〜日本の動き〜
CE70年6月10日、日本皇国首相官邸。
「……………さて、これより総合戦略会議を開始するわけだが……………取り敢えず先に現状の諸々の再確認を行う、まずは例のブツに関する話からだ・・・・正行博士、お願いします。」
この日、首相官邸に集まったのは現在の内閣総理大臣、槇田 義照(まきた よしてる)率いる内閣の面々と、核融合炉技術的含めた原子力技術群の先駆者にしてスペシャリスト、村野瀬 正行(むらのせ まさつら)博士や、国際的に有名な軍事ジャーナリスト
、関口 絢香(せきぐち あやか)らの民間のスペシャリスト達であった。
義照首相の前置きから始まり、発言を促された正行博士が言葉を紡ぐ。
「まず前提として、これまでの解析により判明した【エイプリルフール・クライシス】原因物質、【ニュートロン・ジャマー】の能力についてはもうある程度皆様もご存知でしょうか?」
「端的に言えば原子力発電、核弾頭兵器の無力化、あとはECM効果、細かく言えばECM効果はオマケで、正確には核分裂の阻害を主目的としている、だったな」
「そのとおりです」
正行からの問に天川 宝一(あまがわ ほういち)軍務大臣がサラリと答える。
「皆様もご存知の通り、このニュートロンジャマーには核分裂の阻害効果があり、エイプリルフール・クライシスにおいてザフトはこれを発生させる装置を大量に地球圏に投下しました」
「結果、原子炉停止によるエネルギー不足や軍事、民間問わずの強力な電波妨害効果により無線通信を壊滅させ、未曾有の大災害を引き起こすこととなった訳です……………平時であれば効果範囲を絞ることで原子炉臨界事故などに簡単に対応する最優秀ツールの決定版……核融合の存在意義を半ば奪いかねない程にこれ以上のない存在だったのですが………現実には悪用されてこのザマです」
「貴方の提案でのナーウィシアとの核融合発電共同開発がこんなところで効果を発揮するとは思いたくも無かったですな、正直、こんなものをばかすか打ち込んだザフトにも、地球連合のその後の対応にも怒りが湧き続けてますよ」
正行の落胆した表情とその言葉に対し個別に怒りを吐露する高橋 清次(たかはし きよつぐ)経済産業大臣、これに対し関口が合わせた。
「私の友人や情報省の方から特別に貰う情報を総合しても、地球連合はNJ被害の復旧よりも対ザフトへの攻撃にリソースを集中させている傾向が解消された様子はありません、このままでは時間が過ぎるごとにプラント理事国側の民間被害は深刻化するばかりです」
「先日、ユーラシア連邦より正式にウィルキアを経由した電力輸出量増産の交渉依頼が入りました、正直我が国もウィルキア輸出分や原子炉停止で吹っ飛んだ分を考えると余裕はありませんが…………少しでもいいからとウィルキアを経由してでも欲しいと言ってくるあたり、ユーラシア側も相当切羽詰まっている模様です、アメノホアカリ、アメノホヒ、ニギハヤヒ、ワカヒルメが無かった場合は………最早想定したくもありません。」
「………そう言えば、4融合炉の稼働状態は大丈夫なのか?ニュートロンジャマーの影響下に入って長らく経つが………」
「現在も最大稼働中だが、内部監視の人員たちから問題が起きたと言う報告は一つも受けていない、ニュートロンジャマーが核融合に干渉できないのは本当なのだろう」
地球連合の方針を端的に関口が述べた後、ユーラシア連邦の動きのうちの一つを告げる外務大臣、上田 鋼司(うえだ こうじ)。
若干37歳という異様な若さで閣僚入りした彼は国内で現在フル稼働中の核融合発電所が無かった時のことを思って軽く震えており、核融合発電所について触れられた為にこれまであった懸念を義照が再確認したが、これは情報大臣、天城 幸仁(あまぎ ゆきひと)にあっという間に回答されて話が一瞬止まることとなった。
「うーむむむ、やはり地球連合の国内軽視傾向は変わらんか…………」
「世界樹攻防戦、エンデュミオン・クレーターからスエズまで、ここのところビクトリア戦以外まともな勝利が地球連合側にありませんからな、この短い間でザフトは随分と勢いづくことになりました」
「モビルスーツ、だっけか、軍務大臣、我が軍の既存戦力はニュートロンジャマー下でアレに対抗できるのかね?」
ここで話題はザフトの最新兵器、モビルスーツ(MS)の話へと移る、ニュートロンジャマーと並んで今現在地球連合に対してザフトが優勢に戦えてる要因なのだ、当然といえば当然の流れであった。
「………………非常に申し上げにくいですが、陸上においては優勢を確保出来ているものの、空中と宇宙では現状戦力では微劣勢、水中に至っては現状の戦力では防衛に難があると言う結論が出ています」
「肝心の宇宙、空中で微劣勢、水中に至ると劣勢か…………ビーム兵器搭載機である『銀鷹』でも微劣勢、ザフトの水中用MSに至っては我が軍の武装潜航艇でも対応困難なのか………」
