この短編集を書こうかなって決めた時に、頭にあった設定がもう1つあるんで、それを書いたら、頂いたリクエストを書きたいと思います。
読み直して誤字チェックとかしないんで、誤字とかなんか文章に違和感あるな、って事があったら教えて下さい。
オネシャス!
仄かな眩しさを感じ、目を開く。
窓から自然に差し込む光と、小鳥の囀り。
この2つが有れば、気怠い朝も爽快な気分になる。
最近は、というか今日もなのだが、朝起きたら、布団が無くなっていたり、寝る前に着ていた服とは違う服を着ていたり、体に謎の痕が付いていたり、部屋が女の子の部屋みたいな甘い匂いがしたり。
最後のに関しては別に良いのだが、他の3つは中々に恐怖なのだ。
だが、この素晴らしい目覚めはそんな些細な事など忘れさせてくれる。
のだが、自然が忘れさせてくれた悩みよりも、大きな悩み、というかストレスの原因である者が1人。
「おはようございます。ご主人様。朝ご飯、出来ましたよ?」
こいつだ。
こいつの名前はルル。
ルルは見た目だけなら非常に可愛らしい。
身長は俺よりもちょっと低くくて、160cm弱くらい。くりくりとした大きな目が円らに輝いている。
だが、ルルは狐の獣人。それも化獣だ。
化獣と言うのは、獣人の中でも特に優れた物を指す言葉で、狐の獣人の場合は、九尾も呼ばれる、尻尾が9本生えている者が当てはまる。
ルルは基本的には魔法を使う戦闘スタイルだが、調子に乗って一般ピーポーの俺がルルと肉弾戦をしようものなら、2秒で死ぬ。
だが、前に尻尾に抱き付いたら気絶したので、ルルの背後を取れれば勝てる。……まあ背後取る前に死ぬんですけど。
魔法が有りなら、背後とか考える暇も無く死ぬ。
そんなつよつよなルルが、何故俺をご主人様と呼ぶのか、と言う話なのだが、それは簡単。
ルルは俺の奴隷で、俺はルルの持ち主。それだけだ。
家事とかめんどくさくなったから、街の奴隷商から買ったのだが、気付いたら化獣となり、俺をデコピンで殺せるまでに至っていた。
一応、奴隷紋って言って、奴隷の行動を縛る物はあるのだが、ルルレベルの魔法使いなら、奴隷紋を消すなんて、片手間にでも出来る。
つまり、ルルが俺を殺そうと思えば一瞬で俺はこの世とおさらばだ。
ルルに殺されない様にするには、何か理由を付けて、奴隷契約を解消して、全くの他人になる事だな。
好きで他人の奴隷をやる様な奴がいる訳無いし、時期を見計らって解消を言い出せば、すんなりといけるだろう。
ルルは奴隷を辞めれてハッピー。俺は命の危険が一個無くなってハッピー。win-winだな。
それまでに俺の頭でスイカ割りをされない様にルルの機嫌を損ねそうな事はしない様に気を付けねばならないな。
「うん、おはよう。いつもありがとう、ルル」
「ふふっ……。ありがとうなんて、私には勿体無い御言葉ですよ。私はご主人様の奴隷なんですから。当たり前の事です」
「そんな事言わないで欲しいなルル。ルルは俺の癒しなんだよ?」
「ふふふっ。嬉しいです」
ルルの様子はいつもと変わらない。
いつも通りに接すれば、大丈夫だろう。
「今日の朝食はなにかな?ルル」
「今日は、ご主人様の好きな野菜のスープと、パンです。今日のパンはいつも買ってる所のじゃ無くて、別の所から買ってみたんですよ」
「そうなんだ。楽しみだな」
るんるんと、リビングへ先導する、ルルに付いて行く。
今住んでいる家は、奴隷達4人が、勝手に冒険者を始め、稼いだ金で買った家なのだが、最初は住む気は無かったのだ。
それまでは俺は働いていた先の社宅に、奴隷達は俺が借りた賃貸の部屋で暮らしていたのだが。
ある休日、急に4人揃って俺の社宅に押しかけ、
「家を買った、一緒に住もう」だの、
「金はもう全部出してあるから、賃貸の分のお金が浮く」だの、
「奴隷とは一緒に生活すべき」だの、
