【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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6. 葉隠透:ライジング

 心操くんに格闘訓練をつけつつ【透明化】の安定度を入念に確かめる日々。どうやら透は“コツを掴んだ”ようだ──完全に。

 

 不透明なまま眠っても朝までそのままだし、もちろん透明な状態でも以前通り。

 段階を踏みながら半透明とか暗視とかレンズとか試しても、相当な精度でビシッと要求に応えてくる。

 

 流石に不透明な状態で【抹消】を受けちゃうと丸見えになって全部封じられたけど、それはしょうがない。透明な状態なら受け付けないわけだし。

 

 

 そんなわけで、安全のための制限は解かれた。

 ──そうすると、どうなるか?

 

「これは……TKG/ver.1は完全に過去のものですわね」

「全っ然見えへんねぇ」

 

 急成長も急成長。

 透明な状態にも幾つかのバリエーションができたらしく、これまでのように紫外線だけ視ていると見失う。

 

「へっへーん!」

「わ、私には視えてるし!」

 

 今のところは色んな視細胞を造るとかしてどうにか目で追ってるけど──雄英式スポーツチャンバラのリベンジマッチ、すっかり透に攻め込まれてる状態だ。

 

「それに〔不透膜(インパーミー)〕はまだ変えられないんでしょ!」

「数は増やせるようになったもんね!」

 

 いやはや、〔不透膜〕の習熟を警戒して速攻で決めたあの日の私は正しかった。小さいのを幾つかバラ撒かれるのが本っ当に厄介。

 軽率に攻め手を譲るとみるみる押し込まれる──というか、もし透が詰め将棋とか得意だったらもう負けてるって位に封殺性能が高い。

 これはもう、強引に攻めるしかないか。

 

「こんのぉ……!!」

「リナリナ相手に戦えてる気がす──ふぎゃん!」

「あーもう。……強くなったね透」

 

 ぜぇぜぇ。結局最後は筋力と体術でシバいてしまった。この点ではまだまだアドバンテージが大きいから負けはしないけど、そういう力技を抜きにするとこの競技のルール内ではもう勝てないかも。やば。

 

 

 百やお茶子にも勝ち越した透。

 なお被身子は例外だ。

 

「あれ? あれ!? ガミさん!!?」

「もう透ちゃんには負けませんです」

 

 被身子の方も〔不透膜〕を破れないのは前と一緒だから、勝つのは難しいんだけど。でも被身子は透の攻撃もことごとく避けている。まるで視えてるかのように──あ、とっても綺麗な空気投げ。

 

「なんでー!?」

「……言いたくありません」

 

 おぉー。被身子は本格的に透をライバル視し始めたらしい。なんだか感動。

 カラクリはきっと空気の流れを感じてとかその辺だろう。それを教えたら対処されちゃう気がしてるんだね。

 

(後でこっそり教えてくれた。

 流石の被身子もこればかりは、天性の(センス)だけでなく【変身】を活用しているらしい*1 。〔身体変造〕で試してみたけど……現時点では真似られそうにない)

 

 とはいえ、だ。

 そんな被身子相手でも負けはしないんだよね、今の透。

 

 自信を高めるのは真っ当な自己評価だし、ちょっとぐらい天狗になっても『そりゃそうもなるよね』って納得できるレベルの実力だ。しかも今はその自信が良い方向に作用して、一日ごとにぐんぐん伸びてる。

 だから水を()すようなことは言うまいと決めた。

 

 日を追う毎に気分が盛り上がってるらしく、ただの移動教室なのに妙に気取った歩き方とかしちゃう透。

 今日はファッションモデル風かな、角を曲がる度に立ち止まってポーズとってるし。気分的にはびかびかフラッシュたかれてるのかも知れない。知らんけど。

 

コレ、ツッコんじゃダメですかね?

正気に戻ったら恥ずかしくて寝込んでまうでこんなん!

透さんは筆記も不安ですし、できればこのままで……

 

 うん、本音としては水注したいよね! ちょっぴり鬱陶しいし!

