光の申し子   作:松雨

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沈黙の巨人

 日本やミリシアルの誘導弾による攻撃に耐え続け、今もなおアルーニに侵攻すべく進撃を続けている、リームが出した虎の子の古代兵器であるティルターン(魔鋼の巨人)

 

 歴史書などに書かれていた内容に違わぬ活躍を見せ、最大の脅威とあり続けてはいるのだが、運用者が魔帝ではない故か、主に対峙している列強2ヵ国があまりにも強大な相手故か、その威容にも陰りが見え始めていた。

 

 アルーニから71km地点で既に遠距離攻撃武装が枯渇し、移動速度も7割以上低下していただけでも相当に厳しい。護衛機なども居らず、たった1人で歩みを進めているのであれば致し方ないと言える。

 

『中・遠距離対空対地武装、枯渇。対近距離特殊魔法兵器、燃料枯渇寸前。魔導電磁レーダー回路、駆動系、武器システム大幅機能ダウン……』

「なんて絶望的な状況だよ……クソが! 魔帝の超兵器ですら互角どころか劣勢とは、分かっていても悪態つかずにはいられねえ!」

「そりゃあ、最低でも魔帝と同等な日本がぐあっ!? 今の衝撃は……まさか!」

『虚廃、発動失敗。胸部魔導コア、頭部、脚部多数被弾、結界耐久残量42%。衝撃破損での魔力流出による内部回路損傷、戦闘継続に支障あり』

「ちぃっ、応急措置を取れ!」

『受理しました。応急措置を開始します……成功しました』

「よしっ!」

 

 しかし、日本とミリシアル側の補給問題などで空と地上からの遠距離攻撃が止む合間、何とか耐え忍びながら50kmを切ったところで、状況はリーム側にとって更に悪化してしまう。

 

 射程などの諸事情により沈黙していた地上発射型の中距離誘導弾ないし誘導魔光弾が、その牙を一斉にティルターンへと一極集中させ始めたからだ。

 

 低下してもなお高い迎撃能力、結界や装甲強化を合わせた防御能力により、致命的事態はすんでのところで回避出来ているが、それでもこのまま対策を打てなければ、待っている未来がどんなものかは推して知るべしであろう。

 

 加えて、現在地から程近い場所にはリーム王国では最大クラスの、日本で言うところの琵琶湖が比較対象となる『ナストラマ大湖』が、存在している。

 

 総面積もさることながら平均水深は57.2mで、最大深度は115mと、全長77mのティルターンすら沈む水量を誇る。生態系も非常に豊かであり、周辺の市町村に住む人々にとっての生活にも深く根差す湖でもあるのだ。

 

「ちくしょう! この先はナストラマ大湖じゃねえか! 飛んで行きたいところだが……」

「迂回するしかないでしょう。地盤が弱い方か、余計な遠回りをする方か……ん?」

『新たな誘導弾および誘導魔光弾、アルーニの方角35kmより110襲来。本機の武装残量や損傷状況などから、完全迎撃成功率は50%を下回る推定』

「なっ!? その、虚廃とやらを使用してもか?」

『はい。ただし、使用しない場合の成功率は20%となります』

「選択肢がないじゃねえかよ……クソっ! まあ、独立した武器システムだから、どうこう出来る訳ないんだがな!」

 

 万全の状態であれば一時的に飛行し、縦断する事も不可能ではなかったが、現状では途中で集中放火を食らうなどして墜落し、湖の底に沈んで環境汚染の元凶となる可能性が極めて高い。

 

 無論、そうなれば避難が間に合いでもしない限りパイロットの命は失われる事になる。間に合ったとしても、湖と周辺の環境的に通常の人間にとっては厳しいので、早急な救助が必須とはなる。

 

 そもそも、周辺の人々にとっての生命線である以上、魔核波機関を搭載した兵器であるティルターンを、例え万全の状態でも容易に湖上を飛行させるという選択肢は取れないが。

 

「ぬぐぉぉぉ……! さっきよりも、ミリシアルの誘導魔光弾が結界を削る早さが早くなっている! 日本の誘導弾もさっきから――」

『今までの攻撃による損傷で、結界の魔法耐性が先程までの半分以下となった事によるものです。物理耐性も3割減少、再展開に要する魔力の供給は虚廃の発動を鑑みた結果、不可能となります』

「何だと!? まだ相手に損傷すら与えていないと言うのに……!」

 

 当然、生まれも育ちもリーム人であるパイロット2名は、ナストラマ大湖がどれだけ重要な湖であるかを知っている故に、ティルターンの状態を鑑みた結果、迂回ルートを選択する。

 

 ただ、ただでさえ莫大な面積を誇る湖である上に、飛行は実質封じられ歩行速度も度重なる攻撃によって落ちている中、日本やミリシアルの更なる誘導弾や誘導魔光弾の飛来を迎え撃ちつつ進撃を続ける事は、もはや蛮勇。もしくは、無謀とも言えるだろう。

 

 戦闘序盤から何度も飛来してくる超音速の死の槍を受け止め、窮地を救い続けてきた秘匿魔法(虚廃)ですら、捌き切れなくなってきているのだから。

 

 いかに優秀極まりない魔帝の超兵器とはいえ、本来の運用方法から外れた使い方をしていればこうなるという、この上ない見本となってしまうのも無理はない一幕だった。

 

『結界、耐久限界を超えのため消失。迎撃武装は殆んど枯渇、物理的損傷、中破状態』

「流石は日本とミリシアル。事ここに至っては、緊急脱出も視野に入れないと」

「はぁっ、冗談じゃねえ! んな事したら、俺やお前の家族や友人がどうなることか」

「理解しています。ただ、どのみち戦果が挙げられていなければ一緒では? 今の上層部なら、その程度の事はしてのけるでしょう」

「……」

「そもそも、あの人たちが僕や君にかけた言葉を思い出してみてください。頼むから死ぬな、お前たちは生きろと」

「くっ……! しかし、ここで脱出はあまりにも……」

 

 だが、彼ら2人は歩みを止めない。言い争いをしながらでも、大切な存在からかけられた言葉と、そんな彼ら彼女らの命という狭間に苦しみながらでも、1歩1歩降ってくる死を呼ぶ光の槍を迎え撃ち、時には耐えながらも着実に進んでいく。

 

 とは言うものの、ティルターンは度重なる誘導弾による攻撃によって、もはや無事な箇所がない程にボロボロ。今の状態は、最低限自衛がこなせているだけに過ぎない。

 

 数ヵ月単位の大規模修理の必要が出てきているものの、リーム本国の魔導技術では論ずるに値せず、応急措置機能では修復には到底力不足。

 

 有り得ない話にはなるが、ミリシアルやアニュンリールの最新鋭魔導技術で、ようやく修理のスタートラインに立てるか否かといったところだろう。

 

『虚廃、発動……ガッ……胸部……核……関』

「っ!? おい! 何だよおい!! しっかりしろ!」

「あぁ……これは、もう……終わりですね――」

 

 しかし、その状態も長くは続かない。胸部コアとその付近に命中コースだった日本の対地誘導弾7発、ミリシアルの誘導魔光弾2発を迎撃しようとする前に、ティルターンの中核システムが魔核波機関を強制的にロック。

 

 結果、すべてのシステムが完全に沈黙、無防備となった巨人に容赦もなく襲いかかってしまったのだから。

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