言い始めて、その頃にはもう全員俺の頭をデコピンでスイカ割り出来るようになっていたから、怖くて逆らえず、気付いた時にはもう手遅れ。
持ち物は全てこの家に運び出され、仕事も辞めさせられ、奴隷達のヒモになったのだ。
まあ、そんなこんなで住むことになったこの家だが、途轍もなく広いのだ。
外見はそうでもないのだが、ルルともう1人。魔法の得意な奴隷が、魔法で家の中の空間を隔離し、空間自体を拡張する事で内部をとんでもなく広くしたのだ。部屋の数など、数え切れない。
覚えよう覚えよう、とは思うのだが、どうしても覚えられず、奴隷達4人の内誰かの案内が無ければ、直ぐに迷子になる。
そんなこんなで、リビングに着いたら、机に座り、ルルが料理を運んで来るのを待つ。
手伝った方が良いかな?とか思うのだが、手伝おうとすると、ルルから化け物みたいな量の魔素が放出され、本能的にビビって動けなくなる。
因みに解説すると、この世界の生き物は皆、魔素を体内に保持するのだが、体内に保持している魔素の内、ほんの0.何%は、体から流れ出てしまうのだ。
常人の0.何%は気も付かないくらいなのだが、うちの奴隷達の0.何%は俺が本能的に恐怖してしまうくらいには膨大なのだ。
だから、奴隷達はいつもはその0.何%を抑えてくれているのだが、何か驚く事や衝撃を受ける様な事があると、抑えるのを忘れて、0.何%が流れ出てしまうのだ。
つまり、ルルは俺が手伝おうとする事に、魔素を抑える事を忘れてしまう程の衝撃を受けている、と言う事だ。……俺はどんな人間だと思われているのだろうか。
まあ、そんなこんなでルルを手伝う事は出来ないので、大人しく食卓でルルが運んで来る料理を眺める。
今日のメニューはさっき言っていた通り、野菜のスープにパン。
スープは別に好きでもないが、一々訂正する必要も無いので、好きだ、と言うことにしている。
スープを啜りながらパンを取り、一口分ちぎって、口に運ぶ。
中々美味しいパンだ。
いつの間にか置いてあった、何かもわからないジャムをパンに塗り、食べる。
初めて見るジャムだが、結構美味しい。かなり甘さが強いが、俺は比較的甘党なので、気にはならない。
「おいおい。もう飯食ってんのかァ?ご主人?いつも早いなァ」
「あ、ああ。おはよう、ルーナ。出来れば急に抱き付くのは辞めてくれないかな?」
折角幸せに朝食を食べてたのに、背後から体を絡み付かせて来たのは、ルーナ。猫の獣人で、それも化獣。
こいつもめちゃめちゃ強くて、魔法は自己強化以外使えないらしいが、素の身体能力が十分化け物で、自己強化しなくても大抵の相手はお話にならないくらいなのだとか。
ルーナは化獣としての能力で、物理で魔法に干渉出来るので、奴隷契約も簡単に引き千切れる。
もし、デコピンされたら、頭だけでなく全身破裂するだろう。
つまり、機嫌を損う=死ってことだ。
肉弾戦では、絶対に負けないと自負しており、負けている所は見た事ない。
残りの2人の奴隷の内の1人であるリンとはよく模擬戦をやってる様子を見かけるが、引き分けになっているので、負けてはいない。
そんな脳筋なルーナだが、絶対に勝てない相手がいるんだそう。
誰か気になるからそれとなく聞いてみた事もあるが、教えてはくれなかった。
もしその相手と戦ったとしても、手も足も出ずに負けるだろうと言っていた。
ルーナでも手も足も出ないなんてとんだ化け物がいるんだなあと驚いた記憶がある。
身長は180cmくらい。俺から見れば軽く見上げる感じ。
短い金髪で、頭の上には、本人と違って可愛らしい猫耳が生えている。尻尾は2本生えている。
前に興味本位で尻尾を握ったら、ビクンッ!って痙攣した後、気絶した。
「ご主人が気を抜いてるのが悪いんじゃないかァ」
「それにィ、そんな無防備に背中向けちゃァダメだろォ?」
「そうだね。気をつけるよ」
「我が主人が気を付ける必要など無いと思うが?」
「あ……お、おはよう。リン」
