光の申し子   作:松雨

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パーパルディア=リーム最終会談(後編)

 リーム王国に対する、3ヵ国共同の宣戦布告及び国交に関わる文書。これが、朝田が鞄から取り出したものの正体である。

 

 パーパルディア=リーム最終会談が行われる数日前、日本が主導した3ヵ国大使を代理とした非公式の会談により、万が一交渉が決裂した場合に出される事が決まっていたもの。

 

 言わずもがな民間交流は戦争中は断絶、外交に関してもほぼ断絶となり、平和的解決はもはや不可能となった。

 この時点で、ミリシアルとパーパルディアに滞在中のリーム人は密航者に準ずる扱いとなるが、だからと言って問答無用で殺される事はなく、攻撃さえしなければ最低でも生命と尊厳は守られる。

 

 日本に関しては、この世界の常識からして多少特殊な扱いにはなるものの、2ヵ国と同様に生命と尊厳が守られると言う部分だけは変わらない。

 

「まあ、そうはなりますよね。しかし、いざ公式な書面としてこの目で見たならば……正直、私の手の震えが止まりません」

「まともな貴殿やこの使者にとっては心苦しいだろう。だが、我々としては自国や自国民はもとより、友好関係にある国やその民の方が大切なのだ」

「心得ています。私もカイオス首相の立場になって考えたら、絶対にそうなりますから」

「宰相殿と同じく。自分自身に政治に深く介入出来る権限があったならば、絶対にこんな事はさせてませんね」

 

 魔導の最先進国かつ、日本が現れた今でも絶大な世界的影響力を誇るミリシアル。

 そのミリシアルを超える国力を持ち、現状第三文明圏の盟主として世界的影響力を急速に拡大している、異世界転移国家の日本。

 両国には大きく劣れど、世界全体として見れば上位の国力と影響力を誇り、なおかつ現在急速に成長しているパーパルディア。

 

 そんな列強3ヵ国に、無謀にも準列強程度の国が喧嘩を売った挙げ句に宣戦布告をされたなどという話を世界の人々が耳にしたならば、ほぼ確実に無謀な愚か者のレッテルを貼られてしまうとの予想が、リームの使者には容易に出来てしまう。

 

 無論、この場で話を聞いている宰相もその程度の事は、星占いや星読みなどに頼らずとも容易に出来てしまっていたし、事が済んだ後も長期間、返上し難い汚名を後の世代に引きずらせる羽目になるのも、確信していた。

 

 加えて、そうなると分かっているのに止められない無力感、猪突猛進するバンクスや政府上層部の面々に対する失望・怒り・絶望・悲しみなどの感情から、動く事すら強く抑制されたかのような状態に陥っている。

 

 とは言え、それが可能かどうかは別として、2人ともまだ完全にリームそのものの存続・独立の維持を諦めた訳ではない。例え王家が終わりを告げようとも、政治体制が大きく変わろうとも。

 

「……申し訳ない。一介の使者たる私の謝罪など何の価値もない事は理解していますが、どうか言わせて下さい」

「はぁ……うちも、グラ・バルカスとやり合っていたから良く分かる。本当、誰も幸せにならないわ。戦争と言うものは」

「我が国が言えた義理ではないが、考えてみればその通りだ」

「人の命が、想像よりも容易に消えてしまいかねない行為……ええ。間違いないでしょう」

 

 リームの使者が書類を受け取り、ヒルキガ地下大空洞の遺跡より持ち出された特殊な魔信を通し、宣戦布告の事実を政府上層部に伝え終えた刹那、彼は誰に言われるまでもなく土下座を敢行したため、この場に居た全員の表情が曇る。

 

 自分の力ではほぼどうしようもなく、そこまで思い詰める必要がないにも関わらず、まるで全ての責任が自分にあると言わんばかりのそれが、あまりにも気の毒で同情が芽生えたためだ。

 

 しかし、だからと言ってこの場で宣戦布告を即撤回するなどという事は、天地がひっくり返ろうともあり得ない。カイオスが言ったように、3ヵ国ともリームよりも自国や友好国の方が大切なのだから当然である。

 

 今までの行いをバンクスや政府上層部が即座に反省して謝罪し、納得のいく補償をして、自国民への情報統制や教育を正しいものへ変えると断言すれば話は別だが、国内の状況からしてそれは絶対にあり得ない。

 

 現状、リームにとって本国の位置も何もかもが不明な、南方連合なる国家の怪しさ満点の支援すら安易に受け入れている。

 

 そうなれば、支援と称して入港している軍事用の艦艇から、南方連合政府のミリシアルと日本の手を是が非でも煩わせ、世界の目を第三文明圏へ向けよとの命を受けた工作員が大勢入国、リーム政府とは別の意図による工作が行われてしまう。

 

 無論、リーム側もその辺も全く想定していない訳ではないのだが、如何せんありとあらゆる要素でリームよりも南方連合の方が、格としては遥かに上。どれだけ背伸びをしようと、指先すら届かない程の差がある。

 

 宰相とアストラ(星の妖精)が居ればまだギリギリ何とかなったが、亡命して2人が居ない今は悲惨そのもの。リームの最高特殊部隊の警戒は、底が抜けたバケツに水を注ぎ続けるも同義なのだった。

 

 ちなみに、パーパルディアもルディアス肝いりの秘密種族10人を抜きにすると、リームよりはマシなだけで南方連合の工作員にはまるで歯が立たない。

 

 対抗可能なのは、古の魔法帝国の遺産も豊富にある魔導の最先進国たるミリシアルと、科学文明超大国の日本のみ。

 

 ただし、日本の場合は一定以上の強力な魔法を使用されてしまうと、国内に乱立するある程度強力な妖精塔の妖精、および精霊の力を借りなければ対抗が難しい。

 

 日本人の大半に魔力が一切存在しないが故に、精神操作や魔法による洗脳などが無効となる体質ではあれ、全ての魔法が意味を成さない訳ではないからだ。

 

 国交のある国からの協力によって、その辺りの研究が徐々に進められているとは言っても、魔法に関してはまだまだ及ばないのも、そう言わざるを得ない理由なのだから。

 

「失礼しました。では……私は行きます。皆様、どうかリームの無関係な一般人に対してだけは、何卒慈悲をかけて頂けると幸いです」

 

 かくして、この世界に名を轟かせる列強3ヵ国とリーム王国は、戦争状態へと突入する事となってしまったのであった。

本作独自の種族に関しての質問

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