【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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峰田実にも仲間意識くらいある

 僅かに時間を遡る。

 合否の発表が済み、カリナ達が早々に帰った後の教室にて──

 


 

 

 オイラ、ただ愛の求道者(シーカー)でありたい男一匹、峰田実。

 なんの資格も無いヒーローの卵だぜ。

 

 はぁ…………まぁ、な。試験に落ちちまったのは間違いなく残念だが。

 色々とやらかしはあったし、昨日の内に凹むのも済ませておいたからよ。結果に納得はしてる。

 むしろ講評の内容は思ったより高評価で、ギリギリで落ちたっぽいのが余計にイラつくわ。もちろんオイラ自身にな。

 

 

 ところで結果を配り終えた後、ホームルームのシメにこんな言葉があった。

 

『このクラスの合格率は四割弱。例年の二年生よりは低いが、全国平均は二割ちょいだったそうだ。落ちた奴らも沈んでるヒマなんかやんねえから、ちゃっちゃと切り替えて行けよ』

 

 オイラもそこそこに落ち込んでたからスルーしそうになった。

 けどよ、言われた通り頭切り替えて考えると、これちょっとおかしいんだよな。

 

 教室を見回す。兵怜ちゃん達は五人でまとまって帰っていった。残った連中の空気は重い──が、それは脇に置いて。

 

 合格した“四割弱”とやらは数で言えば八人のはずだ 。受けたのは(兵怜ちゃんを除く)二一(にじゅういち)人なんだから。

 

 ──このクラスの合格者が、八人?*

 兵怜ガールズはどう見たって四人とも受かってた。じゃあそれ以外が……たったの四人?

 

 渡我パイセンはとびきり分かりやすかったが、あれよりは控えめな他の連中だってリアクションである程度は察しがつくってもんだ。本人より【黒影】が浮かれてた常闇は確実、握り拳を六つくらい作ってた障子も間違いねえ。

 ちょっち分かりづれえのが梅雨ちゃんと飯田(クソメガネ)だが……廊下側に目をやると、その二人が深刻そうに言葉を交わしていた。オイラだけじゃなく障子もその様子を見て──そして、廊下への戸に立ち塞がる。

 

「……通してくれ」

「轟、時間をくれないか。話がしたい」

「…………」

 

 梅雨ちゃん達も障子に並んだ。てことはやっぱり。

 梅雨ちゃん、飯田、障子、常闇は受かってて。

 轟は落ちたってことに、なる。

 ──ウソだろ?

 

 

 

 仕切り直しに自習室を一つ借り切った。

 轟はどう見ても乗り気じゃねーが、『予定があるなら無理強いはしない』という障子に何も言い返さず、合格者四人にずるずると引きずられてきた感じだ。

 試験に落ちてユーウツって反応とはちょっと違うんじゃねーの?

 

「……峰田よ。俺達はともかく、お前は平気なのか?」

「凹んではいるけどよ、気になるじゃねーか。轟が落ちるなんて思わねーだろ」

「素晴らしい友情だ……! 峰田くん、俺は君を誤解していた!」

 

 へっへーん。本音を言えば“男同士のアツい友情!”なんてオイラのキャラじゃねーけど、こういう所から女子の好感度ってのは築かれるもんだからな。梅雨ちゃんもオイラに惚れて構わな──

 

「それにしては轟ちゃんに向ける目が尖ってるのよ」

「俺もそれは気になる」「同意」

 

──チッ、余計なことに気付きやがる。

 クラスメイトが心配ってのも丸きり嘘じゃねーが、それが全部ってのも確かに違う。

 

「轟はよぉ、休み中の男子勉強会もドタキャンしたんだぜ。それから新学期になっても、思い返せば普段以上にぽわぽわしてた気がしねーか?」

「ぽわぽわ……?」

 

 本人は不本意そうだが周りはそうじゃねえぞ。梅雨ちゃんだってここまでは頷いてくれてらぁ。

 

「轟よぉ、お前……夏のアヤマチで大人になりやグヘァ!?

不認(みとめず)

「峰田、今はそういう冗談が許される時ではないぞ」

「ほんとよ。邪魔するなら帰ってくれないかしら」

 

 オイラが【黒影】と【複製腕】に絞め上げられる間──なんで舌がねぇの?──轟がぽわぽわ質問して、飯田の奴が言いにくそうに解説してやっている。

 

「峰田くんは、その。轟くんに恋人ができて上の空なのではと疑ってるらしい」

「恋人……?」

 

 初めて聞く単語みてえに繰り返して、それから轟は意外なことに可笑しそうに息を漏らした。

 

「っは、お前試験に落ちた後だってのにンなこと気にしてんのか」

「ンなこととは何じゃい! オイラにとっちゃ仮免より優先だって魂が叫んでんだよォ!!」

 

「峰田くん……」「コイツなんで除籍されてないんだ」

「せめて窓から追放すべし。【黒影(ダークシャ─)

「いや、離してやってくれ。少し肩が軽くなった」

 

 は?

