果ての星から通信『モスリ支局の日々』   作:幻の犬@旧名は赤犬

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「大概の星は一代限りだけど稀に卵を孕んで生まれる星があるの。それを増やしてるんだよ」
おしえて、フィッツィーせんせい。宇宙花火について


買い出し

 モスリ支局に小さな仲間が加わってはや3日。ちょっとした?変化とそれに伴って発生したあれこれによる混乱もだいたい収まってきたある日のことだ。

 いつものように食堂で朝食をとっていたウヌイはロロミナの提案に首を傾げた。

 

「買い物ですか?」

「そうよ。たくさん買うことになるかもしれないからついてきてほしいの。貴方、今日は週末で休みでしょ?」

 

 突然の話にウヌイは目をパチパチさせる。とはいえロロミナのほうも呑んでくれればラッキー程度のつもりなのだろう。他に予定があるなら無理にとは言わないけど、と付け加えた。

 

「構いませんけど……」

「よかったわー。最初はここに慣れさせるついでも兼ねてマルコに頼もうと思ってたんだけどね、フィッツィーに先を越されちゃったから」

 

 ロロミナが語ったところによると、マルコはフィッツィーにくっつく形でホルシェ8に宇宙花火を受け取りに行くそうだ。なるほど、管理局やその仕事に早く慣れさせるなら、確かに買い物よりもあちらに行った方がいいだろう。

 

「じゃあやっぱり買い物の方は僕が付き合いますよ。それはそうと、僕らも行き先はホルシェ8でいいんですか?」

 

 宇宙港と星についての博物館として知られる巨大宇宙コロニー、ホルシェ8。しかしそれは表向きの顔である。その本当の目的はモスリ支局への物資支援。管理局とは別に、宇宙に何らかの貢献をするために作られた星や施設もまたこの宇宙にはいくつもあり、ホルシェ8もその一つというわけだ。

 なのでモスリ支局員が買い出しをするときにはまずここを頼るのが普通なのだが、ロロミナは首を横に振った。

 

「普段ならそれでもいいんだけどね、今回はイザンタ星に行くつもりなの」

「イザンタ……。色んな機械の部品作りで有名な加工業の星でしたっけ」

「ええ。買う予定の物がそういうのなのよ」

「そういうの、ですか?」

 

 一般的な物なら日用品から資材の類まで、大抵のものはホルシェ8で手に入るにも関わらず、わざわざよその星まで探しに行く必要があるとはどんな物なのだろう。

 ウヌイが尋ねると、ロロミナはきょろきょろとあたりを見回してマウーの姿がないのを確認してから、いつもより小さい声で話し始めた。

 

「 この間のロノウトギ星人の宇宙船。修理した局長によると船のネジがなくなっていたのが故障の原因だったらしいの。それがちょっと珍しいタイプのネジでモスリの備蓄もあまりないものだったから、修理に使った分を買い足しておいてほしいって頼まれたのよ」

「なるほど。でも……」

 

 そう言って、ウヌイはふと首を傾げた。気のせいかもしれないが、ロロミナの言い回しの中におかしなものが混じっていることに気づいたのだ。

 

「ネジが消えた(...)んですか?壊れた、とかではなく?」

「局長がロノウトギ星人の代表から聞いた話ではそうらしいわ。宇宙船の外壁には傷一つなかったのに、内部の計器のネジだけが、ごっそり跡形もなく消えていたんですって」

「それはまたおかしな話ですね……と、ご馳走様でした」

 

 空っぽになった食器を載せたトレーを指定の場所に戻して、ウヌイは食堂をあとにした。一度ロロミナと別れて自室に戻ると手早く準備を済ませて共用広場で合流する。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 広場の中心、四角形に建てられた4本の柱の中にウヌイが立ち入ったのを確認してロロミナが柱につけられたボタンを押すと、ウヌイたちを囲むようにして床に六角形の光が走り、続いてパキパキと音を立てながら立ち上がった壁が六角形の部屋を形成した。モスリ支局が唯一持つ他星への移動手段、星間エレベーターが起動したのだ。

 惑星や宇宙コロニー間を繋ぐワープ装置の類は珍しいものではないが、モスリ支局の、より正確には管理局の特製星間エレベーターの性能はそれら一般的なワープ装置とは明確に一線を画していると言っていいだろう。何せ超空間を使用することで、何万光年の距離を数秒で移動できてしまうというとんでもない代物だ。管理リストにある星にしか行けないという制約はあるが、これを欠点と呼ぶのは酷だろう。

