光の申し子   作:松雨

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魔鋼の巨人の力

 アニュンリール(南方連合)の支援を受けていた頃のリームによる、アルーニへの電撃的侵攻を退けた3ヵ国。それから数日もしない内に、アルーニには日本やミリシアルの合同軍司令部が置かれていた。

 長期戦になる事を想定し、パーパルディア政府による統合軍事基地の建設許可も出たため、今現在着々と準備が進められている。

 

 そして、裏からリームに支援をしていたアニュンリールも、日本に突きつけられた最後通牒によってこの戦争からまさに光の速さで手を引き、それが要因となった事で各所での戦闘も連戦連勝。逆侵攻作戦が、両国政府によって承認された事で戦線も大きく押し上げられ、アルーニの町は前線ではなくなっていた。

 

 なお、ここまでの戦いによりリームが負わせた、日本やミリシアルの軍に対する損害は非常に軽微。純粋な技術力や物量の差に鑑みれば、当然と言えば当然と言えた。

 パーパルディアの軍に対しても、アルーニ防衛戦と比べれば大幅に各種損失が少なくなり、日本とミリシアルの全力支援も相まって、彼らの士気は非常に高くなっている。

 

 何より、同じ相手の命を奪う行為をするにしたって、今回は正義なき侵略戦争などではない。自分や自国の民を守るためという、心から認められるだけの正義があるのだから、当然と言えば当然であろう。

 

「この戦争、リーム側に正義ないよなぁ。むしろ、やってることは悪の帝国だと思うんだ、俺」

「ええ、いっそ清々しい程に……何なら、今からでも寝返りません? ワイバーンやリンドウルムの最上位種程度であれば、何頭だろうと害虫の如く蹴散らせますが」

「本音を言えばそうしてえよ。ただ、同僚の奴らもそうだが……何より、俺とお前の大切な友達や家族が、人質になってなきゃあな!」

「……ですよねぇ」

 

 一方で、リーム側の士気は基本的にこの上なく低かった。特に、無事に出撃自体は出来たティルターンの操縦士2人に至っては、寝返るという考えが口から出てしまうくらいには士気が絶望的に低い。

 

 これがもし、以前のパーパルディアによる無慈悲な侵略戦争であったならば、例え日本やミリシアルが後ろ楯になっていて、最終的に敗北()が確定していたとしても全力で戦っていただろう。

 

 そうでなくても、パーパルディアに戦争を仕掛けるに値するだけの『正義』があれば、士気を保てないなんてことは本来あり得ないはずなのだ。

 

 しかし、現実はリーム側が悪の帝国そのもの。バンクス他政府上層部以外の、比較的まともな感覚を持つリーム人であれば、士気が保てないのも無理はなかった。

 

「地下の空洞を抜け、地上に出てからかれこれ2時間。足場が悪すぎて全然進めてねえ。なあ、飛行したいんだが」

「飛行ですか? まあ、出来なくはないですが……恐らく、兵器の運用に支障をきたしてしまうでしょう。敵に発見されやすくもなりますし、余程のことがない限りは歩きで行きましょう」

「はぁ……兵器運用ねぇ。パーパルディアならともかく、ミリシアルや日本を相手にそいつは絶対に避けねばなるまい……!!?」

 

 そんな中、先進的な魔導システムのアシストと各種ステルス機能がついているのもあり、最初の内は何事もなく動けていたティルターンの魔導電磁レーダーの画面が、111~185km地点に80前後の音速航空機と思われる反応を捉えた。

 

 それから時間を置かず、けたたましい警報器の音と共に250を超える亜音速~超音速の飛翔体が、各地(アルーニなど)からティルターンを目掛けて飛んでくる事も捉えてしまう。

 

 しかも、およそ半数の飛翔体からは魔力反応が一切なく、両国の電波・魔力妨害の影響なのか、魔帝の優れた電磁レーダーによる捕捉も完璧に行えなくなっている。

 

「あぁぁ!! 来ると分かっていても悪態つかずには居られねぇ! 迎撃準備は?」

「問題ありません!」

 

 しかし、この状態でも迎撃に致命的となるまでには至らなかった。

 飛翔体……誘導弾や誘導魔光弾を飛ばしてきた敵が超大国たる日本とミリシアルである点、パーパルディアにすら国家としての力が劣っている点、操縦士2人の技術不足と精神的未熟という点にある程度目を瞑れているのは、やはり魔帝の優れた魔導技術があってこそ。

 

 現に、魔導情報統括システム(魔帝版イージスシステム)は自身に迫る脅威度をほぼ正しく算出、他のシステムによる補助も並行しつつ、脅威を撃ち落とすための地対空誘導魔光弾の発射準備を、すぐに整えていたのだから。

 

 なお、射程外である2つの特殊魔法兵器、最終防御手段たる()()()()も統括するシステムが、算出された脅威度などの情報を基に、通常よりもかなり早く来るべき時に備え、液体燃料の供給・活性化といった準備も自動で即座に進めている。

 

 ちなみに、そこから兵器のエネルギー源として問題なく使える状態にするまで、リームの未熟な魔導技術や液体燃料の厄介な性質を踏まえた場合、1~2分程度の時間が必要だ。

 

「よし、準備が出来たならば即座に発射しろ! タイミングを見計らい、電磁波・魔力妨害弾頭の対空誘導魔光弾も発射だ!」

「了解……上腕部発射ユニット展開、圧縮防護結界解除……一斉発射ァ!」

 

