光の申し子   作:松雨

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科学の国の妖精塔(その1)

 日本の空の玄関口、羽田空港。地球に居た頃に比べれば、行き交う人々や旅客機の数はやはり、どうしても少なくならざるを得ない。

 

 しかし、ここ最近はミリシアルやムーのみならず、日本政府の全力支援によってパーパルディア勢力圏やロデニウス大陸諸国を繋ぐ便も僅かながら開通し始めたため、徐々にではあるものの活気を取り戻しつつある。

 

 世論との兼ね合いや両国政府間の各種調整が済めば、グラ・バルカス帝国とも経由地を経て、船舶のみならず旅客機でも行き交い出来るようにする予定となっていた。

 

 初対面は最悪極まりなかったものの、ムーに続いて純粋な科学技術による文明を築く国家であり、可能なら良き貿易相手として付き合った方が、未だ国内に残る経済的なダメージを解消出来るとの認識を、政府や一部の民間人は持っているのである。

 

「ふぅ、やっとこさ日本国に着いた! にしても、本当に凄い発展具合だよ」

「流石は、我がミリシアルに勝るとも劣らない超科学文明国家だ。出来る事ならプライベートで来たかったが、仕方ない。やるべき仕事を済ませますかね」

「あんたら元気ねぇ。しっかし、科学技術も極めるとここまでになるとは……皇国軍が赤子の手を捻るが如くやられる訳だわ。カイオス首相とエルト中央外務局長には、本当に感謝しなきゃ」

 

 そんな、この世界でも変わらず空の玄関口としての役割を果たしている羽田空港に、パーパルディア皇国のデュロからの便に乗って来た、3人の大魔導師が居た。

 

 第一文明圏にある『中央法王国』出身で、国内でも一二を争うレベルの優秀さを誇る人族男性『ホーク・ディアトーリ』。

 

 ミリシアルのルーンポリス魔導学院出身で、現在は魔帝対策省遺跡調査課に所属している、エルフの男性『ウィンドス・ルーン』。

 

 パーパルディア皇国内でも魔法技術はさることながら、カイオスの影響で科学技術に対する理解もそれなりに深い、皇国先進魔導技研所属で人族女性の『アルティ・ナルーナ』。

 

 この3人は駐日大使を経由し、日本政府よりされた都内最大の自然公園に出現した魔法的構造物の調査依頼を3ヵ国政府が請け負い、その第一次調査隊として派遣されたのである。

 

「確か、各種資料によると日本各地で出現した魔法的構造物は、外見や大きさなどに違いこそあれ、基本的に塔の形をしていたんだったな。他の細かな要素を考えれば、十中八九『妖精塔(フェアリータワー)』だろう」

「そりゃ、こんなものが出来れば妖精や精霊の目撃例は増えるわ。と言うか、今回調査に向かう東京都内の自然公園とやらに出来た妖精塔、推定600m超えとか冗談よね? その周りが花咲き乱れる庭園になってるのも、初めて見るパターンだし」

「いや、冗談じゃないと思うよ。でも、アルティさんの気持ちは分かるなぁ」

「違いない。日本国陸上自衛隊も同行するらしいが、これは……間違いなく、今回の調査は相当長引くだろうな」

「妖精たちが、協力してくれたりはしないかしら?」

「普通であれば無理だ。()()()()()()、だが」

 

 日本各地の自然豊かな場所に出現している魔法的構造物、いわゆる数十m級(通常)の妖精塔であれば、どれだけ長引こうとも1ヵ月前後で全容を明らかに出来る。この3人か、もしくはそれと同等程度の魔導師が居ればの話ではあるが。

 

 しかし、東京都内最大の自然公園に出現したような、600m級の超巨大妖精塔ともなると、そうはいかない。

 

 妖精塔の特性の1つである、不思議な力による内部の空間拡張効果がより強化、単純に広くなりすぎてしまうからだ。

 そうなると、未知の構造の遭遇率や外部への転送魔法陣の数も増加、より一層調査にかかる時間が増える事になる。

 

 で、当然規模が大きければ大きい程、力の強い妖精や精霊も生まれやすくなり、加えて背中の羽の有無と言う違いこそあっても、両種族共に自由に空を飛ぶ事が可能であるため、状況によっては悪戯などで妨害を受け、更に進みが遅くなる可能性が上昇してしまう。

 

 とは言え、活発なのか大人しめなのかの違いこそあるものの、基本的に穏やかな性格の種族である上に平均して力はそれ程強くないので、余程下劣な行為を妖精や精霊に対して行なわず、加えて一定以上の実力さえあるのなら、()()()()()相手であればさほど慌てる必要はないが。

