水星の病んでる魔女   作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ

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直近の一つの感想に自信を貰いました。
お陰でエンジンがかかったので、また頑張ってみます!


ニカ・ナナウラの衝動的独占欲

 衝動的な欲求というのは面倒なもので、例えば何か一つの物事に集中していると、それはすぐに出て来る。

 

 少なくとも、貴方はそういう人間だった。パイロットスーツに身を包み、コックピットに座ったりすると、何処からともなくソワソワし始める。

 

 極度の集中状態に居ない限り、少なくとも貴方はこれを回避する方法は知らなんだ。

 

 それは彼女にも言えることだ。突然授業中に電話をかけてきたり、かと思えば、休み時間になってどこからともなく後ろをつけてきたり。

 

 先日の傷害行動といい、彼女には、どこか得体のしれぬ狂気があった。

 

 ――――――それを、見て見ぬふりでいるのは、何故だろうか。

 

 やはり、心のどこかでそれに満足しているのか。そうやって、歪な形でも何かを求められるのを期待して、だから今もなお悶々と悩んでいるのではあるまいか。

 

 しかし、貴方はそれを理解した上で悩み続ける。何となれば、それはたった一つの自己欺瞞に過ぎないからだ。己は気づかぬ、気づいておらぬを貫き通し、真実から目を背ける──少なくとも、貴方はそれに気付きたくはなかった。

 

 それは真実、儚い望みであったのかもしれない。けれど、どうしてだろうか。貴方は心の奥底に、やっぱり何故か黒くどろどろとした物が溜まっているのを理解した。それはそう、彼女が──ニカ・ナナウラがあれ程までに自分を求めておいて(全くもって深い意味は()()()())他の男になびいているのを考えると、怒りが込み上げる。分かるとも。分かっているとも。貴方とて男だ。鈍感でもない男なのだ。己が心中を渦巻く感情が嫉妬であることなど等に分かり切っている。

 

 つまり──()()()()()()()()()()()()()()()。貴方は被虐趣味者ではない。痛めつけられて興奮するような人間では無いし、かと言って加虐趣味者でもない。貴方はただ──そう、愛に渇望していただけなのだ。別段親が居なかったわけでもない。構ってくれなかったわけでもあるまい。しかし、他者からの愛とは正に劇薬媚薬の類であって、それは正しく貴方へ作用した。

 

 一度それを味わえば最早味合わぬなどと言う選択肢はない。即ちそれこそが執愛の始まりであり、貴方もまたそれに巻き込まれたのだ。

 

 つまるところ、貴方は決断せねばならなんだ。彼女を受け入れ、歪な愛を成就させるのか、或いはもはや形骸化してしまった己が理性に従うのか。目の前のパイロットモニターは何も答えない。けれど、そこには貴方の顔がうつっていた。青白くも何ともない、至って健康な顔色肌色である。

 

 だが、その普遍こそがやがてやって来る異常を知らせていた。

 

 途端に、空気の抜ける音と共にコックピットハッチが開く。貴方が開けたのではない。つまりこれを開けたのは──。

 

「や!」

 

 そこには、青い瞳をした彼女がいた。

 

 

 

 彼女をみると、息が詰まりそうになる。けれど、貴方は向き合わなければならない。それが貴方の権利と義務である限り、向き合わなければならぬ。

 

「何の用だって? そんなの君に会いに来たに決まってるでしょ?」

 

 彼女はそう言って、コックピットへ入り込む。貴方はそれが何だか恐ろしくて、後ろへ行こうとするが、ここはコックピットであった事を思い出し、それが無駄であると悟った。

 

「ね、ね。私さ、一つ、誰にも教えてない秘密があるんだ」

 

 彼女がパイロットシートに座っている貴方に、馬乗りになる。しっかりとした重さを感じて、これは夢でも何でもなく、ただ一つの現実である事を貴方は再認識した。

 

「私、テロ組織のスパイなんだ。地球寮のみんなには黙ってる。みんなを騙してる──」

 

 彼女が──彼女が、俯いていく。家族の様な仲間を裏切っているが故の後ろめたさを表現しているのか──はたまた、貴方に対しても本気で合わせる顔がないと考えているのか。貴方には分からなんだ。何より、何か物事を考えられぬ。目の前の彼女に──貴方は、ニカの魔性に魅入られていた。

 

「─でもね、ふふ。何でだろ。君になら話してもいいかなって思えたんだ」

 

 ゆっくりと、彼女が頭を上げてきた。彼女の両腕はいつの間にか貴方の首に回っている。周囲の音が、何も聞こえなく──否、ニカの声だけが貴方の鼓膜を震わせている。

 

「私、あなたが好き。秘密も全部何もかもを打ち明けて、それでもまっさらな私を知って欲しいって思うくらい」

 

 彼女の顔は──いつもと変わらない、にっこりとした笑顔を浮かべていた。けれど、彼女の瞳の中に映る貴方の顔色は、酷く生き生きとしていた。

 

「ね、だからさ、良かったら一緒に堕ちよう? そしたら私、もっと頑張るから。昨日の夜なんかより──ね?」

 

 決して。決して、己が獣欲に負けたが故に彼女の手を取るのではない。貴方は、ただ確固たる自己の意思で、彼女にキスをした。

 

 それは、明確な快諾を示す行為だった。彼女は、くすくすと笑いながら、にっこり笑って、黒く濁った瞳を貴方に向けながら言い放った。

 

「私だけ、見ててね!」

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