 そして、ティルターンの第一防護圏内(88km)に両国の誘導弾が侵入してきたと同時、迎撃のために266発の対空誘導魔光弾が青白い尾を引きながら、凄まじい勢いで発射されていった。

 

 多数の敵陸上戦力のみならず、航空戦力とも1機ででやり合う想定で造られた超兵器であるため、対空兵装の搭載量はまさに脅威的。中規模国家以下の空軍なら、単機で壊滅させる事も容易である。

 破壊力に関しても、搭載量重視(小型軽量化版)であるが故に落とされてはいるものの、航空機に対するものと見れば高い。標的への誘導性能も、製作者が魔帝であるため言わずもがな。

 

 そしてこれは、たとえ相手が純科学文明国家であってもほぼ同様の性能を発揮可能となる。ただし、全盛期のグラ・バルカス帝国と同等の技術を持った国に同等の物量で来られれば、流石に話は別になるが。

 

「むぅ……ミリシアルも以前とは技術力がまるで違う上に、日本は言わずもがな、迎撃率は想定より低めです。確実に接近されるでしょうが、果たして……」

「ちっ、妨害弾頭による効果も今一つ……か。魔帝と同等かつムーと同様の科学文明国家、相手にしてはやりにくいな!」

「運用している我々が、魔帝からしたら原始人……ああっ、もう40km近くにまで……! まだ、110近くも反応がある……」

「クソ! あの()鹿()()が弁えずにミリシアルや日本に喧嘩を売りやがるから……はぁ。ともかく、即座に近距離の対空誘導魔光弾を発射だ!」

 

 しかし、案の定魔導技術が魔帝に急速に近づきつつあるミリシアルや、科学版魔帝とも呼べる日本の最新の優れた軍事技術が相手では、いかにティルターンと言えども対処は容易ではない。

 同格国家を想定して造られた、日本のステルス仕様の対地誘導弾に対応し切れず、捕捉と失探を繰り返す。

 

 それでいて、こっちを見ろと言わんばかりに魔力を発しながら飛翔する、ミリシアルのグランドⅠ型(対地誘導魔光弾)に各種兵器が惑わされ、更に迎撃成功率を下げているのだ。

 

 あくまでも目安でしかないが、近距離のものを含めたとしても、ティルターンの装備する対空誘導魔光弾本来の迎撃率より、およそ3割程度落ちている。

 

 そして、今現在攻撃をしてきた日本やミリシアルの多用途戦闘機に関しては、全ての誘導弾を放った後にそそくさと離脱したのもあってか、1機たりとも撃墜する事は出来ていない。

 

「敵誘導弾、ないし誘導魔光弾反応100、90、80、60、50……駄目ですっ! このままでは――」

『対近距離特殊魔法兵器起動……砲身展開、遮熱魔力コーティング完了……発射』

 

 絶対に食らいついてやると言わんばかりに飛んでくる、両国の誘導弾ないし誘導魔光弾を操縦士2人がマニュアル片手に必死に撃墜し続ける中、操縦席に無機質な機械音声が響く。

 

 同時、両肩と胸部魔導コアに展開されていた合計2種の特殊魔法兵器が、独立した武器システムの下でそれに秘められた力を解放した。

 

「おぉ、おぉぉ……これが、魔帝の特殊魔法兵器……何と言う絶大な魔力と熱量なのだ!! 」

「46、30、21、19、15……凄まじい勢いで撃墜出来ていますが、なおも迎撃をすり抜けてくる飛翔体……!? 反応が26増加しました!」

「ちぃっ、失探していたのか……ちくしょう! こんなクソみたいな戦場で、死んで堪るかよぉぉ!!」

 

 対象の物理的な防御や並の防御結界などを、まるで幽霊が如く()()()()()内部に直接損傷を与える、拡散する青白い魔法光線。

 最上位飛竜や量産型魔王どころか、並の魔帝の炎熱系魔導兵器すら比較にならない熱量を誇る、歪んだビームの如き2つの白紫の眩い焔。

 

 遥か過去の歴史上の大戦争時、インフィドラグーンが抱えていた数多もの強力無比な竜を穿ち、母なる大地に墜としたその脅威は、純粋な科学文明国家の日本にも通用している。

 当時と状況が違う点を考慮に入れたとしても、クルセイリースの出したパル・キマイラよりは日本を苦しめていると言えるだろう。

 

 しかし、現状ではあくまでも経済的に多少苦しめているだけ。誘導弾の撃墜こそ出来ていても、戦闘機を撃墜して人的被害を与えることは出来ていない。

 加えて、魔帝には劣れど無視は出来ない脅威ではあるミリシアルも、その刃を少なくない数残していた。

 

 このままでは、いかに超兵器たるティルターンと言えど、決して軽くはない傷を負うことにもなりかねない。

 

『最終ロック解除条件……達成。『虚廃(きょはい)』の発動まで3、2、1、0……』

「は? 何言ってる――」

『――』

 

 だが、実際にはそうはならなかった。

 

 突如として、ティルターンの背部に出現した超巨大魔法陣の即座の崩壊と同時に放たれた、純白で眩い魔光の波動が1.3km圏内に入った飛翔体に当たると、0.01秒以内にあらゆる法則や理屈を無視した上でそれら全てをその場で完全に静止させた後、凍結させる。

 

 時の流れや空間自体に作用する類いの魔法による現象ではないため、ほぼ同時に殺到した対応可能な全ての対近距離魔導兵器が、ティルターンに脅威となるそれらを排除する事に成功したのである。




申し訳ありませんでした。ティルターン周りの設定を大きく変更したことで、過去話の一部にも僅かに影響があります。

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