光の申し子   作:松雨

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科学の国の妖精塔(その3)

 東京都内に出現した妖精塔の主である、深緑と生命の妖精フディレート。

 

 調査隊の面々が、彼女の先導によって妖精塔の内部へと入り、薄暗く長い洞窟のような道を進んでいった先にあったのは、木々の間から太陽の光が射してくる、非常に神秘的で美しい大森林。

 

 他にも、時折吹く風が木々を揺らす音、数多もの妖精や精霊が思い思いに遊ぶ姿、多種多様な動植物が懸命に生きている光景、透明感溢れる川の水と水が流れる時の心地良い音が、あらゆる疲れや悩みを吹き飛ばしてくれるだろうと実感出来る。

 

 また、気温も15~25℃と比較的快適、天候も基本的には晴れで昼夜のサイクルも塔の外と基本同様なため、ある程度の知識を仕入れるなどして事前準備をしてさえいれば、過度に警戒すべき要素はなかった。

 

「こんなにも凄い大森林が塔の内部にあるなんて現実、未だに信じられない……まるで、別世界じゃないですか」

「ふふっ。信じられないのも無理ないけど、これでも本当に同じ世界にあるんですよ! ちなみに、第1階層のここは『木漏れ日の大森林』って言って、いくつかの町がそのまますっぽり入るレベルの広さがあります!」

「なるほど……いやまあ、塔自体も大きい上に内部空間が屋外レベルで広いとなると、階層の数も相当ありそうで」

「えっと、こんな感じの広さの階層が第17階層まであります! 地形や天候、住んでいる妖精や精霊も各々違うから、きっと調べがいがあるのではないかと!」

「フディさん。それ、調べ甲斐があり過ぎますって」

「ですよね! わたしはともかく、妖精や精霊たちも時折迷子になるくらいですし!」

「あらまあ」

 

 無論、第1階層に膨大な量存在する土や水、植物の葉や花に至るまで、ほぼ全てが日本にとって優れた研究資料となり得るが、同時に何かしらの害にもなり得る。

 

 だが、人間に対して好意的なフディレート(妖精塔の主)が、何の躊躇もなく妖精塔へと調査隊の面々を招き入れ、研究資料の範疇であれば採取しても大丈夫だよと、二つ返事で許可は出していた。

 

 自衛隊の面々も、この階層の要素は日本人にとっては比較的安全と太鼓判は押されたにせよ、未知の場所である事に代わりはないので、完全に警戒を解くような事はしていない。

 

 そもそも、フディレート自身が『大自然(生命)』の概念から生まれた強力な妖精であり、それに関連する系統ないし属性の魔法であれば、息をするかの如く扱える。

 

 極論、対象がどれだけ酷い状態であれ、()()()()死んでいないかつ相反する概念的要素が強い、もしくはそのものでなければ魔法による完全回復が可能なため、いざとなればどうとでもなるのだ。

 

「にしても、17階層もこんな感じの領域があるだなんて。凄いとしか言えないわ」

「アルティさんたちでも、ここまでのものは見た事はないんですね」

「そう。厳密には過去、パーパルディア皇国が成立する前の共和国時代初期に、ここと同等程度と思われる大きさの妖精塔がそびえ立ち、それは大層賑やかだったって記録があるのは見たから、質問の返答には違うとも言えるの」

「なるほど。つまり、いつの間にか消える事もあると」

「ええ。まあ、ミリシアルと中央法王国はともかく、うちの場合は……十中八九、彼女たちに愛想を尽かされたからでしょうけど」

 

 なお、自衛隊の面々はフディレートからだけではなく、大魔導師3人からも妖精塔に関連した話のみならず、時折発生する妖精や精霊由来の魔法的現象についての話も聞き、しっかりと記録にも残していた。

 

 凄まじい早さでつぼみだった花が咲く、枯れかけていた花が復活する、触れると眠くなる水の泡がふわふわ浮かぶ、疲労しにくくなった上で疲労回復速度が目に見えて早くなるなど、発生する現象はその全てが命の危機に繋がるものではない。

 

 むしろ、その神秘性から場に居る者にリラックス効果を与え、精神の回復すら促す可能性がある。

 