「おはようございます。我が主人。朝から言うのも悪いとは思いますが、そこの猫風情の言う事など聞く必要は無いと思いますよ」
俺に絡み付いたルーナを引き離し、俺を抱き上げたのが、さっきも話に出た、リン。
身長はルーナと同じくらいか、少し高いくらい。
犬の獣人で勿論化獣。
こいつは、何かに付けて、俺を抱き抱えようとする。
抱き抱えた後は、俺の旋毛あたりに鼻を押し付け深呼吸するのだが、それが中々くすぐったいので、あまり抱き抱えられるのは好きじゃ無い。
前に抱き抱えられた時に、仕返しで耳をモフったら気絶したので、何かあれば耳をモフれば良い。
さっきも言ったが、脳筋なルーナと殴り合って引き分けになる様な化け物なので、油断は出来ない。
リンは物理一辺倒では無く、魔法もそこそこ使うので、余計に注意が必要。
リンが使う魔法は、拘束魔法などだ。ルーナとの模擬戦の時もバンバン使っている。
ルーナは簡単に引き千切っているが、もし俺だったら絡み付く力だけで全身がバラバラになると思う。
リンは、魔法自体に干渉し、操作する能力があるので、奴隷契約を無効化する事もできる。
つまり、俺が死ぬって事。
「いや、でも、僕が気を抜いてたのが悪かったんだし」
「いえ。悪いのは我が主人では無く、そこの猫風情です。その猫風情は敢えて足音も気配も消して、我が主人に近付いたのです」
「ハハッ!犬がよく吠えるなァ。忠犬気取りかァ?」
「フッ。気紛れを装うくらいでしか我が主人に触れられ無い様な臆病な猫が何を言ってるんだ?」
「は?今日こそ決着付けてやるよ」
「良いだろう。我が主人のペットは1匹で充分なんだよ」
「そうかァ。てめぇは気に食わねェがそれだけは同じ意見だなァ!」
「申し訳無いが、我が主人よ。少し待ってて貰えるかな?あの猫風情を片付けてこよう」
「少し待ってろよォ、ご主人。あの駄犬を片付けて来る」
リンとルーナは仲が悪く、時たまこうして喧嘩する。
止められない事も無いが、無理矢理止めると、そのあとだいぶ面倒くさくなるから、好きにやらせておく。
2人がバチバチに魔素を出しながら、模擬戦用の部屋に向かったので、食事を再開する。
因みに、あの2人の魔素はルルが遮断してくれているので、こちらには届かない。
「美味しかったよ。ルル。ご馳走様」
「お粗末様です」
リンとルーナの模擬戦が始まったのだろう。
遠くの方から、ドオォン!って感じの破壊音が響いて来る。
これだけうるさくなれば、そろそろ最後の1人も起きて来るだろう。
「ん……。おは……」
「おはよう。今日は早かったね。ロノ」
「あいつら……、うるさい」
やはり起きて来た様だ。
起きて来た、と言ってもロノの場合は、クッションごと自分を転移させて移動するので、服を着せたマネキンのようなものに抱き付いたままなのだが。
ロノも例の如く獣人、なんだが種類が分からん。
背中に、翼の様な物があるから、多分鳥系だと思う。強さ的には確実に化獣。
前に翼の皮膜って言うのかな?皮みたいなところを撫でたら、気絶した。俺の奴隷いっつも気絶してるな。
ロノは、ルルと違って俺をデコピンでスイカ割りする様な物理パワーは無いが、その分魔法に特化している。
魔法を使わなければ、俺でも頑張れば勝てるかな?くらいだけど、魔法を使えば、瞬き1つ、と言うか瞬きしなくても俺の血肉ペインティングができる。グロいね。
ロノは身長はルルよりも小さくて、150弱くらい。かなり見下ろす形になる。
さっき言った、背中に生えてる翼の様な物で飛ぶ事も出来るみたいだけど、基本的には、マネキンに抱き付いたまま、マネキンを魔法で動かしている。
さらにさらに、例の如く奴隷契約なんて、有って無いも同然なので、下手したら一瞬で血肉ペインティングだ。
やってらんねえな。
と言うかあの服俺のじゃ無いか?もしかして朝起きで寝る前と別の服を着ている事があるのは、ロノが原因なのか?
