「おい!新入り!タバコ買って来い!」
「俺にはパン買って来い!」
「ひーん、分かりましたー。」
ここは町の郊外、見世物小屋一行が場所を借りているスペース。
今日も今日とて、新人イビリが行われていた。
イビられているのは勿論、屍剣士ちゃんだ。
妖精にタバコを、リザードマンにパンを買って来るように今日も命令されていた。
明らかに人型じゃない彼らからすれば、ある意味当たり前の事である。
彼らが買い物に出れば町は大騒ぎになる。
屍剣士ちゃんがパシられるのは仕方が無い事だった。
ドンクサ屍剣士ちゃんがえっちらおっちらタバコとパンを買って戻ると先輩方はお冠だ。
何時間掛かってるんだと屍剣士ちゃんは怒られる。
屍剣士ちゃんは涙目だ。剣を刺されるより辛そうである。
「新入り!火!」
「どうぞー。」
屍剣士ちゃんのタバコに火を付ける動作は手慣れたものだ。
屍剣士ちゃんが見世物小屋一座に入ってから、フェアリーの姐さんのタバコに
数え切れない回数の火を付けてきた。
恐らく、剣を振った回数よりもタバコに火を付けた回数の方が既に多いだろう。
"ジュッ"と火が消える音がする。
タバコの火を消す時はいつも根性焼きだ。
屍剣士ちゃんは火が弱点だが、根性焼き程度ではやられない。
痕が付いてもすぐに治る。
新人イビリの痕跡を残さない悲しき怪物だ。
◆
さて、今更だが見世物小屋一座のメンバーを紹介しよう。
希少生物フェアリー、歌って踊れるリザードマン、服を着せられ後ろ脚で立つことを強制された悲しき双頭の魔犬ケルベロス、耳の短いエルフ(人)、世にも珍しい手乗りの虎(猫)、そして不死身のジ・アンデットガールだ。
見て分かる通り非常に選手層が薄い。
稼ぎ頭が新入りの屍剣士ちゃんと言う体たらく。
ちなみに続く2番手が新人イビリのフェアリー姐さんだ。
彼女はトップの座を奪われてお冠なのだ。
そんなところで屍剣士ちゃんが何故働いているのかと言うと、座長が隠れ魔族だからだ。
前の町で屍剣士ちゃんが見せた割腹処刑を覚えており、その縁で屍剣士ちゃんを
見世物小屋一座に招いた。
その割に待遇が悪いのは屍剣士ちゃんが契約書を読まないアホだからである。
ちなみに座長は屍剣士ちゃんの事を魔族と思っており、屍剣士ちゃんは座長の事を人間と思っている。
悲しきすれ違い。噛み合う事はないだろう。
◆
「にゃー!」
「ぱいせん、マタタビお持ちしましたー。」
「ゴロゴロゴロ。」
「わん!」
「ぱいせん、肉お持ちしましたー。」
「くうーん。」
就寝時間まで新人の屍剣士ちゃんは働いている。
大体やってることは魔犬と猫の世話だけど。
他の新人が来ない限り、何年居ようと下っ端なのだ。
まさしくブラックファンタジー世界だが、屍剣士ちゃんが真人間に戻るには
これくらいが丁度良い。
ちなみに屍剣士ちゃんの見世物小屋での寝床は犬と猫の間だ。
ワンニャンパイセン達と一緒に寝ている。
実家の墓場よりかは上等な寝床の気がするが気のせいだ。
明日もきっと剣を刺されるであろう屍剣士ちゃんの未来は如何に。