻がみんなで受が私であれば胸も痛まないしぎゅんぎゅん興奮する。できる。

 なのでみんなも私のことを、『どんな仕打ちをしても快感として受け止めてしまうのでは』と思ってたみたいなんだけど。

 

 昨晩から今朝にかけて。

 透のお仕置は本っ当に辛かった。端的に言えば放置プレイってやつで、私はこれを楽しめない。焦らされる位ならまだしも放置は悲しくなってしまう。

 

 正直、私が放置されることはないだろうと高を括っていた部分もあったんだ。みんなは──特に被身子と百は──放置のリスクを良く分かってるから。

 でも透のプランには『一晩放置した後で因子の補充だけは雑に済ませる』ところまで含まれていて、これなら“個性”の衝動が高ぶることはない。私が温もり不足で切な寂しいだけだ。くすん。

 

 それを聞いて百が意見を変えた。【透明化】制御のためとはいえ私がやった荒療治には罰が必要だからと。

 お茶子は『今度私にもやってな?』とノリノリで賛成票。もうダメだこの子。

 私はもちろん発言権なし。

 

 そして──被身子。

 心操くんへの怒りを漲らせ、私にはちっとも悪意を向けようとしない、可愛らしい鬼。

 彼女は私を庇ってくれた。断固として透に反対してくれた。

 

 けれども。

 透は私と被身子を別室に呼んで──つまり百とお茶子には伏せる形で──被身子を説得。これを成功させたのだ。

 

 

『聞いてガミさん。私はリナリナに、今回みたいなこと止めて欲しいってわけじゃないんだよ』

『?? じゃあなんでリナちゃんにお仕置きなんです?』

()()()()()()()()()()んだもん。ね?』

『そうなんですかリナちゃん?』

 

 いやぁ、二人共すごい圧だったね。

 

 

 ──的外れとは言えない。

 自発的にお仕置きを望むわけじゃないけど、透が怒ると分かっててやったんだから『罰があって然るべき』は頷ける話だし、仮にノーペナルティで流されたら……透に我慢させたみたいで据わりが悪いから。

 個人的にはえっちなご奉仕で支払うのが一番望ましいのだけれど、『いつも通りじゃん』と却下した透は全面的に正しいわけで。

 

『まぁ、その、うん。私が透にツケを払うのは納得してるよ』

 

 だから頷いて受け入れた。

 でも透は更に一皮剥けていたのだ。えっちな意味ではなく。

 

『リナリナ? ホントのところを訊きたいんだけど』

『え、噓は吐いてない……つもりだよ?』

 

 鋭く抉られる急所。

 ──私があんまり表に出せない、誤魔化しがちな心の陰。

 

『今日の件で私が()()()()()()()、リナリナは()()()んじゃないの?』

『そ──れ、は……』

 

 それは、なんて度し難い浅ましさ。

 認めたくはないけど否定も──うん、できないや。

 

『…………負けたよ、どうも大正解みたい』

 

 だって怒ってくれた方が愛されてる確信を持てるから。恋人を試してしまったような罪悪感。幼くてごめんなさい。酷いことをしたくせに透の反発で慰めを得るなんて。

 お仕置きを望んでると言われるのも納得するしかない。

 

 だから透は放置という罰を選んだ。“個性”の都合だけを満たして、私が何より求める温もりだけは与えないことにしたんだ。

 その上で、でも傍にいるよ、と。

 

『被身子ありがとね。でも今回は透の言う通りにしたいな』

『リナちゃんがそう言うなら、分かりました』

 

 


 

 

 と、そんな話をしたのが昨夜のこと。

 そして今夜は百からお仕置きって話なんだけど。

 

「リナちゃん、リナちゃん……♡」

「リナリナ、昨日はごめんね?」

「二人とも、っ、気にし、っ♡」

 

 昨夜の寂しさを埋め合わせるように、恋人たちが熱を伝えて来る。それはちょっと荒っぽいほどで、私には全然余裕が無い。

 ──そんな中で。

 

「百ちゃ、嬉、けっ(うれしいけど)♡、ひぅきゅうに! どしんッ♥

「カリナさんと被身子さんばかりに偏っていた気がしまして」

 

 百はお茶子を、珍しいことに激しく責めている。時々透にも手を出して、被身子ともイチャイチャしながら。

 

「百ちゃん、リナちゃんと喧嘩でもしました?」

「いいえ。これはこういうプレイですわ」

「むー、リナちゃんの視線が百ちゃんばっかり追ってて悔しいですね」

「でしょう?」

 

 優越感みたいなもので百はご機嫌だ。とはいえ私に手を出さない間もずっとこちらに見せつけるようにしてくるから、放置されてる感は薄いんだけどね。優しさなのか不器用なのか。

 被身子は私が嫌がってないから怒らない。そして羨んでもいるけど、こと私に関しては『押してダメなら引いてみろ』みたいなことが出来ないのが被身子なので……気を引くために、ますます私への責めが激しくなって。

 余裕も言葉も失った私の様子にSを刺激された透とお茶子もそこへ加わって。

 

 流石に百から注意が逸れそうになると、彼女の愛え──もとい“ローション”──がズボッと突っ込まれる。

 

「ぃっ♡ はぁ、雑なのも、これはこれで……♡」

「やっぱり。今朝の因子補充もお悦びでしたものね」

「リナリナは放置以外なんでもいけちゃうねー」

「放置は可哀想ですよぅ」

 

 結局私ばかりが責められていたような──そんな風に夜を過ごし、そして朝を迎えて。

 もちろん昨日の朝よりメンタルはずっと充実してるんだけど、しかし現実は残酷である。

 

 私の寝不足はちっとも解消していなかった。

 みんなどうしてそんな元気溌剌なの……?

*1
『取得』欲求のリスクがあるので、心操と二人きりで会うことを避けている。

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