寝た前後で服が変わってようが大した支障は無いが、気になりはする。……聞いてみるか。
「ロノ。ちょっと良いかな?」
「ん……」
「その服ってさ、僕のじゃない、かな?」
「な……。そ……そんなこと」
「そう言えばさ、最近色んな物が無くなるんだけど、もしかして、ロノ、だったの?」
「る……」
「る?」
「……ルルだよ?……それはロノじゃなくてルルがやったんだよ?ほんとだよ?確かに主の服はちょっと、借りたけどね?その分はね?別の服で返したんだよ?ロノとルルとルーナとリンで決めた約束でね?ちゃんと代わりの物をね?渡さなきゃダメなのにね?ルルもルーナもリンもやってないんだよ?ルルはね?主の歯磨きを使ってるし、リンは主の布団持ってったし、ルーナは主が寝てる時部屋に入って一緒に寝てるんだよ?おかしいよね?羨ましいなぁ。でもねロノだけだよ?ちゃんとね?ちゃんとルール守ってるんだよ?ロノは、ちゃんと主が寝てる時に服を脱がせて、別の新しい服着せてるんだよ?偉いでしょ?ね?偉いね?ロノ。ロノ偉いね?ね?ご褒美。欲しいなぁ。ご褒美。ロノ良い子なんだよ?ご褒美、あるよね?ね?無い訳無いよね?ね?」
ロノはたまにこうなる。いや、ロノだけでは無く、ルルもルーナもリンもたまにこうなる。
瞳孔が完全に開き切り、獣人種特有の眼球が強調され、くりくりと輝いていた目は一切の光を失い、吸い込まれそうな漆黒に変わる。所謂ハイライト、が消えるのだ。
こうなると、馬鹿みたいな量の魔素を流しながら、知らない言語で何かを喋り続けるだけになるので、俺にはどうしようも無い。
ついでに言うなら、その馬鹿みたいな量の魔素のせいで、意識が飛びそう。
あっ
「あれあれ?主?主?気絶?なんで?なんでなんでなん……あ、そっか、ご褒美。だね?ね?もしかして、主がご褒美なのかな?そうだよね?わぁ。嬉しい。嬉しいなぁ?ね?嬉しいね?主。幸せ?幸せ。えへへ……。最近主足りて無かったんだ?やっぱりわかってたんだね?さすが主。ロノと主は通じ合ってるんだよね?幸せだね?」
「ロノ。独り占めはダメですよ」
「え?なんで?ルル。主は、ロノがルールを守ってるからご褒美くれたんだよ?だから、ご褒美はロノだけのだよ?」
「確かにそうですが、ロノ。あなた毎日自分の部屋とご主人様の部屋の空気を入れ替えてるのに、言わなかったですよね?」
「……う」
「……満足したら」
「それで良いでしょう」
「…………ぅ……ぅあ。……頭痛い」
ここは、ロノの部屋かな?
部屋の大部分を占める大きくて、柔らかいベッドの至る所に、男物の服が散らばっている。もしかして俺のか?
