【完結済み】Run from Mariage 〜逃亡中〜 作:とある物書きMr.R
『左右田トレーナー、スーパークリーク、タイキシャトル エリア縮小により失格』
「ッ! ……左右田さん」
一斉メールに記載されていた左右田失格の報。しかし宮本の動揺は僅かだった。残り時間が10分を切った今、自失したまま確保されるのは、あまりに惜しいからである。
(左右田さんもそうですがスーパークリークさんもタイキシャトルさんも座学が苦手なんて聞いたことがない。そんな人たちが3人も失格? まずありえない……
となると、ミスじゃなくてわざと残った? まさか、スーパークリークさんとタイキシャトルさんを道連れに!?)
結論に至った宮本は拳を握りしめた。負けられない理由が、また一つ増えたからだ。
「左右田さんのためにも、このゲーム、負けられない!」
本校舎3階に身を潜める宮本。生き残ることはできるのか?
※※※※※
既にトレーナー棟周辺エリアおよび体育館周辺エリアが封鎖された現在、残されたエリアは本校舎周辺およびグラウンドだが、そのグラウンドも間もなく閉鎖されようとしていた。
「あと3分以内に本校舎の辺りに行かなきゃマズいのか……どうしよう」
先のミッションで復活に成功したトレーナー、南条は、グラウンドの隣に設置されているトレーニングコースを見下ろす客席にいた。
彼がこの場所を選んだ理由としては、逃げ道が複数あることだ。コース側、客席後ろそれぞれに階段が設置されているため、どこからハンターがやってきたとしても反対方向に逃げられる上に、階段の上り下りで時間を稼げる。
その上に見晴らしもかなり良いため、南条はハンターが活動を再開してから今に至るまでの10分以上の時間で、2回もハンターをやりすごすことに成功していた。
「……決めた。時間ギリギリまでここで粘る」
南条の現在位置からエリアの境界までの距離はおおよそ70メートル。全力で走れば10秒もかからずにたどり着ける距離ではある。問題は、全力でのダッシュは派手に足音を響かせ、ハンターを呼び込む可能性がある事だ。
しかし南条には勝算があった。
(全力ダッシュは相当に足音が響く。地面もアスファルトだし。でも、残り時間1分未満までこの辺りを張ってるのは他のトレーナーを逃がす事になる。
いるかどうかも分からない居残りトレーナーと、校舎内に確実に隠れてるトレーナー、俺だったらとっとと見切りをつけて後者を探しに行くね。校舎だけに)
……遠くの方でエアグルーヴのやる気が下がった気がする。
そして数十秒が経過し、いよいよ制限時間まで残り1分。
(いや、まだ我慢だ)
残り30秒。
(焦るな、もう少し粘るんだ)
――残り、20秒。
「今だ!!」
南条は動いた。
身を潜めていたイスの陰から飛び出すと、観客席の後ろに設けられた階段を一気に駆け下りる。
階段の最後4段は飛び降りた。両足でしっかり着地し、間髪入れずに走り出す。
(よし、これなら5秒位残して安全圏まで行ける!)
好事魔多し。身構えている間はやってこない死神は、油断した瞬間にその鎌を振るう。
「やっぱりギリギリまで隠れてたんですね、トレーナーさん」
瞬間、南条の背中が総毛立った。振り向かなくても分かる。彼女が、スペシャルウィークが後ろにいる。
(まさか、読み切られた!? んなバカな!?)
漂白される思考。しかし身体は無意識にスパートをかけていた。
自分と彼女の距離はどれ位だ。
制限時間まであと何秒だ。
駆ける、駆ける、駆ける。
心臓はフル稼働し、肺は破れそうだ。でも、まだ足を動かせる。全力を出せる。
そうだ、自分はそもそも一度捕まった身。他のトレーナーが頑張ってくれたから今ここにいられる。
そんな自分が、ここで脱落するのか?
――否。
「……負けて、ッたまるかぁぁぁッッ!!!」
想いが叫びとなり迸る。地面を踏みしめ、南条はさらに加速した。
「!?」
驚いたのはスペシャルウィークである。両者の距離の減り方が、僅かとはいえ、確実にペースダウンしたのだから。
(トレーナーさん凄い! けれど)
あなたはヒトで、私はウマ娘で。
あなたはトレーナーで、私はアスリートで。
そして何より、あなたの愛バとして。
「私だって、――負けられないんだからぁぁぁッッッ!!!」
舗装された地面が割れかねない程の踏み込みは、爆発的な加速をスペシャルウィークにもたらした。あっという間に2人の距離が0に近づいていく。
全力での走りに頭が真っ白になっている南条とは違い、普段からレースで全速力で走りながら頭も使っているスペシャルウィークは、気が付いてしまった。
(あぁ、あと30センチ近かったらなぁ)
30センチ。例え脚を壊す勢いで加速しようとも、その距離を詰める前に彼はゴールのラインを駆け抜けるだろう。そして、自分は制限時間で失格になるだろう。
(それでも、そんなことは、諦める理由にはならない!)
彼と歩んだ3年間。負けた経験なんて山ほどあって、それでも自分が折れなかったのは、
(折れない心が大切だって、一番初めに、一番尊敬できる人から教わった!
その後のレースで、諦めなければ可能性はゼロにならないって実感した!)
「あああああああああああ!!」
スペシャルウィークは最後の力を振り絞り、残り30センチを埋めようとして――
Prrrrr!
南条の肩に手が触れる直前に、彼女のウマホが激しく振動した。
※※※※※
『スペシャルウィーク エリア縮小により失格』
「ハァッ……ハァッ……」
「ハァッ……ふぅぅ……トレーナーさん、速かったです。負けちゃいました」
「スペ……」
「あぁ……やっぱり悔しいなぁ……!
トレーナーさん、絶対に勝ってくださいね」
「……おぅ、任せろ!」
「もし負けたら、うまぴょい()しちゃいますからね?」
「いやまだ諦めてなかったのかよ」
残り時間、あと5分!
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