山田リョウと一緒に草を食べるおはなし   作:さよならフレンズ

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ナズナ

 山田リョウ。

 今頃あなたはどうしているだろうか、と夜一人自室で思う。

 ・・・・・・うっかり毒草を食べやしないか的な心配の意味で。

 生活のためにやむなく草を食べてるとか言ってたし、よっぽど貧乏か、借金があるかなのだろう。

 なるべく、家庭環境には触れないようにしようと思う。

 

 ピロリン、とスマホから着信音が鳴る。噂をすれば山田からのロインだ。

 

『タンポポ以外の草が食べたい、手伝って』

 

 どうやらいい具合にタンポポの天ぷらがおいしかったらしい。さてどうしたものか。

 冬ならどうしようもなかったが、今の季節は春だから山菜はいくらでも生えている。

 でも山田は登山を嫌がるかもしれない。バンドのことを考えるとハードなことはしたくないかもしれない。

 つまり候補はタンポポみたいに山の麓で取れる山菜だ。

 毒草と間違えようがない、初心者向けのおススメの山菜はあれだろう。

 

『俺の山まで案内するから、麓でナズナを取りにいくぞ』

 

 そう、今回のターゲットはナズナだ。

 

 

 数日後、俺と山田は何も育てていない、廃棄された畑の傍のあぜ道にいた。

 隅から隅までナズナがびっしりと植わっている。

 長ズボンを履いた山田は、その量に圧倒されているようだ。リョウだけに。

 それにしても山田はズボンがよく似合っている、高校では女の子にもモテそうだ。

 

 「……ざっそー、ここでナズナの栽培でもしてる?」

 「いや、単にナズナの繁殖力が強すぎるだけだな」

 

 山田はふーんと、隅から隅まで見渡した。

 多すぎてレア感がないとか思っていそうだな。まあ草だしなあ。

 

 「大迫力だね、これ全部食べられるの?」

 「うちの畑の傍だし、取れる分だけ取っていいぞ。あぜ道だから土壌汚染も大丈夫だ」

 「分かった」

 

 俺と山田は、採取用の小さいナイフを持ち、ナズナの葉っぱを切って回収していく。

 

 「ナズナはどんな料理にも使えるし、レパートリーの幅が広い。しかも美味しい山菜だ」

 「どれぐらいおいしい?」

 「そうだな……俺はほうれん草よりナズナの方が好き、と言ったら伝わるか?」

 

 めんどくさそうに作業をしていた山田の手が止まり、瞳が光る。

 どうやら何やら触れてはいけない所に触れてしまったらしい。

 

 「マジ?ざっそーの味覚がおかしいとかじゃなくて?後、これって店で売れる?」

 「これは大マジだ、後売れない。どこにでも生えてるだろ」

 「がっくし」

 

 うなだれる山田。お金の匂いをかぎ取っただけのようだ。

 

 

 軽口を言い合いながら、俺と山田は収穫を続けて行く。ほうれんそう並みに美味しいと聞いて心なしか山田の鼻息が荒い。

 今までよほどマズい草でも食べ続けてきたのだろう。

 幸いにも前回のタンポポの収穫で散々注意をしたおかげで、ナズナを生で齧る気にはなっていないようだ。俺と山田は黙々と作業を続けた……。

 

 40分後。

 

 

 「ふう、疲れた」

 

 早々に地面に腰を下ろした山田の分まで、俺はナズナ取りを続けていた。

 山田はストローで飲み物を飲みながら、中腰の俺をじっと眺めている。

 

 「じー……」

 「口に出てるぞ」

 「わざと出してる」

 

 構って欲しいのだろうか。

 そう言われると、推しを放置して山菜取りだけするのもファンとしては違う気もしてくる。

 取ったナズナを片手に休憩するか、と山田に近づき隣に腰を下ろした。

 

「……」

「……」

 

 しばらく無言の時間が続くが、個人的にはそう悪いものじゃなかった。

 ミステリアスな山田には、沈黙が似合っているように思う。

 きっと、山田もこの沈黙を楽しんでいるのだろう。

 

 「暇だから何か喋って」

 「すみません喋ります」

 「なぜに敬語。時々ぼっちみたいなとこあるねざっそーって」

 

 山田は軽く溜息をつく、ぼっちみたいって、また酷い悪口を言われたものだ。友達ぐらいいるぞ。

 推しである山田の心境を全く読み取れていなかった俺には、敬語で謝ることしかできなかっただけだ。

 

 「失礼かもしれないけど、山田がここまでナズナ取りに夢中になってくれるとは思わなかった」

 「面倒くさがると思った?よく分かってるね」

「……正直な」

 

 

 僅かな付き合いだが、接してきて山田の性格は少しづつ理解できてきたつもりだ。

 山田は気まぐれで、めんどくさがり屋な所がある。

 お金も巻き上げてくるし、正直人としてはどうかと思う所も多い。

 俺にとってはそこも含めて推しになってしまったのだが。

 

 「お金を切り詰めて草を食べているって聞くと、みんなドン引きした」

 「……」

 「でもざっそーは、草を食べる私を肯定してくれたしアドバイスもしてくれた。

私は知識がなかったから、あのままだと、本当に毒草を食べて死んでたかもしれない。だから感謝はしてる、つもり」

 「山田には健康で、長く演奏してくれなきゃ困るからな」

 「大丈夫、草を食べれば百人力」

 

 鼻をふんすと鳴らしたどこか得意げな山田と軽く笑い合う。

 

 「さてと、再開するか」

 「ん」

 

 すっと俺は立ち上がり、隣の山田もそれに続く。

 数十分後、何事もなくナズナを取り終わった俺と山田は帰路についた。

 

 『残念だけど、私にはほうれん草のほうが美味しかった。でもまた食べたい。別の草とお金も求』

 

 ロインで山田から送られてきたナズナ料理の写真は、胡麻和えだったことを追記しておく。

 

 

 おまけ

 

 

 「あ、あの……!」

 「後藤さんそれ本当!?リョウ先輩が男の人と仲よさそうに歩いていたって!?」

 「リョウは男にも女にも人気だからねー。でも1人が好きなリョウが男を連れて歩くのは確かに珍しいかも」

 「ででで、デートとかそういう感じではない雰囲気でしたよ!」

 「いや、嫌……!リョウ先輩が取られちゃう……!」

 「ぼっちちゃん、こりゃ多分聞こえてない。というかリョウは喜多ちゃんのものじゃないけど……」

 

 「こうしちゃいられないわ!私もリョウ先輩にアプローチしないと!」

 

 (相手をつきとめるとかじゃなくて、自分磨きをするの陽キャって感じだ。ま、まぶしい……!)

 

 キターンの陽光でダメージを受けた後藤ひとりは溶けて消えた。




私はほうれん草よりナズナの胡麻和えのほうが好きです。
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