仮免試験:リザルト
応援にはいけなかったけど仮免試験は無事終わり、翌日の帰り際には結果が通知された。
相澤先生から出席番号順に点数と講評を収めた封筒が手渡され、それぞれ悲鳴や歓声を上げていく。
お茶子は……席に戻ってからそっと中身を取り出して小さくガッツポーズ。私たちのいる窓側に笑顔で手を振ってくれる。合格だね!
私の右隣から立ち上がった被身子はひどく不安そうに受け取りに行き、その場で怖々と覗き込むと──
「良かっっったぁ!!!!」
飛び上がった。ていうか肩を落とした瀬呂くんの頭上を跳び越えてきた。危ないのでしっかり抱きとめる。
「おめでと被身子、でもお祝いは家でゆっくりしようね」
「はい!…………平気ですよね?」
「きっと大丈夫」
被身子に続き常闇くんも嬉しい結果だったようで、【黒影】が天井近くに伸び上がると──彼まで浮き上がった。本人も驚いてるみたいだけどそれ飛べたんだね?……合宿の時に逃げられてたらヤバかったかも。
そして続く轟くん──は、中身を検めもせずに席に戻ってしまったから分からないけれど。被身子たちの話を聞いた限りではたぶん問題ないだろう。
彼の次が透。このところ絶好調で、『なんか調子に乗ってるよねー』とか囁かれても納得感のある透。
特に意味もなく【透明化】を解いて封筒を受け取ると、結果も見ずにキメ顔+モデルさんみたいな歩き方で席へ戻っていった。
…………“落ちてるなんて考えられない大活躍”とは聞いてるけど、それにしたってまだ続いてるとは。今日の夜はうちの両親に定期連絡する予定日なんだけど、このまま話をさせるのは──ちょっと酷、かなぁそれも面白い気はする。
黒歴史な映像や迷言もばっちり記録したし、帰ったら悶え転げタイムを用意してあげるとしよう。
ちなみに透の後、私の前の
最後に受け取った百は可愛らしく笑顔を咲かせたから、家では五人で気兼ねなくお祝いできそうだけど。
落ちちゃった人の前ではしゃぐのも悪いから、ここはさっさと帰っとこうか。
ようやく正気に戻った透がお布団かぶり虫になってしまったので、その周りで軽い打ち上げを楽しんで──
「みんなヒドくない!?!?」
「今日までツッコまずにいたこと感謝して欲しい位ですが?」
「ホンマやで透ちゃん」
「「…………」」
「リナリナとヤオモモまで!?」
「あ、もう“リナリィ”じゃないんだ」
「蒸し返さないでよー!!!」*1
──その日の夜。
うちの両親からも祝ってもらった。お母さんが漏れ聞いたところによると今年はかなり難しめの試験だったらしい。
「毎年同じじゃないんですか!?」
驚いたのは(ようやく回復してきた)透。
同じだったら試験前の被身子はもっと気楽でいられたって。
「カリナちゃんが教えてくれてたやんか」
「今日も相澤先生が言ってましたよ?」
「聴こえてなかったんですのね」
『まぁ良いじゃないか。なんであれ受かったんだから大したもんさ』
「うんうん、本当にすごい」
実を言うと私が仮免を取った
「一昨年のリナちゃんでもバクゴーくらい余裕じゃないです?」
「被身子のジャッジは私寄り過ぎるよ。正面からは
「勝てることは否定せんのや……」
あれ、またジト目を浴びてしまった。
今のは謙虚のつもりだったんですが……?