ついさっきまで朝飯を食べていたはずなんだが、ルーナに絡まれた(物理)あたりで記憶が途切れている。
が、記憶がなくなるのは、大した珍しい事では無い。
奴隷達の馬鹿みたいな量の魔素に直で当てられたら、大抵記憶が無くなる。
だから、俺に絡み付いているルーナを見たリンがキレたとかそんなところだろう。
「ん……起きた。主」
「あ、ロノ。何でロノの部屋にいるんだい?」
「……ご褒美、だよ?……主がね?ご褒美くれたの」
俺が自主的にご褒美とか言い出す気はしないが、恐らくはロノに、ルーナとリンの喧嘩を止めたから、ご褒美ちょうだいとか言われて、仕方なく、ってところだろう。
そうなると、問題は過去の俺が一体何をご褒美としたのか、だな。
なんか、簡単に用意出来る物が良いな。果物1週間分とか。ルルに頼めばお金貰えるし、荷物持ちルルが持つから、実質家から果物屋まで往復するだけだし。
「そうなんだ。因みにご褒美って何かな?」
「主だよ?……ご褒美にロノが主の主になるの」
ロノが俺の俺になる?
いやそんな訳ねぇか。普通に考えれば、ロノへのご褒美に、俺がロノの奴隷になる、という事だろう。
魔法でなんでも出来るんだしこんな一般ピーポーの奴隷なんか必要なくね?とは思うが、ロノは俺との奴隷関係をそこまで理解していない節があるから、多分おままごと的なノリだろう。
期限も多分今日一日か、長引けば明日いっぱいくらいだろうし。
大した手間もかからない物で良かったぜ。
「……今日からはロノが主の主だからね?わかったの?」
「うん、わかったよ。ロノ」
「ん……。ロノね、いっぱい偉い子なんだよ?褒めて?」
「ロノはいつも偉いね。頑張り屋さんだからね」
褒めろとか言われたし、適当に褒めてりゃ良いか。
思っても無い様な事言い続けるのは得意だし。
「……んぅ。……撫でて」
「ぐふっ」
結構な勢いで胸元に突っ込んできたロノをなんとか受け止めようとして受け止めきれず、ベッドに押し倒される。
早く撫でろと言わんばかりに、肋骨が折れそうなくらいの力で、頭をぐりぐりと胸元に押し付けてくるのを何とか耐え、左手を背中に回し、動きを止め、右手で頭を撫でる。
「いつもロノには助けて貰ってるね。偉いねロノ」
「んぁぁ……。幸せ……。ロノ良い子してて良かった。…………主。もっと強く抱き締めて」
背中に回した左手に力を込める。
ロノの反応を窺いながら力を少しずつ込めて行くが、中々満足しない。
どうせ獣人だし耐えられるでしょ、と思って、左手に全力を込めたのだが、その時に、手が滑って、ロノの背中の翼ごと抱き締める形になってしまった。
「んぁぁ!……あるじぃ。……えへへ。嬉しい、な。……一回目は、事故なのかな、って思ってたけど。……えへ。2回も触るってそう言う事だよね?……しかも抱き締めてくれて、嬉しいな、主」
「えへへ…。どうする?ロノはいつでも良いよ?」
その瞬間、大きな声を上げたと思ったら、嬉しそうに体を揺らしながら、幸せそうに蕩けきった顔でこちらに語り掛けてくる。
2回目が何だの言ってるが、もしかして翼を触るってそんなにまずい事なのか?
「な、何がだい?ロノ」
「え……?……もしかして主知らないでやったの?」
ロノの身体の揺れが急にピタッと止まった。
上目遣いでこちらを見る目からはハイライトが消えている。……何か地雷を踏んでしまったみたいだ。
まだ魔素は流れ出ていないので、まだ打つ手はある。
今までの経験から身に付けた、こうなった時の対処法。
「じょ、冗談だよ。ロノ。知らない訳無いだろ?それでだが、僕もいつでも良いよ。ロノの好きな時にしよう」
兎に角話を合わせる、だ。
俺が何をしたのかも、ロノは何をする日時を聞いて来たのかも、さっぱりわからないが、兎に角話を合わせる。
そうすれば、最悪の事態は避けられる。
何の話なのかを理解しないまま、賛同する事になるから、場合によってはもっと酷い事になるのだが、今死ぬか、未来に可能性を残すかの2択なら可能性を残したいだろ?
