グラ・バルカス帝国は、自国の起こした侵略行為および酷過ぎる統治によって直接的な被害を与えられた国の人々から、当然の如く怒りや恨みなどの感情を抱かれている。
堂々と宣戦布告を行い、自信を持って対峙していた神聖ミリシアル帝国に本気を出され、惨敗して降伏したとの知らせが駆け巡ると、より一層侮蔑的な目でも見られ始めてしまう。
加えて一部例外こそあれ、滅亡してしまったレイフォルの領土だった領域に住んでいた人々、日本やミリシアルからの復興支援を受けてはいるものの、官民共に洒落にならないダメージを受けていた列強ムーに住む人々の抱く恨みや怒りは、それはもう凄まじいものであった。
そして、運良く直接的な被害をほぼ受ける事のなかった国と、そこに住まう人々からは怒りや恨みはさほど抱かれなかったが、代わりに一定数の人から畏怖されるか、冷ややかな目で見られている。
「あのー、シエリア様? 大丈夫……じゃありませんでしたねー。すみません」
「ん……? ああ、ルヘイムか。私はこの通り、精神的にもう参っている。今やもう、胃薬がお友達レベルだ」
「ムーの人たちの恨み辛みを一挙に受けてましたもんねー。よろしければ、私が代わりに行きますよ? 陛下も、その辺りは柔軟にやっても良いと許可は与えてくれましたし」
「いや、問題ない。ムーの人々が我が国に恨み辛みを向けるのは至極当然で、なおかつ私はその国の外交官。戦争に何ら関わりのない一般人にこれが向けられるよりはマシだろう? ルヘイムの言う通り陛下も私に裁量を与えてくれたから、要人警護の彼らには石や卵を私に投げつける程度はさせてやれと、そう言っているんだ。まあ、ムーでは一切なかったが」
「高潔ですよね。確かに、技術力
ただ、戦争時の残虐行為の直接実行はもとより指示した事もなく、何なら少しも賛成してすらいないため、主導した政府や軍の人物よりは罪は軽いと言えよう。
しかし、本人はそう考えてはいないため、自国のせいで直接的な迷惑を被ったほぼ全ての国家を周り、謝罪と賠償を含めた各種条約の締結を行うその最中、向けられる負の感情を自らの意思で一身に受けている。
自分自身にも現地人を下に見て侮る考えが皆無だった訳ではなく、加えて戦争そのものや帝王による世界征服の野望に対し、反対の意をきっぱりと示した訳ではない点が、ずっと心のどこかで引っかかっていたからだ。
だが、当時は帝国全体でそう言う意見を表明可能な雰囲気ではなく、下手に目を付けられると逮捕されたりする確率が上がるのは勿論、過激派から刺される危険が低くても存在していた。
そもそも、
何だかんだで分かってもらえたからこそ、全てではないにせよ今まで回ってきた国々でも、去り際になればそこに住む国民から同情され、グラ・バルカス帝国そのものに対してはともかく、シエリアに対する負の感情は多少和らいでいたが。
「次はミリシアルだったな。我が国の極大艦隊を完膚なきまでに叩きのめす事が可能な、この世界唯一の強国……いや、違うな。日本も居たから、二大強国の1つか」
「日本ですか? ミリシアルの方はこの世界の法則を最も理解している国だから分かりますけど、そこまで言う程です? あっ、でもオタハイトで対峙してましたっけ」
「そうだ。ミリシアルと違って魔法は一切使用していない、ムーや我が国と同様に純粋な科学技術のみで発展してきた、異世界から転移してきた国家だと言う。しかも、情報局曰くミリシアルが短期間で訳の分からない強さになった大元との事だ」
「えっ」
「古代兵器とやらが強すぎる上、魔法に異世界の超科学文明大国の叡智が加わると、これ程までに恐ろしくなるとは……我が国も、魔法研究を本格化させるかもしれない」
ちなみに今現在、シエリア以下数名のグラ・バルカス帝国外交団はムーでの謝罪に賠償、各種条約の締結をひと悶着ありながらも何とか終わらせ、ミリシアルの帝都であるルーンポリスへ向かっているところである。
本格的に宣戦布告し、対峙した国の中でも最強の魔法国家に向かい、謝罪や賠償を含めた各種条約締結を行うとだけあり、シエリアの精神的負担は尋常ではない領域に達している。
ミリシアルに向かう前、西方諸国やムーを回っていく過程で既に精神が磨耗していた。
加えて、ミリシアル強化の大元でもある日本とも、本格的に宣戦布告していないとは言えムーのオタハイトにて、小規模ながら軍隊同士で交戦してしまっていた。
しかも、日本の一般人らしき人間をムー侵攻の際、陸軍兵士が殺してしまった事が判明している。
古の魔法帝国は現状存在していないため、実質この世界最強の超科学文明国家を、グラ・バルカス帝国は激昂させた事になる。
ミリシアルとの戦いで大きく消耗している現状、日本に侵攻されれば成す術なく敗北し、国家消滅の憂き目に合う恐れがあると言う事実が、シエリアの精神を更に凄まじい勢いで削り取っているのだ。
結果、本来であれば即座に長期休暇を取るか退職するなどして仕事から離れ、療養生活を送るべきだと医者から言われそうな位に、調子が下降する羽目となってしまう。
しかし、彼女は気合いと根性でこの局面を乗り切るつもりでいた。それを宣言した時の様子は異様であり、周りに居た軍人や外交団の面々が威圧される程であった。
「さてと……ルヘイム。
「……」
そんな感じの、異様な雰囲気でシエリアの周りが包まれてから12時間半、ミリシアルの哨戒艇らしき艦影をグレードクエーサーのレーダーが捉えると、それまで場を支配していた空気が一変、シエリアの表情も外交官らしいものへと戻っていったのだった。
本作独自の種族に関しての質問
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多くして欲しい
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多くしても問題ない
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これ以上は望まない
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作者にお任せ