「そもそも爆豪さんが落ちたのは能力の問題ではありませんわ。あれははっきりと問題外です」
「焦りましたー……」
憤慨したように振り返る百と重い息を吐く被身子。
被身子が焦るというのが予想外なようで、お母さんは目を丸くして問う。
『何があったんだい?』
「私もびっくりしたよ」
私は昨日の内に聞いてて、今お母さん達も驚くことになる。
『『試験の最中に大喧嘩?』』
……同じ中学の出身にしては(だからこそ?)前々から焦げ臭い雰囲気だったバクゴーと緑谷くん。これまで決定的な衝突には至ってなかったけど、見えない何かが溜まり続けてたんだろうか。
だからってよりによって災害救助試験の真っ最中に着火するなんて、ねぇ。
きっかけははっきりしないけど、喧嘩が始まってからの二人は──バクゴーだけじゃなく緑谷君も負けず劣らず──周囲の制止にも耳を貸さず、被身子が実力行使で意識を奪うまで暴れ続けたそうだ。
このことがどう評価されるか分からなかったから、被身子は合格をあそこまで喜んだのである。
……これでもし被身子が落ちてたら。
私は二人を赦せただろうか?
まぁ受かっていて良かった。二人とも被身子に感謝するといい。
『講評では何か書いてあったかい?』
「“もう少しがんばりましょう”でプラス二点でした」
「被身子それはちょっと」
大胆な要約に笑いながら補足する。実際に書かれているのは次の二点だ。
差し引きでプラス──つまり二人を鎮圧したこと自体は減点どころか加点対象ってこと。
『被身子さん、蹴っちゃったのかい?』
「はいです、つい我慢できなくて……」
「いいえ、あの時の被身子さんはよく我慢した方です!」
「そうそう! 私もこっそり踏んづけたもん!」
『お茶子さんまで』
お茶子の講評には、“事故と思われるが気絶していた生徒を踏んだ”──とある。
多分バクゴーのことだろう。でもそのことによる減点はちょっぴりなので、評価側の中で彼の評価はヴィジランテ以下かも知れない。
平和主義のお父さんは二人の暴行に大きく反応したけれど、お母さんは逆。
『救助が優先なのは確かだけど、一発蹴り入れただけだろう? 無駄にした時間なんて一秒以下だろうに減点するほどのことかね』
「あ、お母さんもそう思う? ちなみにバクゴーに怪我とかはさせてないって」
『それなら被身子が反省するのは要救助者の扱いだけだろ。あたしが審査員なら蹴りでの減点なんかゼロだよ』
『そういうものかい?』
『生じた実害で考えるのさ。蹴りで損した人はいないだろ?』
『まぁ……怪我しない程度だったなら確かに。被身子さんお茶子さん、申し訳ない。撤回します』
「お母様お父様……! 良かったぁ!!」
瞳を滲ませる被身子。合格通知を受け取ってもまだ不安そうだったのは私の両親からの評価だったのだ。
ようやく心配事がなくなって、ふにゃりと完全に脱力する。膝の上で丸くなられると、う〜ん匂いまで甘さを増したような。
「あ、そうだ! 私お二人にも改めて御礼言いたかったんです!」
『透さん、【透明化】の制御は上手くいったんだってね』
前回の連絡は試験前だったから皆の代わりに私だけで通話したんだよね。その時に克服したことだけは伝えてあった。カメラの前で【透明化】を解くのは今日が初めてだ。
『『おぉぉ〜〜〜』』
「もうバッチリです、ご心配かけましたー!」
可視と不可視を何度か切り替えてから、ちゃんと顔を見せて深々と頭を下げている。
最初に見せてくれた時には『不透明な時だけ〇ョ〇ョ立ちをキメて見せる』とかいうウザ持ち芸(?)を披露してたけど、さすがに今回は自重──
「あれ?“見ているなッ!”しないんですか?」
「眼が透明なまんま肌だけ見せるんが一番怖かったわ」
「天地を指差すポーズは芸術的でしたわね」*3
──自重させてあげないんだ……。実はみんな、私が思ってたよりウザがってた?
透、透明にもなれず真っ赤に染まっている。しかもまだ止まらないんだよこの話題。
『透……あたしに半端な神父を見せたらタダじゃおかないよ』
「マーサさん!!?」
まぁ今日はお祝いだし、ここは透に頑張ってもらって後でヨシヨシしておくとしよう。
──そういえば試験前の期間には随分お預けを食らったし、いいよね?
※他作品ネタ失礼しました。一発ネタです続きません。