 でもそれで仮免落ちたりしても寝覚めが悪いからなぁ。

 

「リナリィ、どうかしたの?」

「ううん、透に見蕩れてただけだよ」

「ふふ……学生の本文を忘れないようにね」

 

 言わないけどアタマ大丈夫?

 誰よリナリィ。何がどうしてこんな『残念なミッナイ先生』みたいなキャラ付けに走っちゃったんだ。

 

 まぁこんな状態がずっと続くとは考えにくい。お茶子が言うようにどこかで“正気に戻って”恥ずかしさに身悶えることになるだろう。

 その日まで私達は、可愛い可愛い透のことを映像や音声に残しておこうと思います。

 ──愉しみだなぁ。

 

 

 そんな風ににやにやしてる内、そのまま仮免試験の日を迎えた。

 

 


 

 

 客観的に──例えばヒーロー公安委員会の審査員から見ても、葉隠透は極めて優秀だった。実技に絞ればの話ではあるが、筆記のギリギリさなど忘れさせるほどに。

 

 

 例えばずば抜けた情報力。

 最初は()()()()()()()()()()。災害に巻き込まれた想定の要救助者を、暗所でも迷わず捜索・発見できていたから。

 しかしそこへ((ヴィラン)役による)強烈な閃光を浴びせられても苦にした様子はなく、直後には視力も取り戻していた。

 

 透は──【透明化】が備える超常的(デタラメな)視覚は*2──可視光線以外も容易く“視る”。

 暗視ゴーグルなどのアイテムもなく、カリナの〔身体変造〕のような手間もかけずに。

 

 これにより、受験生たちとは違う周波数の無線電波が飛び交う様子から敵役の潜む位置を丸裸にしてしまった。

 おかげで受験生側には大きな余裕ができたし、救護テントの周りは最後まで揺るぎない安全を保ったのである。

 

 それだけでも高評価に値するが、透が示したのは情報力だけではない。

 実際の順序としては先に見せつけ、相澤をも唸らせたのは──()()()、とでも言うべきもの。

 

 


 

 

 最終試験にあたる模擬救助が始まってすぐのこと。

 

「俺は! アンタが──!」

()()()()()、何なんだよお前──!」

 

 轟は他校の生徒と衝突した。正確には()()()()()()

 険悪な言葉が怒鳴り合いになるかならないかの内に、透は〔不透膜〕を駆使して空にいた夜嵐の腕を掴み、抵抗を許さず地上に引き摺り下ろし、ぽかんとしている轟と引き合わせる。

 

 夜嵐も抵抗はした。したが無駄だったのだ。

 地面の摩擦力を遮断されれば体重も腕力も役に立たないし、【旋風】も自身や透にぶつかる前に大幅に弱められ、とうとう轟と握手めいたものをさせられてしまう。

 もちろんこれを和解だなどと認めるつもりはないが。

 

「喧嘩は後。連携が取れないなら二人は離れた位置で動いた方が()()()()()()()。そうでしょ?」

「「…………」」

 

 完全な正論であることは認めざるを得ない。

 試験のフィールドはかなり広く、端と端に分かれればお互いの顔を見ることは完全に避けられるだろう。

 両者とも『なんで俺がコイツを避けてやらなきゃいけないんだ』という思いはあるが……かといって実力での排除など、本番でも試験でもありえない。

 

 怒りと苛立ちの勢いを借りればまだしも、いきなり不可思議な“個性”──正確には“技能”──に驚かされ、こうして立ち止まって考えさせられ、おまけに、

 

「分かったの?」

 

──絶世の美少女から近距離で見つめられては。

 いくら夜嵐イナサでも、それ以上喧嘩を続けることはできなかった。

 

「──俺は東の端に行ってやるッス!!」

 

 

 

「すまねえ、葉隠」

「ううん、轟くんはインネン付けられただけに見えたよ。ちょっとだけど時間ムダにしちゃったし、ここから挽回しよう」

「あぁ、()()()してる場合じゃねえな」

「? うん!」

 

