許せ………
夢。夢。夢。夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢―――――
この世の全ては夢じゃないのか。いや、或いはそもそも
誰もかれもがこの疑問を見失っている。今見ている景色は全て偽物かもしれない、そう言う恐怖を持たなければいけない。
そう―――だからきっとこれもまた質の悪い悪夢か妄想なのだ。
「どうしたんですか?」
ノレアが貴方に語り掛ける。貴方は彼女を見向きもせずただただ首を垂れる。その右手首には手錠がはめられていた。
「………また逃げ出そうとか、思ってたんですか」
その言葉を聞いて貴方は何の返答もしなかったのは悪手だった、そう判断した。こうなった彼女はもう止まらない。少なくとも、貴女はこれを止める手立ては知らなかった。
「……嫌」
彼女がぽつりと呟いた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
彼女は貴女を見下している。貴方は見上げなかったが―――たぶん、彼女の瞳は黒く濁っているのだろう。
「貴方が見てくれないなんて、嫌。他の女を見るならそいつを殺すし、それが駄目なら何が何でもなり替わります。それと同じ―――貴方は絶対に手放さない。絶対に絶対に手放しません」
彼女の細い手が貴方の顎を撫で、ゆっくりと首へと流れる。
「でも、貴方を殺したくない。殺してしまったらそれだけだし」
彼女の両手がゆっくりと貴方の頬に添えられる。
「それに――――死ぬのは怖い」
冷たい外気が貴方を撫で、暗い瞳が貴方を見つめていた。
死ねるなら、どれだけいいだろう。少なくとも今の貴方はこの自由のない束縛を嫌っていた。
失って初めて気付くことができる物は、貴方の周りのその全てであった。幼い頃から心にぽっかりと空いた穴を埋めようとして―――今しがた貴方はようやく気付けたのである。少なくとも、心に空いた空虚な穴はもう埋まっていた。
彼女は己を殺さないと言った。だが、己はどうだろうか。自死を選んでしまえば、それまでだ。彼女へのささやか復讐心は、やがて己の中でぶくぶくと膨れ上がり始めた。
卑しい卑しい思考は、だがしかし己を縛り付ける彼女へ送る叛逆の糸口となるのだ。
暗い部屋に、くつくつと嘲笑が木霊する。奴が、アイツが死んだ己を見たらどうなるだろう。それはさぞかし面白い顔が見れるのではないか。
そうと決まればもうどうなでもなってしまえ───貴方はただ、そんな愚かな考えを持った。というより、持ってしまった。
口の中に血の味が広がる。鉄のような、なんだかまるで錆臭い匂いが口の中を埋め尽くす。貴方はとうとう気持ち悪くなってきたせいで、それから───ノレアの首から口を離した。
結論から言うなれば、貴方の目論みは失敗に終わった。彼女を傷つけ殺そうとしたならば、己を殺し、その自責の念が彼女にとっての呪いになるはずだった。
それが、何たることか! 今眼前に横たわり、首から少しずつ血を流している彼女は、恍惚とした表情を浮かべ、その体を時々痙攣させているではないか。
貴方は小さく悲鳴をあげようとして、それをすんでの所で呑み込んだ。こいつは狂ってる。いや、壊れている。もうマトモじゃあない。
「ふは、ふふふふ。くふふふ……はぁっ………そんなにがっつかなくても大丈夫ですよ」
彼女は語る。
「知ってましたよ。それくらい。私に殺意を持たせて、殺させて、それで私を苦しめようとしたんですよね?」
「意味ないですよ、そんなの。私は貴方を殺しても良いし貴方に殺されても良いんです。ねぇ、だから諦めて一緒に暮らしましょう。子供を作って、快楽に身を任せて───」
───一緒に堕ちましょう?
いやほんとマジ遅くてすんません。
思ってたよりアクセス伸びて、緊張しちゃってて…