「そうですか……おおっと、すみません。今の光の雫は一体何……!?」

「へぇ……まさか、この瞬間をお目にかかれるとは驚いた。僕の人生の中でも、片手で数えられる程度しかないよ」

「目撃情報に1つだけあったんですけど、本当だったんですね……確かにこれは、神秘的だと言いましょう。むしろ、そうとしか言えませんよ」

 

 特に、偶々休憩のために立ち寄った大きな川の畔に生えていた、不可思議な大樹の根元にて調査隊が目撃した妖精生誕の瞬間については、その強い神秘性からほぼ全員、記録を残す役割の自衛隊員ですら集中力が削がれ、視線を向けてしまう程。

 

 何の概念が関わって生まれるかにもよって上下はするが、基本一般的な感性で美しいないし綺麗と表せる、そんな光景である事が殆んど。

 

 今現在、皆の眼前で生まれた妖精の元となった概念は『日光()』と『(空気)』であり、生誕時の現象も純粋な光の(魔力)と風が集まり、人の形を徐々に象っていくといった感じになっていた。

 

 見た目に関しては、麦わら帽子に黄緑色のワンピースを身につけ、草履を履いている10歳前後の黄緑髪の少女であるが、無論全員が同じ見た目になる訳ではない。

 

 また、第1階層では大自然の概念が最も強く、存在する他4つの概念は拮抗しているため、それらに押される形で力量自体は平均的な日光と風の妖精になっている。

 

 なお、この世界における精霊生誕は、同じく珍しい現象扱いである妖精生誕と似た光景を生み出すが、遥かに目撃例が少ない事から、幻の現象とも呼ばれている。

 

 一部地域では、精霊生誕を生で目撃した者は悪事を働かない限り死ぬまで不幸が訪れず、幸運が次々に舞い込んでくると言い伝えられている程だ。

 

「んぅ……あっ。めいさいふくのお兄さん、おはよー! あれ? おはよー!!」

「おぉ……おはよう、妖精ちゃん。生まれたてなのに元気だね」

「うん! ところで、たくさんのお兄さんお姉さんたちといっしょに、なにしてるの?」

「俺たちにとって初めての場所だから気になって、皆で見に来たんだよ」

「へー……たのしいぼうけんみたいなかんじ?」

「まあ、そうとも言えるかもね」

「そっか! ねえ、わたしもいっしょにいていい?」

「良いよ。ただ、俺たちが持ってる物とかにはあまり触らないで」

「はーい!」

「やっぱり、日本の人間さんは暖かい! ふふっ……だから、一緒に居たくなるんですよねー!」

 

 ちなみに、基本的に妖精や精霊は生まれたその瞬間から多くの知識を持ち、見た目相応の知能を誇る上、更に周囲の人妖たちと環境次第で幅が出る特性を持つ。

 

 お互いに強弱があるとは言え、概念的存在である事は確かだから、どちらか両極端な形にはならない。

 例えば、日本の領土と認められている場所から生まれた妖精や精霊は、生まれた地域による差こそあれ、魔法的現象によって日本人の常識の範囲内に収まるよう、バランスが細かく調整される。

 

 当然、日本人の常識が時間とともに変化すれば、それに応じて生まれてくる妖精や精霊も馴染みやすくなるように、時間をかけてバランスが変化していく。これも、基本が穏やかな種族で安寧を求める性格故の振る舞いだ。

 

 ただし、バランスの調整が極端に追い付かなかったり、安寧や平穏と相反する状況が極端に長くなると、パーパルディア皇国の共和国時代のように、ある日突然居なくなる事もあるが。

 

「あっ、でもごめん。()()()この辺で引き上げなきゃ駄目なんだ」

「そうなの? じゃあ、わたしもお兄さんたちのおうちについてく! 主さま、いいでしょ?」

「あなたに任せるよ。日本なら、わたしたちにとって安全だから」

 

 そんなこんなで、妖精塔の調査を調査隊の面々が始めてから数時間、第1階層に夜の訪れが近くなってきたタイミングで、初日の調査は終了する事となった。




ひとまず、妖精塔の話は今話で一旦区切り、次話は別の内容を投稿する予定です。

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