【短編】私がユウリとマリィのお嫁にされるまで 作:ウルハーツ
私には目標がある。私の住むこのガラル地方のチャンピオンで、幼馴染のお兄さんでもあるダンデさんを倒してチャンピオンになる事。何度もテレビや配信で見るリザードンとのコンビネーションに『無理だ』って思ってしまうけど、その度に思い出す。あの約束を。
『お姉ちゃん!』
『ん? どうしたの?』
『私、大きくなったらお姉ちゃんと結婚するっ!』
『あはは、可愛いなぁユウリは。ふふっ、それじゃあもしユウリがチャンピオンになって、私に彼氏が居なかった時はお嫁に貰ってもらおうかなぁ~』
子供の頃の約束。あの頃はお互いの性別なんて気にもしていなかった。ポケモントレーナーになった頃にはあの頃よりも分別がついて、それが普通では適わない事だって事も知ったけど……私は諦めていない。チャンピオンになってしまえば、ガラル地方ではきっとそれなりに我儘も通せる様になるから。
『この人は、私の最愛の人です!』
『ユウリ……迎えに来てくれて、ありがとう』
あぁ、想像するだけで心が跳ねる。あの観客溢れるスタジアムで一回でも大々的に宣言してしまえば、お姉ちゃんに変な虫が付く事だってなくなる筈。
でも、大きな問題が一つ。お姉ちゃんに
「待っててね、お姉ちゃん♪」
「っ!」
「どうしたの? 急に震えて……寒い?」
「ううん、大丈夫。それより、そろそろ行くんでしょ? ジムチャレンジへ」
私はこの街で知り合った妹の様な存在を送り出す。親の都合で引っ越した先、スパイクタウンで出会ったのは年下の女の子。少し大人びているけれど、年相応だったその子に以前住んでいた街で仲の良かった同じく妹の様な女の子を思い出して……気付いたら頻繁に接する様になっていた。
お兄さんはジムリーダー。目標はチャンピオンになる事。重圧と夢を抱えながら、寂れつつあるスパイクタウンを思って茨の道を進む覚悟をした彼女を私は応援してあげると決めた。でも、もしかしたらあの子と彼女は同じチャレンジで戦う事になるかもしれない。ううん、今年が確かポケモントレーナーに成れる年だった筈。もう1人の弟みたいな子はお兄さんがお兄さんだから、きっと……。
「約束、忘れて無いよね?」
「約束?」
「はぁ……まぁいいや。……時が来たら、嫌でもわからせてやるけんね」
約束……彼女とはそれなりに長い付き合いになったけど、何かしたかな? そういえば前の子とも何か約束をした気がするけど、思い出せない。あんまり食い意地が張ったりする性格じゃないから、何か食べたいとかじゃないと思う。そもそも、約束って何を果たした時の話? やっぱり、チャンピオンになったら? それだと、大体の事は自分で解決できそうだけど。
「ねぇ、約束って」
「それじゃあ、行ってきます」
「え? あ、うん。行ってらっしゃい!」
確認する前に彼女は街を出てしまった。帰って来てから聞いてもきっと問題はない、よね?
「それで? 君達は何処へ行くつもりなのかな?」
「ギクッ!」
「あ、
「はぁ。うん、分かるよ。この街の未来もあるし、純粋に応援したいって気持ちも。だけど忘れないでね? 変な事をすれば、街は勿論ジムリーダーのネズの顔に泥を塗る事になるんだから」
「は、はい!」
「承知しております!」
ジムチャレンジに向かった彼女の後を追い掛けようとする男女数人。自らをエール団と自称して、応援をしようとしていた彼らはその方法に問題があった。まぁ、まだ迷惑を掛ける前だったから、方法を聞いてとにかくお説教したんだけどね。他のジムチャレンジャーを邪魔するとか、最悪街のシャッターを閉めてジムリーダーと戦えなくするとか、そんな事をしたら街の印象は最悪。しかも彼らの正体はジムトレーナーだから、ジムリーダーの印象まで悪くなる。もしそれで彼女がチャンピオンになっても、傷つけられるのは彼らじゃ無くて彼女の方だから。
態々私に敬礼してから街を飛び出していったエール団を見送る。そして彼女が居なくなったら、それだけで私に出来る事は一気に少なくなる。
「明日、久しぶりに顔出しにいこっかな~。今はブラッシータウンに居るだろうし」
「あんたもジムチャレンジャー?」
「うん。ユウリだよ。貴女は?」
