光の申し子   作:松雨

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歴史の転換点

 皇帝ルディアスが、パーパルディア皇国内から過激派の一掃に成功してから2ヵ月と4日後、大なり小なり講和条約に関わる3ヵ国の都合がついた事からエルトとその秘書は命を受け、カルトアルパスへと派遣されていた。

 

 過激派襲撃事件があった日に決めた事の再確認と調整はすぐに終わったため、日本やフェンに支払う賠償金の額、テレビ放送やラジオないしそれらに相当するもので公式謝罪を行う日の策定など、要相談項目についての話も流れで殆んど済ませている。

 

 これにより、相当な額の金銭が消えていく事にはなるものの、パーパルディアの年間国家予算から比べてみたら、まだ大した被害は受けていなかった。

 技術力や精神性などが、日本や現存する各列強に追い付いていないだけで、国力そのものは目を見張るものがあるのだから当然だろう。

 

「全く、どうして私ばかりが損な役回りを担わなければいけないんでしょうか。思い返せば、日本国の案件以前もそんな事ばかりでした」

「エルト様、何だかんだで上手く纏められる方ですし。こと外交に関しては本当に」

「皇帝陛下が信頼して下さっているのは嬉しいですけど、これからの皇国は大変ですよ。何もかもが大きく変わりますから」

「違いないです。まあ、日本国に加え神聖ミリシアル帝国も、相応の支援はしてくれるようですが……苦難の連続になりそうで」

 

 しかし、周辺の文明圏外国家との関係は言わずもがな、属領ですら私腹を肥やすがために皇帝の指示以上の事をしでかしたり、隠蔽体質の役人がのさばっていたのが原因で、壊滅寸前まで追い込まれている。

 

 故に、それを後世への(条約遂行の)憂いと判断した日本やミリシアルが条約文そのものには入れずとも、彼らとの関係回復や国家政策の大幅変換を約束させてきたため、必要費用が想定より大きく跳ね上がる事となってしまったのだ。

 

 周辺諸外国には各種侵略行為への謝罪と賠償、属領に対しては完全な独立を保証するか、外交権を除く各種権利を保障した上でパーパルディアの1州として過ごすかの2択となっている。

 今までの性格からして、そう易々と変えられるものではないのだから、当然苦労する事となるに違いない。

 

「ええ。それに、後少しで始まる調印式を済ませた後は新設される『中央外務局』局長として、早速動かなければなりませんしね。今までの皇国の振る舞いからすれば、この程度と思うかも知れませんが」

 

 なお、日本国や各列強国との交渉実績を含め、エルトは数々の大小含めた功績がある有能な人物であるため、これから大荒れとなるであろうパーパルディアの外交を一挙に担う役所の長として、活動する事が確定していた。

 

 なまじ1人でも皇国のエリート数人分かそれ以上の働きをする上、澄まし顔で相応の成果も必ず持ち帰ってくるため、皇帝含めて周りからはどれだけ任せても余裕がありそうだと思われている。

 

 ただ、実際はそれ程余裕がある訳でもなく、優秀かつお節介な秘書の手助けで、()()()余裕と思える領域にまで持っていけてるだけではあるのだが。

 

「失礼します。エルト様方、もうそろそろ調印式が始まりますので、準備の程をお願いします」

「了解しました。ルーナスも、準備は良いですか?」

「はい。こちらも準備は出来てます」

 

 市庁舎の中で行われた話し合いと調印式までの時間(合間)、エルトと秘書の『ルーナス』が休憩室で会話をしていると、調印式で司会を勤めるミリシアルの役人が呼びにきたため、2人は彼の案内で会場へと歩みを進めていく。

 

 既にやる事は全て済ませていて、後はミリシアルの仲介人や日本の駐ミリシアル大使、両国の国営放送記者などが見守る中、条約文の書かれた書類にサインをするのみではある。

 

 だが、両国の記者を通してとは言え、多数の一般人から見られながらサインするも同義である。

 エルトとルーナスが会場に行くまで色々と考え込んでしまっているものの、ラジオやそれに類するものを含めれば更に多くなってしまう訳で、無理もないだろう。

 

「これより、日本国とパーパルディア皇国の講和条約調印式を執り行います」

 

 会場に居る人物からの注目を浴びつつ、先に座っている日本の外交官に会釈してから用意された席に2人が座ると同時、司会者の一言によって調印式が始まった。

 

 パーパルディアはともかく、日本に関しては国の位置によって文明圏外に区分され、かつ地球からの転移国家なため、異世界国家にとっては知名度が低い。

 なので、ここ最近急激に存在感を増してきたとは言えど、放送を見聞きしている知らない人のために、軽めの国家紹介が序盤に入れられている。

 

「日本国の皆様に対し、調印前に全権使者の私から先に申し上げます。こんな一言()()で許されるとは全く考えてはいませんが……遺族の方々、大変申し訳ありませんでした」

 

 次いで、日本とパーパルディアのフェン王国とその近辺海域・空域での戦闘から、講和に至る経緯の説明がなされ、さあ調印となった際にエルトが立ち上がり、カメラに向けて頭を下げた。これも全て、調印式の話し合い時に予定された流れだ。

 

 だが、その後にエルトがルーナスより渡された紙に書かれた、周辺国への技術支援や奴隷として皇国に強制的に渡った者を、無条件かつ賠償金と共に全員元居た国へと返すと宣言した事については予定になく、日本側を含む全員が驚きを以て彼女に視線を送った。

 

 無論これらについては当然講和条約の中に入っておらず、仮に達成せずとも制裁が下される事はない。

 ちなみにこれは、マイナスに振り切った印象を僅かでも戻せるようにと、ルディアス他穏健派皇族による指令があった故の行為である。

 

「それでは、日本国とパーパルディア皇国の皆様。書類にサインの程をよろしくお願いいたします」

 

 そして、エルトの話が終わってからは日本より派遣されてきた2名の全権使者から、講和条約の書類に同意する旨のサイン記入が始まる。

 

 万が一、記入場所を間違えると効力が発揮されなくなってしまうため、たかが十数秒とは言え感じる緊張は凄いものではあった。当人だけでなく、会場に居る皆も同様であったが。

 

「ありがとうございます。皆様、どうかこれからの行く末を見守って頂けると幸いです」

 

 こうして、最後にエルトが書類にサインを記入し終えたこの瞬間から講和が成立、パーパルディア皇国の歴史の転換点となった。

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