 

「そういえば僕イザンタに行くのって初めてです。ホルシェ8以外に買い出しに行くにしてもだいたい市場の星(ルイナウ)で済ませちゃうし、遊びに行くならカヤンとかあるし」

「まあ、普通はそんなものなんじゃないかしら?あたしだって、名前だけは知ってるし興味もあるけど行ったことがない星なんて数えきれないくらいあるもの」

「そうなんですか?行商人なんてしてるのに?」

「行商人なんてしてるのによ」

 

 そんなことを話しているうちに目的地に到着したらしい。形成されたときと同じ音を立てながら、星間エレベーターが消えていく。帰るときには通信機から指示を飛ばせばいいから便利だなぁなどと考えながら、ウヌイはあたりを見回してみた。

 ウヌイたちが出てきたのは人気のない高台の繁みの中で、そして見下ろしてみると崖の下には小さな村が広がっていた。

 家はいずれも多角形に切り出した石材を組み合わせたドーム状で、外見的な違いは大きさだけのようだ。なにか理由があるのか色まで決まっているらしく、どの家も黒い石材かさもなければ黒い塗料が塗られている。そしていくつか見られる大きな建物には例外なく大きな天窓が設けられ、陽の光を受けて眩しく光っていた。

 

「あの天窓があるのが金属加工の工房よ。窓に特別なレンズを使ってあって、太陽の光を極限まで束ねて金属を加工するのに使えるだけの熱を生むんですって」

「へえー」

 

 そんな感じで雑談をしながら歩いていると、ロロミナが急に方向転換をした。そのまま一軒の工房に入っていくのを慌てて追いかけたウヌイを出迎えたのは、いくつもの作業機械が金属を加工する稼働音と硬いもの同士がぶつかる衝撃音、そして工房内のうだるような熱気だった。

 

「うわぁ」

 

 工房の中はそれなりの面積があるはずだが、所狭しと置かれた様々な機械とその間を忙しなく動き回る従業員たちのせいでむしろ窮屈な印象を受ける。その割に狭苦しさも感じないのは天井が高いおかげだろう。

 全身を包むような熱気と騒音に思わず顔をしかめながらあたりを見回したウヌイは、工房の責任者と思しき男に近づくロロミナの後ろ姿を見つけると自分もそちらに向かった。

 

「こんにちは、親方。ちょっといいかしら?」

「おお?ロロミナさんか。久しぶりだなぁ」

 

 顔見知りなのだろう。ロロミナが気安い調子で話しかけると、男は鱗に覆われた顔を親しげに歪ませた。

 

「一年くらい前だったかしら。細かな部品の類を色々まとめ買いさせてもらったと思うんだけど、今日はその中のいくつかを買い足しに来たのよ。在庫、あるかしら?詳しい内訳はこれなんだけど」

「どれどれ?……ああ、これなら倉庫に残ってるので充分だな。待ってな、今持ってくるよ」

 

 そう言って男が奥に立ち去るのをなんとなく見送ると、ウヌイは改めて工房の中を見渡した。具体的にどういった用途で使われるものかは見当もつかないが、大きな音を立てながら休みなく動き続ける大型の機械という物は、見ているだけで面白いものだ。

 動き回る従業員たちの邪魔にならないよう気をつけながらあちこち見て回っていたウヌイは、ふと工房の隅に置かれている物をまじまじと見つめた。錆の浮いた金属製のそれに見覚えがあったのだ。

 

「あれ。あれってホルシェ8にあった調律機械じゃないですか?たしかチューニングハンマーとかっていう名前の」

 

 星の卵は無数の小さな卵の塊として生まれてくるため、そのままでは花火に出来ないのでバラバラにほぐす必要がある。ホルシェ8ではその手段として共鳴音を使っているのだが、過去にはその音を出すのに巨大な宇宙ピアノを使っていたのだという。不便さを理由に宇宙ピアノが使われなくなった今でも、ホルシェ8には当時のチューニングハンマーが展示されていて、ホルシェ8に行くたびに目にしているから間違いない。

  

「あれは厳密に言えば、今ホルシェ8に飾られているのの一つ前かさらにもう一つ前に使われていた奴ね。元々この星で造られたものだったらしくて、古くなって使えなくなったのをここの先代が記念にって引き取ったんですって」

「へぇ」

 

