あれから数分後。
俺と山田はタラの芽とコシアブラを求めて俺の山に入っていた。
毎年採取しているため、採取する場所は分かっている。
登山道から少しだけ外れた林の中を、草木をかき分けながら進んだ。
「~♪」
俺の少し後ろをついてくる山田は鼻歌を歌っている。バンドマンのサガなのかもしれない。
がっつり登山しているが文句を言ってこないあたり、採る過程の方を楽しむことを覚えたか、山菜の採取に慣れてきたのかもな。
そうこうしているうちに、目的の群生地についたので細い枝を掴んでしならせ、山田の目の前まで持ってくる。山田は薄緑色のコシアブラの新芽をまじまじと見た。
まだ伸びていない新芽は希少価値が高い。
「本当に木の芽だね。おいしく食べられるのか不安」
「山田も草においしさを求めるように成長したのか、お父さん嬉しいよ」
「いや年下でしょ?ざっそーが父親ってなんか嫌だね」
ちょっとふざけたみたけど、滑ったか。無表情のままクールに突っ込まれた。
そんなに雰囲気は悪くなってないあたり、冗談を言い合える関係になれてきたのかもしれない。山田はポイポイと目を根元から取ってビニール袋の中に入れていく。
「コシアブラは棘がないが、タラの芽には棘が無数に生えてるから気をつけろよ」
「大丈夫、出血もロックだから」
ロックって便利な言葉だな。
「軍手してるし、強く握りしめでもしない限り出血はしないはずだがそれでも気をつけて欲しい。山田の手が傷つくところは見たくないからな」
「……うん」
俺は楽器の素人だが、ベースの山田が手を怪我する訳にはいかないことぐらいは分かる。
たかが1ファンが結束バンドの足を引っ張るという事態は避けなければならない。
山田も俺の言いたいことを読み取ってくれたのか、やや間をあけた後に頷いてくれた。
それから俺たちは、タラの芽も採取し、途中間違えてウルシを取りそうになった山田を注意したりというハプニングがあったものの、アザミなどの他の山菜を取って怪我なく無事に下山することができた。
「登山しての採取はどうだった?」
「とても疲れた。しばらくは食べる草はナズナでいいかも」
「タラの芽もコシアブラも苦労する価値がある山菜ではあるから、まあ食べてみろ」
山田はめんどくさがり屋だから、こんなリアクションは想定できていた。
でもいざ美味しかったら手の平を返すということを俺は知っている。今夜が楽しみだ。
このまま山菜取りの世界に引きずり込んでやろうと内心悪い顔で企んでいた。
「約束通り俺はこれから喜多の所に山菜届けてくるけど、山田はどうする?」
「……帰る。料理したらまたロインする。今日はありがと」
「おう、また草食べたくなったら山菜を採ろうぜ」
山田にお礼を言われるのはどこか照れくさいが、悪くない。
ジャイアンがたまに優しくすると肯定的に見られるあの現象なのかもしれないな。
軽く手を振って俺と山田はわかれた。
『山菜取り終わったぞ、合流しようか』
『ざっそーさん登山お疲れ様!そうしましょう!』
喜多へロインを送り、待ち合わせ場所を決めようとするとすぐに既読がついた。
喜多は山田が好きみたいだし、いないことを知ったらがっかりするかもしれないな。
だが山菜は基本保存がきかないものが多いし、今日中に渡すしかない。
俺と再会をした喜多は、案の定少しがっかりしていたようだがすぐに立ち直った。
待たせて悪かったな、とビニール袋を差し出す。
「こんなに沢山!ありがとうざっそーさん!」
「約束だし、おすそ分けだから大丈夫だ」
「晩ご飯に使わせて貰うわね!」
タラの芽もコシアブラも旨味が強い山菜だ。彩りがあるし、食卓のメインをはれるだろう。
推しとしては結束バンドのメンバーから感謝を貰うのが嬉しいものだ。
「あの……」
「?」
山菜を渡して用事は済んだと思っていたら、喜多が俯いている。
どこかもじもじとしているようで落ち着きがない。どうしたのだろうか?
喜多は心配している俺に顔をあげ、キリっとした表情で緊迫感を漂わせながら訊ねてきた。
「ざっそーさんはリョウ先輩のこと、どう思っているんですかっ?」
少しだけ考える。俺が山田のことをどう思っているか、か。
喜多は真剣な表情で俺のことを観察している。山田の友達として、もしかしたら好きな人として、山田のことを心配して俺を見極めようとしているのかもしれない。
山田は俺のことをいい人だと説明していたが、やはり不安はあるのだろう。
俺に直接山田への想いを問いただしてくるあたり、かなり肝が据わっている。
ここは真摯に答えるべきだろう。
「今はまだ、結束バンドのメンバーと、そのファンの関係だな。たまに山田にドキドキすることがあるが、それは山田の容姿に惹かれてるというだけのものかもしれない。少しだけ好意を持ってはいるが、付き合いたいと明言するまではいかない」
口に出して気持ちを整理できたし、スッキリとした。今の俺の心情はこれで間違いない。
ありえないが、今仮に山田に告白されたとして、受けるかは相当悩む。
逆に俺が山田に告白しているビジョンもそれほど想像できない。
しかし喜多は、あちゃー、と額に手をあてている。なにかおかしなことを言ってしまっただろうか?
「急にこんなことを聞いてごめんなさい!ざっそーさんありがとう!」
「おう、今度は3人で山菜取りをしような」
「ええ!是非お願いするわね!」
喜多は軽く微笑み、踵をかえして去っていく。
「今はまだファンって無意識にいってるあたり、惚れるまでもう秒読みみたいね」
去り際の喜多の独り言は、俺にはよく聞こえなかった。
その夜。山田と喜多からタラの芽の天ぷらとまぜご飯、バター炒めの写真が送られてきた。
とても美味しかったらしい。山田は沢山採ったから、数日に分けて様々な料理に使えるだろう。
「そういえばもうすぐ夏か。山菜取りもいいが、結束バンドのライブを見にいかないとな」
カレンダーを見ながら、次に山田と採取する山菜の候補を考える。
山菜の王様と女王を食してしまった以上、変わり種の山菜をすすめるのも悪くない。
ロインでいつものように金を要求してくる山田に呆れながら、俺はこれからの予定を楽しみにしていた。