【完結済み】Run from Mariage 〜逃亡中〜   作:とある物書きMr.R

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確保

(マズい、ってかヤバい! よりにもよってスペが相手か!)

 

 背筋に浮かぶ冷たい汗。先ほどハンターに見つかりかけた時以上の緊張感が南条を襲う。

 どうかこの校舎には入らないでくれとの南条の祈りも虚しく、スペシャルウィークハンターは男が潜む校舎へと入ってきた。

 

(どうする、俺が今いるのは校舎の2階中央部分。右か左どちらかの階段で逃げるか、それともこの場で隠れてやり過ごすか。

 いや、やり過ごすのはナシだ。スペの嗅覚で見つかる可能性がある。なら逃げの一手だが……上下左右、どっちに逃げればいい?)

 

 当たり前の話だが、ヒトとウマ娘の脚力の差は絶対的な開きがある。まして相手は南条にべた惚れ、掛かり状態のスペシャルウィークだ。自分を見つけた時の担当の脚がどれ程のモノになるか、トレーナーである彼自身にも予想はできなかった。

 

(だからこそ先手を取るしかない! スペが上がってくる前に上か下の階に逃げる。でもどっちに逃げればいい!?)

 

 時間制限付きの2択。南条の運が試される。

 

「よし、右だ。右に行って下に降りる。とりあえずこの校舎から逃げよう」

 

 そして南条は決断した。可能な限り足音を立てないように、それでいてできるだけ早く階段方面へ足を進める。

 そして階段手前。敢えて南条は足を止め、目を閉じ耳を澄ます。

 足音。しない。

 もしかしたら止まっているだけかもしれない。

 頭を半分だけ角から出し階段方面を確認。誰もいない。

 

(よし、これなら―――)

 

 油断というには酷な停滞。日本総大将とまで言われたハンターはその隙を逃さなかった。

 

「やっと会えましたね、トレーナーさん♪」

 

 静寂の校舎だからこそ、その声はよく聴こえた。

 

 思考が漂白される。足が凍り付く。

 反射的に声のした方を振り向くと、50メートル程後方。反対側の階段の前に、南条の担当バ、スペシャルウィークが立っていた。

 

「す、スペ……」

「はいっ! あなたのスペシャルウィークです

 でもトレーナーさん、今は鬼ごっこなんですよ? 私を見たら逃げないと」

「あ、あぁそうだな。それじゃあまた今度な」

「もちろん逃がしません!」

「やっぱりぃぃ!?」

 

 見つかった。

 

 弾かれたように駆け出す南条。当初の計画通り階段を駆け下りる。後方から恐ろしい脚音が聞こえてくるが無視。今はとにかく逃げることだけを考える。

 

「うーん、なんだかトレーナーさんの匂いが少ししか感じられません……」

 

 やはりそうか、たかが特殊な気体程度で担当バの鼻を誤魔化すなど出来る訳がなかった。ならば潜伏は論外。というか少しは分かるのか。

 転がるように階段を駆け下り1階へ。階段から玄関ホールへと全力で駆ける。

 

(今の俺なら短距離走で結構いい記録が出るだろうな)

 

 僅かに酸欠状態になった脳が益体もない思考を導きながらも、南条は玄関ホールへとたどり着いた。

 

 その時、南条は自らの進む道が輝いている事に気が付いた。

 

「嘘、だろ……?」

 

 見間違え? そんな訳がない。ある筈が無い。自分がどれだけコレを見てきたと思っている。

 スペシャルウィークのみが持っているチカラ。シューティングスター。終盤での差しを得意とする彼女らしいソレは、これまで幾度のレースで彼女を1着へと導いてきた。南条も彼のできる全てを使って彼女のチカラを伸ばしてきた。5段階で言うならレベル3といったところだろうか。

 そのチカラが自分に振るわれる。恋はダービーとはよく言ったものだ。違う、そうじゃない。

 