 二人は揃って駆け出し、短い言葉を交わす。

 

「ここんとこ葉隠はすげえ自信つけてるよな」

「あ、ごめん鼻についた?」

「いや。頼り甲斐あって救助に向いてると思う」

 

 その際に轟はぽろりと呟いた。何らかの意図があったわけではなく、ただ感じた本音をそのまま口にしたもの。

 しかしその効果は──絶大だった。

 

「あぁそうか、兵怜が手本か。かなり雰囲気でてんな」

「──っ!!!!」

 

 『他人の模倣』という批判にも取れる言葉だが、轟にそのつもりはないし透はそうであっても喜んだだろう。

 狙っていたかは透自身も曖昧だが、かつてないほど絶好調な自分を『カリナにそっくりで頼れてカッコ良くて憧れ過ぎて近付き難いけど勇気を出して飛び込んだら包容力も◎で(しゅ)き……』と(?)褒めてもらえたのである。

 

 人にも気分にもよるだろうが、この日の透は褒められれば褒められただけ調子に乗り、調子を上げ続けた。

 

 あまりにも動きが良いので──、

 

「? あの、貴方さっき救護テントに運びましたよね……?」

「この顔を見たのか!? それは僕の兄さんだ!!」

「双子設定!?」

 

──などと言った茶番が各所で発生するほどである。要救(H)(U)者役(C)が底を突きかけたため、一度救護された者が瓦礫の奥底へ潜り直しているのだった。

 

 

 

 三面六臂の活躍を続ける透が、強いて一つ引っかかることを挙げるならば。

 

『こんなに動けるなら、リナリナにも観てて欲しかったなぁ』

 

 試験会場の見学席に、カリナの姿はない。

 それは透も望んだことだった。

 

 


 

 

 ヒーロー仮免許試験。

 

 色々と心配はしてたけど私以外の全員が受験を認められ、だったら当然その日の授業はなくなるわけだから、試験会場で応援でもしようと思ってた──んだけど。

 

 これに待ったをかけたのが百と透。

 この試験を受けられる時点で一定水準を上回るヒーローの卵たち。であれば魅力的な“個性”も多かろう、と。

 要するに他校の生徒を沢山みたらまたメンバー増やすんじゃないかと。

 

「それは……可能性までは否定できないけど」

「我慢してくれるんですし、手さえ出さないなら別にリナちゃんの自由じゃないです?」

 

 被身子はそう言ってくれる。お茶子も割とこっちに近いらしい。

 

「嫌とまでは申しません。しかし嬉しくもないのです」

「うんうんうんうん」

 

 激しく頷く透は、それもう嫌だって言ってるのと同じことだ。

 頬が緩んじゃうね。ヤキモチやかれるの、悪い気はしないどころか嬉しくなっちゃう。みんなの前では今さら隠すことでもないし。

 

 改めて被身子とお茶子に訊ね──ようとして、途中で気付く。

 

「私の応援があるかないかで合格率って……あ、大して変わんないか」

「大違いですよ!?」

「応援なしでも九割九分受かるんだから違いの出ようが無いじゃない?」

「む、ぐぅ」

「ヒミ様、一緒に合格してカリナちゃんに褒めてもらお?」

 

 

 そんなわけでその日は私だけ、自習という名の訓練日になった。

 ──はずなんだけど。

 

 

 もしかして私って、実はものすごーく不運だったりするんだろうか。普段は被身子たちの幸運で護られてる的な。

 

 だってなんだか独りの時って、妙にトラブルと遭遇してる気がするんだよ。

*1
大きく肌を出した腕や脚に(ストライプ)状の【変身】を施した。被身子(もともと)の皮膚・カリナの皮膚・被身子の皮膚……と交互の皮膚で敏感さに山と谷を作り、『ゾワッと感』を強調するとかなんとか。

*2
網膜で視ているわけではないので閃光が灼きつくこともない。

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