山田リョウと一緒に草を食べるおはなし   作:さよならフレンズ

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たんぽぽ

 春。それは出会いの季節。

 高校1年になった俺が何気なく入ったライブハウスSTARRYで、『結束バンド』というバンドグループに出会ったのも春だった。俺は音楽に関しては素人だが、それほど上手いとは思わなかった。

 ギターに至っては、謎に完熟マンゴーの段ボールを身にまとっていて、首を傾げたものだ。

 それでも、いびつな演奏の中にもどこか心にくるものがあって、拍手を贈ったことを覚えている。虹夏というメンバーのMCによると、俺が見に行ったのが初ライブだったらしい。ビジュアルよかったし、俺が結束バンドのファン1号になるのもいいかもな……。

 

 そう。キラキラと輝く舞台の上の演奏は、出演者を綺麗に魅せてくれる。

 ある意味では、俺は結束バンドのメンバー達に惚れてしまったのかもしれない。

 

 その憧れという心のベールは、今まさに道端で―――

 

 「ベースが……草を……食べてる……!」

 「ライブ見に来てくれた人だ。悪いけど、このタンポポは私の」

 「……山田リョウさんだっけ、そのタンポポはいらない」

 

―――ガラスにヒビが入ったかのように砕けようとしていた。

 

 衝撃の再会から数分後。自己紹介を終えた俺と山田は改めて言葉を交わしていた。

 

 「それで、タンポポが欲しくないなら、なんの用?」

 「最初は結束バンドのファンだからサインでも貰おうかと思ったんだけど、エグい生食を見て色々吹き飛んだ」

 「そんな、照れる」

 

 僅かに顔を赤らめる山田を見て、俺はげんなりとしていた。でもサインは貰った。

 それはそれとして、他人事だが山田には注意しておくべきだろう。

 

 「お節介かもしれないが、ここらへんは道端だから除草剤がまかれること多いし、茹でもアク取りもしないのは本当に体によくないと思うぞ」

 「でも、お金がないから仕方ない。同情するならお金貸して」

 「……分かった、1000円な。返さなくていいぞ」

 

 これはある意味推しのアイドルに貢ぐようなものだ。俺の名前も覚えてもらえたし、悪くはないと自分に言い聞かせる。

 

 「茹でるとかアク取りとか言ってたけど、雑草を食べたことはある?」

 「雑草も山菜だからな。おいしいものは一通り食べた経験があるぞ」

 「うわ、正直引く」

 「ブーメラン突き刺さってんぞ。山田って山菜取り自体は好きなのか?」

 

 素朴な疑問に、山田は戸惑っているようだ。

 軽く首を傾げると、困った表情で口を開く。

 

 「生活のためだし、適当に食べてる。好きとか考えたことない」

 「マジかよ……!?毒草とかあるし適当だと本当にそのうち死ぬぞ!分かった」

 「?」

 

 山田はどこか能天気だが、流石に毒で死ぬのを見過ごしたくはない。

 それはファンとしても失格だろう。

 

 「近くの俺が持ってる山まで連れて行ってやる、綺麗な山菜が取れるしタンポポも取り放題だ」

 

 そう、俺はなんと父から継いだ山を持っているのだ!

 勝手に山菜を取るのは法律上グレーゾーンだが、俺に所有権がある山なら大丈夫だろう。

 しかし山田は浮かない表情だ。流石に強引すぎただろうか?

 

 「そう言って家に連れ込む気なんだ、ロックだね」

 

 ロックとはなんだろう?

 

 「……しゃーねーな、ちょい待ってろ。俺が沢山取ってきてやる。その代わり、タンポポにはしっかり火を通すんだ」

 「分かった、STARRYの前で待ってる。ロイン交換しよ」

 「それはいいんだな」

 「ざっそーに下心があるならなかったことにするけど」

 「はい、俺はざっそーです。下心はないので交換させてください」

 「ふふ、変なの」

 

 いつの間にか、俺にざっそーとかいうあだ名がついてしまったようだ。

 山田との距離を詰めることができたみたいだし、俺個人としては悪くない気分だった。

 ロインも交換できたし。

 

 それから1時間後。山の麓の広場のような所でタンポポを取り終わった俺は

 STARRYの前に来ていた。山田が待っていたので、軽く右手をあげる。

 

 「悪い、遅くなったな」

 「ざっそーひどい。流石にかなり待った、帰ろうかと思った」

 「タンポポ沢山とってきたぞ……おい食べようとするな!」

 

 山田は早速包みに使ったビニール袋から取り出してかぶりつこうとするので慌てて止める。

 こいつ俺の言うことを聞いていないんじゃないか?

 

 「花は揚げるのがおいしい。葉っぱはあたり外れあるがサラダがお勧めだ。

 根っこはきんぴらだな。俺が好きなのは花の天ぷらだ」

 「分かった、作ってみる。今日はありがとう」

 

 山田は軽く頷く。だいぶ不安だが、家できちんと調理してくれることを祈ろう。

 

 「これを山田に渡しておく。いつでも俺の山に山菜を取りに来ていいからな。見極めが難しい毒草もあるから、簡単に取れる山菜をまた教える」

 「ん」

 

 鞄から取り出した山菜のガイドブックを、山田に渡す。

 これで山菜取りの同士が増えるなら、それは俺にとって嬉しい。

 

「ざっそー、またね」

「……ああ、またな。次の結束バンドのライブも見るからな」

 

 別れを告げ、自宅に帰りながら少しだけ胸が高鳴るのを感じた。いつも無表情気味の山田が、ほんの少し笑ったからだろうか。

 溜息をついて、気持ちを握り潰す。余計な感情は、ファンとしては抱くべきではないだろう。

 

 その夜。

 

 家に帰ってしばらくすると、皿に乗せられたタンポポと、ピースをした山田の写真が送られてきた。

 山田はピースしながらも無表情のまま写っており、どことなくシュールだ。

 

『タンポポの天ぷら、美味しかった。別の山菜も食べたいから、また連絡する』

 

 どうやらちゃんと調理してくれたようだ。俺は返信した後、安心して眠りにつくことができた。

 

『頑張ったから、またお金ちょうだい』

 

 ・・・・・・さて、いい夢は見られるだろうか。悪夢にうなされそうな気がする。

 山田リョウとはなんとなく長い付き合いになりそうだが、金の切れ目が縁の切れ目にならないことを祈るばかりであった。

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