「マリィ。言っとくけど、チャンピオンを倒すのはマリィだから。大事な約束があるんだ」
「私も、絶対に負けられないんだ。約束を果たす為に。……私達、似た者同士なのかもね」
「そうかもっちゃけど、譲るつもりは無いったい」
「う、うん。……方言?」
「何か、こっちの気分やけんね」
翌日
「ふぅ。ありがとう、帰りもよろしくね?」
黒い毛並みを撫でると、アーマーガアは嬉しそうに鳴き声を上げてから空へと飛んで行く。そらをとぶタクシーは本当に便利だよね。結構昔からあるけど、数年近くスパイクタウンから出て無かったから凄く懐かしい。何か私を見た途端にアーマーガアが若干喜んでた様な気もするけど、多分気のせいだと思う。
「う~んっ! 陽射しの下って、結構久々かも?」
スパイクタウンは屋根の下に街が細く長くで広がってるから、外に出ないと陽射しを浴びる事は出来ない。そういう意味でもあんまりいい印象を抱かれない街なんだよね。確かにエール団とかは危なそうだし、ジムリーダーも少しネガティブ思考だし……マリィはよくあそこで純粋に育ってくれたなぁ。
「ん? 貴女達も陽射しを浴びたいんだね。良いよ」
鞄の中で何かが動いたのに気付いた。それは私の持つ2つのモンスターボール。陽射しの下に居る事に気付いたみたいで、私と同じ気持ちになったみたい。両方を取り出して解放してあげれば、光の中から二匹のポケモンが姿を見せる。
『……』
『~♪~』
サーナイトとチルタリス。それが私の所有するポケモン。サーナイトは静かに陽射しを浴びながら空を見上げて目を閉じていて、チルタリスは大きなフワフワの羽を広げながら嬉しそうに鳴いている。で、大体この後は決まって空を一周大回りに回った後に……私の元へと飛び込んで来る。
「わぷっ! ふぅ、よしよし。ありがとう、サーナイト」
『……』
優雅にお辞儀をするサーナイトにお礼を言いながら、顔を胸に擦りつけて来るチルタリスを撫でる。その大きさのまま突撃されると、人間である私の身体は耐えられない。だけどサーナイトがぶつかる寸前にチルタリスの勢いをサイコキネシスの要領で抑えてくれるので、後は抱き止めるだけ。チルットの頃から甘えん坊なんだよね、この子。♀だけど。
『……」
「ん? ほら、おいで」
そしてそれを見ているサーナイトも少し羨ましそうにこっちを見つめて来る。この子は物静かな感じだけど、少し寂しがりなや一面があるから。ラルトスの時に親と逸れちゃったみたいで、一緒に探してあげてたんだけど……結局見つからないまま、気付けば自然と私のパートナーになってたんだ。物静かで常に一歩後ろを歩きながら、尽くすタイプ。良いお嫁さんになれるよね。
「ふぁ~。何か、眠気が」
『♪』
『……』
「うわぁっとと。何して……あぁ~」
不意に出た欠伸。陽射しの下で抱き合ってたら、暖かくなってしまったのかもしれない。そう思って呟いた瞬間、サーナイトが身体を動かして自分の膝に私の頭を乗せる。しかもチルタリスは私の上に羽を広げてふかふかの羽毛布団みたいになって……これ、不味い。
「友達、に……会いに……ぁ」
目的があってここに来たのだから、寝るつもりは無かった。だけどそんな私の抵抗を無力化するみたいに、サーナイトの
睡眠どころか、熟睡させる気がこの子達。もう……駄目、意識が…………。
「うぅ。さっち約束を果たすには、まだまだ強くならんと」
「マリィの約束って、どんなものなの?」
「別に、ユウリには関係ないと」
「えぇ、気になる~! 勝ったんだし、教えてよ!」
「むぅ……すいとー人が居るったい」
「すいとー? 好きな人って事!? え、どんな人どんな人!」
「しぇからしか! マリィはチャンピオンになったら、その人と付き合うったい!」
「へぇ~、そっか~。……本当に私達、似た者同士だね?」
「? ユウリも?」
「うん。約束したんだ……私がチャンピオンになったら、結婚するって」
「お互い、負けられない理由がある」
「そうだね。例え同じ目的を持つライバルでも」
「いや、これどうなってんのよ? はぁ、ちょっと忘れ物を取りに帰っただけなのに」
『~♪~』
『……』
「すぅ……すぅ……」
「久々に顔を見たと思ったら外で呑気に寝てるし。って、サーナイトはそんな睨まないでよ。何もしないって~!」