「我が軍で採用されている銀鷹のビーム砲はシュミレーター上では現状のどのMSの装甲も貫徹し、致命傷を与えることが出来ますが、後ろを取られると後方に発射できるようにしてあるミサイル兵装に頼らざるを得ません」
「で、そのミサイルでは一番弱いザフトのMS『ジン』を一撃で撃破するのは困難、対するジンの攻撃に対して銀鷹はどの攻撃を受けても直撃ならほぼ大破確実の結果が出ています、もう間もなくの本格配備となる次世代型であれば現状のエース機と思われるシグー相手でも優勢を取れるのですが、MSの新規開発を考えると正直次世代型でもこの先のMS相手となると厳しいと、そう結論付けざるを得ません」
「銀鷹の継続運用は厳しそうか?」
「いえ、対艦攻撃を主任務とすれば十分に現役を張れます、現行型でも最高速、加速に関してはシグーと比較しても大きく優位を持っているため、高速で敵MS群を強行突破し母艦にビーム攻撃を行う一撃離脱戦法を主体とすれば優秀な対艦攻撃要員として任務を全うするでしょう、特に銀鷹次世代型のうち、砲撃型に搭載されるビームキャノンを直撃させればナスカ級相手でも一撃撃沈を期待できます」
「地上戦は優勢と今話されてましたが、軍で運用してる超戦闘機群が実質的に半壊している今でも大丈夫なのですか?」
「問題ありません、つい最近登場した最新陸戦MS『バクゥ』や空中戦MS『ディン』の群れが相手でも本土配備の銀鷹隊と我が軍の主力レーザー戦車部隊で対処可能と結論が出ています、現在ニュートロンジャマーにより遠隔操作型だった『鏡水』が全機運用不可能に陥っていますが、改良作業は急ピッチで進行中ですし、『雷鳥』は問題なく動かせるため、最悪の場合でも雷鳥の投入で何とかなる、と言うところです。」
「雷鳥は本来対原子力発電所事故対策を軸にしてるのだがなぁ…………しかし強いことには強いから原発が動かなくて主任務の意味がない以上、国防の方にウェイトが行くのは必然か…………」
「そして肝心の水中なのですが……最近の海戦で存在が確認された『グーン』の脅威が強すぎます」
「我が軍の高速武装潜航艇に若干劣る程度の高速、水中でも運用可能なビーム兵器に大型魚雷といった豊富な武装、ハッキリ申しあげまして、マトモに水中戦力で対抗しようとすれば現状こちらで対応可能なのは『りゅうおう』級と水中戦闘モードの鏡水だけになります」
「水中戦力以外なら………例えば『やましろ』級対潜空母と軍の哨戒戦力ならどうです?」
「撃破自体は可能でしょうが、攻撃に映る前に海面からビーム等で対空攻撃されるとこちらの哨戒機では回避が厳い為に補足は兎も角として攻撃実行に難があり、やましろ級本体の対潜装備で攻撃するとしても攻撃中に機体最高速で艦に近づかれれば後出しのビームなり大型魚雷なりで相打ちに持ち込まれうる公算となります、大型空母とMS1機で命のトレードとか成立したら悪夢もいいところですよ?」
「水中でビーム兵器…………!!りゅうおう級が対抗可能なのはせっかく我が国初の超潜水艦級なのだからとウィルキアから『超電磁重力防壁』技術をライセンス取得して搭載したからか……」
「その通りです、アレがなければりゅうおう級すらグーンに対抗するのは困難を極めたでしょう、母艦であるボズゴロフ級は搭載能力以外大した問題にはなりませんが、グーンをありったけ搭載されて近海で対艦攻撃任務に付かれたら厄介なことこの上ありません」
「対抗案の模索はどうかね?」
「一番楽したいならどこかでグーンの技術情報を入手してOS関連を改良の上ほぼ丸パクリするのが楽といえば楽です、あるいは現在ナーウィシアで開発中と聞く水陸両用MSをこちらでライセンス生産出来れば……といった所でしょうか。」
「既存戦力で対抗するなら雷鳥を投入して海面にいるグーンを海面の一部ごと超冷凍レーザーで氷塊にしてしまうのが早いですが…………現実的かと言われると疑問符が残りますし、それを抜くと現状ではナーウィシアで開発中のMS以外ではもっとも相性がマシと思われるナーウィシア海軍の「アルティメイトストーム」級超ホバー戦艦でも苦戦は免れない、といった有様ですので、グーンの後継機開発の可能性も含めると有効策の構築には時間がどうしてもかかります」
「「「「…………………………………………………………………」」」」
首相含めた各大臣達と軍務大臣による一連のやり取りは、現状の日本本土国防の厳しさを物語る物であった。
これまでのやり取りによって、現状を端的にまとめると国防においては海上、海中戦力がかなり劣勢であり、本格的に一戦交えることになれば制海権が怪しい、と大臣に断言されたに等しい。
となれば半ば必然、現状では地球上に展開するザフト軍を相手取った場合、実質的に水際防御か敵を内陸に引き込んで撃滅するかがメインになる訳だ。
沿岸都市への被害を考えると参加者皆一様に頭を抱えたくなるというものであった。
「…………そう言えば、武装開発本部で予算投げて開発中とされてる我が国のMSの方はどうなっているのですか?」