 

「お待ちしておりました、第一次調査隊の方々。この度は我が国の要請にお応え頂き、誠に感謝致します」

「いえいえ、とんでもない。これが私たちの仕事ですから、お気になさらず居て下さいな」

「右に同じく。友人(友好国)が困っていて、なおかつ助けを求めているのであれば、助けるのは当然の話でしょう」

「僕も同感です! さてと、立ち話はここまでにして現場に向かいましょう! 即座に調査を開始出来る準備は整ってますので!」

「確かにそうですね。では、行きましょう」

 

 必要なやり取りを手早く済ませ、お土産屋で軽食と飲み物を購入して建物から出た3人は、待機していた日本政府が用意した車に乗り込むと、すぐに空港を後にしていく。

 

 全員、仕事柄日本の情報に触れる機会が多く、軍事云々以外の文化的要素などに関しても、ある程度の知識は持っている。ただし、実際に訪れたのはこれが初めてだ。

 

 ある時を境に彗星の如くこの世界に現れ、自分たちを含めた世界の常識を悉く打ち破り、その名前を広げた科学技術で成り立つ超大国に足を踏み入れたとだけあってか、窓の外を見る目は輝いている。

 

『皆様、こちらをご覧下さい! 最近、都内に進出して――』

『ねえねえ! お姉ちゃんたち、なにやってるの? おあそび?』

『テレビ放送ってやつだよ、よーちゃん! ここに居ない日本の人間さんたちのために、この場所のことをお姉さんたちがお知らせするんだって!』

『へぇ……やっほー! にほんのにんげんさんたちみてるかなー? とーきょーにあそびにきて、わたしたちをみかけたらなかよくしてねー! まってるよー!』

「「「……」」」

「……とまあ、こんな事が最近そこそこの頻度で起こるようになりまして」

「あはは……これは、確かに凄いですわね。基本活発な妖精とは言え、私の国で抱いていたイメージとかなり違うので、何と言って良いか……」

「出現最初期に邪険にせず、優しくしてくれた日本人が多かったんだろうね。サブカルチャーのお陰で、何だかんだ親しみやすかったのが大きいのかも」

「そうかもな」

 

 そんな時、暇潰しのためにと日本政府の役人がつけた車載テレビに映る番組に、日本に出現し始めた2種族の内の1種族である妖精が映った。

 

 老若男女問わず、この場の人間ほぼ全てに好意的で、その表情と仕草は見た目相応の可愛らしさではあるが、やっている事は陽気ないたずらっ子そのもの。

 

 しかし、今日本国内で妖精や精霊の出現が話題となっているので、結果として彼ら彼女らが目立つように映ると、生放送でも番組の視聴率に良い影響を与える場合がある。 

 

 クレームなどもほぼ皆無、事と次第によっては別の方面にも良い効果が波及するため、番組進行に一定以上の支障をきたさない限り、その部分はカットされずに使われる傾向にある。

 

 更に、反応の早いとあるテレビ局が作った、魔力のない日本人でもすぐに分かる妖精と精霊の見分け方解説などを含め、実際に当人たちをスタジオに呼んで色々やっていく番組がヒットするなど、今後の番組作りの方針に大きな影響を与える出来事までも起こっているのだ。

 

 勿論、そういった良い面ばかりではなく、悪意なきイタズラなどで各方面に無視出来ない損害を与えたり、意図せず色々なトラブルの元となってしまうなど、日本社会に一定の混乱をもたらす悪い面も存在している。

 

 妖精や精霊に関する法律などは当然なく、早急に制定して対処に当たれるように努力はしているが、クルセイリース大聖王国との戦争が未だ続いている故に、そちらへ割ける力が減少してしまうのも無理はない。

 

 ただし、現状はミリシアルからの古代兵器に関する情報提供、自衛隊の通常戦力はもとより、先進技術試験艦の武装の1つが想定以上の活躍をしてくれた事で、圧倒的優位を保っている。

 

 このまま行けば、近い内に戦争終結まで持ち込める所まで来ているため、法律制定もそれ程遠くはない。無論、近くもないが。

 

「第一次調査隊の皆様、お待たせしました。ここが、今回調査をしていただきたい超巨大魔法的構造物……妖精塔です」

「「「おぉ……!!」」」

 

 そんなこんなで、東京の街中を第一次調査隊3人を乗せた車が走り続ける事30分弱、件の妖精塔がそびえ立つ自然公園へと何事もなく到着した。

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