光の申し子   作:松雨

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終戦の灯火

 軍事技術の格差や物量差、裏工作の有無や政治的問題の発生などの特殊な要素が影響しない限り、本格的な戦争が1度始まってしまえば、基本的に1年未満で終わる事はない。

 

 それ故に、敵国に勝利するための軍事技術を中心としてブレイクスルーが起き、民間に役立つ形で流用されるようになるなどの良い点もない訳ではないものの、それ以上に絶大なデメリットしかないのだ。

 

 戦争費用がかさむ事による経済的な損失は言わずもがな、前線で戦う軍人さんや戦況によっては、民間人の大切な命が無意味に散っていくと言う、ありとあらゆるメリットを完膚なきまでに打ち消してしまう程の、凶悪なもの。

 

 現に、1年以上行われているグラ・バルカス帝国との戦争でも、ミリシアル軍の人たちがその命を失ったとの話を聞いている。

 

 だからこそ、日本との交流やミリシアル政府の努力、私を含む魔導技師の人たちの尽力により生み出された、次世代の魔導兵器群を実戦で使えるようになったのは、本当に嬉しくて仕方がなかった。

 

 そのお陰で経済的なダメージは加速し、過労による体調不良などの問題が対策されてすら発生し、先進11ヵ国会議がいつまで経っても開けないなど、戦争で死んでしまう事に比べれば小さいものの、悪い事が起きているからあまり大手を振って喜べないけど。

 

「メテオスさん。そのお話、本当なのですか?」

『勿論だとも。オタハイトに戻った大使経由で私も聞いたのだが、少し驚いたよ。あの帝国の事だから、本土決戦辺りまで長引くだろうと思っていたからねぇ』

「確かにそうですね。私も同意見です」

 

 しかし今日、例の如く仕事でルーンポリスのホテルに滞在していた時、携帯型の新型魔導通信機にメテオスさんから、世界共通の戦時外交旗に加えて、ミリシアルやムーにとって降伏を意味する旗を掲げたグラ・バルカス帝国の戦艦『グレードクエーサー』が補給艦と共に、ムーのオタハイト港に停泊しているとの知らせを受け取った。

 

 帝王(グラルークス)(したた)めた書を携えた、『シエリア』と名乗る女性外交官が、最低でもミリシアルとムーに対する今までの行為に対する謝罪と各種賠償を、国家として行っていくと初手で確約したとの事。

 

 また、世界征服などという大それた野望は永久に封印・排除し、基本的に残存兵力は自国の防衛や正当な反撃のみに使用すると言ったらしい。今後機会が生まれればの話との事だけど、同盟国を守るといった際にも使うつもりのようだ。

 

「……性格変わり過ぎじゃありません? やはり、我が国を攻めようとした1065隻が文字通り、全滅した事が効いたのでしょうか」

『間違いないだろう。金銭や資源の損失はもとより、優秀な人員の損失が絶大過ぎたが故に政府上層部は当然、情報が漏れた民間まで発狂騒ぎになっているらしい。そこに追撃として、ムー大陸の基地への我が軍による空爆が、降伏の最後の決め手になったそうだ』

「なるほど。確かに、普通はそうなったら耐えられませんものね」

『ただ、それでも戦艦14隻に空母11隻を含む320隻の艦艇は残っていると。7割減ってこれとは、戦争前の戦力と国力が如何にとてつもないかが良く分かるねぇ。何なら、本土の陸戦力や航空戦力は大量に残っているだろうし、今でも世界から見れば十分列強国の水準にある』

「あはは……トチ狂ってますね。通常戦力だけでは、ミリシアルもきっと勝てなかったでしょう。誘導魔光弾や誘導魔雷も、出てからさほど時間も経ってませんので尚更ですよ」

 

 なお、レイフォルについては一考の余地はあるみたいだけど、パガンダ王国については国交を結ぶための使者として居た皇族が、相手から侮辱だの法外な額の賄賂を要求された挙げ句、処刑された過去があるため、完全に占領したままで居るつもりだったようだ。

 

(……)

 

 勿論、グラ・バルカス帝国が今までしてきた行為の罪は重く、決して簡単に許されるものではないだろう。実際に私も、リリアの件に関して許してはいない。

 

 だけど、国交樹立のために穏便に外交をしていたら、行く先々で散々たらい回しにされた上に、皇族が殺されたグラ・バルカスの人たちの気持ちは、少なからず理解は出来る。

 

 もし、ミリシアルが同じ事をされたとなったら、間違いなく戦争になるからだ。その時になればきっと私も、皇族を殺した輩には報いを受けさせたいとの強い思いが、即座に芽生えるに違いない。

 

 今までの振る舞いがあれだったから、相殺されてしまうとは思うけど、パガンダ王国の件に関してなら同情してもらえるのではなかろうか。

 

「そう言えば、日本もグラ・バルカスとムーのオタハイトで戦ってましたけど……どうするつもりなんでしょう」

『それなら、ムーでの事案はフェン王国の事案よりも判明している犠牲者は多く、日本国の民は烈火の如く怒っているらしいから、相応の報いは受けさせるだろう。日本国首相から、グラ・バルカス帝国の外交官とのやり取りの橋渡しを可能ならして欲しいと、直々に皇帝陛下へ依頼がある程だからねぇ』

「ですよね。まあ、当然でしょう。大切な人たちの命が、理不尽にも失われてしまったのですから」

 

 ちなみに、日本はグラ・バルカスと本格的な対立関係にはないものの、ムーへの侵略行為による邦人の犠牲者が少なくない数居る事から、国民感情は当時のパーパルディアと同等か、それ以上に悪い状態にあるらしい。

 

 一転して、国営放送や新聞でグラ・バルカスとの戦闘結果などが、一部映像付きで全国公開されている事もあってか、私の祖国への好感度は更に上がっているとの事。

 

 元々、ミリシアルへ旅行や仕事などに訪れる外国人としては多かったけど、今は更に増えて列強諸国の中でも1番多くなっていた。

 ルーンポリスやカルトアルパスなどの主要都市は勿論、地方都市や田舎の方でも日本人を見かける機会が増えていると聞く。

 

 結果、日本人観光客を呼び込むために日本語表記が増えたり、日本語を勉強して書けるようになったりするミリシアル人も増えているから、その内往来がより簡単になるような条約も結ばれるかもしれない。

 

 私としては、日本とミリシアルが官民共に仲良くなってくれているこの流れは、非常に歓迎すべき事として認識している。

 

「オロールさーん! そろそろよろしいでしょうか?」

「あっ、はーい! メテオスさん、すみません。通信切りますね」

『うむ、時間を取らせて済まなかったねぇ。仕事、無理ない範囲で頑張ってくれたまえ。オロール君』

 

 そんなこんなでメテオスさんと話を続け、通信を切る頃には私の心の中は、とっても暖かな気持ちでいっぱいになっていた。

 

本作独自の種族に関しての質問

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