先祖が義賊だったなんて、それが本当か嘘かは知らない。語り聞かせてくれた親はよく『正義』なんて言葉を使ってた──皮肉げに唇を歪めながらだけどな。
仮に思想も遺伝するんだとしたら本当の話なんだろう。本当だったんだと思うことにしてる。
世間で語られる正義と『義賊の正義』がまるで別物なことは教えられなくても分かったし、それでも『殉じるとしたら
その嗅覚が『義賊にとっての悪』を嗅ぎ取ったのが大手サポート企業、デトネラット社。
取り入りながら探ってみれば、“個性”を──いわく“異能”を──法的制限から“解放”しようなんて目論んでいるらしい。ご大層なこった。
その企みについては何も言わんよ。言える立場でもねえし。
義賊の大好きな金はじゃぶじゃぶ持ってやがるが、そっちは真っ当な商売で稼いだもんなんだよな……つーか割と善いこともやってんだよコイツ等。
脳無とかいうヤバげなブツをヤベー奴に任せてるのが一番頭オカしい。もっともアレの制御実験なんざ、マトモな人間は忌避感で手出しできねえだろうが。
「脳無を棄てて来い? 適当なヒーローに突っ込ませろってことかい?」
「任せる。我々に被害が及ばないのなら好きにしろ」
「言葉通りの棄てる、か」
「そう言ってるだろうが二度言わせるな」
それからしばらくお人形遊びはやめてたみてーだが、とうとう
ま、俺は偶に顔出すだけの雇われだし。コイツにも色々と事情があるん──
「あぁ、ついでだ。
「…………りょーかい」
──いやはや、いやはや。なるほどそう来たかい。
以前から思うところはあったが、あんだけ一方的に好き放題しといて用が済んだらポイってのは本っ当に義に欠けるぜ。スケプティック、仮初めのイカれた上司サマよ。
俺の鼻に引っかかったのは異能解放軍とかじゃなく、アンタ個人だったのかもな。
──とはいえ、さて。
分倍河原のやつを
計画通りに見えたなら、そいつぁタネもシカケもない
『それにしても適当なことを言ってくれるぜスケプティックの野郎』
ぐちぐちと考えながら夜闇をぶらりと歩く。
今は【圧縮】して持ち運んでる分倍河原の状態は、外見だけでもそりゃあヒデェもんだ。長い拘束で細った手足、消えないロープや殴打の跡、それに青紫の注射痕。
その辺に放り出してもきっと誰かが救急車を呼ぶだろうが、救急車
だから異能解放軍の連中と繋がるような場所には置いていけない。そんなわけでちょいと移動して、適当な病院とか警察の近くで【圧縮】から解放して、それでオサラバ。
そうするつもりだった。そうすると思うだろ? そりゃ奇術師お得意のミスリードってやつよ。
…………正直、本当に困っちまったんだが。
そういや分倍河原のやつ、薬が切れるとよく『頭が割れる』だの『自分が裂ける』だの苦しんでたっけな。【圧縮】しての移動中、そんな様子がまるで無ぇもんだから忘れてたが。
解放した途端に大騒ぎしやがって。人が来る前に慌てて【圧縮】し直す羽目になっちまった。
要は【圧縮】の中の方が居心地が良かったみてぇで、このバカ出たくねぇとか抜かしやがる。
『頼む、助けてくれ……!!』『人でなし! 冷血漢!』
「助けろってお前、無茶言わんでくれよ」
『重くはないんだろ?』『脳ミソが空だもんなぁ!』
人間をビー玉みてえな球に【圧縮】した場合、その玉を耳に押し当てるようにすれば辛うじて会話はできる。ご指摘の通り重さも気にならない。
だがこのまま連れ歩く(持ち歩く?)ってのはできねえ相談だ。
「あのなぁ、俺だって
『俺を出さなきゃ良いだろ?』『束縛系かよ!』
「いーや無理だね」
それに関しちゃ正直には答えたくねえな。こいつをこのまんま持ち歩きたくない……つーか持ち歩けない理由。
制御が利かない上に再生能力持ちだから処分が面倒なのは分かるが、スケプティックの野郎め脳無なんぞ押し付けやがって。
適当なヒーローにぶつけるつもりではいるが、当面は【圧縮】状態で持ち歩くしかない。狙いもつけずに適当な破壊活動ってのは、なんつーかこう、美学に欠けるからよ。
んで、これってまぁまぁ負担なんだわ。“個性”に圧がかかり続けてるっつーか……分倍河原まで仕舞っておくともう他のモノを【圧縮】できねー位には。
そもそも生きた人間を閉じ込めて持ち歩くってだけで気分悪ぃし。
『頼むよォ!』『もうお前には頼むぜ!』
「無理なモンは無理」
んで、また更に移動して。なんだかんだ分倍河原のために結構考えを巡らせたんだぜ?
