オーキド博士の案内で僕とルビィちゃんは研究所の中を進む。横を歩くルビィちゃんは先程までよりも忙しなく、視線も右へ左へと泳いでいた。まぁ、これから彼女にとって最初のパートナーとなるポケモンを選ぶんだから無理もないだろう。
僕の時は幼い頃からポケモンが横にいたからあまり実感は無かったし、同じ日にイッシュ地方の博士にポケモンを貰いに行った子はあまり感情を表に出す子ではなかったし。よくよく考えれば誰かの初めてのポケモン授与に立ち会うのは彼の時以来だ。
「あれ、そこにいるのはルビィさんではありませんか」
「ピギッ!?」
「ん……?」
緊張しているルビィちゃんに別の廊下からかけられるキザらしいセリフ。歩みを止め声が聞こえてきた方に視線を向けると、そこには明るい茶髪を立てている初めて見る懐かしいシルエットの少年。
「こやつはワシの孫の【シゲル】じゃ」
ルビィと少年の姿を見ていた僕にオーキド博士が小声で紹介してくれた。そんな僕らの様子など知らず二人は会話を進める。
「予定より早い時間に来るとはさすがですね。ですが1番最初に選ぶ権利は僕が頂きましたよ」
「だ、だれを選んだの?」
「ルビィさんになら教えてあげるのはやぶさかでないのですが、サ~トシ君に伝えらるの可能性もあるので黙秘させてもらいます」
慇懃無礼な態度をとるシゲル君の手には懐から取り出した赤と白の【モンスターボール】が握られていた。彼の様子に「そっか……」と呟きながら落胆した様子を見せるルビィちゃん。
「それでは僕は優雅な朝風呂を堪能してきますので」
言いたいことを言い終えたのかシゲル君は見知らぬ僕へ一礼するとこの場を去って風呂場へと消えて行くのだった。そんな孫の姿にオーキド博士はなんとも言えない表情を浮かべている。
【ポケットモンスター】【オーキド・シゲル】そして【マサラタウン出身のサトシ】。この三つのワードが僕の中に朧気として存在していた記憶を呼び起こすと同時に、幼少期の悩みを解決するのに足りなかったピースがピタリとはまるのだった。
(ここアニポケ世界か… となるとシゲル君が貰ったのはあの子だな)
さて、場所は変わりオーキド博士の研究室。
カントー地方から旅立つ新人トレーナーには3匹の内、どれか一匹をオーキド博士から与えらえれる。これはマサラタウンに住んでいる子だけでなく、カントー地方に住む子供で尚且つ事前に申請があった子にだ。
先ずはシゲル君が貰ったと思われる【みずタイプ】の【ゼニガメ】。かめのこポケモンと分類されるようにその姿は二足歩行の亀(四足歩行する時も普通にある)。肌の色は空色などの薄い青系で、甲羅は茶系、お腹の色はクリーム色をした可愛いポケモンの一匹だ。
……………そもそもどの地方でもポケモン博士から与えられるポケモンは可愛い系のポケモンでタイプが水・草・火の単タイプが基本だ。これは博士が渡す相手が10歳になって間もない子が大半であり、その子達にとって自分の最初のポケモンになるから。
可愛い系なら愛着が付きやすくよほどの事が無い限りは捨てられる事は無い。そしてなぜタイプを水・草・火にしているのかと言うのは単純明快でポケモンを貰った子達は今まで『野生ポケモンが出るから危険だ』からと言われ行けなかった場所に行けるようになるし、この世界では一人の大人のように扱われるから。
だから好奇心旺盛な子が一人でどこかに行き、遭難したとしてもある程度はサバイバルできるようにするため。水なら水分の確保ができ、草なら食べられる木の実などを判別してくれ、火は火おこしをする必要が無くなるから。
さて話を戻して次は【くさタイプ】の【フシギダネ】。分類はたねポケモンでありその特徴は何と言っても【どくタイプ】も持つ複合タイプである事だろう。2つタイプを合わせ持つポケモンは単タイプのポケモンに比べ育てづらく初心者にはあまりお勧めできない。
それでも初心者用のポケモンに適していない訳でなく、その地方の博士の判断で選ばれることもある。そんな類まれなフシギダネの見た目だがカエルが巨大な種を背負っていると表現するのが適切だろうか? 緑色の身体に濃い緑の模様、愛くるしい赤い瞳を持つ。噂によれば緑の瞳を持つ子もいるとか。
最後が【ほのおタイプ】の【ヒトカゲ】。トカゲポケモンと分類されるように見た目はオレンジの皮膚を持つ直立のトカゲ。尻尾の先はヒトカゲの命と灯いえる炎が燃えており、腹部はクリーム色。可愛いとカッコいいを併せ持つポケモンで、今も昔も人気が絶えないポケモンだ。
最初にヒトカゲを選んで最初のジム戦で苦戦する。その道をいったい何人の子供が経験したのか。さて長々とポケモンに考えを巡らせたがフシギダネとヒトカゲ、ルビィちゃんはどっちを選ぶのか?
