光の申し子   作:松雨

60 / 84
科学の国の妖精塔(その2)

 第一次調査隊の3人が自衛隊と共に調査する事となっている、東京都内最大の超巨大妖精塔。

 

 それを中心として、自然公園の敷地のおよそ半分を侵食するように広がっている大庭園も、推定600mの塔に相応しい様相と規模を誇っている。

 

 当然の話ではあるが、敷地内では沢山の妖精が元気に飛び回ったり、妖精と精霊が仲良く広大な庭園の手入れをしたり、魔法を撃ち合って遊んだり、ただ木の根で精霊たちが集まって昼寝をしたりなど、思い思いにのんびりと過ごしていた。

 

 普通であれば、明らかによそ者な大魔導師3人や陸上自衛隊の隊員が自分たちの領域に近づけば、いきなり攻撃はしないにせよ警戒したりするのが定石であろう。

 

「どう? じえいたいのお兄さん! わたしたちのお庭のお花、きれいでしょ? いいかおりもするでしょ?」

「そりゃあもう! この大庭園はとっても綺麗だし、咲いてる花も良い香りだね」

「えへへっ、ありがと! じゃあ、お兄さんにこのお花あげる! おとなりの、じえいたいのお姉さんにもあげちゃう!」

「あらら、私にもくれるの? 嬉しいけど、すぐに花瓶に入れられる状況じゃないから……枯れちゃわない?」

「だいじょうぶ! 妖精のお花に、おまじない(魔法)かけておいたから! でも、おうちにかえったら花びんに入れてあげてね!」

「勿論。せっかくもらった花を枯らすなんて、あなたに失礼だもの」

 

 しかし、この塔の妖精は調査隊(よそ者)を警戒するどころか、むしろ待ってましたと言わんばかりにニコニコしながら近づき、積極的に招き入れるのみならず調査協力を買って出る程に好意的。

 

 特に、自衛隊の面々30人(1個小隊)は日本人であるのに加え、その装いが余程興味をそそるものだったらしい。

 なので、案内役以外にも沢山の妖精が集まって話しかけたり、自分たちが育てている庭園の花をプレゼントしたり、構ってほしさにちょっかいを出したりと、もはや懐いていると言っても過言ではなかった。

 

「ずるい、妖精ちゃんたちばっかり。独り占めは駄目!」

「……あの、じえいたいのお兄さんにお姉さん。ぼくたちのことも、少しはかまって。おねがい」

「あぁ、こうか? ほら、お前も何か構ってやりな」

「言われなくても……よしよし。じゃあ、君にはついでに高い高いしてあげよう! ほら、高いたかーい!」

「わぁっ……えへへ、自分で飛ぶのより楽しい!」

 

 妖精たちと比べれば大人しめな子が多く、何かと彼女たちの勢いに圧されがちな精霊たちでさえ同様に警戒せず積極的に、かつ笑顔を見せて集まってくる様子を見れば、知識がなくとも懐いていると判断するだろう。

 

「こうもはっきり、割と大人しめの精霊たちまで懐くとは。日本人、やるじゃないか」

「ええ、確かにそれには同感ね。ウィンドス」

「僕も、右に同じく――」

「あのっ……お友だちのお兄さんたちも、ぼくたちと遊んでくれないかな……?」

「「「……!?」」」

 

 だからこそ、知識がある3人が尚更この光景に対して驚きを見せるのも、自衛隊の面々に対する程ではないにせよ積極的、かつ無警戒に近寄ってきた時に一瞬時が止まったようになるのも、無理のない話なのである。

 

 こんな状況なので現状、本来の目的である妖精塔の調査から脱線しかかっていてあまり進んでいないが、誰も大して気にしてはいない。

 

 日本各地で目撃されている両種族の振る舞いの報告に加え、調査開始前に大魔導師3人と自衛隊の小隊長の間でなされた、両種族の性格や特性に関する質問と応答によって、こうなるだろうと事前に予想済みであった事。

 

