光の申し子   作:松雨

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燻る戦の火

 自国に振りかかった刃を弾き、直近の日本の海上自衛隊との演習もつつがなく終了、先進12ヵ国会議に向けた準備の大半も整い、何もない平穏な一時が過ぎていた、神聖ミリシアル帝国。

 

 世界最高峰の魔導大国を運営する政府機関は、常々相応の忙しさに日夜追われていると言えるが、それでも何かあった時と比べれば精神的には大分楽な方ではある。

 

 魔導学院などの軍事関連機関、縁の下から国を支える全ての民間の企業に関しては、言わずもがなだろう。

 

「ええい! 次から次へと面倒事を持ってきおって……!」

「リアージュ様。お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いてください」

「おっと……すまない、アルネウス君。俺とした事が、少々冷静さを欠いていたようだ」

「大丈夫です。内心では私も、厄介事とは考えていますので」

 

 ただし今日、ミリシアル外務省宛にパーパルディア皇国中央外務局局長のエルトから送られた、1通の公的文書が再びミリシアル政府、とりわけ外務省・情報省・魔帝対策省を再び忙しさの海へと駆り立ていた。

 

 公的文書の内容は、端的に言うなればリーム王国とのいざこざに対する、ミリシアルの介入依頼。パーパルディア側に立って、リームを抑えて欲しいとのものである。

 

 純粋な国力や技術力、この世界に対する影響力などのありとあらゆる面でパーパルディアは勝るが、ミリシアルですら認知していない謎の勢力による後ろ楯が、地力の差を埋めてもなおあまりあるくらいには強い。

 

「やはりか。しかし、現状戦争寸前で留まっているとは言え、少なくとも我が国が輸出した兵器のみでは、荷が重いだろう」

「そうですね。加えて、情報にある()()()()の存在も考えますと……下手に無策で対峙しようものなら、神聖ミリシアル帝国軍の最新鋭兵器でさえ、押し負ける事になるでしょう」

「あれか。実物は長らく発見されておらず、もしや存在しないのではないかとの論説まで出ていた、魔帝の陸の超兵器……遺跡の存在位置がリームでなければ、どれだけ良かった事か」

 

 曰く、南方連合を名乗る勢力が提供した、最低でもエルペシオ4を超える性能を持つとされる、フィンドムと呼ばれる魔導ジェット戦闘機。

 情報によると、他にもパーパルディアを大きく上回る陸海軍の装備品も提供されているとの事。

 

 しかし、ミリシアル側が問題視しているのはそれではなかった。正しくは、それよりも遥かに厄介な問題が発生し、相対的に問題ではなくなったと言った方が正しい。

 

 ティルターン。魔帝対策省内では魔鋼の巨人とも呼ばれている、魔帝の作った陸の超兵器がリーム王国領内で発見されたためだ。

 情報元は、ひっそりと()()()し、アルーニにて皇国軍により捕まった後、紆余曲折の果てにエストシラントで一時保護される事となった、リームの宰相と星の妖精である。

 

 希少かつ強固な3つの魔法金属合金製の装甲、強力な防御結界の保持、応用性と地上での機動性に富んだ機体設計、特殊魔導兵器などを含む強力無比な対地・対空兵器を多数搭載している、二足歩行をする人型の超兵器。

 

 一部兵器の燃費の悪さやコストの高さを筆頭とした弱点も他の超兵器と比べて比較的多く、それ故に当の魔帝ですら効果的な運用に苦労していた程。

 

 ただし、エモール王国の歴史書や魔帝対策省の書庫に保管されている、黒月族の手記にも『あまりにもたちの悪い悪魔』と記されている位には有名で、ありとあらゆる罵詈雑言を吐かれている程には強力である。

 

「全くです。ああ、そう言えば……パーパルディア皇国、日本にも介入を要請しているみたいですよ」

「ほう、そうなのか? まあ、かの国はリームとも国交はある上、今は実質第三文明圏の主みたいなものだからな」

「はい。ちなみに、日本は既に要請を受理し、いざと言う時は経済的制裁から自衛隊出動まで取れる手段は取ると、そう言ってくれたそうで」

 

 そして、パーパルディアはこの介入要請をミリシアルに対してのみならず日本にも行い、新たに作った自衛隊の派遣に関する法律を根拠として、これを了承させている。

 

 過去にいさかいはあったものの、今現在は比較的関係も改善されている事によって一般人の行き来が解禁されている故に、パーパルディアへの邦人滞在数もそれなりに多い。

 

 加えて、リームがやりたい放題やるのを止めず、第三文明圏が混乱と大戦争の渦に巻き込まれて荒れてしまうのは、日本にとって望ましいものではなかったのだ。

 

 勿論、自衛隊の出動命令を下す日など来ない方がいいとは、日本政府の誰もが考えている事ではあるが。

 

「ふむ。であれば、ミリシアルとしても介入要請を受け入れ、外洋派遣艦隊と最新鋭の陸軍兵器に歩兵の派遣を考えても良さそうだ。ともなれば、共闘する可能性も考えて日本とも話し合いをしておきたいな」

「それは、確かにその通りですね。介入要請の受け入れが定例会議にて認められたら、駐ミリシアル日本大使館経由で日本政府に話し合いを持ちかけましょう」

「ああ。そうなると、一応軍事の専門家……最低限、魔帝兵器に明るいメテオスさんやオロールさん辺りは呼んでおこう。いや、絶対に呼ばなければならない」

「了解です。連絡を入れておきますね」

 

 そして、とある会議室にて話し合い中の外務省統括官のリアージュと情報局長のアルネウスも、日本の存在などから自国が要請を受け入れることに前向きとなる。

 

 無論、この2人の話し合いのみで何から何まで全てが決まる訳ではなく、定例会議での提起や各所への根回し、ミリシアル8世への報告など、沢山の人間が関わってようやく動ける。ミリシアルは、強権的な独裁国家ではないからだ。

 

 そして、受け入れを最速で決定したとしても、実際に向かうまでには相応の時間が必要だ。予想だにしないトラブルなどもあるかもしれない。

 

 リームとの国境を接する町、アルーニにてパーパルディアとリームの最後の話し合いが行われるまで、1ヵ月と4日。

 物理的な移動に必要だったりする時間などを含めれば、おおよそ半月程で必要な調整を済ませる必要があるとの試算が出ている。

 

「ふぅ……さて、我々は我々でやるべき事を済ませるか。厄介事は先にってな」

「そうですね、リアージュ様」

 

 ミリシアル側にとって、グラ・バルカスとの戦争時には圧倒的に劣れど、平常時よりはかなり忙しくなる。

 かと言って放置出来るような重要度の問題でもないため、リアージュとアルネウスを含め、即座に動き始めるのも至極当然なのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。もし可能であれば、評価や感想の方をよろしくお願いいたします。

既にしてくださっている方々には、心より感謝いたします。

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