【完結済み】Run from Mariage 〜逃亡中〜 作:とある物書きMr.R
『トレーナー諸君に朗報だ。現時点を以て全てのハンターの活動を停止し、また学園各所にアイテムBOXを設置した。
アイテムBOXの中にはトレーナー復活カードまたはハンター凍結カードが入っており、それぞれのカードに記載されているコードを校舎正面に設置した入力パネルに入力することで既に確保されているトレーナーを復活させるか、エリアに放たれているハンターをゲーム終了まで行動停止させることができる。
アイテムBOXはゲーム終了まで設置し続けるが、ハンターの活動が停止しているのは残り20分までの間だけである。諸君らの奮戦に期待する』
残り時間30分あまりで残存トレーナーは3人、対するハンターは13人。圧倒的不利な状況でトレーナー側に訪れた好機。これを逃せば自分たちに勝機が無い事は既に確保された者も含めて全員が思っていた。
そう、勝機である。最初の内こそうまぴょい(退職)を避けるためと考えていた者も多かったが、今や誰もが『勝ちたい』と強く思っていたのである。
そもそもトレーナーとは、極論すれば担当ウマ娘を勝たせる事が仕事であり、そのために己の全てを捧げるような生き物である。半強制的な参加とはいえ、挑むことになった勝負から逃げるような者はここにはいない。
やるからには勝つ。その信念で瞳を輝かせるトレーナーと、そんなトレーナーの表情をモニター越しに見てしまいやる気が絶好調のその先に上限突破する担当バ。永久機関が完成していた。
※※※※※
あなたに出会った日のこと。今でもよく覚えています。
当時の私は選抜レースを前にした新人ウマ娘で、あなたはこれから初めての勧誘を行おうとしている新人トレーナーでしたね。
正直に言ってしまうと、今でこそ凄腕トレーナーって呼ばれているあなたは、あの時はトレーナーというより、休日のショッピングモールでよく見る迷子の子どものようでした。慣れない状況やこれからの不安に押しつぶされてしまいそうで、
一目見た瞬間、支えてあげたいって心の底から思ってしまったんです。
トレーナー契約を結んだ後も色々と大変でしたよね。私が担当してあげよう~だなんてベテランを自称するトレーナーがちょっかいを出してきた事もありましたっけ。本当にベテランなら、トレーナーと担当ウマ娘の仲を引き裂こうとするのがどれ程危険か分かっていそうなものなんですが……。
結果としては、あのトレーナーの行動のおかげで、私とトレーナーさんの仲はあっという間に縮まったのですから、世の中何があるか分かりませんよね。
その後も、少しずつ立派なトレーナーになっていくあなたをずっと傍で見続けていました。
こんな時間がずっと続いていくのかもしれない。そんな甘い願望が崩れたのは、きっとあの時。
「今頑張っているクリークにこのような事を言いたくはありませんが、引退後の事です」
……本当は、分かっていました。
私達ウマ娘の脚は消耗品です。普段の練習ですり減らし、本番のレースで大きく削る。ドリームシリーズのレースが概ね半年に1回なのは、ドリームシリーズにまで進み限界の向こう側まで痛めたウマ娘の脚を、それでもレースに臨ませるためにはそれくらいの調整期間が必要だからです。
「色々と見繕ってみました。大体は教育課程への進路になりますが」
「あの、トレーナーさんは、今後もトレセン学園のトレーナーを続けられるんですよね?」
「? えぇ、そのつもりです」
私は、いつかこのトレセン学園を去る。それはどうしようもない、いつか必ずやってくる運命。
でも、それが運命だとしても。
左右田さんと離れるのは、絶対に、イヤです。
そう思った瞬間、私の中でナニかが変わりました。変わったというより、何かが音を立ててハマったような、そんな感じでした。
たどり着いた結論は単純でした。
左右田さんと、ずっと一緒にいたい。例え、うまぴょいしてでも。
私と同じくらいの想いを持っているタイキさんとは、何度かお話している間に協力関係になりました。法律も調べてみましたが、重婚が禁じられているのはヒトとヒトの間だけなんですよ?
だから、左右田さん。
あなたの自慢のウマ娘達は、あなたというゴールを逃がすつもりなんて、少しもありませんよ?
短距離からマイル、芝にダートと様々なレースで結果を残したタイキさん。
中距離から長距離を主戦場にして、オグリちゃんやタマちゃん、イナリちゃん達と競い合った私。
この2人から逃げられるなんて、思わないでくださいね。
※※※※※
「おや? 急に寒気が……」
ここまでの湿度マシマシ激重感情を向けられているとは流石に考えが及んでいない左右田トレーナー。彼はいつ来るかも分からない連絡に備えて気を引き締めていた。
Prrrrr!!
「はい、左右田です」
『もしもし、宮本です。早速ですが1つめのボックスを発見しました。中身はハンター凍結コードです!』
「分かりました。それではコードをお願いします」
『はい、196……』
「……253、と。おや、ハンター1体凍結完了と表示されましたね」
『本当ですか! なら次探しますね!』
「えぇ、よろしくお願いします」
「……」
電話を切った左右田は、無言のまま動きを止めている己が担当ウマ娘に向き直った。
「クリークさん、タイキさん。私はこのゲームに本気で勝ちに行くつもりです。これから入力するコードによっては、お2人のどちらか、あるいは両方が退場となることもあるでしょう」
「ホワット!? それならワタシ、風前のキャンドルなんデスか!? ノー!!」
「タイキさん、今はしーですよ」
「それでもクリーク! ワタシ、このまま何もせずに退場なんてイヤデース!!」
「タイキさん……」
タイキシャトルの瞳に浮かぶ涙を見て困り顔になるスーパークリーク。彼女の性格的に、泣いている彼女を前に何もできないのは辛いものがあるだろう。
「クリークさんにタイキさん。こんな事を言うのはトレーナーとしても教育者としても失格なんでしょうが、正直に言ってしまうとお2人に好意を寄せられている事を嬉しく思っている私がいます」
「「!!」」
「私も男だったということでしょう。恋愛については疎いのでこの想いが『好き』なのかは分かりません。ですが、これまで担当してきたどのウマ娘と比較しても、お2人との時間は『特別』でした」
「それは……」
「……嬉しい、デス」
「であればこそ、このようなゲームではなく、私自身の口から言わせていただきたい。……モテない男の考えと言われればその通りですが、どうやら私の恋愛観は古風なようです」
ふっ、と
誰からともなく笑い声が漏れる。
バ場状態は、回復した様であった。
やはり良バ場なのでは?ボブは訝しんだ。