「だよね?良かった……。主なら、ロノのこと受け入れてくれるもんね?これからずっと、ロノと一緒だもんね?」
「そ、そうだね。ロノとはずっと一緒だよ」
「えへへ…。やっぱり主はロノのこと受け入れてくれるよね。……疑ってごめんね?ダメだよね……。妻たるもの、夫の事は信じてあげないとね?」
「……は?……え、お、夫?」
「え……?そういう話、してたでしょ?主がロノの翼に2回も触ってロノに求婚して、ロノも主の事大好きだから、いいよ、って言って、まだ結婚の届けは出してないけど、気持ちはもう夫婦だよね?明日には、ルルもルーナもリンもいない所に引っ越して、2人だけで毎日いちゃいちゃして暮らすんだよね?今、そう決めたよね?何で?ロノの夫になるのが嫌なの?ロノのこと嫌いなの?そんな訳無いよね?ロノと主は通じ合ってるんだよね?なのになんでそんな……あ、そう言うことなんだね?ちゃんとロノが主の事愛してるか確かめたんでしょ?大丈夫だよ?ロノはずっと主の事愛してるから。ロノはずっと主のこと夫として、信じるから、主もロノの事お嫁さんとして信じないとダメだよ?」
俺、知らない間にロノにプロポーズしてOK貰ってたんだけど。
え、結婚は不味いぞ?
結婚するって事は一緒にいる時間が長くなるって事だし、そうなったらふとした拍子に機嫌を取り損ねて死ぬ可能性が高くなるって事だ。
…………逃げるか。ルーナとリンの模擬戦はもう終わってるみたいだが、あいつら模擬戦の後は気性が荒くなるから、下手に近づけない。
ルルに助けて貰えば良いか。
「聞いてる?主、今日変だよ?夫と妻は通じ合って無いとダメなんだよ?」
「大丈夫だよ。ちゃんと聞いてるよ、ロノ。……ところでさ、ちょっとトイレ行きたいなーって」
「む……。トイレまで1人で行ける?迷わない?」
「うん。大丈夫だよ」
忘れてたぜ、この家広すぎてルルが今何処にいるかわかんないな。呼んだら出てくるかな?
ルルを呼ぶ声がロノに聞かれたらまずい事になりそうだから、ロノの部屋から離れて呼ぶ。
「ルルー!居るかー?!……やっぱいないか」
「居ますよ?ご主人様。ロノのご褒美になっていたのでは?」
「そうなんだけどね。ロノがなんか盛り上がってて、危ないからルルに助けて貰おうかなって」
「そうですか。因みにロノは何で盛り上がっているんですか?」
「なんか、僕がロノの翼に触ったから、結婚する、とか言ってて」
「は?」
え、さっきまでニコニコしてたのに急に真顔になったんだけど。
「……浮気。ですか?いえ。浮気ですよね?ご主人様は私と結婚してるんですよね?確かに届出は出してはいませんが、ご主人様と私は結婚してますよね?夫婦ですよね?」
「……え、いや、結婚とかは、してないかなーって」
「……?何言ってるんですか?ご主人様、私の尻尾に抱き着きましたよね?あれ、プロポーズですよね?あの時は嬉しすぎて気絶してしまいましたが、確実に私の尻尾に抱き着きましたよね?」
「いや、プロポーズとかじゃ、無いかなーって」
「いやいやいや。そんな訳無いですよね?獣人の尻尾に触れるなんてプロポーズ以外の何物でも無いですよね?あの時、ご主人様は私の尻尾に抱き着き付いて、プロポーズして、私はそれを受けたから、私とご主人様は夫婦なんですよ?」
「私達は夫婦なのに、愛し合っているのに、ロノの翼に触ったんですか?あり得ないですよね?愛してくれている妻である私がいるのに、ロノと、なんておかしいですよね?」
「……届出。出しに行きましょうか。浮気についての話はその後です。届出をまだ出していないから、浮気なんてしたんですよね?ほら、早く行きますよ」
あ、あぁぁ。やばい。やばいやばいやばい。
ルルからバカみたいな量の魔素が出てる。
意識が飛び立とうとしてる。やばい。このまま気絶したら不味い事になる気しかしない。
でも気絶しなくてもルルと結婚させられる。
……詰んでね?
