できたよ先生。生徒がとびっきりの悪夢を見る装置だ! 作:フォトンうさぎ
それはいつもの日課である、キヴォトス市街のパトロール途中に起きたことだった。
地面が熱を帯び、日差しが強くなっている初夏。守月スズミは、愛銃といつも持ち歩く閃光弾のチェックをしっかりと行ってから、明るい街中へ出た。
パトロールには似合わない待ち合わせ場所には腕時計を見ている先生がいて、冷たさを思わせるようなスズミの表情が少しほころぶ。
先生、と声をかけられた細いフレームのメガネをかけた男性はすぐ彼女に気づいて、やぁと小さく手を振る。
学園都市キヴォトスの外からやってきた大人である、先生。彼は時折、スズミと共にキヴォトスのパトロールをすることがあった。
初めはキヴォトスの生徒より貧弱な体を持つ者が、一緒に行動することに不安を感じていた。
いつからだろうか。先生と一緒にいる時間が、スズミにとって暖かく心地いいものになっていたのは。
いつもの街、毎日少しずつ変わるルート。ちょっとずつ近づいたり離れたりしそうな、甘酸っぱい二人の距離。
その途中で、犬の姿をした老人から一人の不良が荷物を奪っていった。幸いにもその生徒はバイクや自転車ではなく自分の足で逃げたものだから、先生はスズミにひったくりの確保を命じる。
平和を維持する自警団として鍛えてきた彼女だ。追いかけてすぐにひったくりを捕まえたし、ちょうど近くにいた自警団にその身柄を引き渡した。老人の荷物を片手に下げて、スズミは走ってきた道を引き返していく。
あの角を曲がれば、先生はきっと褒めてくれる。先生に褒められるためにパトロールを行っているわけではないが、しかし『ありがとう』や『すごい』の言葉が嬉しくて。
優しく頭を撫でてくれるか、とそんな淡い期待を抱きながら、スズミは角を曲がって先生を見つけた。
「せん、せ――」
ぴくりとも動かなくなった先生が、物言わず倒れている。コンクリートの地面には、おびただしい量の血が流れている。どう見ても致命傷を受けている。
失念していた。先生は、キヴォトスの人が耐えられる銃撃が致命傷になることを。
油断していた。こんな明るい昼間から、堂々と暗殺など行われないだろうと。
いつからだろうか。先生とキヴォトスの平和を守るための行動に、ほんの小さな隙ができたのは。そんな小さな隙を突いてくる者なんて、この場所にはいくらでもいるはずなのに。
倒れ伏す先生にふらふらと歩み寄り、生ぬるい感触のする血だまりに膝から崩れ落ちる。
「あ、ぁ。せんせ、い」
自分が目を離したから? 先生が貧弱だから? 他に仲間がいなかったから?
理由なんてどうでもいい。どうすればいい、応急処置か、仲間を呼ぶか、安全を確保するか。
しかし慕う者が倒れている衝撃は大きくて、彼女の頭から思考力を急速に奪っていく。
スズミは震える手を伸ばし、熱を失った先生の体を揺らす。起きて、とかすれた声で呼びかけるが、返事は返ってこない。
「起きて、ください。先生。……せんせい、先生!」
かすれていた声がはっきりとした叫び声に変わっていく。手のひらがべちょりとした気味の悪い箇所に触れて、ゆっくりと手のひらを返して確認する。
真っ赤に染まった己の手を見て、地面に広がる同じ色だと気づいて。スズミは澄み渡る青い空に向けて絶叫した。
『ねぇ、映像止めて』
『どうしたんだい先生? まだ途中だよ』
場面がいきなり停止し、場所はいきなり変わる。
ミレニアムサイエンススクールに存在する、エンジニア部が使用している教室。そこで先生は、両手両足を固定されて椅子に縛り付けられていた。目の前にはモニタが存在し、血を流して倒れる自分の姿と、慟哭するスズミの映像を無理矢理見せられている形となっている。
「この映像、なに? 私が死んでいるんだけど……」
「先生の依頼の結果だよ」
はたしてどんな依頼をしたら自分が死ぬという事象を生徒に見せつけることになるのだろうか。
映像とは違う血色のいい顔の先生が、モニタとその隣に立つエンジニア部のマイスター、白石ウタハを交互に見た。
「先生、まだ理解していないようだね。この映像は、先生が前に依頼していた『状態異常対策訓練』となるマシンが見せた、夢の映像だよ」
モニタに出力されている悲劇のシーンを一旦切り、ウタハはため息交じりで説明を始める。
「寝ている人の脳に特定の音波や電気信号を与え、悪夢を見せる。そして脳内の電気信号を読み取って、映像として出力する。みんな安全性を疑ってたけど、『先生のためだ』と言うと快く引き受けてくれた」
気絶や恐怖などの厄介な状態異常。説明を受けて、先生はそういえば状態異常対策マシンみたいな感じのものを作れないか、エンジニア部に依頼していたなと思い出した。
その時の先生は恐怖の対策なら、ホラー映画などのワンシーンが流される程度の恐怖だと考えていたのだが。どうやらクライアントの要求を越えて暴走しがちなエンジニア部が見せた光景は、正気を失ってしまいそうな程のとんでもない恐怖のビジョンだったようだ。
「やりすぎじゃない……?」
「その通り、やり過ぎた。完成前にテストしたヒビキは2日寝込んだし、コトリはしばらく機械に触れることができなくなってたよ」