まぁ、ルビィちゃんはシゲル君がゼニガメを選んだことを知らないからゼニガメを選ぶ可能性も普通にあるし、記憶と違いシゲル君が他の子を選んでる可能性だってある。そもそも僕がアニポケを見ていたのが何年前だよって話だし確証は無い。
「ルビィ、お姉ちゃんから話を聞いた時から決めていました!」
オドオドしていた子と思えない程にハッキリと告げると巨大な機械に乗った3つのモンスターボールの内、炎の意匠が刻まれた物を手に取る。ルビィちゃんが手に取ったその瞬間、独りでにボールは開き中からヒトカゲが姿を現す。
「………カゲ?」
ボールの中で眠っていたのか欠伸を噛みしめながらもルビィちゃんを見上げるヒトカゲ。そんな彼にルビィちゃんを恐る恐るではあるが声をかける。
「ヒトカゲ。ル、ルビィと一緒に冒険してくれる…………?」
「カゲ!」
「よろしくルビィ!」
だんだんと弱気になるルビィの問いに力強く答えるヒトカゲ。彼女達はそのままハイタッチ、こうしてルビィは【ポケモントレーナー】の第一歩を踏みしめた。
「人もポケモンもコミュニケーションが大事じゃ。今後君達がどの道を辿るかワシも楽しみにしておる。これは餞別じゃ」
「っあ、ありがとうございます!」
大きめの飴玉ぐらいに縮小した6つのモンスターボールと赤い板状【ポケモン図鑑】を受け取るルビィ。図鑑をカバンにしまい、左手の平に転がるボールの一つを取りボタンを押す。するとボールは野球ボールぐらいのサイズまで一気に変化。
「カゲッ!」
赤と白のシンプルなデザインが電光の輝きで反射する中、ヒトカゲへとボールの正面をむける。そのルビィの行動を汲み取ったヒトカゲは先程のハイタッチの要領でボールのボタンをタッチ。
パカリっとボールが開き赤い光に包まれたヒトカゲを収納する。ポカンと軽やかな音と光と共にヒトカゲをゲットしたルビィ。彼の入ったボールを愛おしそうに抱きしめている。新たなポケモントレーナーの誕生だ。
「さて話が変わるがトウヤ君、君はこれからどうするんじゃ?」
「両親が買ったクチバシティの家に寄ろうと思ってます」
「では君にもポケモン図鑑を授けよう。カントーに生息しているポケモンならこれですぐに分かるぞ」
「ありがとうございます」
オーキド博士から手渡された新品の図鑑を取りやすい位置のポケットへ収納。そのまま一礼し、研究所を去ろうとしたところで博士に呼び止められる。
「ちょっと待ってくれ。トウヤ君には一つ頼みたい事があるんじゃ。少し待ってくれ」
それだけ残して去って行くオーキド博士。その後ろ姿をルビィと共に首をかしげながら、廊下の向こうに消えて行く博士の背中を見つめるのだった。
キャラクター紹介「オーキド博士」
言わずと知れたカントー地方のポケモン博士。
親しみやすい性格をしており、メディア出演の際にはポケモンの名前を入れた川柳を紡ぐことから「川柳の人」と呼ばれる事もある。どうやらトウヤに頼みたい事があるようだ…