「おいおいルルゥ。何やってんだァ?私のご主人に」
「お前のでは無い。私の我が主人だ。だが、ルルよ。何をやっているんだ?我が主人が怯えているじゃ無いか」
「あなた方の物ではありませんよ。ご主人様は今から私と結婚の届出を出しに行くのです。つまり、妻である私の物です」
「ハッ!何言ってんだァ?ルル。冗談キツイぜェ?ご主人は私と結婚するんだよ。前に私の尻尾。触ってくれたもんなァ?」
「ルルもルーナも、冗談は程々にしておけ。我が主人は私と婚約を結んでいるのだ。その証拠に、我が主人は前に、私の耳を触ったのだからな。人の婚約者と、結婚するだの何だの見苦しいぞ」
「……もしかして、ご主人様。ロノだけで無く、このルーナとリンの尻尾を触ったんですか?」
「え……あの、リンは尻尾じゃ無くて耳かなーって」
「変わりませんよ。まさかご主人様が私達全員にプロポーズをしているとは思いませんでしたよ。ですがこうなったら、誰がご主人様と結婚するのか、決めなくてはなりませんね」
「そうだなァ。だけどよォ、言葉でごちゃごちゃ決めても、そんなのに従うとは思えねェぞ?私だってそうだしな」
「確かにそれはそうだな。私は我が主人を諦めるつもりなどないぞ」
「……何やってるの?主。早くロノの部屋に帰るよ?」
「ロノ。事実だけを言いますが、ご主人様は私達全員にプロポーズをしていたんですよ。なので貴方だけが選ばれた訳ではありません。ご主人様は諦めなさい」
「……?主はロノのだよ?主にプロポーズもされちゃったし、ロノのご褒美に主はロノの奴隷になったんだよ?だから、主はロノのだよ?」
「……え?ロノの奴隷になるのって今日だけじゃ無いの?」
ロノの奴隷になるの今日1日だけじゃなかったんですけど!
うわ…………。現実逃避しよ。
唐突だけどさ、俺、この世界で1番美味しい食べ物って、プリンだと思うんだよね。
やっぱりさ、プリンって柔らかいじゃん?つまり美味しいって事だよね、
「……?何言ってるの?そんな訳無いじゃん。……これからずっと。主の魂と結び付けたから、死んでもロノの奴隷だよ?」
「ロノ。ご褒美はあなただけの物では無いと言いましたよね?なら、私達もご主人様を奴隷にするべきでは?」
「リンもルーナも同じ意見でしょう?」
「我が主人とは2人きりでが良かったが、私達4人ならまぁ良いだろう。我が主人が何処かへ行ってしまう、と言う様な事も避けられるだろうしな」
「まァな。この駄犬と一緒ってのは気に食わないが、ご主人と一緒に居られるなら、何でも良いぜェ?」
「え、あの、僕の意見とかって……」
「主はロノの奴隷なんだよ?だから、ロノの思う事が主の意見になるんだよ?」
「今までみたいにみんなと4人で主を守るって言うのも良いけど、ロノは主を独り占めしたいし……」
「なら、こうしましょう。これからは1日毎にご主人様を管理する人を変える事にしましょう。その日1日はその管理する人がご主人様を独占するんです。これなら良いでしょう?」
「……そうだね。じゃあ今日はロノが主を独り占めするよ?」
「ええ。なら、明日は私か」
「じゃあ私は明後日にするよ」
「じゃァ。明明後日だなァ?今から楽しみだァ」
「え……。ル、ルル?こ、こんなのおかしい、よね?ど、奴隷なんてさ、良くないよね?」
「?私は良いと思いますよ?現に私達もご主人様の奴隷だった訳ですし」
「いや、ルル達の事はね?時機を見て、奴隷契約を解消しようかなって思ってたんだけど」
「……は?……もしかして、私達から離れようとしてたんですか?」