「トレーナーさんも足速いですよねぇ、もうそんな所にいるんですか。

 でも」

 

 スペシャルウィーク、スタートの姿勢をとる。南条は廊下を曲がるためやや減速する。

 

「10秒です。10秒で捕まえます」

 

 スペシャルウィーク、スタート。コーナーを曲がり終えた南条も外に向かって駆け出す。

 

 今、互いに負けられない戦いが始まった。

 

 ※※※※※

 

「激走! 南条トレーナーにとってもスペシャルウィークにとっても全力を尽くしたその先を目指す走りだな!」

「えぇ。ならば運営として2人を応援しないといけませんね」

「うむ!」

 

 秋川理事長が手元のボタンを押す。すると、校内のスピーカーから音楽が流れだした。

 

 ※※※※※

 

『響けファンファーレ 届けゴールまで 輝くミライをキミと見たいから』

 

「ふっざけんなお前ぇぇ!!!! これ『Make debut! 』じゃねぇかぁぁぁ!!!!」

 

 少なくとも南条にとって、このタイミングでこの選曲は自分を煽っているとしか考えられなかった。

 しかしどれだけ叫んでも、後方からの脚音が遠ざかってくれない。むしろ近づいている。彼も無策ではない。直角コーナーを利用しスペシャルウィークのスピードを殺しながら逃げている。

 それでも、足元の輝きが消えない。流星は、南条の元へとやってくる。

 

「トレーナーさん!」

 

 自分を呼ぶ声がする。普段なら気軽に応じる声が今は男の足に鎖のように絡みつく。

 

「私の想いは、迷惑なんですか?」

 

 負けた。素直にそう思った。担当にそうまで言われてなお逃げられるようなトレーナーは、そもそもトレセン学園に存在しないだろう。

 

「そんな訳ない」

「ならどうして逃げるんですか」

「それは、俺と君はあくまでトレーナーと生徒だから、」

「そんな建前じゃないんです! 私は、貴方の本音が知りたいんです!

 私と一緒にいたくないなら、身を引きます。……ちょっとだけ、苦しいけれど、我慢します。でも!」

「スペ……」

「あなたの気持ちも教えてください! ずっと、ずっと胸が苦しいままなんです……!」

 

 その時の気持ちは、すぐには言葉にできなかった。

 こんな時に不謹慎だとは思ったが、涙を堪えながらも真っすぐに自分を見つめる彼女が、あまりにも綺麗で尊く思えたから。

 

「スペ。君の想いを迷惑に思ったことは一度もない。3女神に誓ってそれは事実だ」

「ならどうして「でも!」」

「それでも俺は君のトレーナーでいたいんだ。

まだまだ未熟で、君をあのレースで勝たせてあげられなくって、そんな俺だけど、君と一緒にいたい。

君の想いは正直言って嬉しい。でも、その手を取るのは、君が現役生活に満足してからにしたいんだ」

「トレーナーさん」

「ごめん。ワガママなのは分かってるし、酷い事言ってるのも分かってるつもりだ。でも、それが今の俺の気持ちなんだ」

 

 それは南条の心からの言葉で、願いだった。今は彼女の手を取れない。でも必ずその願いに応える。

 ハッキリ言って告白だった。

 そして南条の言葉にスペシャルウィークは。

 

「……もぅっ! 仕方ないですね」

 

 少しだけ涙を流しながら、それでもとびきりの笑顔で応えたのだった。

 

「トレーナーさん」

「なんだ」

「私が現役の間我慢するために、少しだけ抱きしめてもいいですか」

「……それくらいだったら、いつでもいいさ」

「本ッ当に、そういうところですよ」

「どうしろっていうんだよ……」

「私以外にそういう事言っちゃダメです!」

「分かった分かった」

 

 そして、2人の距離が近づき、ゼロになり。

 

『南条トレーナー確保 残り8人』

 

「「あ」」

 

 南条の確保を告げるメールが一斉送信されたのだった。




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