【完結済み】Run from Mariage 〜逃亡中〜 作:とある物書きMr.R
読んでくれる皆さまのためにも初投稿です。
残り時間 5分
(1秒が、長い……!)
トレセン学園本校舎の一角で、宮本は息を潜めていた。
5分。普段ならばそれこそあっという間に過ぎ去る時間である。電車を1本待つ間に、カップ麺が出来上がるまでの間に、業務中に、休憩中に。
状況が変わるだけで時間とはここまで長く感じられるものなのか。ここまで、プレッシャーに感じられるものになるのか。新鮮な体験でもあった。
(エリア縮小で失格になったトレーナーは左右田さん1人、対してハンターはスーパークリークさん、タイキシャトルさん、スペシャルウィークさんの3人。
今残っている2人を侮るつもりはないけれど、GⅠで勝てるあの3人が脱落したのは正直助かる!)
現状、残っているトレーナーは6人。対してハンターは2体。
しかし本校舎とその周辺に限られたエリアでは、ハンターに発見されれば、ほぼ確実に確保されるだろう。また、トレーナーが確保された場合に送信される一斉メールの着信音は、ハンターを呼び寄せる可能性もある。
その時
Prrrrr!!
「ッッ!?」
宮本は咄嗟に携帯を抑えた。思ったそばから一斉メール。誰かが捕まったのだろう。
……少し離れたところからも同じ着信音が聞こえた。案外近くにトレーナーがいたのかもしれない。
などと考えていた瞬間。
「あぁクソッ!」
毒づく声と、猛ダッシュする足音が2つ。近くにいた誰かが見つかったのだ。
「って待ってこっち来るの!?」
足音がこちらに近づいてくる事を悟った宮本は、その場から離れるのだった。
※※※※※
「なんとまぁ……」
少し離れた場所にいた南条は、瞬く間に3人が確保されたその一部始終を目撃していた。
・トレーナーAがハンター①に確保される。
・一斉メールで居場所がバレたトレーナーBがハンター②に追われる。
・逃げたトレーナーBの行先にいたのであろうトレーナーCが移動した先に、運悪くハンター①がいた。
最悪の負の連鎖である。
(残り時間は……あと3分ちょい、隠れに隠れてワンチャン狙うか? それとも、動きまくってハンターの後ろを取り続けるか……
見た感じ、ハンター達はバラバラに動いてる。ある程度距離を保てば、行けるんじゃないか?)
ハンターが2体だけになったからこそできる戦術ではあるが、そこまで思考が及んだ時、南条は思わず苦笑を漏らした。
(ある程度の距離? それができてたら今ここにいないってのは、一体何の皮肉かね?)
元をたどれば、担当であるスペシャルウィークとの距離感を間違ったため彼はこのゲームに参加させられたのである。そんな自分が、意味こそ違えどウマ娘との距離感について考えるのは、何かの因果を感じざるを得なかった。
(まぁ、今それを考えたところでどうにかなる話でもないか)
首を振って考え事を中断した南条は、とりあえず前方にいるハンターの後をつけ始めたのだった。50メートルくらい距離をとりながら。
※※※※※
残り時間 2分
「……」
物陰に身を潜めていた宮本は、自然に荒くなる呼吸と鼓動を何とか抑えようとして、そして失敗していた。
ここまで緊張する時間なんてそうは無い。トレーナー試験の合格発表の瞬間や、初めて担当したウマ娘のデビュー戦以来だろうか。
トレーナーになってからというもの、不定期に行われる適正診断や面談では常に良好と判断されていたし、担当ウマ娘のレースは人生がかかっていると言っていい以上当然緊張はするが、それだって事前にトレーニングを積んでから臨むため、担当ウマ娘を信じて送り出すのが常であった。
しかし今の自分はどうだ。いつやってくるか分からないハンターの影におびえ、聞こえもしない足音が常に頭の中で警鐘を鳴らしている。
ふと、宮本はそんな自分がバ鹿らしく思えてきた。
(ふふ、レースに向かう子達には色んな事言ってきたクセに、私がこんなんじゃトレーナー失格でしょ)
自分を、積み上げてきたトレーニングを信じて。
きっと大丈夫。
今日は絶好調、まず勝てるよ。
そんな言葉をかけられてきたウマ娘達は、バ場に向かう際に何を想っていたのだろうか。
こんな自分は、トレーナーとして、彼女たちが悔いのないレースを走れるようにできたのだろうか。
勝負の世界だ、出すレースの全てで勝たせてあげられるなんてありえないし、その日の調子によっては最悪2桁順位になることだってある。出走の際に出遅れでもしようものなら、最下位だってありえるのだ。
無論、多少調子が悪くて7割の力しか発揮できなかったとしても勝てるよう実力を上げるのがトレーナーの仕事だ。それでも、様々な理由で実力を発揮しきれずに、あるいはケガで選手生命を絶たれ学園を去っていくウマ娘を宮本も何人も見てきた。幸いな事に宮本がこれまで受け持ってきたウマ娘に学園を去った子はいない。しかしこれからもそうである確証はどこにも無かった。
(いけない、ナーバスになってる)
頭を振って気持ちを切り替えようとするも、一度浮かんでしまった悪い考えはなかなか消えてはくれない。
周囲を見渡し、ハンターの姿が無いことを確認した宮本は、息を吸い込むと、
バチン!
両手で自らの頬を張った。
(しっかりしろ私! これまでの反省は後でしっかりやれる! 余計な事を考えてて目の前を疎かにしてたらラヴちゃんに顔合わせられない!)
宮本にはある考えがあった。
南条トレーナーとスペシャルウィーク。左右田トレーナーとスーパークリーク・タイキシャトルのように、トレーナーの担当バがハンターとして出走しているケースがあった。そして露骨なタイミングで流されるウイニングライブの曲。
おそらく、ゲームの運営はウマ娘側の味方だろう。
そうなると、今自分の頭上にあるカメラが記録している自分の姿を、自分の担当であるクレイジーインラヴが見ていたとしても何らおかしくはないのだ。
(ラヴちゃんが見てる。なら、今さらかもだけどかっこ悪いところは見せられないよね!)
不思議なもので、そう思った途端に体の奥底から力が沸き上がるのが感じられた。燃えるようなこの気持ち。やる気がどんどん湧いてくるこの状態。
「案外、レース前のあの子たちも、こんな気持ちだったのかもね」
※※※※※
「その通りですよ、トレーナーさん」
コントロールルームでモニター越しに己が担当トレーナーを見つめていたとあるウマ娘は、万感の想いと共にそう呟いていた。
残り時間 1分
引き続き、この作品をよろしくお願いします。