「それは聞き捨てならないね。我が主人よ。力のある私達の庇護下で生活する。それが我が主人にとっての最善だよ?」
「そうだなァ。力の無い者は力のある者に従う。それがこの世の摂理だぜェ?」
「ロノ達が、主のご主人様になって、今まで通り生活するなんて甘い考えだったみたいだね。二度とロノ達から離れる事なんて出来ないってわかる様にしようか」
「そうですね。取り敢えずご主人様がこの家から出られない様に、今張ってる結界を強化しましょうか」
「それならァ、二度と他人が近づけない様にィ、ご主人も含めた全員が死んだ事にする、なんてどうだァ?」
「それは良い考えだ。ならそれは私とルーナでやろう」
「じゃあロノは主の奴隷契約の契約要項を弄ろうかな?毎朝ロノ達に愛してるって言わないと呼吸が苦しくなる、何てどうかな?」
「……ッ!……良いですね。想像しただけで興奮します」
「いいねいいね。早速追加しよう。……他は何かある?」
「我が主人が私達から離れる事を考えたら、この家に警報が鳴るってどうかな?」
「良いね。追加したよ。まぁ使う事は無いだろうけどね?主?」
「そ、そうだな。ハハハ……」
このままじゃやばいぞ!
現実逃避してたら話が変な方向に進んでるし!
本当にこいつらから逃げられなく———ウウゥゥゥン!!
……は?これが警報?
……え、仕事早すぎじゃね?
ってかそんな事言って巫山戯てる場合じゃねぇ!
誤魔化さないと!
「……ハハハハハ。ど、どうしたんだろうね。誤作動かな?うんうん。誤作動なら仕方ないね。うん」
「……ご主人様。流石にもう許せませんよ?……これからはご主人様の手足は動かせない様に固定しましょうか?」
うわ……。ルルが、完全にハイライトの消えた眼になってる。
「……うん。そうだね。それだけじゃ心配だし、24時間ずっと、主から目を離さない様にしようか」
うわうわ……ロノのハイライトも消えてる。
「……もう無理だね。1人では何も出来ないように、契約で縛ろうか」
うわうわうわ……リンの、ハイライトも迷子になってる。
「…………。薬で依存させよう」
うわうわうわうわ……ルーナのハイライトが消えてるのは良いとして、薬で依存は洒落にならないぞ。
ってかそれより4人から流れ出てる魔素がキツイ。意識が怪しくなって来た。なんとか止めなk——
「名案ですね。ご主人様が自ら求めてくれるなんて想像だけで気絶しそうです。……絶対に逃しませんよ?」
「……楽しみだな。良い毎日になりそう。……ずぅっと主と一緒だよ?」
「我が主人を好きにできると思うと興奮して血が滾るな。やり過ぎ無いように落ち着かないと。……責任、取って貰うよ」
「落ち着けよォ。みんなァ。ご主人は居なくならないんだからなァ。……何時迄も何時迄も、な?」
元ご主人様
4人を頑張って説得して、手足の拘束が手の拘束だけになった。大して変わらんね。
薬の依存作用はそんなに強く無かったが、基本的に抵抗できないように抱きしめられながら、薬を飲まされるせいで、4人の匂いにも若干依存して来ている。
元奴隷の方々
もう毎日が楽しくてしょうがない。
幸せ過ぎて元ご主人様に会っていない時は基本的に気絶している。
なんなら会っている時でも気絶する。
ギルドの方々
めちゃ強パーティであった4人が急死したため、高難易度の依頼の消化が難しくなり、実は結構しっかりピンチ
リクエスト書いた後、どっちを書いた方がいいか
-
今までの話の続き的な感じのやつ
-
今までのと関係無い新しいやつ
-
アンケート機能ってすごいね。感動してる