ここで話が日本によるMS開発の方へと移る、
「…………えー、取り敢えず現状での進捗なのですが、まず最初にジン、ザウートの技術情報解析が完了し、試験的に両機丸コピした機体で研究を進め、それらを基に空宙両用の銀鷹と同様、宇宙と地上のどちらでも使える汎用機としてのMS開発が進行中です。」
「一応最初期型、先行型と言える機体に関しては既に完成しており、GOサイン一つで量産に漕ぎ着けれますが…………」
他の兵器開発の傍ら、MS開発にも携わっている正行博士が開発完了した先行生産型についての資料を参加者たちに配り、現状について説明する。
「何というか、ジンと比べると全体的に無骨な見た目をしているな………メイン武装はジンが持ってるのと同じような携行式マシンガン、対MS用のバズーカ、近接戦闘用に頭部のバルカン砲とバックパックのビームサーベルかぁ、盾も装備されてるとなると一通りは揃えた感じだな。」
「予算がいい具合に積み上げられたので素体性能に関してはシグーとほぼ同等程度には出来ています、武装も確実な溶断性能を確保できるビームサーベルと頭部搭載の小型バルカンで近接戦闘をこなし、主兵装は手数重視のマシンガン、対艦戦闘も可能な単発火力重視のバズーカ砲とで武装を選択式にすることにしました」
「先行生産型の為にこれから重要になるであろうとして開発本部で開発、現在運用試験中の携行型ビーム兵器武装はまだですが、その辺が解決すれば主力としてしばらくは使っていける筈です」
「もっとも、本機は水中を移動可能にしてこそいますが、作戦能力を付与するのは流石に無理だったので、そちらは別途対策が必要になります、話の流れ的にも水中用MS対策の方が需要があったとは思うのですが申し訳ありません、コレは取り敢えず地上と宇宙で使う分の機体と考えてください」
「空中戦はどうなんだ?」
「現在、MS向けの空中移動装置として、サブフライトシステムという名称でMSを乗せて活動する大型機の開発が進んでいます、基本はそれに乗り込んでの戦闘になりますが、基本的に航空優勢はこのサブフライトシステムに乗ったMSと銀鷹の連携を前提として確保できる目算であります」
「ふむふむ…………まぁいきなり何でもかんでもを求めるのは酷だし、取り敢えずジンに対抗できるだけでも良しとするべきだな………………宝一君、至急この機体を量産ラインに載せ、教導部隊となるMS部隊を地上、宇宙の両方で新設、急ぎ量産、戦力化体制を整えてくれ、また、制式仕様が完成し次第、製造ラインは順次制式版に切り替わる前提で進めるように、制式版導入を前提にするなら製造ラインは構築は多少遅れても構わん」
「了解しました、会議後に早速関係各所へ働きかけます」
「それと上田君、さっき話しにあったユーラシアの電力輸出交渉に関してだが、電力会社側が根を挙げないギリギリの量を多少安くしてやった上でユーラシアに売るようにしてくれ、ユーラシアの民間人に多少恩を売りに行ってもバチは当たらんだろう。」
「政府側には期待しないということですね、了解しました」
「さて、次の話だが…………………………………………………」
会議は続く、時に踊り、時には一直線に進み………………寝る間も、食事を摂る暇も惜しんで尚も進められてゆく…………………………
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早朝から官邸で始められたこの日の会議は、一度に多数の議題を処理したこともあり日が沈んでも尚続けられ、ついに終了して解散となった頃には最早時計は次の日に進まんとしていた。
「やっとこさ終わったか、これで少しは動きが加速してくれればいいが……………」
会議に呼ばれた者達がようやっとの想いで帰宅してゆく中、首相官邸の主は独りごちる。
「情報員がホンボシ一番を挙げれれば話は楽になるんだが……………ナーウィシアとウィルキアの方でも影すら掴めてないらしいし期待するのは酷だな…………」
「それにしてもナーウィシアは軍備面大丈夫なのかね?確か遠隔操作兵器が総戦力の3割近くを成してた筈だから、ニュートロンジャマーで機能不全不可避と考えると相当本土防衛に問題が積まれてる筈だがなぁ…………あの嬢ちゃん達、元気してるといいが…………」
遠く南極の方をぼんやりと見つめる義照、2年前、ナーウィシアの地にて故あって現地では合法だからって色んなものをすっ飛ばして政治家どころか大統領になってしまった齢二十歳に満たぬ青髪の少女と、正行博士の教え子としてナーウィシアで核融合炉の先駆者として活動する「巨人」と呼ばれた少女、その他ナーウィシアの最前線で活躍する若き国政関与者達の事を心配しつつ、彼の夜は更けてゆく。
その一方、日本から遥か離れて南極点、その程近いところに位置するナーウィシア共和国首都、アムンゼン・ポリスでは、ちょうど義照に心配されていた若き人々によって、また幾つかの大きな動きが起こらんとしていたのである。