幹線道路に沿って大型の本屋やら電器屋やらが並ぶ辺りを選んだ。夜中でも車の音が絶えず、こいつの声を紛らわせてくれそうだから。
あんまりデカいチェーン店みたいのは避ける。警備がしっかりしてるから。
もっとこじんまりとした感じの……お、ここなんか良さそうか。外装や看板の真新しさからして潰れた跡地とかではなさそうだし*1──って、裏の倉庫はすげーギャップだな。手当たり次第集めたような物資の山、しかも野晒し。これじゃまるで粗大ゴミの処理施設だぜ。
……お似合いっちゃお似合いか。
「倉庫側もちったぁリフォームしろよな。ま、こっちに人は寝泊まりしねえだろ」
『──!!』『──ォ!』
分倍河原はまだ何か言っているが聞くつもりはない。やめてくれと言われようがここで【圧縮】を解いてお別れだ。
「──ッ、あ゛、ガ、ダメだ、包め閉じて潰さないと割れる裂ける千切れちまうよぉぉぉ!!」
…………何も感じないわけじゃない。
別れの言葉くらいは残していくか。
「じゃあな分倍河原。治療が上手くいくことを祈っとくよ」
Mr.コンプレスこと
迫が無人と思いこんで敷地に忍び入った先、ボロい倉庫に人の気配があることを。それを聞いていれば事態はまるで違ったはずで──
「おじさん達、だれ……?」
「やべ!?」
「っ、霙理こちらへ!」
──それでも、直後に離脱を最優先にしていれば迫は逃げられたはずだが。
悍ましい敵意を感じた彼は、反射的に分倍河原を連れて行こうとしてしまった。【圧縮】を──“個性”を、使おうとしてしまった。霧や霙理を視界に収めた距離で。その行動が霑の暴力性をますます煽ってしまうとも知らずに。
「が、ぁぁあ゛!?」
──こうして迫は大きなダメージを負い、あえなく捕らえられたのだった。
前にショッピングモールでも、ちょっと集団から離れた瞬間に霙理ちゃんの匂いを嗅ぎつけた。
もちろん見つけられて良かったと信じてるけど……その後の肝の冷えるやり取りに一人で向き合うのは、正直なところ怖くて怖くて。
もうあんなの勘弁して欲しい。
──だっていうのに、また一人の時に。試験に向かう四人を見送ってから、私も高校へ出かけるまでの僅かな間。
かかってきた電話は……発信元がもう不穏。交換はしてあったけど何か無い限りかけてこないはずだから。
「もしもし?」
『兵怜カリナで間違いありませんね?』
「はい。何があったんですか
『すぐに来て頂けませんか。事情を伏せてくれそうな貴女に
──め、面倒ごとの予感がぷんぷんする──!!
ていうか霧さんもそれを隠すつもりがない! 私が断れないって分かってて言ってるでしょコレ!!
「……行きますよ、行きますけどね。今日はたまたまで、いつでもすぐ対応できるとは──」
『頼りにしていますよ
「話が噛み合っ……切ったよあの人!」
そりゃ向こうからしたら私みたいな
かといって見て見ぬふりもできないのがヒーローのつらいところなので。
あんまり良いように使わないで欲しいなぁ! 行きますけど!!
ここ『戸村リサイクル』はまだ開業準備中。小綺麗なのは表側だけで、裏手はゴミ捨て場みたいなありさまだ。
で、なんかヴィラン捕まえたんだってさ。すごーい、帰って良いですか? ダメ?
そんな状況だって分かってたら私服に着替えて来たのに。霧さんがちゃんと話してくれないから制服のまま来ちゃったじゃないか。
ひとまず適当に積まれた廃品から、まぁまぁ綺麗なフルフェイスのヘルメットを拝借して顔と髪を隠して、と。
最初に頼まれたのは重傷人の診察。
心操くんと会った時に着けてた
「きちんとした治療は必要ですが、止血とかの応急処置はばっちりなので今すぐ命には関わらない、といったところですね」
彼は左腕にかなり深い傷を──たぶん【崩壊】によって──負っている。痛みで脂汗とかもすごいけど、とりあえず放っておいても死なない。
目隠しを着け直す私の言葉に、霧さんは安心したように頷いた。霙理ちゃんが【巻戻し】を使いたがってもさせないと決めたのだろう。
確かにあれはとんでもない“個性”だから、知る人間を増やしたくないのは分かる。このやたら顔の良いオジサンは他の方法でも治せるだろうし、そちらはひとまず脇に置こう。
「……それはそれとして、……」
「なにか?」
「なにか?じゃなく。無茶振りが過ぎますよ今回は」
問題は怪我を見ながら聞き出した話の方。
このイケオジがヴィランというのは良いとしても(良くはない)、合宿所にきた例の脳無とマスキュラーの件にも関与してて*2 、極めつけに──
「………………」
──もう一人の
イケオジは彼のことを『モノやヒトの複製を作る“個性”で、その為に利用されていた“被害者”』だと言うが、それが本当だとしても通報しないわけにはいかない超重要参考人だ。
(その“利用していた”側が何処のなんという組織かまでは流石に明かされなかったけれど。だからって拷問するわけにもいかない)
「これ、流石にヒーローの卵が胸の内に
「なんとか
「ぬぉぉ……自業自得……!」