光の申し子   作:松雨

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堕ちかけている大帝国

 異世界からの転移国家たる日本を除けば、最も発展している科学文明国家(グラ・バルカス帝国)の首都『ラグナ』。

 

 その中心部に建つ『ニヴルス城』の内部に部署が存在している、帝国の政治の中枢を担う帝王府の面々を含めた政府上層部は、今現在お通夜状態と化していた。

 

 何故ならば、信頼のおける諜報機関などからもたらされた複数の情報が、信じたくもない悪夢と言うべきものであったためである。

 

 ミリシアルに差し向けた、自国の海軍戦力の7割である1065隻の極大艦隊が、文字通り殲滅される。

 

 ムー大陸攻略の足掛かりでもある統合基地(ラルス・フィルマイナ)を含めた、重要な複数の軍事基地が灰塵に帰す。

 

 それらの戦果が、現状脅威と見なしている日本の助けを一切借りず、ミリシアル一国で得られた可能性が極めて高くなった事。

 

 つまり、ただでさえ劣勢だったこの状況から、破滅的敗北への道標を一気に辿りかねない領域にまで至ってしまった訳だ。当然の事であろう。

 

「誤解などを恐れずに言いますと……現状、我々では日本はおろか、ミリシアルにすら対抗出来なくなりつつあります。戦争中と言う点を鑑みると、近い内に通常戦力でも同じ末路を辿る事になるでしょう」

「だろうな。日本との軍事・民間技術交流のみならず、動かせる古代兵器とやらがあるのであれば、そいつから学ばぬ道理はない。何なら、それを使ってもおかしくはないだろうよ」

「間違いないわ。しかし、ミリシアルの本土を守る件の空中戦艦、あれも同じ事が出来ると考えると……恐ろしいわね」

「だから、魔法やら魔導技術とやらは訳が分からんのだよ。科学であれをやろうと思ったら、最低でも100年以上はかかる代物だぞ」

「確かに。そう考えると、遥か先を行くとは言え科学技術で発展している日本の方が、我々にとってはまだ理解の及ぶ範囲ではありますよね。それでもあれですが」

 

 最新鋭の海軍艦艇に航空機、それを運用するための金銭や人員の損失は凄まじく、国家財政面はもとより時間的にも戦争中に補填をすることは不可能だ。

 

 特に、帝国でも象徴的な戦艦であるグレードアトラスター級2隻を含めた戦艦や空母、海軍では神にも等しき存在と化していた大将(司令官)のカイザル、旗艦艦長のラクスタルや神憑り的な砲術士のフラグストンなどの替えの利かない人材の損失は、言わずもがな地獄。

 

 せめて、敵に同じくらい多大なる損害を与えていればまだしも、報告では殆んどダメージを与えられていない可能性が高いとあったのだ。もはや、戦争継続どころではない。

 

 なお、潜水艦や陸軍はそれらと一転して損失は少なくなっているが、投入したところでミリシアルから同様の末路を辿らされる事は、彼ら彼女らにとって想像に難くなかった。

 

 誘導弾があるなら誘導魚雷もあると想定しやすい上、マイカル市街地戦闘でミリシアルが投入した戦車群に至っては、情報がいくつか寄せられているのだから。

 

「大変申し上げにくいのですが、ミリシアルとのこれ以上の戦争継続は現状、我が国にとっては自滅でしかありません」

「私としても本部長に同意します。どうか、これ以上将兵の命を無意味に散らさないためにも、ミリシアルとの――」

「おい! バミダル、ナグアノ……貴様ら、皇帝陛下の面前でその言葉を口に出す意味、分かっているのだろうな!」

「勿論分かっている。認めたくはないが」

「私も、レイゼン様のお気持ちも分かります。しかし、現状我が国の軍事技術は、ミリシアルの空中戦艦には勿論の事、海上要塞とも言うべき超々巨大戦艦にはほぼ対処出来ないのです。エルペシオ4と呼ばれる戦闘機に関しても、相当な性能である事が想定されますから」

「ぐっ……! 例の試作機でもか……?」

「楽観的な想定でも、10機程度では厳しいです。敵機の正確な性能や誘導弾の有無および性能次第、更なる新型戦闘機の有無によっては、話にならない可能性すらあるでしょう。最悪、空中戦艦を相手取らなければなりませんので」

「……」

 

 このような状況下であるため、帝王の『グラルークス』も参加している帝政会議でも、ミリシアルとの講和を進言する者は存在しているが、理由は様々かつ少ないながらも反対したり怒りを露にする者が出始めている事もあり、議論は平行線を辿っている。

 

 ちなみに、グラ・バルカス帝国にもアンタレス改を超える、最高時速826㎞かつ試作機ではあるものの、無誘導ロケット弾を装備している黎明期ジェット戦闘機『スピカ』が、つい最近完成していた。

 

 エルペシオ4を意識している上、更に誘導魔光弾(誘導ロケット弾)対策として、情報局技術部の開発した『チャフ』や『フレア』もある程度の量搭載している。予算も既に下りていて、そう遠くない内に量産体制が整う見込みであったのだ。

 

 予想を遥かに超えるレベルでミリシアルに完敗し、国家体制にすら影響が及ぶ程の破滅的な被害をもたらさなければと言う話ではあったが。

 

「うむ。事ここに至っては、ミリシアルとの講和を我が国()から結ぶ事を提案するのも、考慮に入れねばならぬか。お前たち的には、そこのところどうなのだ?」

「恐れずに申し上げますと、我が国にとってはそれが最善手となるでしょう」

「諜報部としても、バミダル様と同意見でございます。これ以上の戦争継続は、ミリシアルの更なる強化と我が国の弱体化を招くかと」

「そうか……レイゼン、お前は優秀だ。もう既に色々と理解してはいるのだろう?」

「はい、陛下。実のところ、内心ではミリシアルに勝てる見込みはないと考えておりました。ただ、どうしても信じたくなく……」

「……やはりな」

 

 そして、今の今まで会議の行く末を見守っていただけの帝王(グラルークス)も、信頼における部下たちからの話を含めた情報によって、ミリシアルとの講和を本格的に検討し始める。

 

 勿論、ミリシアルとの講和は良い事ばかりではない。ある意味自業自得ではあるが、莫大な賠償金を筆頭とした制限がかけられる事にもなるからだ。

 

 今までの侵攻で得た植民地などの放棄、ムーなどに対する賠償条約の締結や技術提供・支援、細かなものを挙げれば枚挙に暇がない。

 

 前世界では最強の名を欲しいままにしていたグラ・バルカスにとって、これは非常に屈辱的な展開だったと言えよう。

 

「ふぅ……帝王グラルークスの名の下に命ず。本土への攻撃が始まる前に、講和の道を探るのだ」

「「「……はいっ!!」」」

 

 なお、これらの結果から講和の道を探れと命じた帝王の頭の中には、一瞬だけ『クエースノヴァ(核爆弾)』の使用が頭にちらついたものの、流石に更なる破滅的な結果を招くと思い直したため、その言葉が口から出されることはなかった。

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