 …………。

 ……いや、驚き過ぎだろおめーら。早よ降ろせ。

 

「とーぜんオイラは最初からそれを狙ってたんだからな?」

「峰田ちゃんも思い切り驚いてたじゃないの」

 

 知らねーなぁ。誰だよ意外とか思ったの。

 

 

 まぁ狙い通りかはともかくとして、よ。空気を緩めといたのは正解だったと思うんだわ。

 後に続く話の重さを思うとな。

 

「ちょっと家のトラブルでな。アホなミスをしただけなんだ」

「ミス、ってこれ……轟ちゃん……」

 

 轟は試験結果を隠さなかった。

 実技の成績は予想通り余裕の合格圏内。なのに不合格なのは、とーぜん筆記が足を引っ張ったからで……。

 

 まさかの、(れい)点。

 ……回答欄がズレたか名前を書き忘れたんだろう、とのこと。

 

「試験中も考え事ばっかしちまってた自分が情けなかった。だが峰田に(なら)うなら、今の俺には家族の方が優先だ。気になって仕方なかったことを恥じる必要は無え」

「お、おう。オイラ最初からそれが言いたかったんだぜ」

「ありがとな、峰田」

「デマカセに決まってんだろ!? だが結果的にちっとでも楽になったんなら何よりだよ!」

 

 轟の奴は本当に『力が抜けた』みたいな雰囲気だしてるけどよ……筆記〇点を納得しちまうトラブルって絶対ただごとじゃねーだろ? ぽわんぽわんしてる場合か? そのギャップが逆にこえーよ。

 

「俺達に手伝えることはあるか」

「無論、助力する」

「ボク達を頼ってくれないか?」

「オイラまで巻き込むんじゃねーぞ」

「峰田ちゃんシャラップよ。轟ちゃんが頼りたい相手を頼ればいいの」

 

 オイラ達のハートフルな言葉に、轟は戸惑うように眉を顰める。

 

「ありがてえけど、力を借りるかはクソ親父にも相談しなきゃなんねえ。ちょっと待ってくれ」

「エンデヴァー氏が……! ならば軽挙は慎むべきだな!」

 

 この上ヤバさのドラを乗せるなって。尚更ビビっちまうよクソ。

 

「ケロ、分かったわ。ご家族ほどにはなれないけど私達も力になるから、どうか抱え込まないでね」

「あぁ」

 

 この場ですぐってわけにもいかず、轟はまた連絡すると言って帰ろうとする。

 

 ──本心では、(手伝うかは別として)何があったのか訊いちまいてぇ思いがある。

 だがそれは単純に気になるってだけで、知ったところで何も手伝えねぇなら訊くのも無責任てもんだ。

 

 だから口にはしなかったが……顔には出てたんだろうし、それはオイラだけじゃなかったみてーだ。轟は少し困ったように──

 

「今はここだけの話にしといてくれ」

 

──口止めと共に、重すぎるトラブルを明かした。

 

 

 

夏兄(なつにい)──夏雄っていう俺の兄貴がな。先月から()()()()なんだ

「「「な──!!」」」

 

 

 当然こっちは落ち着いちゃいられねえが。轟は淡々としたもんだ。

 

「落ち着いてくれ、今は何もはっきりしてねえ。ただの家出って可能性もまだある。親父のこととか、夏兄は上手く飲み込めてなかったし」

「しかし、既に一月(ひとつき)が経っているのだろう」

「八月の終わりまでは普通に家にいた。まだ二週間だ」

 

 “まだ”ってお前……いや、そんだけの時間経過があってこそ、今その落ち着きがあるんだろーけどよ。

 

「お兄さんは何歳なんだい?」

「十九。大学生だ」

「…………微妙なところだな……」

「だろ。だからそんな深刻にならねえでくれ」

 

 んー、障子の言う通り微妙だなぁ。高校生までならともかくその歳だと。プチ家出の範疇って気もするし、何ならそのまんま一人暮らしに突入みてーなことも無くはない、か?

 だがそんな楽観視を梅雨ちゃんは否定する。

 

「でも連絡も取れないのは変でしょう。お兄さん、轟ちゃんにまで(かたく)なだったのかしら」

「……分からねえ。家族に心配かけるようなことは嫌ってたはずだが」

「だったら!」

「落ち着いてくれ、蛙吹」

 

 当事者より慌てそうになるのを、「うちのクソオヤジも動いてるし、警察も探してくれてる」と宥められて。梅雨ちゃんはしょんと背中を丸めた。

 

「……ごめんなさい」

「謝ることじゃねえ。むしろ夏兄が帰ってきたら蛙吹に謝らせる」

「……それはお兄さんからしたら理不尽すぎやしないかしら」

 

 少し面食らった後、梅雨ちゃんは笑ってツッコミを入れた。

 空気がぽわんぽわんと和む。轟には冗談を言ったつもりなんか無さそうだが。

 

 

 じれってーけど、今オイラ達がすべきことは──特に無いってこった。精々その兄貴が『バカみてーな理由で行方知れずになってただけ』なんて未来を祈るぐらいしか。

 それが楽観論だっつーのは確かだが、ハズレてるって根拠も無いわけだしな。悪いことばっか考えてたらハゲっちまうよ。

 

 

 ……いや待てよ、名家の大学生がどこぞの安アパートで汗やらその他の体液やらに(まみ)れてる可能性もあるとしたら、オイラはその不幸と陰萎*を願う位でも丁度いいんじゃねーか?

 

 そこをまげて、真面目に無事を祈ってやろうってんだからよ。さっさと家族を安心させてやれや、プレイボーイ。

 

 

 




 

 

 

 この場合。

 仮に峰田たちが最悪の最悪を想定した悲観論の立場を取ったとしても、それによって得られるものは何一つ無かったはずだ。

 

 空気がお通夜になるのはもちろんのこと、いずれの想定も的外れに終わるだろうから。

 

 九月半ば現在、

 夏雄は、

 既に──

*
九人なら四割を上回るし、七人なら三割三分に留まるため。

*
陰萎(いんい):陰茎が萎えること。




 お忘れの方もおられるかも知れませんが、
 本作はヒロアカの二次創作だったのです。
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