神聖ミリシアル帝国が、グラ・バルカス帝国からの侵攻を全て退けた上で反撃した結果、
国営放送や新聞を経由し行われた、ミリシアル8世からの発表を見聞きしたミリシアルに住む民は当然の如く、諸手を挙げて歓迎している。
特に、カルトアルパス魔導学院の案件で殺された魔導技師の友人や遺族、戦争の過程で命を失った軍人たちの友人や遺族の喜び様は、他のミリシアル人を凌駕していた。
また、この発表はありとあらゆるルートで世界中に広がっていき、この世界にて最強の名を欲しいままにしていたミリシアルは、より一層その地位を盤石なものへとしていく。
「陛下。今のところ、グラ・バルカス帝国外交団のルーンポリス入りに関して、問題は一切起きておりません。滞りなく、こちらへ向かってきています」
「なるほど。念のために確認するが、条約締結の話し合いに関して準備不足などはないな?」
「勿論です。しかし、まさか陛下が自ら外交団と相対なさるとは……それだけ此度の戦争の件で怒っていると、しっかり表明するためでしょうか?」
「うむ、当然だ。奴らが戦争を我が国に仕掛けようとしていたからこそ、本来失うべきではない命が失われたのだからな。後は、恐らく少しでも有利な条件を提示してこようとするだろうから、威圧してそれを阻止する意味合いもある」
「なるほど。確かに、あり得ない話ではありませんよね」
しかし、降伏させたからと言って全てが終わり、平和な日常に戻る訳ではない。
此度の戦争で、グラ・バルカスがミリシアルに与えた各種損害に対する賠償をどうするか、今後侵略戦争を仕掛けない事の確約と、それを破った際の罰を如何程にするかなど、それをまとめた条約を締結しなければならないからだ。
加えて、ミリシアル本国のみであればそれで終わるが、ムーを筆頭としたミリシアルと
実際に全力で対峙している時はともかく、平常時に戻ったのであれば、そんな彼らが普段通りの生活を送る事が出来るよう、本格的に支援していく必要があるのだ。
勿論、だからと言って何でもかんでも要求通りにやってあげる訳にはいかない。自国に悪影響を及ぼさない程度かつ、必要な場面に適切な質と支援を行き渡らせられるように、広い視野を持つ事が最優先と言えよう。
「失礼致します! グラ・バルカス帝国外交団の方々をお連れしました! 入ってもよろしいでしょうか?」
「無論だ。入らせろ」
ルーンポリス港に、外交団を乗せた戦艦が到着してから1時間半、ミリシアル8世と秘書2人を含む5人が待機する豪勢な広間に、警護兼監視員の大魔導師に誘導された、グラ・バルカス帝国外交団の面々が入場してくる。
瞬間、予想外であった点もあるにせよ、シエリア以外の面々は
なお、外交団のトップであるシエリアは、各国への訪問でただでさえ精神的に弱っていたところへ、止めとばかりに見えた皇帝の姿と威圧感により、強い胃の痛みに襲われてしまった。
ただし、事前に胃薬と痛み止めを服用していたため、条約締結の話し合いが不可能となる程酷いものではない。とは言え、色々と辛い事には変わりなく、彼女の頬には1滴どころではない汗が伝う。
「……少し休んだらどうだ?」
「お気遣い感謝いたします……ですが、私は大丈夫です。我が国が始めた、此度の戦争にて酷く辛い経験をした方々へ、私なりの贖罪の極一部ですから」
「そうか。お前が良いならば、このまま話し合いを始めるとしよう」
シエリアの様子は素人目に見てもおかしかったが、皇帝を含めたミリシアル側は全員、交渉を少しでも有利に進めるための作戦の一環かと考えていた。
と同時に、芝居もしくは何かしらの人為的手段などで成したものではなく、本当に調子が悪い可能性も頭をよぎっていたため、皇帝はわざと出していた威圧感を少しだけ引っ込める。
なお、皇帝の秘書は皇帝の身の危機に備え、強力な防御と治癒魔法を得意とする大魔導師でもあるため、万が一シエリアが倒れた場合も命令さえあれば、適切な処置を施す事は可能である。
ただ、悪い場所とその程度によっては通常の治癒魔法だと効果が薄くなるか、治療者の使用魔力量がそれに応じて通常よりも増加する可能性が発生してしまう。
重篤な怪我や疾患ともなると、例外こそあれ基本的には魔法を使わない医療技術と、治癒に必要な時間等々の要素が何ら変わらなくなる。
とは言え、その場で治療行為を始められる即応性は、治癒魔法の絶対的に優れた点ではあるが。
「と言う訳でございます」
「ふむ……正直、お前自身はともかく貴国そのものへの信用度は、相当低いと言わざるを得ない。今までの方針からして、あまりにも変化が激しすぎるからな」
「無理もございません。我々は侵略者側、貴殿方は完全なる被害者ですから。しかし、最低でもこれらの点は守る意思はありますし、必要とあらば国家滅亡級でもない限り、ミリシアル側の急な提案を呑みましょう。これらは全て、グラルークス帝王陛下も同意しています」
「……なるほど。確かにこれは、向こうの帝王自らが認めた誓約書と言えるだろう。リーズ、お前から見てどうだ?」
「グラ・バルカスの詳しい内情は知りませんが、私も陛下と同意見です。条約を締結した後、それを遵守する強い意思を感じましたので」
そして、話し合いが始められてからすぐ、シエリアからの話と手渡された各種書類に、大陸共通語で書かれていた文言を見た皇帝と秘書は、目を見開く。
カルトアルパス魔導学院の事件も含め、この戦争でミリシアルに行った行為全てに対する、グラルークス自らの謝罪文。
場合によっては、帝王がミリシアルを訪問して国民の前で謝罪する事も視野に入っているとも書かれていた。
戦争を行った期間と同等の期間、ミリシアルに与えた各種損害の補填と賠償金の支払い。要望があれば、別の形で支払う事も可能。
今後一切、侵略戦争を自国から吹っ掛けない事と、万が一破った際の罰はミリシアル側の言い値とする点。
他、貿易を行う際の優遇措置や一定期間、グラ・バルカス帝国の世界での活動制限なども、希望があれば可能な限り聞き入れる用意があるとも書かれていて、そのどれもがミリシアルにとって程度の差こそあれ、有利なものであった。
「我々としても不満はない条件ではあるが、それで発生するであろう国内の不満は抑えきれるのか?」
「問題ありません。無論、国内でも急な方針転換に戸惑いの声は上がっていますが、グラルークス帝王陛下の一声で混乱は最小限に抑えられています」
「そうか。ならば良いが」
結果、自国に少しでも有利な条件を提示してくると思いきや、逆に不利となる条件を提示してくるとは微塵も考えなかったミリシアル側は、戸惑いを見せるも同意した。
ここに至るまで、話し合いにかかった時間はたったの30分弱。ごねられ長引く事を想定して取ってあった時間が、2時間以上も余るくらいに余裕で終わる事となる。
「さてと、話し合いはこれで終わりだな。調印式が始まる日まで少し空くが、問題はあるか?」
「ありません。もとより、長期滞在を想定していましたので大丈夫です」
こうして、両国の条約締結は最後に調印式を残すだけとなったものの、ミリシアル側の都合により数日空くと決定した。
本作独自の種族に関しての質問
-
多くして欲しい
-
多くしても問題ない
-
これ以上は望まない
-
作者にお任せ