光の申し子   作:松雨

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眠りし古代の禁忌

 共闘した訳ではないものの、ミリシアル軍や日本の自衛隊による活躍で、オタハイト及びマイカルより侵略者の追放と両国民間人の保護に成功してから1ヵ月近く経った頃、ミリシアル国内ではとある計画が急速に進められていた。

 

 戦場がどこになるかや回数がどの程度になるかが分からないにしろ、いずれ来る事だけは確実なミリシアルとグラ・バルカスの更なる大規模衝突に備え、軍需産業を中心とした国力の強化を行うと言うものである。

 

「いやまあ、財政的には貿易黒字で得た利益、日本国との交流により得た利益を加えれば、決して不可能ではありません。材料云々も解決の目処はついていますが……人員の目星はついているので?」

「無論、その点については抜かりないぞ。むしろ、今までが少なすぎたせいで、力を持て余している魔導技師(ミリシアル帝国民)が国内にそれなりの数居る訳で、ちょうど良い。国外の魔導技師についても、大使館などを通し可能な限り好条件を提示し、呼び戻すなどしている」

 

 ミリシアル政府の全力支援、各所の魔導学院に所属するとびきり優秀な魔導技師の尽力、規模の大小を問わない民間人の応援ないし支援の輪、これらのお陰で現在でも強化自体は出来ていた。

 一見すれば、追加でわざわざ計画を立てる必要が薄いと思われる程には、である。

 

 しかし、今まで仕入れてきたグラ・バルカス帝国についての情報に加え、日本政府より提供されたかの国の本土を含む各所の人工衛星から撮影された鮮明な写真が、その必要性を絶対的なものへと変えていた。

 

 特に、古代兵器のリバースエンジニアリングや潜水艦・対潜装備関連、ジビルも搭載可能な大型戦略魔導爆撃機『ヴォルケーノ』の製造、陸海空軍の増員については、最優先事項と位置付けられている。

 

 海軍艦艇や各種航空機、陸戦兵器や兵士、ミリシアルのものと遜色ない大きさの大型戦略爆撃機、これらによる圧倒的物量に対抗するためには技術のみならず、物量についても向上させる必要があると判断されているのだ。

 

 加えて、オタハイトやマイカルから侵略者は消え去っているものの、ムー本土には未だ侵略者に毒牙を向けられている場所が複数存在していた。

 

 友好国に巣食い、そこに住む民を害する侵略者を領土・領空・領海から叩き出すべく、救援依頼に基づいて全力で戦うミリシアル軍兵士の死傷者を、少しでも減らすためと考えれば当然の話である。

 

「それに、少々無理をさせてしまいはしましたが、帝国三大学院の魔導技師たち含め、他学院のとびきり優秀な者にプログラムを組んでもらってます。元々その手の技術持ちであれば、開始してから早くて5ヵ月、そうでなくとも1年~1年半で水準に達する事は可能だと思います。無論、グラ・バルカス帝国との戦争終結後を見据えた計画も同時立案中ですので、ご安心を」

「ふむ、なるほどな。何度でも何時でも思うが、戦争は本当に忌まわしい」

 

 しかし、これらの計画はやろうとしてすぐ達成出来るような、極小規模かつ低難度なものではない。

 国の中枢(ミリシアル政府)は言わずもがな、その手の職業に就いている人々の協力があってさえ、達成に多大な時間が必要な大規模かつ高難度なものだ。

 

 無論、達成出来た()()では意味が薄れてしまう。これによって生み出された成果を、今度は神聖ミリシアル帝国軍に所属する人々が上手く扱う必要がある。

 

 もし、高水準で扱う事が出来るのなら、グラ・バルカスのように技術力が自国と同等か多少格上程度の相手であれば、最低でも負けない(守りきれる)戦いが保証される。

 

 とは言え、死傷者を全く出さないか極僅かで済むような圧倒的勝利を得られるかと問われれば、ミリシアルの今現在の純粋な技術力では不可能だ。

 各種古代兵器の全力活用を行い、ようやく可能かも知れないと言える程度に落ち着いている。

 

『あー……もしもし。こちら、魔帝対策省遺跡調査課。陛下、お時間取れますでしょうか? えっと、ご報告があります』

 

 こんな感じで、皇帝含むミリシアル政府上層部の面々が会議を続けていた最中、置かれていた政府用魔導通信機に通信が入る。

 

 ミリシアル国内にて魔帝の遺跡発掘・調査を行い、時と場合によっては他国で発見された遺跡の調査をその国と共同で行う、肝いりの省庁職員からであった。

 

 彼らは、グラ・バルカスとの本格的な対立が決定した以降も変わらず活動を続け、今現在はミリシアル陸軍の護衛の下、エモール王国との国境付近で新たに見つかった遺跡らしき場所の調査を、行っている途中である。

 

 また、調査結果の報告を終わった後に行うのが通常の流れであるにも関わらず、今回は非常に珍しく途中で()()()()()報告が来たために、会議場は一瞬で静まり返った。

 

 この場合、ミリシアルにとっての良し悪しはともかくとして、大きな影響を及ぼす何かが発見されたか、事態が発生した場合が殆んどを占めている。

 

「無論、問題ない……おい、映像を繋いでやれ」

「了解です……よし、繋がりました」

『あらら、申し訳ありません。会議途中でしたか』

「気にしなくてよい。お前たちがわざわざ途中で連絡を寄越すべきと判断する、そのような何かが発生したのは容易に想像がつくかならな」

『感謝致します。まさに仰る通りで……はい。こちらをご覧下さい』

「「「……おぉぉ!?」」」

 

 結果、会議を一時中断してその報告とやらを聞く事が満場一致で決まり、設置されていた連絡用魔導映像通信機が繋がれた訳だが、そこに映っていたものに一同が叫び声をあげて驚く。

 

 それは、正しい手順を踏んで起動さえ出来ればすぐにでも使える、不活性状態のまま保管されていた100近くのコア魔法であった。

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