山田リョウと一緒に草を食べるおはなし   作:さよならフレンズ

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コシアブラ

 ふと思う。

 好きな人をおとすなら胃袋からおとせ、とどこかで聞いた気がする。

 俺は山田の胃袋を少しずつ掴みつつあるのかもしれない。

 お金をあげてるし、紹介する草は美味しいし、どうなんだろう?

 でも、このような思考はストーカーにつながるような危険なものかもしれない。

 山田に直接手料理を振舞ったことはないし、自意識過剰はよくない。

 やっぱり、推しは遠くから眺めるのがいいだろう。もうできていないけど。

 

 そんなことをぼんやり考えながら、隣を歩く山田の顔をちらっと横目で見た。

 中性的な顔は、王子様のようにもお姫様のようにも思える。登山服もよく似合っている。

 チラチラ見ていると、山田がくるっと俺の方を振り向いた。無表情だが表情がどことなくジト目に見える。気付かれたか。

 

 「何、ざっそー」

 「いや、今日の採取が楽しみだなって思ってさ」

 「王様と女王様、両方食べるし売る。美味しい草」

 

 そう、今回のターゲットはタラの芽とコシアブラだ。

 どちらもコクがある人気の山菜。タラの芽はスーパーなどで見る人もいるだろう。

 幸いにも俺の山には、どちらの植物も植わっているので取ることができる。

 一応俺の許可があるから、売ってもいいのかもしれないが……大丈夫なのだろうか。

 あまりそこらへんの法には詳しくない。

 

 「取りすぎには注意だぞ、一番芽、せめて二番芽だけにするのがマナーだ」

 「……しょうがないね」

 

 すごく不満そうな表情をした山田だったが、ここは譲れない。

 木の芽を取りすぎると枯れるのは当たり前だし、来年の俺が困る。

 山田の不満の穴埋めは別の山菜で勘弁してもらおう。

 

どことなく気まずげな雰囲気の中一歩一歩山に向かって歩いていく俺と山田。

そんな俺たちに近づく人間がいた。

 

 「リョウ先輩ー!」

 「あ、郁代だ。よっす」

 

 赤い髪の女の子がブンブンと手を振りながら近づいてくる。

 山田は知っているらしいが、この子も結束バンドや山田のファンだろうか。

 郁代と呼ばれた子はかなりかわいい。美少女は美少女と付き合いがあるものなのかもしれない。アホなことを考えていると、郁代がすすっと距離を詰めてくる。

 

 「紹介する。最近入った結束バンドの新メンバー、喜多郁代。こっちは草好きのざっそー」

 「え、ざっそーさんって本当に呼んでいいのかしら……私のことは喜多って呼んでね、ざっそーさん。仲良くしましょう!」

 「よろしく喜多さん。結束バンドの新メンバーか、ライブが楽しみだ」

 「ざっそーさんは私たちのファンなの?」

 「うん、特に私のファンみたい。お金もくれるしいい人」

 「リョウ先輩がいい人って言うのでしたら、間違いないですねっ!」

 

 山田は俺を紹介しながら自慢げな顔をしている。喜多は山田に好きです!という全開オーラを発しているが、山田は華麗にこれを無視している。

 俺はというと、ざっそーというあだ名がこれから結束バンドに広まり続けるのかもしれないと戦慄していた。女子高生のノリって怖い。プチカオス。

 

 「ざっそー、結束バンドのファンなのに郁代にサイン書いて貰わなくてもいいの?」

 「まだ喜多さんのライブを見に行っていないから、見てからにしようかなと思ってな。なんか不誠実な気がして」

 「気にしなくていいのに……ありがとう、全力を尽くすわ」

 「応援してるぞ。雨がこようが雪がこようが台風がこようが見に行く!」

「流石に雪や台風はないわね……で、今日お二人は何をしてるんですか?もしかしてデートですかっ!」

 

 これが黄色い声というものだろうか。急に語尾が強くなった喜多さんに、リョウが無表情で簡潔に答えた。

 

「これはデートじゃない。私の生死がかかってる。これからざっそーと一緒に木の芽を食べに行く」

「食べるものが草から進化したんですね!さすが先輩!」

 

 なにが流石なのかよく分からないが、喜多が納得しているのならいいのだろう。

 

「郁代も木の芽を食べに来る?」

「……ぐっ、リョウ先輩の誘いを断れる訳ないです!でも!洗面器は用意させて下さい!」

 

 青ざめてぐっと歯を噛みしめた喜多には、これから戦場に向かうかのような決死の覚悟があった。山田は魔性の女なのかもしれない。中々いじわるだ。

 流石に可哀そうになってきた俺は、喜多に真実を話すことにする。

 

 「木の芽と言ってもタラの芽とコシアブラの採取だから、普通に食べられるものだぞ」

 「タラの芽はたまに天ぷらで売られてるけど、コシアブラって何かしら?」

 「知名度は少し低いがタラの芽と同じぐらい貴重な山菜で、甲乙つけがたい味をしているおいしい木の芽だ。どちらも似た種類のウコギ科の植物だよ」

 「ざっそーさん、植物にくわしいのねっ!」

 「山菜採り士っていう資格があるんだが、それを持ってる訳でもないからそうでもない。話は変わるが、今回は山の中に入るし、ワンピースの喜多は来れないんじゃないか?」

 「……確かにそうね。私の家はここから遠いし、二人に待ってもらう訳にはいかないかも」

 

 喜多は暗い表情で俯きながらも、諦めきれないのか俺と山田をチラチラ見てくる。

まるで先程の俺みたいだ。

そんな喜多の様子を見てハア、と息を吐いた山田が気だるげに口を開く。

 

 「大丈夫、山菜はちゃんと分けてあげるから……ざっそーの分を」

 「山田はいつもブレないな」

 「えへへ、ありがとう」

 「というわけで喜多を連れて行けなくてすまない、山菜は後で持ってくる」

 「あっざっそーさん!ロイン交換しましょう!」

 「えっ、是非お願いします!」

 

 結束バンドを推している一ファンとしてはそんなに仲良くするつもりはなかったのだが、結局喜多とロインを交換してしまった。これはいいのだろうか。未来のファンに俺がズタボロにされないか……まあ古参の特典だと思って納得しよう。

 

「お二人とも、気をつけて下さいねっ!」

「うむ」

「ありがとな」

 

 俺は軽く手を振って、山田は右手でサムズアップして喜多と別れる。

 

 「次の結束バンドのライブって、いつだ?」

 「夏だから、少し先になりそう。チケットは私から買って」

 「確かノルマがあるんだっけな、了解」

 「ふふ、いい返事」

 

 山田にイラっとすることはよくあるけど、結局許してしまうんだよな。

ちょろい自分に呆れながら、俺は山を登っていくのであった。

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