もちろん私も寝込んだ、と付け加えるウタハ。
「さて、先生。先生は訓練の結果を見届ける必要がある。各個人のメンタルケアのためにも、しっかりと視聴するように」
恐怖させてくれとは頼んだけど、そこまでしたのはそっちの責任ではないか。文句を言いかけた先生だったが、いつもとは違ってぞっとするようなウタハの有無を言わさぬ瞳の前に、震えながらこくこくと頷くしかなかった。
【後書き】
守月スズミ、ゲームの初期キャラとしては無類の可愛さを誇りますよね。
スズミはね、良い子で正義感や倫理観が強い子だから、キヴォトスで力のない人たちにとってヒーローとして目に映るんです。そう、正義の人・ヒーローなんです。
先生を最初からずっと慕って守り続けるんですけど、物語が進んでヒナやツルギのような強い子が仲間になっていって、だんだん力不足を感じてきちゃうんです。可愛いね。
それでも先生を守るために、彼女は陰で必死に射撃訓練やトレーニングを重ねるんですよ。健気だね。
でもね、ゲームで言うラスボスとの最終決戦前に、先生から「スズミは残ってみんなを守ってほしい」と戦力外通告されちゃうんです。先生と共に最終決戦に挑むのは、ホシノだったりネルだったりするんだ。あんなに訓練してきたのに、最後に先生の隣にいるのは自分じゃないんですよ。現実って無慈悲だね。
先生も意地悪で言ってないし、強い信頼で結ばれているスズミもそれをわかってるんです。この戦いが終われば、きっと先生と一緒にいられる。隣には立てないけど、いつかまた隣に立てるように頑張るんです。
最後の戦いに共に行けない。スズミは奥歯を噛み締めつつ、「わかりました」とだけ言うんだ。
先生が守りたいみんなのために、スズミは落ち込んでも気合を入れ直すんだ。敵の脅威からきちんとみんなを守るよ。
それで最後の戦いから勝利したみんなが戻ってくるんですけど、全員暗い表情で、ツルギが先生を背負っているんですよね。
スズミは先生とみんなが戻ってきたのが嬉しくて、すぐに駆け出すんですよ。でもなんか様子がおかしくて、走る速度が落ちてとぼとぼ歩く感じになって。
涙を枯らして表情が死んでいるツルギに言われるんですよね。「先生は疲れている。ベッドはどこにある」って。
そこでスズミは全てを察してしまって、頭真っ白になって、何も言えないし行動もできなくなるんですよ。先生への愛が爆発してますね、純愛だね。
自分がいれば先生は死んでなかったかな? 無理でしょう。だって自分より強い人がいて、先生を守り切れないんだから。
無力感は人を成長させる感情です。ここで大量摂取できるよ、やったね。
先生が守ってほしいと言っていたみんなは無事です。でもみんなの無事を先生は見てあげられないんだ。
本当はずっと隣にいたい。隣じゃなくてもいいから、せめて前を歩いていてほしい。必ずいつか追いつくから。
でも戦いが終わったら、スズミはいつの間にか先生を追い越していたんだ。
振り返ると先生の姿はどこにもなくて、でもみんなのためにスズミは泣きながら先へ行くしかなくて。でも子供は大人の元から巣立って成長していくものなんです。人生だね。
最終決戦が終わった後は、戦後の混乱や先生不在でまた少し小競り合いが発生するんだけど、スズミがきちんと止めてくれるんだ。彼女を始めとした心の強い生徒がシャーレを再びしっかりさせるんだ。
帰宅したスズミは死んだ目をしていてもきちんと装備の点検をするんです。ある日には先生がいないことを再認識して、涙で枕を濡らしたりするんですよ。こんなに思われてるなんて先生は幸せ者だねっ。
先生が守りたかったものを守っていく、覚悟ガンギマリの守護者誕生です。みんなの味方である優しいヒーロー誕生だよ。やったね先生、傷つく人が減るよ。
そしてヒビキとコトリ。んにゃぁー、お胸ぷにぷにさせてくれヒビキぃー。おなかぷにぷにさせてくれコトリぃー。お礼に冷たく固くなった先生の体を触らせてあげるからぁー。
ウタハの華奢な細い体を抱きしめたい。お礼に大人のカードの使い過ぎで後遺症が残った細い先生の体を抱きしめさせるから。
事故で先生が死んじゃったら、ヒビキは過呼吸起こしてから倒れそうだし、コトリはかん高い声で泣き叫びながら先生だったものに駆けよるんでしょうね。
ウタハは何が起こったのかわからなくて、飛び散っている先生のパーツを見てるだけなんだ。でも一番早く冷静に戻るのはウタハで、ガタガタ震えながら端末を操作して外部に連絡するの。
ベッドの上で目を覚ましたヒビキは「夢……?」と胸を撫でおろすんだけど、近くに座っている死んだ目のウタハと震えて泣きじゃくるコトリを見てまた絶望するんだ。
それでね、彼女たち3人の誰かの責任にしてしまうと先生悲しいから。事故の原因は3人によるものじゃないとベネ。できれば何者かが仕掛けていたイタズラが、不幸な方向に作用しちゃったとかだとイイデスネ。
ユウカやモモイが3人のせいじゃないと慰めるんだけど、安全確認をもっときちんとしていればと一生後悔するんです。
失敗は成功のもと。とびっきり大きな大成功のために、取り返しのつかないとびっきり大きな大失敗をね! 今後の彼女達の開発は、安心安全な信用できる構造になることでしょう。ヨシ!