 工房内の音に掻き消されないよう、気持ち大きめの声でロロミナと雑談をしていると奥からさっきの男が帰ってきた。手には一抱えほどある紙の箱を持っている。

 

「待たせて悪かったな。ほら、これだ。確認してくれ」

「そうさせてもらうわ。じゃあウヌイ、このリストを読み上げてちょうだい。私が確認するから」

「あ、はい。分かりました」

 

 うなずきながら受け取ったリストの項目を、ウヌイが一つ一つ声に出して読み上げ、ロロミナは箱に収められている部品を調べて抜けがないか確認していく。ウヌイから見れば違いも用途もよく分からない部品たちだが、ロロミナの手付きには一切の迷いはなく、作業は瞬く間に進んでいき、

 

「――で、カハロン星系独自規格ネジの小袋三つ……これで全部です」

「えっと……ああ、これね。いち、にぃ、さん。よし、三つあるわ」

 

 最後の一つまで抜けがないことを確認するとロロミナは箱を閉じ、次にカバンから財布を取り出した。

 管理局や大きく発展した星では電子マネーによる決済が通じるが、第8銀河全体でみた場合は例え開かれた星であっても、まだまだ現金を用いる文明のほうが多いらしい。なのでどこかの星に出かける際にはきちんと現金も持っていくようにというのは、ウヌイが管理局に来た当初ナナギが口を酸っぱくして教えてくれたことの一つだ。

 

(あと無駄遣いはするなとも教えてくれたなぁ。それも何度も)

 

 生来の好奇心の強さに加え特殊な事情を持つウヌイは、どうにも見知らぬものに弱い。今でこそだいぶマシになったが、管理局員になったばかりの頃は、外に出るたびに愚にもつかない物を買い漁ってきてはナナギやロロミナに呆れられていたことを思い出して苦笑する。

 

(二人ともお金に関してはすごくキッチリしてるもんなぁ)

 

 現に今もロロミナは工房主と激しい値段交渉を始めている。これは時間がかかるかも知れないなと思いながら、ウヌイはふとマルコはどうなのだろうかと思った。

 彼が局員になってからまだ数日。当然ながらウヌイはほとんどマルコと話せてはいない。というか、局員全員がというべきか。

 自分の状況をある程度は飲み込んだのか、露骨に壁を作るようなことはしないし、話を振れば普通に受け答えもしてくれるが、それでもこちらに対して心を開いていないというか警戒しているのが感じ取れるというか。

 

(『無理やり連れてこられたんだ、仕方ないさ。そのうち慣れてくれるだろうからゆっくりつきあってあげればいい』って局長は言ってたなぁ)

 

 今日フィッツィーに宇宙花火の引き取りについていかせたのもその一環なのだろう。そういえば自分も局員になって少し経った頃、ホルシェ8で星の卵のほぐれる様子の見学をさせてもらったことがある。

 

(あれはすごかったなぁ。直接見たのはあのとき一度きりだけど、今でもはっきり思い出せるもの)

 

 深い深い空のプールの底。見上げた先には何十万何百万もの星の卵が、映像資料でみた魚の卵のような塊状のまま吊るされている。

 何十人もの作業員がクリスタルボゥルで奏でる共鳴音が体の芯まで揺らすように響き渡り、それにつられてほどけ出した卵たちがバラバラと雨のようにプールの中に降り注いで。色とりどりの豆粒ほどの星の雨の中で傘をさせば、卵たちが発する、色と同じくらいにたくさんの澄んだ音に包まれる。

 色の洪水と音の奔流とでも言えばいいのだうか。まるで自分が世界の中心にいるような、星の流れ。どんなに言葉を重ねても言い表せそうにない程に神秘的な光景だったのを覚えている。星の誕生に関わる管理局員じゃないと見ることができない、知ることもできなかった景色……。

 

(あれを見て、宇宙を作る手伝いをする管理局の仕事自体は悪いものじゃないってマルコさんも思ってくれればいいんだけど)

 

 とりあえず帰ったら、マルコにホルシェ8に行った感想を聞いてみよう。できればお茶やお茶菓子も用意して。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、ウヌイはロロミナの値段交渉が終わるのを待つのだった。




イザンタ星人
爬虫類から進化した低温に弱い種族。惑星イザンタは平均気温が低いため、イザンタ星人の住居は効率よく太陽光を吸収し熱を保つ材質でできている。建物の色が基本的に黒なのも同じ理由。
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