 そもそも、妖精塔に備わる特性である空間拡張効果、時間経過および身体にかかる重力以外の外部との環境的差異、転送魔法陣や塔の主を含めた魔法的防衛機構の存在に加え、規模の大きさ故の未知の要素の存在が大魔導師3人の知識と経験を総動員した結果、確実視されている点が、相応に大きかったのだ。

 

 後は、どうせなら妖精や精霊たちが敵対的で調査が進まないよりも、こんな感じで好意的だから逆に調査が進まない方が、精神衛生上良いと考えられているとの理由も外せない。

 

 百歩譲って敵対対象が自分たち(自衛隊)だけならまだしも、何の力も持たない一般人に敵意を向けられれば対抗出来ず、最悪洒落にならない被害が発生するかもしれないのだから。

 

「ようこそいらっしゃいました、調査隊の皆様。ここから先はわたし、深緑と生命の妖精たるフディレートが、案内と調査協力について引き継がせて頂きます」

 

 そうして、妖精や精霊たちとのんびりまったり交流しながらも、庭園内を石畳の道に沿いつつ歩いて進み、巨大な樹木と花で彩られた塔の入口に到着した瞬間、眼鏡をかけた緑髪の妖精『フディレート』が、調査隊の眼前に現れた。

 

 普通の現れ方などではなく、つむじ風や木の葉を伴う瞬間移動魔法によるものだったので、魔法自体に不慣れな点も相まり、自衛隊の面々は面食らう。

 

 大魔導師3人も3人で、フディレートが通常の妖精の範疇にない(自分たちを超える)魔力を持ち、本来術式が複雑怪奇なはずの瞬間移動魔法を息をするかの如く使ったと看過し、自衛隊の面々と同じくらい驚いた。

 

 いや、日本人よりも圧倒的に魔法に精通しているが故に、少ない情報だけで相手の力量を正確に把握出来たため、魔力を感じ取れない自衛隊の面々以上に驚いていると表しても、決して過言ではない。

 

「あっ、()()()()! ずっと、わたしたちのことをみてたんだ!」

「うん、この塔の管轄(守護者)はわたしだから。それに、わたしが管轄だろうとなかろうと、ここで生まれ育つ妖精や精霊たちは皆家族……大好きな皆を、力のあるわたしが見守るのは当然だよ」

「そっかぁ! えへへっ、うれしいな!」

「「「……えっ?」」」

 

 ただ、調査隊の面々が感じていた先程までの驚きは、目の前に現れたフディレートが塔の主であるとの事実から来る、より大きな驚きによってかき消される。

 

 その立ち居振る舞いや容姿、装いや魔力量からただ者ではないと察していたにせよ、塔の主に調査の序盤も序盤で出会うと予想するなど、不可能に近い。

 

 例えるなら、世界的大企業の本社へ仕事で訪ねに行っただけの一社員が、入り口で社長直々に出迎えてもらった上、自ら社内を案内してくれると言われたようなもの。これで驚くな、緊張するなと言う方が無理難題であろう。

 

「ふふっ、そんなに畏まらなくたって良いのに。さてと、立ち話はこれまでにして、早速中へ行きましょう」

「はい。えっと……」

「呼び方でしたら、フディーでよろしいですよ。あっ、でも……わたしがこんな外向けの主口調だと、畏まらなくて良いって言っても無理かぁ……じゃあ、調査隊の人間さん。よろしくお願いしますね!」

「……ええ。こちらこそ、よろしくお願いします。フディーさん」

 

 そして、巨大な妖精塔を守護する主であり、力量も振る舞いもそれ相応なものではあっても、フディレートはあくまでも日本で生まれていた妖精の内の1人。

 

 他の妖精や精霊のように、日本人はもとより人間に対して既に好意的で、自分も楽しくはしゃいで遊びたいと考えていたので、主の風格が出ていたのはほんの数分。

 

 簡単なやり取りを終えて、塔の中に入る頃には態度が殆んど他の妖精や精霊と変わらなくなったため、調査隊の面々はその変化と対応に困惑しながらも、気を切り替えて妖精塔の調査に臨んでいったのだった。

本作独自の種族に関しての質問

  • 多くして欲しい
  • 多くしても問題ない
  • これ以上は望まない
  • 作者にお任せ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。