光の申し子   作:松雨

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グラ・バルカスの焦燥

 神聖ミリシアル帝国に宣戦布告しつつも、かの国の予想以上の強さによって押されていたグラ・バルカス帝国の上層部は、そこへ加わったある出来事のため、よろしくないムードが漂っていた。

 

 非常に優秀な技術者でもある『ナグアノ』やその上司の『バミダル』、諜報局の局員や海軍の軍人数名が提唱した日本脅威論が、もはや荒唐無稽なものだと言えなくなってしまったからである。

 

 艦艇だろうが高速で動く航空機だろうが関係なく必中の攻撃を放ち、撃沈ないし撃墜してくる巡洋艦(護衛艦)、帝国の駆逐艦(ソナー)ではその姿を捉える事すら恐らく不可能な潜水艦、自国戦車の装甲がまるで意味をなさない主砲を持つ敵戦車(10式戦車)、戦争前に入手した民間書籍などで知ってはいた。

 

 が、帝国の常識からすれば魔法であればともかく、技術体系が自国と同じであれば、いかに進歩しようとそんな事が出来る訳がない。そう軽んじられていたために、ミリシアルと比べれば幾ばくか扱いが軽かった。

 

「どう致しましょう、サンド本部長。現場からの報告に最新鋭の撮影機材(カメラ)による複数の写真……他諜報員からの情報も併せますと、日本は我が国を圧倒的に超えているとの結論にどう足掻いても達します」

「ええい、分かっておるわ! しかし、そうなるとミリシアルをも超えている事になるぞ」

()()()()()はありますが、確実に上でしょう。かの国の軍事力向上を担っていると噂の、高名な女性技術高官(魔導技師)……確か、オロールでしたね。彼女が日本交流の超推進派な点を見ても、確実に」

「何と言う事だ! ミリシアル本土の空中戦艦(パル・キマイラ)問題に続き、また厄介な問題が増えてしまったようだな!」

 

 しかし、ムーの首都であるオタハイト、および近辺海域での蹂躙劇とも表せる戦闘結果を含め、数々の要素が重なった以上は日本対策を目下の課題とせざるを得なくなった。無論ミリシアルに対しても、手を緩めるのはご法度である。

 

 世界征服を国家の目標に掲げるのを止められないのであれば、時期はどうであれ確実に対峙し、どれだけ相手が強かろうとも打ち倒す必要がある。

 

 色々な策を講じたりして戦闘を回避出来なくはないものの、それは単に時期を先延ばしにするに過ぎない。むしろ、その間に他国支援などをされてしまい、自分で自分の首を絞める事になるだろう。

 

「どうにかして、ミリシアルと日本の交流を止められないのか?」

「現時点では不可能です。ミリシアル本土の警備には件の空中戦艦、両国を繋ぐ海路はミリシアル外洋派遣艦隊ないし別の一個艦隊が、殆んどの場合は警戒に当たっているらしいので」

「外洋派遣艦隊と言うと、パーパルディアへ出向いていた奴か! 艦艇そのものも手強いと言うのに、現状奴らの巨大空母の艦載機に対抗する手段がないのは厳しいな」

「ちなみにですが、例外に当たる場合でも不可能です。何故ならその場合、日本の海上自衛隊が海路警戒の任務に就くようなので」

「ははっ。どちらの場合でも地獄、何ならミリシアル相手の方が光明がありそうに思えるぞ。まあ、実行すら無理なんだが」

 

 ならばと、両国の国力を削ぐべく搦め手を講じたとしても、ミリシアルが主となって敷く二重三重の警戒網がそれをことごとく絡めとり、あっさりと防いでしまう。

 

 異世界からの転移国家であるグラ・バルカスは信用していないものの、いずれ復活するであろう古の魔法帝国に対抗可能な技術力を誇る日本との交流は、技術体系は違えどミリシアルにとっては得しかない。

 

 何なら上手く行けば10~20年後、超兵器であるパル・キマイラやパルカオンやシーヴァンのみならず、()()()()()()()()()()()建造すら視野に入るのだ。

 

 戦時でありながらも、自国に訪れて来る日本人を傷つけるわけにいかないと、ミリシアルが必死になっているわけだ。ある意味当然だろう。

 

「超重爆撃機『グティマウン』編隊は出せないのか? 成層圏を飛ぶ要塞であれば、ムー国に駐留するミリシアルおよび日本をどうにか……いや、無理だな」

「出せはしますが、無理ですね。ミリシアルの制空戦闘機は最高速が800㎞超え、日本に至ってはマッハ……音の2倍をも超えると言われてますから」

「高度限界が分かれば良いんだがな。まあ、ミリシアルはともかく日本は余裕で超えてくるだろう」

「レーダーも高性能でしょうしね。かの国に征服欲があれば、とっくに世界征服している程に強いので」

「科学でも魔法染みた事がいずれ出来るようになるとは聞いた事があるが、これ程この言葉に合致する国が実在するとは……全く、つくづく異世界だ」

 

 その後も軍で最も偉い『サンド・パスタル』や諜報局の副局長、帝国三将の『カイザル・ローランド』や他陸海空軍の中将クラスの軍人たちが色々と意見を出し合うも、全員が一致する意見は中々出て来なかった。

 

 前世界では登場し得なかった強国が2ヵ国、日本に至ってはもはやおとぎ話かと言わんばかりの超技術を誇り、自国が本気を出しても完封殲滅されかねないのである。

 

 世界征服を達成するにあたって大きすぎる壁が、ここへ来て生じてきた訳であり、中々良い意見が出ずにまとまらないのも無理はない。皇帝の命令である以上、戦争を止める選択肢もないのだから。

 

「ひとまず休憩を取らないか? この様子だと、議論が長引きそうだからな」

 

 と言う訳で、本来であれば何がなんでも避けるべき壁へと向かい、乗り越えていかなければならないのが確定してしまった。

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