光の申し子   作:松雨

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日本政府

「敵巨大人型決戦魔導兵器、通称ティルターン……撃破成功。目前の脅威は断たれたか」

 

 今や、新世界の二大超大国の名を欲しいままにしている日本国の、首相官邸執務室。ティルターンの出現以降陰鬱とした雰囲気が漂い続ける中、梶崎首相の放った言葉がそれを完全にはないにしろ、霧散させた。

 

 ミリシアルとの共闘による量的な絶対有利すら、たった1機で長時間耐え続け、最悪両国の駐在軍を駆逐してアルーニどころか、パーパルディアを蹂躙する可能性のあった、陸上用の兵器としてはまさしく規格外の悪魔。

 

 技術的にはほぼ同等、一部要素に関しては凌駕している相手(魔帝)が心血を注いで造り上げたであろう超兵器と相対し、現場の奮闘によって犠牲者を出さずに乗り切れたのだから、安堵して雰囲気が和らぐのも至極当然の事であろう。

 

 無論、現場の安堵感は首相官邸執務室ないし、ミリシアルの政府上層部の比ではない。死の気配をより強く、現実味のある形で実感していたのだから当然の話である。

 

「しかし、ヒヤヒヤしたなどという言葉では到底表せない時間だったな。クルセイリースの空中戦艦の時とは、比べ物にならん」

「全くです。無論、空中戦艦が脅威でなかったと言うつもりはありません。ただ、陸上兵器の強化も海や空と同等レベルで必要だという事実を、まざまざと見せつけられました」

「ああ。しかしだが、100発単位の誘導弾を、現代戦の観点から見れば至近距離と呼べる範囲で一斉に迎撃する兵装に……魔法? 今回は力押しで突破出来たが……」

「使用者がリームかつ、たった1機にも関わらずあの様ではって事ですよね」

 

 そして、ティルターンは防衛省と外務省が指し示す国家の魔導脅威指数、異世界召喚事象以降に成立した当該指標にて、クルセイリースのパル・キマイラよりも2段階上の『戦略魔導級』と呼ばれる表現が、暫定で使われる事が決定している。

 

 旧式仕様のみならず、本国仕様の最新鋭の誘導弾を配備するなど、相応の備えもしっかりしていた。ミリシアル軍との連携にも問題はなく、なおかつ現場の人間も訓練と同等かそれ以上に動く事だって出来ていた。

 

 にも関わらず、技術的に不安要素のある次世代兵器のプロトタイプを投入する事が、はっきりと視野に入る領域にまで追い詰められた点がまずは1つ。

 

「ところでだ。撃破後の奴はどうなっている? 件の機関が動力源な上に場所が場所、今後の事も考えれば放置するには少々リスクがあると見ているが」

「その点につきましては、戦争中は放置せざるを得ません。現地からの報告によりますと、撃破位置を中心とした推定半径450m圏内で原理不明の大規模凍結現象が発生、副次的と思われる影響の範囲も徐々に拡大しつつあるとの事なので」

「原理不明? となると、魔法が関わる現象だろうな」

「はい。ミリシアル側から、長期化するであろうとのお墨付きも得ています」

「なるほど、嫌なお墨付きだ」

 

 もう1つは、両国の誘導弾や誘導魔光弾による撃破成功から約40分、運良く生存していたティルターンのパイロットが誘爆及び火災などより命からがら範囲外に逃げ延びた直後のタイミング、完全に沈黙していたと思われたティルターンの魔核波機関が、実際には中途半端に動いていた。

 運悪く、強制停止装置による封印措置が完全に完了する前に、装置自体が物理的に消失していた事が原因で。

 

 結果、それの影響によって魔核波機関が暴走を開始、同じく破損しつつも生きていた秘匿魔法『虚廃』を司るシステムが漏出した魔力などを使用し、無差別に範囲内のほぼ全てのエネルギーを、あらゆる物理的理論ないし通常の魔法的理論及びプロセスを無視して奪い続け、凍結させるという現象を引き起こしているためである。

 

「放射線や魔核波のように、我々の目に見えない脅威ではない。凍結という分かりやすい物理現象な以上、触れないように回避するだけなら容易だ」

「ええ、それはそうでしょう」

「だが、人間を含むほぼ全ての生命にとって致命的な脅威であることには変わりない。魔法が関わるのならば、凍結以外の脅威が今後発生しないか、していないとも限らないだろう」

「同意できます。ミリシアルを圧倒する、古の魔法帝国の超兵器が起こした現象ですから」

 

 ちなみに、凍結現象の発生範囲内の温度は、ヘリウム以外の常温では気体だった物質が固体となる、-270度前後を維持した状態。これによる副次的な物理・魔法現象も複数重なり、実際の影響範囲は確実に推定よりも大きく、かつ広がりを見せている。

 

 ただし、この現象はギリギリで生きていたシステムにも、限界を超えた負荷をかけ続けているも同然。そうでなくても、直接的な影響範囲自体は全く広がっておらず、副次的な影響についても極めて遅くはあるものの、拡大速度自体は低下の一途を辿っていた。

 

 リーム国内に影響が出ることは避けられないが、パーパルディアに対する影響は極めて軽微。日本やミリシアルに対する影響に関しては、皆無だと断言しても問題はないものの、今現在日本政府にとってはそう断言するに足る物的証拠は存在していない。

 

 故に、大規模凍結現象の長期化が確実視されているのもあって、今回の迎撃は長期的に見れば失敗とも言えるのではという声が、極々一部では出ていた。

 

 しかし、自衛隊員を含めた日本国の民の命は1人たりとも失われてはいない。もっと言えば、ティルターンによって失われたミリシアルやパーパルディア(同盟国)の民も存在していない。

 

 リーム側の最大にして最後の超戦力が失われた事によって、今後の戦争が極めて有利な形で進められる流れに入れてもいる。そもそもの話、これ以上に適した対処法が物理的にも政治的にも、日本には存在していなかった。

 

「日本国民のためにも、友好国のためにも、今回の戦争に()()()()()()()()()のためにも、早く終わらせなければな」

「ええ、間違いはありません。梶崎首相」

 

 だからこそ、今回の迎撃に評価をつけるとしたならば、この上なく成功だったと言えるのであった。

本作独自の種族に関しての質問

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